8020運動が提唱されて十数年が経過いたしましたが、平成11年の厚生労働省歯科疾患実態調査によりますと、80歳の人の歯数は、平均8.21本と推定されています。残念ながら、いまだに、目標には遠く及ばないのが現状です。また、同じ調査による、う蝕(むし歯)有病者率は、乳歯(1〜15歳未満)の総数では45.20%、永久歯(5歳以上)の総数では85.86%、乳歯+永久歯(5〜15歳未満)の総数では78.34%となっており、今回の調査では、永久歯において、前回、平成5年の調査よりも高いう蝕有病者率を示しています。

 このような現状を考えますと、我が国における、う蝕は、決して減少しているとは言えません。歯科医療を担い、地域歯科保健に貢献する責務がある歯科医師の一人として憂慮に耐えません。

 これまでの歯科医療は、「むし歯の洪水」の中で、「水をくみ出すことだけに専念し、元栓を閉めることに懸命ではなかった」と思います。私自身も含めて、歯科医師として反省すべき点も実に多いのです。

 そのようなときに、久米島の具志川村で「水道水フッ化物応用シンポジウム−健康長寿を目指して−」と題するシンポジウムが開催されましたことは、長寿県沖縄で、高齢になっても、ご自分の歯をできるだけ残し、健康で豊かな人生を送ることを考えるきっかけとなる、画期的な出来事であったと言えます。しかも、沖縄県、具志川村、(社)沖縄県歯科医師会の主催、厚生労働省、(社)日本歯科医師会、日本口腔衛生学会、(財)8020推進団体、(社)沖縄県医師会の後援という、かつてない強力な枠組みでの開催になりましたことも、我が国の予防歯科保健、公衆衛生の歴史に大きな足跡を残しました。

 フロリデーション(水道水フッ化物濃度適正化)は、むし歯を予防するための最も有効で、安全、かつ経済的な手段です。しかしながら、フロリデーションは、あくまでも手段であり、私たちが目指すものは、フロリデーションでもなければ、歯を残すことでもありません。全ての人が生涯を通じて、自分の歯で食生活を楽しみ、健康で生き甲斐のある生涯を送ることこそが目的なのです。フロリデーションは、歯科の話であると思われがちですが、フロリデーションは、私たちの健康のための話なのです。

 フッ化物の安全性が最も議論となるところでしょうが、フッ素は、自然に存在する元素であり、人工的な化学薬品とは違います。そして、適正な濃度のフッ化物は、極めて安全に、かつ効果的に、う蝕を予防できるのです。このことは、世界中の国々や、WHOをはじめ、国際的に権威のある機関で科学的に実証され、検証されてきました。

 どうぞ、この報告集をもう一度しっかりとご精読いただき、将来を担う子供たちをはじめ、全ての年代の人々に大きな恩恵をもたらすフロリデーションの実現に向けて、それぞれの立場で、それぞれの皆様方が総力を結集されますことをお願い申し上げます。

 久米島だけではなく、日本全国で、フロリデーションが実現する日が、一日も早く来ることを切望し、この報告書が、国民の健康づくりのお役に立てることを期待しております。

 最後になりましたが、本シンポジウムの開催にご尽力を賜りました本当にたくさんの皆様方と、そして何より、具志川村の全ての村民の皆様に、心からの感謝と敬意を表します。

<はじめに>

全ての人が健康で豊かな生活を楽しむために

沖縄県歯科医師会
専務理事 高嶺明彦