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2020年の口腔保健目標(田浦氏訳より)
背景
1981年に、FDIとWHOは共同で2000年までに達成されるべき世界的な口腔保健目標を立てました。この期間の終盤に、これら到達度の調査が行われました。多くの人々にとって2000年目標は有用であり、目標の達成ないし目標を上回っていることが示されました。しかしながら、世界のかなり多くの人々にとっては、たぶんにかけ離れた目標に過ぎない面もありました。そうは言っても口腔保健目標は国政府と地方自治体に口腔保健の重要性を気付かせる動機になりましたし、口腔保健全般にわたる資源を守るための触媒としての役割を演じてきました。したがって、すべての国が2000年までの口腔保健目標を達成してはいませんが、2000年目標は口腔保健問題解決への道筋を示してくれました。
最近になって、FDI、WHOとIADRの三団体は21世紀、2020年の口腔保健目標を立てる活動に着手して、ここに本文書として差し出されました。世界各国からのFDI、WHOおよびIADRの代表者を含むワーキンググループによって作業が行われてきました(グループのメンバーに関しては付録Aを参照して下さい)。この文書の草案は、FDIのすべての国の歯科医師会のメンバー(NDA)に回覧し、コメントをもらうために世界的な歯科公衆衛生のリスト・サーバーに配信されました。口腔保健領域のWHO協同センター(WHOCC)とIADRも相談を受けました。個人から出された意見はじめNDA、IADRとWHOCCからの回答は随時にこの文書と共にウェブにアップされました。
照準(ねらい)
詳細かつ複雑さを増している新たな世界的な口腔保健の目標、目的と標的に関する提案から成っている本文書は相異なる水準の地区、国と地方自治体における口腔保健政策立案者のための骨組みを提供することを目的にしています。目標と標的には規範されるものを掲げていませんし、規定するつもりはありません。世界的な水準で幅広い焦点のあて方をすることで、国連開発計画の報告書の精神 'Think globally, act
locally‘’地球規模で考え、地域活動する‘ である地域活動を促がすことを期待しています。それで、本文書は2020年までに達成すべき口腔保健目標の現実的な目標と標準を明記する際に、地方と国の口腔保健立案者にとって一つの道具を提供することになるでしょう。
地域、国、あるいは地方自治体の口腔保健方策をまとめる過程にはいくつかの段階を要します。この文書では、現在の口腔保健状況を評価して、口腔保健目標、目的と標的を立てる際に、本文書は口腔保健立案者の手引きとなり、立案過程の第一段階を提供することになります。2020年の世界的な口腔保健目標は、1981年に立てられた目標と多くの点でかなり異なっています。第一に、2020年目標はどちらかいうと一般的概略的なものです。それは、詳細でかつ地域に見合った目標を立てるように、地域、国と地方の口腔保健施策の進展と活動を助長することを目的にしています。両者の目標を細かく比べれば、標的の面では類似した考え方をとっています。第二に、2020年目標には、数値目標はありません。そのわけは、数値目標というものは十分な情報、地方の優先性と口腔保健システム、ならびに有病状況と社会経済的状況を加味して立てられるべきだからです。
口腔疾患の疫学所見だけでなく、政治的、社会経済的、文化的また法的な環境についても各々置かれている情況が異なります。そこでは疫学的環境に対する詳しい知識と口腔保健を左右する因子について要求されるでしょう。口腔保健施策を押し進める際に重要であり、その場で既知のリスク要因を特定でき、良好な口腔保健を資する社会的、法的、経済的環境づくりの手助けとなります。
次に掲げる目標、目的、標的は口腔疾患の現在の分類と診断のために確立された基準を基に提案されています。提示されている各種方法を注意深く考察して、各疾患群に関連する熟知する方法で目標等を立てることです。
目標
1.
オーラルヘルスプロモーションを強調し、また、病気の大きな負担を背負っている人々の口腔疾患を無くしながら、全身の健康と心理社会学的な発達に及ぼす口腔と頭蓋顔面に発生する疾患の影響を最少に食い止めること。
2.
個人と社会に及ぼす口腔と頭蓋顔面に発生する疾患の影響を最少に食い止め、また、全身疾患の早期診断、予防と効果的な管理に口腔と頭蓋顔面に発生する疾患の諸徴候を活用すること。
目的
1.
口腔と頭蓋顔面に発生する疾患による死亡率を減少させること。
2.
口腔と頭蓋顔面に発生する疾患の有病率を減少させて、生活の質を向上させること。
3.
最良の方策(すなわち、科学的根拠に基づいた施策)としてのシステマティックレビューから得られた口腔保健システムの中で、持続可能な、優先順位の高い施策とプログラムを推進すること。
4.
口腔と頭蓋顔面に発生する疾患の予防とコントロールのために、利用可能な費用効果の高い口腔保健システムを進展させること。
5.
共通のリスクファクターへのアプローチによって、健康問題に影響を与える他の分野の人びととオーラルヘルスプロモーションとケアの統合をはかること。
6.
健康を左右する因子をコントロールするために人びとが自立できるよう口腔保健プログラムを開発すること。
7.
過程と結果双方において、口腔保健サーベイランスのためのシステムと方法を強化すること。
8.
ケア提供者の社会的責任と倫理的実践を促すこと。
9.
一国内の社会経済グループ間に認められる口腔保健の不均衡、ならびに各国間に存在する口腔保健の不平等を減少させること。
10.
口腔の疾患と異常に関する精度の高い疫学的サーベイランスのための訓練を積んだ健康ケア担当者の数を増やすこと。
標的(ターゲット)
2020年までには、次の各項目のベースラインを達成されるだろう:
1.
疼痛
・ 口腔と頭蓋顔面原発の疼痛の頻度をX%減少
・ 口腔と頭蓋顔面原発の疼痛のため学校の欠席と職場欠勤の日数をX%減少
・ 機能的障害で悩んでいる人をX%減少(これには疼痛と異常、喪失歯、前歯の外傷、先天的な歯と顔面の異常のような計量可能な因子を含む)
・ 疼痛、異常と審美障害によって日常活動に及ぼす中等度と重度の社会的な影響をX%減少(これには喪失歯、歯の異常、歯のフッ素症、前歯の外傷、重度な歯肉退縮と口臭を含む)
2.
機能障害
・ 咀嚼、嚥下と発音、コミュニケーション障害の既往のある個人をX%減少。これには歯の喪失と先天的または後天的な顔面や歯の形態異常に関連する計量可能な因子を含む。
3.
感染症
・ 口腔保健ケア環境で感染症の伝播のリスクを認識し、最小に食い止めるために優秀な保健ケア担当者をX%だけ増やす。
4.
口腔咽頭癌
・ 口腔咽頭癌の発症率をX%だけ減少
・ 処置ケースの5年生存率をX%だけ増加
・ 早期発見率をX%だけ増加
・ 緊急の要検査者をX%だけ増加
・ タバコ、アルコールと栄養改善に関連するリスクファクターの暴露をX%だけ減らす
・ 各種訓練を積んだ学際的な専門家のケアを受ける患者の割合がX%だけ増加
5. HIVヒト免疫不全ウイルス感染の口腔内症状
・ 口腔顔面の日和見感染率をX%だけ減少
・ HIVヒト免疫不全ウイルス感染の口腔内症状を診断し、管理する能力のある保健人材をX%だけ増やす
・ HIV感染の口腔への影響に気付いている政策立案者をX%だけ増やす
6.
ノーマ(水癌)
・ ノーマのリスク対象のデータをX%だけ増加
・ 早期発見率をX%だけ増加
・ 緊急の要検査者をX%だけ増加
・ はしかなどのワクチンの給付範囲、栄養改善、衛生の特異的な対応でX%までリスク因子への暴露を減少
・ 学際的な各専門家のケアを受ける患者をX%だけ増加
7.
トラウマ精神的外傷
・ X%だけ早期発見率を増加
・ X%だけ緊急の要検査者を増加
・ X/Y%だけ緊急ケアの診断と処置能力のある保健ケア担当者を増やす
・ 必要に応じて、学際的な専門家のケアを受ける患者をX%だけ増加
8.
頭蓋顔面異常
・ タバコ、アルコール、催奇形要因と栄養改善との特異的な関連でX%だけこれらのリスクファクターへの暴露を減少
・ X%だけ遺伝的なスクリーニングと相談の機会を増やす
・ X%だけ早期発見率を高める
・ X%だけ応急の要検査者を増やす
・ 学際的な専門家のケアを受ける患者をX%だけ増加
・ X%だけ重篤なハンディキャップのある不正咬合と要検査者の早期発見率を高める
9.
う蝕
・ X%だけ6歳児のカリエスフリーを増やす
・ X%だけ12歳児のDMFT、とくに未処置Dを減少させる。この際、集団内のハイリスク群に注視して、集団のDMFTの分布と平均値を活用する
・ X%だけ18歳、35-44歳、65-74歳群のう蝕に原因する抜歯を減少させる
10.
歯の成長発達期の異常
・ X%だけ歯のフッ素症による形態異常の発現率を減少させる。その際、感受性の高い方法を駆使して、食品、水と不適切な補充剤中のフッ化物と関連づけて歯のフッ素症を減少させる。
・ 感染症と不適切な投薬と関連して、X%だけ後天性の歯の発育異常を減少させる
・ 先天性と後天性の歯の異常についてX%だけ早期発見率を増加させる
・ 先天性と後天性の歯の異常に関してX%だけ要検査者率を高める
11.
歯周疾患
・ タバコ、不良な口腔清掃、ストレス、全身疾患との関連で18歳、35-44歳、65-74歳群において、X%だけ歯周疾患に原因する歯の喪失を減少させる
・ 栄養不良、ストレスと免疫不全のリスクファクターへの暴露を抑えて、X%だけ壊死性歯周疾患を減少させる
・ すべての年齢群でX%だけ上皮付着破壊の有無にかかわらず、活動性歯周疾患の頻度を減少させる
・ すべての年齢でX%だけ健全な歯周組織(歯肉と歯槽骨)を有する人を増やす
12.
口腔粘膜疾患
・ X%だけ緊急ケアを診断し処置できる優秀な保健ケア担当者を増やす
・ X%だけ早期発見率を増加させる
・ X%だけ緊急の要検査者を増加させる
13.
唾液腺障害
・ X%だけ緊急ケアを診断し処置できる優秀な保健ケア担当者を増やす
・ X%だけ早期発見率を増加させる
・ X%だけ緊急の要検査者を増加させる
14.
歯の喪失
・ 35-44歳、65-74歳群で、X%だけ無歯顎の人を減少させる
・ 18歳、35-44歳、65-74歳群でX%だけ天然歯を保有する人を増やす。
・ 35-44歳、65-74歳群で、X%だけ21歯以上の機能的な歯列の人を増加させる
15.
ヘルスケアサービス
・ 住民のすべてのグループの文化的、社会的、経済的と有病状況に適するケアを提供できる人材を育成するために科学的根拠に基づく計画を構築する
・ X/Y%だけ十分な口腔保健ケアを受けることができる人の割合を増やす
16.
ヘルスケア情報システム
・ X/Y%だけ満足できる情報を受けることができる人の割合を増やす
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(付録A)
ワーキンググループのメンバー
Membership of the Working Group
Professor N. W. Johnson, FDI
Professor M. H. Hobdell, FDI
Dr G. Pakamov., WHO, Geneva
Dr. S. Estupinan-Day, W'HO/PAHO/AMRO
Professor. P. E. Petersen, WHO/EURO Dr. S. Thorpe, WHO/AFRO
Professor J. Clarkson, IADR
Dr. J. v.an den Heuve1, Netherlands
Dr. A. Horowitz, United States of America
Dr. E..Kay, United Kingdom
Dr. N. Mvburgh, South Africa
Dr.
J. Nastuddin bin Jaafar, Malaysia
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(付録B)
Resource Assessment Questionnaire 資源評価質問票
財源
1. 口腔保健のために国の公衆衛生予算はありますか。 はい いいえ 不明
2. 設備と機器を購入するための十分な資金はありますか。
3. 給与の支払いと資材を購入する十分な資金はありますか。
4. 予防とオーラルヘルスプロモーションのために割り当てられた十分な資金はありますか。
人材
5. 十分かつ適切な訓練を受けた人はいますか。
6. 介入方法を管理し、モニターし、かつ評価できる人はいますか。
設備と機器
7. 利用可能で、適切な設備はありますか。
基盤整備
8. 介入方法を選ぶためにニーズ評価はきめ細かに行われてきましたか。
9. 地域に対して支障のない交通網は整備されていますか。
10. 資源の確保のためにはっきりした連絡網は整備されていますか。
11. 報告の伝達手段に関する機能的な通信網は整備されていますか。
12. 輸送機関(例えば、人と物)を利用する必要がある場合に、それは利用可能でかつ機能性に富んでいますか。
(「はい」の回答数で資源の評価を下記のように行う)
「はい」という回答が6未満であれば、資源の利用度は低い
「はい」という回答が5〜10であれば、資源の利用度は中等度
「はい」という回答が9以上であれば、資源の利用度は高い
(注:この3段階評価は一部重複していますが、原文のままとしました)
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