「日本歯科評論」2002年11月号 p.190-191 『ランダムノート』欄より

日本歯科評論11月号に、日本口腔衛生学会総会での、2つの声明が採択されたニュースが、中垣学会理事長の記事で掲載された。その記事の赤い字句が素晴らしかった。前年の総会からの学会内でのごたごたを振り切るような明快な言葉である。まさに、学問は最終的には国民に生かされてこそその最大の意義が発揮されるのであるから、口腔衛生学は国民の口腔の健康のために如何に最大限の努力をしていくかを考えねばならない。多くの大学関係者・歯科医師会公衆衛生担当者に、この最初の声明をよく噛みしめてもらいたい。(山本武夫)


(記事内容)

【第51回日本口腔衛生学会・総会と日本口腔衛生学会の「フッ化物の学術的支援」と「禁煙宣言」の2つの声明ー21世紀の社会と学会のあり方】
 
中垣晴男 (日本口腔衛生学会理事長/愛知学院大学歯学部教授) 

 去る9月13・14日の両日、大阪国際会議場において第51回日本口腔衛生学会・総会が大阪歯科大学神原正樹教授を学会長として開催された。 
 特別講演1は米・インディアナ大 G.K.Stookey 教授の「早期う蝕診断」、基調講演はスウェーデン・ハルムスタットの L.G.Petersson 教授による「エビデンス・ベースド・プリベンションー歯科医療の将来の顔」、特別講演2は厚労省・中谷比呂樹大臣官房参事官の「健康日本21の推進と健康増進法」、および京都大学・中山健夫助教授による「ポピュレーショーン・ストラテジー:エビデンス・ベースド・ヘルスケアノ視点から」と、大変有意義であった。
 シンポジウムも「早期う蝕診断」「口腔保健の新しい潮流」「健康日本21の歯科保健目標達成のための戦略」と3題あり、まさに21世紀の key words が入った学会であった。神原学会長と準備委員として携わった大阪歯科大学口腔衛生学講座の皆さんのご努力に。心からお礼申し上げる。
 一方、総会の方では報告と協議題が検討された。特に今回は4つの委員会の新設(医療問題委員会、情報委員会、国際交流委員会、禁煙推進委員会)が認められた。さらに、以下に示すように『今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術的支援』と『禁煙宣言「たばこのない世界」を目指して』の2つの声明が採択された。
 前者は、フッ化物の応用については局所応用から上水道フッ化物添加までを含めて学術的な支援をするというもので、後者は「たばこのない世界」を作るために支援していくというものである。この2つの声明は”学会は社会へひらかれたもの”としての意義が大と考えている。すなわち、本学会は”口腔衛生学の進歩を国民の健康と福祉の増進に寄与する”ー国民の健康づくりを支援するーのが目的であるからである。
 このことを読者の皆様にお知らせすると共に、今後も口腔衛生学会へのご参加とご協力のほど、よろしくお願い申し上げます。

声明(平成14年9月13日採択)
今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術的支援
 
                      日本口腔衛生学会

 わが国におけるう蝕(むし歯)発生は近年減少傾向にありますが、欧米先進諸国に比べて依然として高い有病状況にあります。わが国の口腔保健指標の一つである8020を達成するためには、今後ともう蝕予防を推進していく必要があります。

 う蝕予防のためにWHO(世界保健機関)はフッ化物応用を推奨していますが、わが国においてはフッ化物局所応用(フッ化物歯面塗布法、フッ化物洗口法、フッ化物配合歯磨剤など)が漸次、普及している状況であるものの、WHOが推奨するところの水道水フッ化物添加法は、わが国では未だに実現しておりません。水道水フッ化物添加法は、生命科学の基盤に即したフッ化物応用法の基礎をなす方法であり、生涯を通した歯質の強化と健康な歯列の保持、増進を目的に地域保健施策として、世界の多くの国々で永年の疫学的検証に基づいて実施されてきているものです。

 本学会として、日本歯科医師会の「弗化物に対する基本的な見解」を支持し、1972年に水道水フッ化物添加法の推進を表明しました。そして、1982年には「う蝕予防プログラムのためのフッ化物応用に対する見解」を公表しました。一方、日本歯科医学会が1999年に答申した「フッ化物応用による総合的な見解」において、水道水フッ化物添加法が優れた地域保健施策として位置づけられております。また、200011月、厚生省(現厚生労働省)が水道水フッ化物添加法について市町村から要請があった場合、技術支援をすることを表明しました。引き続き、日本歯科医師会は、水道水フッ化物添加法の効果、安全性を認めた、厚生労働省の見解を支持し、地域歯科医師会、関連専門団体や地域住民の合意の基に実施すべきであるとの見解を示しました。

 このような状況の中、日本口腔衛生学会は、ここに、21世紀のわが国における国民の口腔保健の向上を図るため、専門学術団体として、フッ化物局所応用及び、水道水フッ化物添加法を推奨するとともに、それらへ学術的支援を行うことを表明いたします。

声明(平成14年9月13日採択)
禁煙宣言
「タバコのない世界」を目指して     
日本口腔衛生学会  

 喫煙は喫煙者本人よりはもとより周囲の非喫煙者の全身の健康に悪影響を及ぼすことが、数多くの科学的根拠により明示されている。口腔保健の面からも、喫煙は口腔がんや歯周病のリスク因子であることが証明されており、歯の喪失との関連性も認められている。また、喫煙者の多くは、歯周治療、インプラント処置や抜歯後の創傷治癒などの予後が不良であることが指摘されている。さらに、無煙たばこの使用が、口腔にとって高い危険性があることが明らかにされている。しかし、喫煙問題に対する本学会員や口腔保健医療従事者の認識は十分とは言えず、口腔保健医療機関における喫煙対策も遅れており、また、国民への情報提供も不足している。
 一方、口腔保健医療従事者が喫煙対策に関わる利点として、以下のことが考えられる。@口腔疾患の有病率が高いため、あらゆる年齢層の人々に接する機会が多い。A定期歯科健診等の際に繰り返し介入を行うことができる。B歯科医師および歯科衛生士による口腔保健指導の中に介入を組み入れやすい。C口腔は自分自身で直接見ることができるので、動機付けが行いやすい。D喫煙による全身疾患の症状がまだ現れていない段階で介入することができる。
 一般社会では喫煙対策への期待がたかまっており、WHOは「たばこ対策」を最優先課題として取り組み、また、わが国でも、健康日本21の「たばこ」や「歯の健康」、そして健康増進法において、喫煙対策の重要性が謳われている。
 このような背景をもとに、日本口腔衛生学会は、「たばこのない世界」を目指して、積極的に喫煙対策を推進することを宣言する。
活動方針 
1.喫煙対策に関連する研究を一層推進するとともに、得られた知見を積極的に社会に還元する。
2.本学会員および国民に対して、喫煙の口腔への健康影響について知識の普及を図り、喫煙と健康問題への認識の向上に取り組む。
3.口腔保健医療活動の場において、禁煙誘導や禁煙支援の推進を図る。
4.口腔に関わる保険医療機関や医育機関におけるたばこのない環境づくりを支援する。
5.口腔保健医療従事者の育成機関における禁煙教育の推進を図る。
6.禁煙を推進する諸団体との協力・強調を通じて、たばこのない社会づくりを推進する。