水道水フッ化物濃度の適正化

厚生労働省科学研究「フッ化物の応用総合的研究」班
主任研究者・東京歯科大学名誉教授 高江洲義矩

 平成14年の3月に久米島具志川村で開催された 「水道水フッ化物応用シンポジウム−健康長寿を目指して−」 は、 フロリデ−ション (水道水フッ化物添加) を中心とした地方自体における公衆衛生的予防施策のあり方や進め方を検討するための画期的な企画であったように思います。

 まず、 二つの基調講演として長崎大医学部長の齋藤 寛 教授と米国疾病予防センタ− (CDC) のト−マス・リ−ブス氏の講演内容から示唆をうけましたたことを要約してみますと、

(1)フッ化物応用は公衆衛生的予防施策として永年の実績があることと、 フロリデ−ションは栄養素としてのフッ化物を基盤にして設定されていること。

(2)フロリデ−ションの水道工学的な適性と予防施策としての健康維持のための有効性と安全性が確保されていること。

でありました。

 健康維持のためのフッ化物応用は、 世界の健康政策の中心でありますWHO (世界保健機関) によって推進されているものです。 しかしながら、 フロリデ−ションに反対を表明している科学者や一般の人達から 「フッ素は栄養素か?」、 「フッ素は薬剤投与ではないか?」、 「フッ素は恐ろしい化学物質だ!」、 「水道水フッ素化は個人に強制してはいけない!」 などの意見・主張も発信されています。 とくに最近のインタ−ネット状況の内容をみますと、 いろいろな情報としての意見・主張・訴え・中傷が比較的自由に、 その情報の信頼性は問われないまま発信されているものが多くあります。 そして、 極端な表現の論理で、 その 「恐ろしさ (fear arousing / fear monger)  」 を強調して扇動している内容もあります。

 もう一つ、 とくにわが国ではフッ化物 (フルオライド) の用語を使わずに、 フッ素 (フロ−リン) という元素名の使用にこだわっていることが多いようですが、 このことは、 わが国の国民性にまで関わっているようにさえ思われます。 極めて不思議なことに、 「フッ素 (fluorine)」 の用語に固執していながら、 英語で論文を書くときには必ず 「フッ化物 (fluoride)」 としています。 その巧みさと巧妙さは用語の意義を知らないことに起因しているとも思えないですが、 認識の曖昧さが目立ちます。 もちろんフッ素か?フッ化物か?は1950年代まで化学や物理学の領域でもだいぶ論議の的となっていましたが、 1950〜1970年代にIUPAC(国際純正・応用化学連盟)によって、 フッ素は元素名として使用し、 無機の化合物としてはフッ化物、 そして有機の化合物 (麻酔剤、 抗がん剤、 テフロン、 ウランの精製など) ではフッ素化合物またはフッ素化 (fluorinationフロリネ−ション) が使われています。 したがって、 水道水フッ化物添加は“fluoridation (フロリデ−ション)”であり、 フッ素化 (フロリネ−ション) ではありません。 これは健康維持のための予防方法であるフッ化物応用についての基本的な認識です。

フッ化物は、 日常的に飲用しているお茶や健康のため常食している海産物に最も多く含まれている栄養素です。 それを 「恐ろしい物質」 として厳しい警告を発する根拠は極めて疑問です。 栄養素としての他のミネラルと同様に 「過剰な摂取」、 いわゆる"とり過ぎ"のないようにという警告であって、 それは生命科学として当然のことであり、 しかも21世紀の生命科学は、 すべての栄養食品の 「有益とリスク (benefit and risk)」 に強く焦点が当てられています。 すなわち、 適正摂取量が本来の生命科学の課題です。 極端な例としては、 フッ化物応用を環境汚染物質の汚染のように錯覚して警告を発している人もいます。 現在、 フッ化物は他のミネラルと同様に、 「摂取基準量」 と 「許容上限摂取量」 の基準が設定されてきています。 殆どの食品で栄養としての摂取上限が考えられています。

 さらに、 水道水フッ化物応用としてのフロリデ−ションを地域で実施する場合には、 公衆衛生的健康施策でありますので、 保健行政機関およびその他の関連機関による承認または勧告が必要です。 そしてその健康施策に対する地域住民の理解と同意が重要です。 今回のシンポジウム開催は、 WHOで承認・勧告され、 わが国の保健行政機関および専門団体で承認されているフロリデ−ションに対して、 久米島の地域住民への情報提供の場としての意義が大きかったと思います。

 う蝕予防 (むし歯予防) と生涯を通した健康維持のためのフッ化物応用の中で、 水道水フッ化物添加 (フロリデ−ション) を除いた局所応用では、 ミネラルとしての化学物質 (fluoride chemicals) のフッ化物によるフッ化物洗口、 フッ化物配合歯磨剤を薬事法における 「薬効成分」 の扱いにしておりますが、 恐らく近い将来には薬剤としては一部が使われて、 その他はミネラル成分としての応用レベルに位置づけられることになつていくことでしょう。 そして、 フッ化物応用は時代の進展と共に、 さらに技術的な改良と適用概念が一層明確に示されていくことになります。 しかもその考え方の根底にありますのは、 WHOが提唱しています 「健康の公平性 (health equity)」 であり、 生涯を通した健康 (health for lifelong) の意義であります。 したがって、 それに関わるフッ化物応用の永遠性の課題は今後ますます重要視されていくものであります。

 最後に、 この4月から久米島の皆様は久米島町誕生という歴史的時代を迎えになられましたが、 去る3月の 「水道水フッ化物応用シッポジウム−健康長寿を目指して−」 の開催にご尽力くださった旧具志川村の内間清六村長おはじめ旧村役場の職員ご一同並びに公立久米島病院の西平竹夫病院長および歯科医師の玉城民雄先生とその他の関係者各位に感謝を申し上げます。 そして久米島町民の皆様の健康長寿を心から祈念いたしております。