デンタルタイムス21 平成16年2月25日(水)号 4-5面
『FDI・WHO・IADRによる 2020年の口腔保健目標』
世界の口腔保健状態の不均衡是正へ FDI(国際歯科連盟)、WHO(世界保健機構)、IADR(国際歯科研究会)の代表者で作るワーキンググループは昨年末、2020年までに達成されるべき世界的な口腔保健目標を策定した。世界の保健医療福祉水準には大きなばらつきがあるため、具体的な目標数値の変わりに、各国・地域の口腔保健施策立案者が自ら現状を評価し、それに基づいて目標を設定できるフォームを提示している。今号では、東北大学病院予防歯科講師の田浦勝彦氏(NPO法人日本むし歯予防フッ素推進会議理事)を中心に、松尾敏信氏(長崎県開業)・山本武夫氏(富山県開業)の協力も得て、今回目標の意義や既存の世界的目標値との違い、健康増進法が掲げる目標値との関連などを解説していただいた。なお、田浦氏による和訳も抜粋掲載するので参考にされたい。 |
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【はじめに】 1948年WHOは健康憲章を発し、健康は人間の基本的権利であると宣言しました。その後1978年に南北の国における健康格差が問題となり、”すべての人々が健康に(Health For All)“のもとに基本戦略としてプライマリーケアの重要性を指摘したアルマアタ宣言が採択されました。更に、1986年疾病構造の変化に伴い新たな健康戦略としてヘルスプロモーションの概念がオタワ宣言として提起されました。 【1981年のFDI・WHOによる2000年までの口腔保健目標との相違点】 既存2000年までの口腔保健目標(表)には、具体的な数値目標が設定されていました。
【WHOの2000年までの口腔保健に関する第一目標について】 WHOでは、「12歳児の世界的平均DMFを3以下にしよう」を2000年までの第一目標に活動してきました。その結果、WHOのホームページ(http://www.whocollab.od.mah.se/countriesalphab.html#J)によれば、2001年の世界の加重平均DMFTは1.74であり、128カ国はDMFT
3以下を達成しましたが、1本以下のスイスもあれば、ルーマニアの7.3という国の数値もあり、依然として格差が存在します。 【21世紀の歯と口の健康づくりと「健康日本21」】 健康づくりは個人的な努力も大切なことは言うまでもありませんが、ヘルスプロモーションでは、人びとの健康づくりを支援する環境づくりと公共的な政策づくりは不可欠であることを明確にしています。 |
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2020年の口腔保健目標(田浦氏訳より) 1981年に、FDIとWHOは共同で2000年までに達成されるべき世界的な口腔保健目標を立てました。この期間の終盤に、これら到達度の調査が行われました。多くの人々にとって2000年目標は有用であり、目標の達成ないし目標を上回っていることが示されました。しかしながら、世界のかなり多くの人々にとっては、たぶんにかけ離れた目標に過ぎない面もありました。そうは言っても口腔保健目標は国政府と地方自治体に口腔保健の重要性を気付かせる動機になりましたし、口腔保健全般にわたる資源を守るための触媒としての役割を演じてきました。したがって、すべての国が2000年までの口腔保健目標を達成してはいませんが、2000年目標は口腔保健問題解決への道筋を示してくれました。 照準(ねらい) 詳細かつ複雑さを増している新たな世界的な口腔保健の目標、目的と標的に関する提案から成っている本文書は相異なる水準の地区、国と地方自治体における口腔保健政策立案者のための骨組みを提供することを目的にしています。目標と標的には規範されるものを掲げていませんし、規定するつもりはありません。世界的な水準で幅広い焦点のあて方をすることで、国連開発計画の報告書の精神 'Think globally, act
locally‘’地球規模で考え、地域活動する‘ である地域活動を促がすことを期待しています。それで、本文書は2020年までに達成すべき口腔保健目標の現実的な目標と標準を明記する際に、地方と国の口腔保健立案者にとって一つの道具を提供することになるでしょう。 目標 1.
オーラルヘルスプロモーションを強調し、また、病気の大きな負担を背負っている人々の口腔疾患を無くしながら、全身の健康と心理社会学的な発達に及ぼす口腔と頭蓋顔面に発生する疾患の影響を最少に食い止めること。 目的 1.
口腔と頭蓋顔面に発生する疾患による死亡率を減少させること。 標的(ターゲット) 2020年までには、次の各項目のベースラインを達成されるだろう: 1. 疼痛 ・ 口腔と頭蓋顔面原発の疼痛の頻度をX%減少 2. 機能障害 ・ 咀嚼、嚥下と発音、コミュニケーション障害の既往のある個人をX%減少。これには歯の喪失と先天的または後天的な顔面や歯の形態異常に関連する計量可能な因子を含む。 3. 感染症 ・ 口腔保健ケア環境で感染症の伝播のリスクを認識し、最小に食い止めるために優秀な保健ケア担当者をX%だけ増やす。 4. 口腔咽頭癌 ・ 口腔咽頭癌の発症率をX%だけ減少 5. HIVヒト免疫不全ウイルス感染の口腔内症状 ・ 口腔顔面の日和見感染率をX%だけ減少 6. ノーマ(水癌) ・ ノーマのリスク対象のデータをX%だけ増加 7. トラウマ精神的外傷 ・ X%だけ早期発見率を増加 8.
頭蓋顔面異常 9. う蝕 ・ X%だけ6歳児のカリエスフリーを増やす 10. 歯の成長発達期の異常 ・ X%だけ歯のフッ素症による形態異常の発現率を減少させる。その際、感受性の高い方法を駆使して、食品、水と不適切な補充剤中のフッ化物と関連づけて歯のフッ素症を減少させる。 11. 歯周疾患 ・ タバコ、不良な口腔清掃、ストレス、全身疾患との関連で18歳、35-44歳、65-74歳群において、X%だけ歯周疾患に原因する歯の喪失を減少させる 12. 口腔粘膜疾患 ・ X%だけ緊急ケアを診断し処置できる優秀な保健ケア担当者を増やす 13. 唾液腺障害 ・ X%だけ緊急ケアを診断し処置できる優秀な保健ケア担当者を増やす 14. 歯の喪失 ・ 35-44歳、65-74歳群で、X%だけ無歯顎の人を減少させる 15. ヘルスケアサービス ・ 住民のすべてのグループの文化的、社会的、経済的と有病状況に適するケアを提供できる人材を育成するために科学的根拠に基づく計画を構築する 16. ヘルスケア情報システム ・ X/Y%だけ満足できる情報を受けることができる人の割合を増やす
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