地域フロリデーション反対と“代替医療”運動とのつながり

マイケル W.イーズリー

Michael W. Easley, DDS, MPH   [Scientific Review of Alt Med 5(1):24-31, 2001. © 2001 Prometheus Books, Inc.]

要約

 水道水フッ化物濃度適正化(以下フロリデーション)は、安全であり、効果・経済性に優れた地域をベースとしたう蝕予防のための公衆衛生手段です。1945年1月にミシガン州のグランド・ラピッズで1ppmのフッ化物イオン濃度適正化された水道水が給水され始めました。それ以来、フロリデーションを実施しようとする保健専門家、市民のリーダーたちは、フッ化物利用反対派、代替医療団体*1、環境保護団体、過激反政府組織等から容赦ない攻撃を受けてきました。この論文は、フロリデーションを採択または実施に反対し、阻止するための過激反対派の戦術・テクニック・手段を紹介します。以下の内容項目です。政治家の中立化、大きな嘘、一面だけの真実、当てこすり、文中からの不適切な引用、文脈の一部分の抜き出し、専門家を引き合いに出すこと、陰謀というぬれぎぬ、こわい言葉、討論策略、架空団体の利用、メディアの操作、既存組織名の無断借用、インターネット情報の悪用、会合のハイジャック。

訳注: 翻訳ではalternative medicine 代替医療に統一しました。

* alternative medicine 代替医療《近代医薬などを用いる通常の医療に対して, オ ステオパシー療法・ホメオパシー・カイロプラクティック・薬草摂取・運動などの周辺的医療法》.あるいは、alternative medicine代用医療(西洋の臨床医によって使われた用語で,一連の健康法や医療法に関した臨床的行為のこと.あるものは古くからあり,また広く用いられたものもある.その範疇は広く,解剖学的観察や有効な薬理効果およびある種の臨床的行為に基づいた多くの学問体系を含んでいる.また,疾病の原因と治療について一貫性のある説明へと発展しているものもある.それらは物理的または超自然的なものに拠っている.例として,はり療法,指圧療法,ホメオパシー,整骨療法,カイロプラクティック,マッサージ,黙想法,想像法,リラックス法,バイオフィードバック法,催眠法,運動法,ライフスタイル食事法,大量ビタミン療法,脈診断法,舌診断法,虹彩学,筋肉を深くマッサージする物理療法,信仰治療法,および祈祷法がある)。 

または、わが国では、【民間療法】医師によらず、一般人の間で伝承または発見した方法によって行う疾病治療法。温灸・按摩・指圧療法・鍼術のほか、電気療法・紫外線療法などがある。

背景

フロリデーションは、人種・社会経済状態・性別などの差別を受けることなく、その恩恵が上水道を通じてすべての人々に行き届き、広範囲にう蝕予防することができる偉大な公衆衛生手段の実例です。人々は、意識的な努力を必要とすることなく、継続的に予防することができます。

1945年以来、フロリデーションはアメリカ合衆国で広範囲に普及し続けています。フロリデーションは、自然から学んだプロセスを20世紀になって応用した方法なのです。また、この方法はアメリカ合衆国の水道水にも、もともと微量のフッ化物が含まれているので、水道水中にないものを加えるのではありません。したがって、フロリデーションは、人間の歯や骨を健康に保つために水道水中の微量元素であるフッ素を適正な量に調節する方法です。そして、それはミルク・パン・フルーツドリンクのビタミンの添加、食塩のヨウ素添加、朝のシーリアル・グレーン・パスタへのビタミン・ミネラル添加のような栄養補助法の一つです。

フロリデーションの状況

現在、10の州、コロンビア特別区、自治領プエルトリコでは、フロリデーションを法的に義務化して実施するように議会に要請しています。ワシントン州・ハワイ州では、フロリデーション法案を審議中であり、加えて、いくつかの州と多くの都市では、行政条例によってフロリデーションの実施が要求されてきました。

フロリデーションの恩恵を受けているアメリカ合衆国の人口は、公式調査で1億4500万人であり、上水道給水人口の62.2%に相当します。1万4300の上水道施設・10500地域がフッ化物イオン濃度調整された水道水を市民に供給しています。最新のフロリデーション全国調査が行われた1992年以降に、ロサンゼルス・ラスベガスなどの多くの地域でフロリデーションが実施したために、実際にフロリデーションの恩恵を受けている人口はこの公式調査結果より多いと思われます。

フロリデーションの恩恵

75年以上にわたって実施された数千にも及ぶフッ化物、フロリデーションの研究により、適正な水道水中のフッ化物濃度での小児・成人の継続的な摂取による歯への恩恵が報告されています。また、1970年以降だけでも、3700以上に及ぶフッ化物研究が実施されています。査読評価のある雑誌に掲載されている科学論文は、小児、成人両方のフロリデーションの効果、経済性、安全性を十分に証明しており、主要な公衆衛生手段であると実証されています。

無節操な反対派のテクニック

Bernhardt と Spragueは、フロリデーションを阻止しようと目論む反対派が頻繁に用いるテクニックをまとめました。[4] この論文のなかには、さらにいくつかのテクニックが追加して分類されリストされています。

政治家の中立化

いったんフロリデーションを実施する法律が導入されたならば、フッ化物恐怖症者 (フッ化物に対する病的恐怖をもつ)である極端論者は、州および地域の議員に対し上水道設備にフッ化物イオン濃度を適正化する適切な保健政策の決定を下すのではなく、あくまでも中立の姿勢をとるように説得しようとします。反対派は、代替医療ウェブサイトを引用したり、公聴会や書簡、宣伝のチーフ・スポークスマンに自然療法医、指圧師、原因よりも体調バランスにこだわるホリステックな歯医者と原因よりも環境条件にこだわるエンヴァイロンメンタルな医者あるいは「健康食品」の推進者を起用したりして、自分たちは「科学的な」合法性があると言わんばかりの印象を与えようとします。

フロリデーション反対派は、議会で問題を解決するのではなく、住民投票に委ねるよう議員を説得しようとします。なぜならフッ化物恐怖症者(フッ化物に対する病的恐怖をもつ人達/注:たとえば、高所恐怖症者)にとっては、自分たちの意見に対して懐疑的な議員を説得するよりも、住民に恐怖心をあおるキャンペーン活動をする方がはるかに得意だからです。フロリデーションが住民投票によって決められるケースは稀ですが、近年ごくわずかではありますがフロリデーションが採択されなかったケースがありました。[5] その理由は、フッ化物についての科学的な問題が原因ではなく、投票率が低かったためであり、また、反対派が住民に対し恐怖心をあおるキャンペーンを繰り広げて情緒的になりがちな住民を不安に陥れたためなのです。

無節操な反対派は、実際には大多数の市民がフロリデーション実施を望んでいるにもかかわらず、議員たちに対し「住民すべてがフロリデーションに反対している」と思わせるような手紙や電話によるキャンペーンを繰り広げます。[5-7] さらに、フッ化物恐怖症者 (フッ化物に対する病的恐怖をもつ人達)は、自分たちの主張の支持者を得るべく、出版業界の編集者に手紙攻勢をかけます。

フッ化物利用反対派は、「害を示す証拠」とうそぶくおびただしい広告や、フロリデーションは「選択の自由」を妨げるという不適当な主張によって議員たちに圧力を加えます。正当な研究結果がフロリデーションのあらゆる有害性を否定し、また、法廷が繰り返し「フロリデーションはいかなる人々の自由も妨げない」という判決を下しているにもかかわらず、フロリデーションへの攻撃の手を緩めません。たしかにフロリデーションによって奪われる自由があります(実はこれらはフロリデーションによる利益なのです)。

感染、痛み、低栄養という自由が奪われます。欠勤と欠席という口実の自由が奪われます。高額の納税と高額の保険料という自由も奪われます。それに不快な入れ歯をする自由も妨げられるのです。

議員たちは、時々反対派を過大評価して自ら中立の姿勢をとることがあります。フロリデーションについての結論は住民(選挙民)に出してもらうほうが良いだろうという誤った結論を出してしまいます。

 

安全面に関する重大な疑問を抱かせることによって、フッ化物利用反対派は議員に行動を躊躇させるのに都合のよい口実を与えることになります。これによって、立法関連の職員が中立化してしまうだけでなく、フロリデーション反対派が住民に宣伝攻勢をかけ、世論を反フロリデーションに変えるための時間稼ぎができます。

デマ/大きな嘘

フッ化物恐怖症者は、フッ化物が癌、腎臓病、心臓病、遺伝損傷、骨粗鬆症、ダウン症、AIDS、アルツハイマー病、女子色情症、そしてさまざまな疾患を引き起こすと繰り返し主張しています。証明されていないこれらの主張を羅列した掲載したリスト(a veritable laundry list)があります。

これらのリストは、フッ化物利用反対派のパンフレットや編集者への手紙、また、ラジオのトーク番組への電話の中で何度も繰り返し用いられています。実際に住民は、実証されてもいない主張を信じ始めるかもしれません。実証されていない主張に合法性を帯びさせるために、自然療法医や代替医療の御用達の面々がパンフレットや書簡の著者として頻繁に登場しています。

地方新聞の編集部記事は、その主張は正当性があると思われがちです。読者は、もしその主張に虚偽の内容があるならば「権威者」(この場合は記事の編集者)が紙面への掲載を認めないだろうと誤った想定をします。したがって、科学的に不適切な内容の投書や住民に害を及ぼしかねない投書を見極め書面からはずす能力のある科学編集者を雇うような良識がなければ、メディアは知らず知らずのうちにフッ化物利用反対派の手先になってしまいます。

一面だけの真実

このテクニックでは、文脈の一部分の抜き出しを行い、フロリデーションがなんらかの有害結果の原因であることをほのめかすために使われています。例えば、フッ化物恐怖症者は「フッ化物は毒。私たちの水にフッ化物を入れさせるな」と主張します。この主張は、「量の概念」を欠いた主張です。塩素、ビタミンD、食塩、ヨウ素、抗生物質、そして水などは過量を摂取すると人体に害を及ぼしますが、適量を摂れば人体に有益をもたらすよい例です。

また別の例として「フッ化物は歯のフッ素症あるいは斑状歯を引き起こす」という主張があります。これは、どういう形でフッ化物を摂取したのか、また摂取したフッ化物の量、フッ化物摂取のメカニズム、あるいは、フッ化物を摂取した時期(歯牙年齢との関係)などを考慮に入れていない主張です。フロリデーションは歯のフッ素症の原因にはなりません。ほんの僅かな人に軽度から中等度の歯のフッ素症がみられますが、これは主に、不注意な処方による不適切なフッ化物錠剤の服用や、幼児期に大人の監督不行き届きから大量のフッ化物配合歯みがき剤を飲み込んだことが原因になります。

時にフロリデーションと軽度の歯のフッ素症の間に関係が認められることがありますが、これはブロンドの髪や青い目と同じく身体的特徴(病理状態)にほかなりません。また大人は歯のフッ素症にはなりえません。フロリデーション反対派は、テトラサイクリンによる着色歯や非常に珍しい高度な歯のフッ素症の症例写真を頻繁に持ち出します。これらは、アメリカ合衆国以外の国々で起こった広範囲な産業汚染を受けた水源や高濃度の天然フッ化物を含む公共飲料水用ではない水源からの水を長期にわたって飲むことによって生じた非常に珍しいケースです。そのうえで、彼らは「フッ化物イオンが適正化された水を飲むと、大人も子供もみんなこういう状態になるのだ」と言い張ります。

「ほとんどのエイズ患者はフロリデーションを実施している都市に生活している」。その主張を信じるにせよ信じないにせよ、この「一面だけの真実」は、1980年代中頃に最も悪名高いフッ化物利用反対派の人によって頻繁に唱えられました。彼らの誤った主張は当時のサンフランシスコの社会を脅えさせ、サンフランシスコではフロリデーションが中止されました。彼らは、AIDSの原因がウィルス感染であることがわかった後もなおフロリデーション原因説を主張し続けました。

もっとも大半のAIDS患者は大都市圏に住んでいます。そして、大半の大都市圏ではフロリデーションが行われています (アメリカ50の大都市のうちの45都市で実施)。その一方で、AIDS発生率の高いロサンジェルス、サンディエゴ、ニューアーク、ニュージャージーといった大都市圏ではまだフロリデーションされておらず、フロリデーション反対派の論法では説明がつきませんでした。そこで、フッ化物利用反対派は1992年のアメリカ大統領選のキャンペーン中に前言を撤回し、AIDSはエイズ治療薬AZTが原因であり、それは医学専門家、製薬会社、政府がAIDSの蔓延を狙った陰謀であると主張しました。[9]

こじつけ

頻繁に使用われるフッ化物恐怖症者の常套文句は、「1杯のフッ化物イオンが適正化された水を飲んでも死なない。でもその水を飲み続けることは、タバコを吸い続けて健康や生命がおびやかされるのと同じである」[10]。このテクニックでは、すでに健康に有害であることが科学的に証明され周知されている「タバコ」と、科学的に何ら有害性が証明されていないフッ化物イオンの適正化された水をかけあわせることで、あたかも両者が同列であるかのようなイメージを植えつける戦略です。

またフッ化物恐怖症者は、「フロリデーションの絶対的な安全性は不十分な研究で証明されているにすぎない。消費者ならびに政府高官は、フロリデーションについてのすべての疑いや安全性が科学的に立証されるまで待つことが望まれる」と主張しています。あらゆる場面で常に絶対的な安全性を証明することは不可能です。この滑稽な議論は無期限に使われるでしょう。この議論を無条件に受け入れれば、文字通り科学の発達にともなってもたらされた技術的進歩のすべてが排除されなければなりません。数千もの研究、そして数えきれない危険利益分析によりフロリデーションが全人口にとって安全で有効なことを示しています。

文中からの不適切な引用、文脈の一部分の抜き出し

一般的なフッ化物恐怖症者のテクニックをあらわすものとして、フロリデーション反対に頻繁に用いられている2つの出版物、「The Lifesavers[sic] Guide to Fluoridation[10]」 (「フロリデーションからの人命救助者ガイド(パンフレット)」および「Fluoride: the Aging Factor[11](a monograph)」(フッ化物:老化の要因(学術論文))があります。基本的に両方とも同じ「参考文献」を使いフロリデーション反対キャンペーンに頻繁に登場します。また両者とも著者によって「科学的文書」として市販されました。一枚のパンフレットに250以上の参考文献が載せてあります。

アメリカ合衆国内の20人の科学者と公衆衛生職員からなるグループが、著者があげた参考文献の有効性を評価するために参考文献の原本を調べあげることを決め、2年がかりで184ページの学術論文にまとめました。その結果、このパンフレットは科学的にまったく無意味な代物でした。この論文にはAbuse of the Scientific Literature in an Antifluoridation Pamphlet(フロリデーション反対派のパンフレット中の科学文献の乱用)というタイトルがつけられました。[12]

 250の参考文献のうち48%だけがきちんとした科学雑誌からの文献でした。また、なかには新聞編集者への投書からの引用もありました。

     250の参考文献のうち240は不完全な引用でした。

     250の参考文献のうち21は誤った引用でした。不完全、不正確な引用を用いるやり方は、読み手に対して内容や参考文献の正当性を悟られたくない著者がよく使う常套手段だということに注意してください。

     驚くべきことに、250の参考文献のうち116は、フロリデーションにまったく関連がないものでした。

     参考文献の多くは、実際に著明な科学者によるフロリデーションを支援する論文であるが、フッ化物の使用を思いとどまらせる内容であるかのような誤った引用をしています。

     最後に、「有害」であるとする主張の根拠は、人目につかない雑誌や手に入れにくい外国のジャーナルから引用されています。2年間必死で検索したにもかかわらず、引用された記事や雑誌を確認することができないものもありました。

専門家を引き合いに出すこと

フッ化物利用反対派がいうところの"専門家"の多くは、“自称"専門家です。ジョン・イヤムアニスは自らを「フッ化物とフロリデーションの生物学的影響に関する世界の第一人者」と称しています。彼とごく一部のフッ化物利用反対派の人だけが、自分たちがフッ化物研究の分野で世界のリーダーショップをとっていると思っています。

  引き合いに出された専門家の中には、きちんとした学術的専門家や有資格者もいますが、フッ化物利用についての健康調査研究をするうえでそれは必ずしも必要なものではありません。

 フッ化物利用反対派はこういった有資格者を担ぎ出し現代科学の主流派に対抗しようとします。これはよくあるやり口です。医師や歯科医という地域の専門家がフロリデーション反対を唱える場合は、例えそれが医師側の個人的な理由であったとしても住民はフロリデーションに対し疑心暗鬼にならざるを得ません。そのような行動は、あきらかに専門家(医師、歯科医師)の倫理、科学の原則に反し、また実施に際しての地域の判断を乱すものです。

 またフッ化物利用反対派は、以前フロリデーション反対の立場をとっていた高名な専門家の“当時の意見”をいまでも引き合いに出します。フロリデーションの科学的根拠が解明され、その専門家がフロリデーション賛成の立場に意見を転じたとしても、“当時の発言(フロリデーション反対意見)”を引用し続けています。

その一例として、ノーベル賞受賞者の医師Hugo Theorellがあげられます。彼は当初フッ化物利用に反対意見を持っていましたが、1967年にそれまでの意見を変え、「フロリデーションを支援する」と公言しました。にもかかわらず、フッ化物利用反対派はいまだに「Hugo Theorellはフロリデーションに反対している」と言い続けています。

またフッ化物利用反対派は、"代替医療"の意見を引き合いに出すことで「医学界はフロリデーションに対して賛否両論ある」というイメージを一般の人たちに抱かせ、誤解を与えようとします。

そのため、まっとうな科学者と代替医療の御用学者である“自称"専門家を区別することができない人の中には、この問題を科学的な見地からではなく、健康に対する哲学とイデオロギーの対立としてとらえてしまう人もいます。

陰謀というぬれぎぬ

この陰謀論は事実関係を証明することが難しく、そのためフッ化物利用反対派が気に入って使うやり口です。

アメリカ医師会(AMA)、アメリカ歯科医師会(ADA)、アメリカ科学と健康会議(ACSH)、機器および化学薬品会社、共産党、アルミニウムとリン酸肥料産業、歯磨きメーカー、およびその他のフッ化物利用反対派にとって都合の悪い機関が、陰謀に荷担する"共犯者"というぬれぎぬを着せられます。中でも公衆衛生局(PHS)、環境保護局(EPA)、有名な国立衛生研究所(NIH)、世界に名だたる疾病対策センター(CDC)および食品医薬品局(FDA)などの"政府機関"がやり玉にあがります。

おびえさせるようなこわい言葉(恐怖心をあおる言葉)

フッ化物利用反対派は、フロリデーションと「汚染物質」、「有毒廃棄物質」、「化学的副産物」、「水中のゴミ」あるいは、「知らないうちに飲まされる物質」などのようなエコロジー(生態学)や環境問題に関連づけた言葉をリンクさせて一般の人々の恐怖心や心配をあおります。

またフッ化物利用反対派は、フッ化物を「毒」、「染色体異常」、「癌」、「AIDS」、あるいは「人工物質」のような言葉と頻繁に関連付けようとします。このような恐ろしげな言葉は無意識に残り、人々が潜在的に恐れているものと結びついて恐怖心を呼び起こします。

討論(ディベート)戦略

フッ化物利用反対派は、たとえフロリデーション実施に対する"反対意見"がない場合でも、メディア・コメンテーターや政府高官、あるいは番組制作担当者をそそのかしてフロリデーションに対する"賛否意見" のディベート(討論会)に持ち込もうと画策します。

「『どちらが正しいか』を判断するのはあなた(参加者自身)である」ことを表向きとする討論会は、フッ化物利用反対派の好む作戦です。

 

推進派の諸氏がフッ化物利用反対派にまんまと乗せられて公開討論に同意してしまうことがあります。それに対しJarvisは、なぜ討論会で健康山師(フッ化物利用反対派)と討論してはいけないのかをリストアップし公表しています。そのリストは同時にフッ化物利用反対派として知られる健康山師の分類としても活用できます。

Jarvisの5項目リスト[13]は次の通りです:

 (1)フロリデーション反対派の討論会における目的は、真実を解明することではありません。聴衆の支持を勝ち取ることです。当然ながら、科学というものは公開討論会の討議で決められる性質のものではありません。緻密な実験、公正な実験結果の確認、実験結果の開示と厳密な分析、そして信頼できる科学雑誌の査読を受けたのち発表されて決められるものです。反対派のねらいが聴衆票の獲得である以上、たとえフッ化物推進派が討論内容で勝利を収めても、それがそのまま聴衆の支持を得ることにはなりません。

 (2)メディア社会では、"テレビの画面上では誰もが同じ大きさである"ということわざがあります。言いかえれば、討論会をすることでフッ化物利用に科学的議論の余地がまだあるかのような錯覚を人々に与えます。さらに、公開討論会によってフロリデーション賛成派と反対派の両者に同数同格の"科学者"が居るという錯覚を助長します。その結果、"博士"あるいは"医者"が対決している状況ならば"両陣営の専門家が同意" にいたるまでフロリデーションを始めないほうがよいのでは、と一般の人々に思わせてしまいます。

(3) フッ化物利用反対派は、詳細なリストのようなものを使って、フロリデーションに関する誤った情報を5分もかからずに提示し人々を混乱に陥れることができます。一方で、その内容を正しく説明しなおすには5時間もの時間を要します。反対派のフロリデーション非難が短時間でできるのに比べ、その訂正や正しい情報の提示には時間がかかります。したがって討論会という場で反対派の主張を覆すのは、時間の関係上不利になります。前述の反対派による1枚のパンフレットの時には、2年かけて184ページの教科書を作成し反論しなければなりませんでした。

(4) フッ化物反対派は、公衆の面前にでることで自分たちが進めているテーマや提案あるいは考え方を世に知らしめることができます。また、討論会に出席している高名なフロリデーション推進派の科学者と同席することで、自分も同格の科学者であるというイメージを人々に与えることができます。

 (5) フッ化物利用反対者に対する個人的な不信感を前面に押し出さなければ、フッ化物利用反対派と競い合うことは不可能です。話を聞くとき、人はその「人物」と話の「内容」を切り離すことはできないからです。また討論会では、明らかに勝ち目のないフッ化物利用反対派に同情票が集まることもままあります。フッ化物利用反対派はすぐに訴訟を起こすと脅しをかけるので、彼らを悪くいうと相手方の弁護士から法的ないやがらせを受けることになります。しかし現実に訴訟になることはほとんどなく、追訴されたケースはひとつもありません。

Bernhardt and Spragueがリストに載せていない、「フッ化物利用反対派がよく用いる手口」を5つ追加します。架空団体の利用、メディアの操作、既存組織名の無断借用、インターネットの悪用、および会合のハイジャックがあります。

架空団体の利用

フッ化物利用反対派は、彼らが主張するたくさんの項目に正当な科学的裏付けがとれず、また彼ら自身による論文(広告宣伝文)が査読機構がある科学雑誌からはことごとく拒否されるので、自分たちで「科学団体もどき」を作ることがあります。

それらの団体には、「フッ化物研究国際協会」、「口腔医学毒物学国際アカデミー」、「予防歯科健康協会」、「国立健康行動委員会」、および「安全水財団」といったような響きのよい名称がつけられています。しかし実際には、会員がいないに等しいフッ化物利用反対派の前衛団体です。

さらに、それらの団体メンバーのほとんどが、科学に関しては無知のまったくの素人です。フッ化物利用反対派は、自分たちの書いた「広告宣伝文」を「フッ化物研究国際協会会誌」に掲載された「科学論文」として押し通そうとします。著者自身は、それを査読評価された立派な科学論文であると主張していますが、実際にはそうとはいえません。「フッ化物研究国際協会会誌」は、科学雑誌の必要条件をまるで満たしていないだけでなく、実のところIndex Medicusにも載っていない雑誌です。

 

 メディアの操作

フッ化物利用反対運動を通じて、フッ化物利用反対派はメディアをとりこみ、メディアに支持されています。なぜならば: 

l       メディアは、正確な問題点を提示するよりも論争(討論会のような)の報道に興味を示します。

l       メディアがフロリデーションを取り上げるにあたって、科学的な内容よりも"危険性"にまつわるセンセーショナルな話題の方が都合がいいのです。

l       フッ化物利用反対派か繰り広げる反体制や反科学論は、David対 Goliath あるいは John Q.パブリックシティ・ホールで行われている話題に富んだテーマを探し求めているメディアにとって常に派手でおもしろいのです。

l       フッ化物利用反対派が展開する派手な主張にくらべ、科学的な反論はどうしても無味乾燥で面白みがなく、複雑でわかりにくいのです。メディアがわかりやすく報道するのに向いていません。

 既存組織名の無断借用

フッ化物利用反対派が、既存団体の「信用」に相乗りする形でその組織名を無断借用した例があります。ペンシルバニア・シエラクラブの一件、そして米国環境保護局の労働組合の一件が最近の事例です。 

* 1997年8月、ハリスバーグの記者会見の場で、シエラクラブペンシルバニア支部の元メンバーが、「同クラブはペンシルバニア州のフロリデーション禁止を呼び掛けている」と発表しました[14]。数日のうちにシエラクラブペンシルバニア支部は、「これは"ペンシルバニア・シエラクラブの承認のない"記者会見である」と言う公式声明を発表し、この元メンバーの行為を非難しました[15]。

* 米国環境保護局(EPA)には18000人を超える職員が勤め、4つの労働組合があります。当時、一番小さい組合は全国国家公務員連合会(NFFE)のLocal 2050で約900名の団体。その他に1000名、1100名、そして1550名のEPA職員を含む労働組合がありました。

* 1997年7月2日、約20人の反体制組合メンバーが集まり、カリフォルニアのフロリデーション法案に反対することを票決しました [16-17]。彼らはその後の記者会見で、「全国国家公務員連合会(NFFE)のLocal 2050は満場一致でフロリデーション法案に反対することを承認した」という発表を行いました。また「米国環境保護局(EPA)はフロリデーションに反対する」という宣伝リーフレットを流しました [16-17]。

この記者会見問題の数か月後に、全国国家公務員連合会(NFFE)のLocal 2050は財務職員組合(NTEU)のLocal 280に合併されました [17]。財務職員組合(NTEU) Local280はフロリデーションに関する公式見解を出していません。しかし元全国国家公務員連合会(NFFE) Local 2050の役員の一部は「財務職員組合(NTEU) も国家公務員連合会(NFFE)行為を支援している」として、ウェブサイトにNTEUのバナー広告を掲載しています。

 

インターネット情報の悪用

フッ化物利用反対の政治的協議を促し、フッ化物利用反対運動の仲間を増やすためにたくさんのフッ化物利用反対ウェブサイト(ホームページ)が設けられています。また多くの代替医療のホームページには、患者獲得の努力の一旦として様々な情報が載せられています。従来の科学的医療に対する批判、免疫プログラムの攻撃、薬草学や怪しげな治療の推奨、自然療法医、カイロプラスティック師、環境内科医、ホリスティクな歯医者、未解明の治療や療法を行う御用医者の紹介など・・・。その中にはフッ化物利用反対についての情報も載せられています。

フッ化物利用反対派ホームページの一例を表1に示しました。その多くのホームページには、"代替医療"あるいは"周辺的医療"御用学者の「記事」、投書、推奨文、引用文が登場します。また、非科学的な治療を行う開業医や販売業者のホームページとリンクしているものもあります。

会合のハイジャック

市民団体やメディアから専門的な信用を得ることができないとき、フッ化物利用反対者は、宣伝効果のある討論の場を増やすべく会合や公聴会の乗っ取り計画を企てます。市民集会の質疑応答の時間中に演者に質問をするのではなく、自らが演者となってフロリデーションの"落とし穴"について講義を始めます。このやり方は決して珍しいことではありません。フッ化物利用推進派と反対派の両者に発言の機会が予定されているような市民集会は、反対派の広報担当者が会の進行を取り仕切る絶好の場になります。マスコミが、反対派の強い押しで討論形式のインタビューを企画し、推進派を誘い込むこともあります。

結論

フッ化物利用反対派は、"代替医療"の信奉者やまだ確立されていない治療を施す御用医者に、科学に裏打ちされた現代医療との"哲学的"違いを論ずる絶好の機会を与えています。しかし"哲学的"違いがあったとしても、フロリデーションが安全で、効果的で、効率的で、経済的で、環境を汚染しないで、社会的に公正に行き渡るすばらしいう蝕予防のための公衆衛生手段であることに変わりはありません。フロリデーションは優れた公共政策の一手法です。いくつかの地方都市で小さな反対のためにフロリデーションの実施が遅れたことはありましたが、包括的にいえば、アメリカ合衆国のフロリデーションは長期的なゴールに向けて着実に歩みつづけています。

Table 1. Popular Antifluoride Web Sites

Leading Edge Antifluoridation Web site

www.trufax.org/menu/chem.html

Fluoride Issues

www.sonic.net/~kryptox/fluoride.htm

International Center for Nutritional Research

www.icnr.com/FluoridePres.html

Zero Waste America

www.zerowasteamerica.com/Fluoride.htm

Stop Fluoridation USA -- Information Index 

www.rvi.net/~fluoride/index.htm

Fluorosis Prevention Program

www.ia4u.net/~sherrell/

Preventive Dental Health Association

emporium.turnpike.net/p/pdha/health.htm

Calgary (Alberta) Antifluoride Web site

www.cadvision.com/fluoride/index.htm

Mountain View (CA) Citizens for Safe Drinking Water 

www.nofluoride.com/

Holistic Healing Web site

www.holisticmed.com/

California Citizens for Health

www.citizenshealth.org/

Citizens for Mercury Relief -- The Toxicity Newsletter

www.talkinternational.com/fluoride1.htm

Fircrest Atlas Orthogonal Chiropractic Clinic

www.atlaschiro.com/

参考文献

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  4. Bernhardt M, Sprague B. The poisonmongers. In: Barrett S, Rovin S (eds.). The Tooth Robbers. Philadelphia, PA: G.F. Stickley;1980:1-8.
  5. Easley MW. The status of community water fluoridation in the United States. Public Health Rep. 1990;105(4): 348-353.
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  7. Gallup Organization. 1998 Consumers Opinions Regarding Community Water Fluoridation. American Dental Association Survey Center. June 1998.
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(晴佐久 悟、志村匡代、田浦勝彦訳)

謝辞:矢崎 武先生、川崎浩二先生、山本武夫先生から修正ならびに御意見をいただきました。感謝申しあげます。