フロリデーション(水道水フッ化物濃度調整)と社会的公正

Burt BA.  J Public Health Dent. 2002 Fall;62(4):195-200.のAbstractです。

著者の Brian A.Burtはミシガン大学公衆衛生の教授で、「Community Dentistry and Oral Epidemiology 」の Editorです。

フロリデーション(水道水フッ化物濃度調整)と社会的公正

Burt BA.  J Public Health Dent. 2002 Fall;62(4):195-200.

University of Michigan School of Public Health, Room 3006, 109 Observatory Street, Ann Arbor, MI 48109-2029, USA. bburt@umich.edu

この数十年間、アメリカ合衆国におけるう蝕罹患率や重度う蝕の全体的な減少は、フッ化物利用の広範な普及によるところが大きく、なかでも飲料水のフッ化物濃度調整(フロリデーション)の貢献によるところが極めて大きい。しかしながら、近年全体的なう蝕の減少が認められるとはいえ、今日でもう蝕は貧困層に偏って発生しており、その結果として、社会経済状況(SES)間でう蝕有病の不均衡を生じさせている。他の疾患と同様に、う蝕は社会経済状況(SES)と密接な関係があり、低い階層ほどう蝕が多いことが知られている。ところが、現在では、水道水フロリデーションを継続する必要性が疑問視されるほどう蝕経験が少なくなった地域もある。

 しかし、本論文では、水道水フロリデーションは社会経済状況(SES)から生じるう蝕の不均衡を是正するためのもっとも効果的かつ実際的な方法であるので、水道水フロリデーションが今なお必要であると主張する。アメリカ合衆国における社会経済状況(SES)から生じるう蝕の不均衡を改善する上で、水道水フロリデーションをおいて他に現実的な対策は見当たらない。例えば、多くの高所得国で行われているような学校歯科サービスには、高額の公的資金の導入が必要であり、即実行というわけにはいかない。

 アメリカ合衆国、イギリス、オーストラリアおよびニュージーランドの研究では、フロリデーションがう蝕罹患率や重度う蝕を全体として減少させるだけではなく、SESグループの間の不均衡を是正することを実証している。水道水フロリデーションは、CDC(疾病管理センター)によって20世紀の10大公衆衛生業績の1つとしてあげられており、また、2010年のヘルシーピープルHealthy People の目標( フロリデーション人口を給水人口の75%に増やす)に向けて推奨されている。アメリカ合衆国の社会状況の中で、水道水フロリデーションは、う蝕という疾患の社会経済状況に起因する不均衡是正のために私たちが取り得る最も有意義な方策である。したがって、水道水フロリデーションは、いまなお公衆衛生のプライオリティ(最優先事項)となるものである。(志村匡代、田浦勝彦訳)