米国および世界のフッ化物応用の現状

米国国立疾病予防センター(CDC)
水道水フッ化物添加国家担当主任技師
トーマス・G・リーブス

はじめに

 水道水フッ化物添加について報告する機会を得られたことに対して、 まず感謝申し上げたいと思います。 このプレゼンテーションが美しい国である日本にとりまして分かりやすく利用価値の高いものであることを願っております。 具志川村のこの事業の開始を大変嬉しく思いますとともに、 世界中が注目していることを申し上げます。 まず、 米国における水道水フッ化物添加の現状、 他国における水道水フッ化物添加、 更には使用されるフッ化物、 使用されている装置、 水道水フッ化物添加のための経費を含む工学的な側面、 そして最近の水道水フッ化物添加ヘの批判に関係する論議について取り上げます。


米国における水道水フッ化物添加の現状

 1992年に私どもが発行した、 最新のフッ化物添加の国家調査によりますと、 公営の浄水場利用者中、 62%をわずかに上回る人が、 フッ化物添加を受けた水道水を利用しています。 新たなフッ化物添加についての国家調査がほぼ完成しており、 三月の中旬に発行される予定です。 その速報値が、 2月22日現在、 65.8%となっています (図1)。 東海岸では実施が早く、 多くが実施率75%を越えていますが、 西海岸では例外もありまだあまり進んでいません。 カリフォルニア州においてフッ化物添加に関する法律が可決されており、 ラスベガス、 ロサンゼルスなどの大都市で完全に実行されるならば、 この数字は74%まで引き上げられることとなります。 米国では7千のフッ化物添加を行っている浄水場があり、 それをl億4500万人 (最新の数字は1億5000万人) が利用しています。 また、 天然にフッ化物を含む3700の設備を1000万人が利用しています。 この天然にフッ化物を含む設備は大概小規模な設備になっています。 これはアメリカ合衆国におけるフッ化物添加の拡大を示す図ですが、 着々と増加していることがご覧いただけると思います。 <点線は、 公営の浄水場利用者の合計であり、 その下の破線が調整を行っている施設によってフッ化物添加された水を利用している人口を示しています。 一番下にある一点破線は天然にフッ化物を含む水を飲んでいる方の人口です。 > (図2)


世界各国における水道水フッ化物添加の現状

 次に各国における水道水フッ化物添加の現状について簡潔に見てみましょう。 データは完全なものではなく、 時折矛盾する部分もあります。 英国フロリデーション協会のシーラ・ジョーンズさんと私が検討したものです。 シーラさんが殆ど作業をやってくれているのですが、 世界における水道水フッ化物添加の最新データを共同で収集しています。 以下 ( ) 内に%人口を示します。

 アルゼンチンとチリ2国において、 水道水フッ化物添加に向けた活動が行われています。 特にアルゼンチンは最近がんばっていまして、 暫定的な困難も抱えていますが実施率が上がっています。 オーストラリア (67%) は実施率が高いです。 この中国の数字 (16%) は予測に基づくものです。 コロンビアの数字 (80%) はWHOの報告によるものですが、 コロンビアではフッ化物添加食塩が用いられているので、 正しい数字ではないはずです。 この80%という数字はフッ化物添加食塩の数字だと思います。 フランス (3.0%) では食塩へのフッ化物添加が進められていますが、 一つの地域では、 フッ化物添加を何年も行ってきました。 香港は実施率が100%です。 また、 水道水フッ化物添加のための継続的な努力がアイルランド (70%) やイスラエル (45%) で払われてきました。 アイルランドは法的に実施しようとしてきました。 アイルランドでは現在施行しようとしている法律がありますが、 これはフッ化物添加の反対者によって猛攻撃を受けています。 ここ数年内で、 イスラエルは国内の殆どでフッ化物添加を行う計画をたてています。 エルサレムではフッ化物添加に関して、 大きなキャンペーンが展開されていましたが、 市議会でフッ化物添加を支持する側が勝利しました。 ハンガリー (0.3%) では食塩のフッ化物添加を始めようとしています。 もちろんの事ながら、 韓国は水道水フッ化物添加において大きく躍進しています。 ここの4%という数字は実態よりも少ない数字で、 実際には13%ほどの実施率になっています。 マレーシアもほぼ50%に近づきつつあります。 メキシコ (4%) 及びペルー (2.4%) では食塩のフッ化物添加を実現する試みがあります。 またフッ化物添加食塩の生まれ故郷であるスイス (4.8%) もそれを多年にわたって行っております。 シンガポールは長年にわたって100%実施しています。 台湾ではまだ実施されていません。 タイ (8.4%) では水道水フッ化物添加を強く進めようとしています。 まず、 バンコクで実施しようとしています。 高レベルのフッ化物の含まれる浄水場では、 いくらかの問題が生じている所もあります。 南アフリカ共和国では全ての浄水場でフッ化物濃度調整するためのフッ化物添加法が通過しました。 例外は共和国保健省に認められるときのみとなります。


工学的な側面――フッ化物

 さて水道水フッ化物添加の工学的な側面についてお話申し上げます。 まず、 米国の水道水フッ化物添加に利用されているフッ化物についてですが、 フッ化物はフッ素元素から生じます。 ハロゲンガスであるフッ素は地殻で13番目に豊富な元素となっています。 フッ素は薄く黄色みを帯びた有毒性の活性が高いガスです。 またすべての元素のなかで最も陰性が強い元素となっています。 フッ素は自然の状態では単体で存在できず、 フッ化物の形でイオンやその他の元素と結合して存在しています。 水に溶かすとフッ化物はイオンに解離します。 飲料水中に存在する適量のフッ化物イオンは、 むし歯の減少に効果があります。 フッ化物はホタル石、 氷晶石、 燐灰石の鉱物中に固体で存在しています。 ホタル石の鉱物中には30〜98%のフッ化カルシウムが含まれています。 またホタル石 (fluorite とも呼ばれる) は世界中の殆どの場所に存在しており、 米国ではケンタッキー州とイリノイ州が最大の産出地となっています。 しかし、 米国内ではフッ化物として用いられていません。 氷晶石は、 アルミニウム、 ナトリウム、 フッ素の化合物ですが、 融点が低いため工業用の利用に好まれます。 グリーンランドには大規模な生産地があります。 米国内においては、 氷晶石中のフッ化物は用いられていません。

 燐灰石はカルシウム化合物が混合している鉱物です。 このカルシウム化合物には主としてリン酸カルシウム、 フッ化カルシウム、 炭酸カルシウムを含んでいます。 また、 不純物が混合した状態ではわずかながら硫酸塩も含まれています。 燐灰石中にはフッ化物が3〜7%含まれ、 現在最も多く水道水フッ化物添加に利用されています。 リン酸肥料の原材料として用いられます。 米国における燐灰石はほとんどフロリダ州中部で生産されています。 理論上は、 どんなものでも水溶液中でフッ素イオンとなる化合物は上水道のフッ化物濃度を調整するために用いることができます。 しかし、 化合物を選定する上で、 実用の際に考慮する点があります。 第一に、 化合物は浄水場の通常業務において利用しやすい十分な溶解性がなければなりません。 第二に、 フッ化物イオンが結びついている陽イオンがなんら好ましくない性質を帯びていてはなりません。 第三に、 この原料が比較的高額ではなく、 すぐに利用できるよう異なった大きさや安定した純度で入手できなければなりません。

 米国の水道水フッ化物添加で用いられているフッ化物としては、 フッ化ナトリウム、 ケイフッ化ナトリウム、 フルオロケイ酸の三つが最も広く使用されています。 これは、 AWWA:American Water Works Association (米国水道協会) の水道水フッ化物添加のための使用基準及び、 NSF:National Sanitation Foundation (国立衛生財団) の定めるNSF Standard 60の基準 (AWWAでは、 純度97%以上の設定) に適合していなければなりません。 米国の水道水フッ化物添加において最初に用いられたフッ化物はフッ化ナトリウムです。 フッ化ナトリウムは白色、 無臭の物質で、 食塩に似ていて、 粉末及び様々な大きさの結晶で手に入れることができます。

 これはフルオロケイ酸を苛性ソーダで中和反応させるときに生ずる塩ですが、 分子量42.00 、 比重2.79、 また上水通常処理の一般的な温度では、 100gにつき4gの溶解性で殆ど安定しています。 フッ化ナトリウムの比較的安定した4 %の溶解度が基準となってサチュレーターが設計されています。 フッ化ナトリウム溶液のpH (水素イオン濃度) は不純物の内容や不純度合いによって様々ですが、 一般的な等級を持つフッ化ナトリウム溶液は殆ど中性のpH (約7.6) を示します。 水分や遊離酸、 遊離アルカリ、 フルオロケイ酸ナトリウム、 亜硫酸塩、 鉄分、 またわずかながら他の物質を不純物として含有しているものの、 97〜98%の純度で入手できます。 1mg/の濃度でフッ化物の含まれる水を100万ガロン (380万トン) 作るのに、 約19ポンド (8.6kg) のフッ化ナトリウムを加えます[2.3kg/1000]。 フッ化ナトリウムは多数の産業的用途があります。 ガラス状エナメル・ガラス製品の製造、 金属の脱泡剤として、 また、 電気メッキ、 溶接溶剤、 塩化合物の熱処理、 醸造所・蒸留所設備の殺菌、 粘着剤・ゴムのり、 木材の防腐剤、 コーティング加工紙の製造にも用いられています。 以前は殺鼠剤にも使われましたが、 現在では使用されておらず、 EPA:Environmental Protection Agency (環境保護庁) の殺鼠剤登録リストには載せられていません。

 ケイフッ化ナトリウムは白色、 無臭、 結晶状の粉末になっています。 これはフルオロ珪酸を炭酸ナトリウムで中和させるときに生ずる塩です。 分子量188.06、 比重2.679となっています。 溶解度は、 摂氏 0℃で100gにつき0.44グラム、 摂氏100℃では100gにつき2.45グラムとなっています。 溶液のpHは確実に酸性で、 飽和溶液はpH3.0〜4.0 (約3.6) を示します。 フルオロ珪酸ナトリウムは98%またはそれ以上の純度で入手でき、 含有する不純物としては水分、 塩化物、 二酸化ケイ素が主なものです。 1r/の濃度でフッ化物の含まれる水を100万ガロン (380万トン) 作るのに約14ポンド (6.4kg) のフルオロ珪酸ナトリウムを加えます[1.7kg/1000]。 フルオロケイ酸ナトリウムはその他にも産業的用途として、 クリーニングの精錬剤 (工業用苛性石鹸の中和用)、 オパールガラスの製造、 ウールへの虫除けに利用されています。 以前は殺鼠剤として用いられていましたが、 フッ化ナトリウムと同様用いられなくなりました。

 EPAの殺鼠剤登録リストにも載せられていません。 フルオロケイ酸は燐酸肥料製造の際、 副産物として生じるものです。 粉末状の燐灰岩に硫酸を加えると気体が生じ、 この気体が水と反応してフルオロケイ酸を形成します。

 フルオロケイ酸はヘキサフルオロケイ酸、 フッ化ケイ酸、 ケイフッ化水素酸としても知られ、 20〜35%の水分を含む溶液で分子量144.08となります。 色は透明な淡黄色、 発煙・腐蝕性がある液体で、 刺激臭・皮膚刺激があります。 20〜35%の酸性溶液は低いpH (1.2) を示し、 lr/の濃度では十分に緩衝剤の調整ができていない飲料水のpHをわずかに下げることになります。 この薬品は、 皮膚組織に 「徐々に火傷」 を引き起こすので、 非常に注意深く扱わなければなりません。 1r/の濃度でフッ化物の含まれる水を100万ガロン (380万トン) 作るのに23%酸性の薬品約46ポンド (20.9kg) を加えます[20.9kg/1000] 。 その他のフッ素化合物と同様、 フルオロケイ酸は様々な工業用途があります。 機材の消毒、 醸造所及び瓶詰め工場内、 電気メッキ、 獣皮のなめし、 ガラスのエッチング、 鉛の精製、 セメントの硬化、 木材の保護に用いられます。


工学的な側面――装置

 さて、 米国の浄水場において、 フッ化物を添加するために用いられている装置について話しましょう。

 フッ化物は上水に絶えず溶液の形で加えられ、 液体、 固体いずれの方法で測定されます。 フッ化物が固形である場合は、 上水に添加される前に溶液として溶解して使います。

 一般的に、 フッ化物を加えて調整する際には、 三つの方法があります。 乾式添加装置 (ドライフィーダー) 方式はフッ化ナトリウムまたはケイフッ化ナトリウムを使い、 酸添加装置 (アシッドフィード) 方式にはフルオロケイ酸を使い、 また飽和装置 (サチュレーター) ではフッ化ナトリウムを使います。

 添加装置は使用されるフッ化物および添加量によって選択します。 添加の割合は原水への添加に必要なフッ化物の分量によります。 一般に小規模な浄水場と大規模な酸添加装置では定量ポンプ (メタリングポンプ) が用いられます。 乾式添加装置 (ドライフィーダー) 方式は中規模の施設に使われます。 しかし、 どちらの装置でも幅広い利用が可能です。


以下の方法で上水道にフッ化物は供給されます。

1. 乾燥した化学薬品化合物 (ケイフッ化ナトリウムのことが多い) の分量を機器で計量して、 次いで、 混合タンク (溶液槽) に添加します。 そこで完全に混合されて、 主要送水管に送ります。

2. 小さなポンプを用いて浄水場設備に直接フルオロ珪酸の溶液を加えます。 (小規模用・大規模用)。


 膜ポンプは、 約125psi (1平方インチあたりのポンド数) [1 平方センチあたり8.8kg]を上限とする中程度の加圧作業に非常に適しています。 15psi[1 平方センチあたり1.1kg]を下回る加圧に対しては用いられるべきではありません。 また貯留槽のポンプ (well pump) の吸い上げ口等の真空状態になる場所で使用してはいけません。 放出場所に一定の陽圧をかけることで、 正確性が継続的に保たれることになります。 定量ポンプによっては陽圧を確実にかけるためにバネまたはゴムのついた放出弁がついています。 陰圧側の吸入ポンプ (Negative suction head) は4 フィート (1.2メートル) を超えてはいけません。 つまり、 定量ポンプを溶液コンテナの1.2mより高い場所に設けることはできません。

 電子膜定量ポンプはフッ化物定量ポンプの中では最新で最も広く用いられているものです。 このポンプが急速に受け入れられた理由は少量のフッ化物を送るのに適しているので、 フッ化物添加を行っている小規模な浄水場で一般的に見られます。

 電子膜定量ポンプは特別な種類の膜ポンプです。 フッ化物添加に用いられる膜ポンプの大部分には、 機械と連結して動く弾力性の膜が使われています。 しかし、 電子膜定量ポンプでは筒型コイルの対極子が周期的に電圧を加えられて弾力膜を動かします。 このポンプには固相回路 (solid state electronics)、 回路遮断機、 内蔵型分圧器が組み込まれています。 ストロークが非常に短く、 最長のストロークで1.25oとなっています。 そのため事実上、 継続的な長期使用にも耐えることとなります。

 アシッドフィードシステムと言われるフッ化物添加装置には、 大容量に対応するバルクシステム (bulk system) と小容量に対応するカーボイシステム (carboy system) の二種類があります。 カーボイシステムは容器 (well) がーつ備わっている添加装置で、 フッ化物添加装置としては最も単純で、 簡単な装置です。 その典型的な装置には、 酸の入ったドラム (あるいは、 carboy)、 小さな定量ポンプ、 測定器が備わっています。 ドラム (あるいはcarboy) の通気管が外とつながっており、 ポンプの取水口及び通気管の周囲は密封されています。 フッ化物を扱う装置のある部屋に直射日光が強く当たると、 チューブは黒に変色します。 黒色は紫外線を遮断しますが、 半透明のチューブだとひび割れをおこします。 できれば、 溶液コンテナ上部1.2m以内にドラム (carboy) と定量ポンプを設置します。

 バルクアシッドフィードシステムである大容量用のフッ化物添加装置は、 大規模な浄水場で添加装置として用いられます。 これは、 大容量のフッ化物を用いるもので、 例外もありますが単一の井戸の装置に似ています。 ドラム (carboy) の代わりに1日容量タンクが必要になります。 通常の作動条件下では、 1日容量タンクに 2,3日分を超える量の酸を供給してはなりません。 さらに、 1日容量タンクの場合コンテナの外口部、 通気口、 吸水ポンプ管の開口部が密閉されていなければなりません。

 バルク貯蔵ライン (bulk storage line ) 及び吸水ポンプ管の接合部には柔軟性が必要です (チューブ自体に柔軟性がない場合)。 これによって不正確な計測を防ぎます。 通気管は直に外壁につながるのではなく、 1日容量タンクから (天井近くにある) 大容量タンクにつないでいます。 定量ポンプメタリングポンプはクリアウェル (clearwell ) につながる管にフッ化ケイ酸を流出させるようになっています。 クリアウェル (clearwell ) 内に直接流出される場合には、 この流出点におけるサイフオン防止装置は必要ありません。

 大容量タンクは上部に通気口があり、 それが戸外に設置されている場合、 薬品の漏出が起ったときのために周りを囲みます。 華氏4度以下 (−15℃) の低温下に曝され続けると、 フッ化ケイ酸は凍ってしまうので、 寒冷地帯では大容量タンクが凍結から保護される必要があります。


 サチュレーターは、 フッ化物添加にのみ使用されている独特の添加装置です。 この装置の原理は、 上水がフッ化ナトリウムを含む大きな層を少しずつ通り抜けることで飽和したフッ化物溶液を作ります。 それから小さなポンプによって浄水場設備にフッ化ナトリウム溶液が送られます。

 サチュレーターには上昇方式 (アップフロー方式)、 下降方式 (ダウンフロー方式 )。 排気方式 (ベントリウム方式) の三種類あります。 下降方式のサチュレーターは1940年代後半に開発されました。 しかし、 この方式は1950年代後半から1960年代の始めにかけて広範囲に受け入れられるようになりました。 70年代半ばには、 排気方式サチュレーターが開発されました。 下降方式と排気方式は現在、 米国内では使用されていません。 現在のところ、 上昇方式が今使われていますが、 エアーギャップを発生しない利点があります。

 上昇方式のサチュレーターでは砂、 砂利層がなく、 タンクの底に溶解していないフッ化ナトリウムの層があります。 スパイダー方式の水供給器がタンクの底にあり、 それにはいくつかの小さな切れ目があります。 この切れ目から圧力をかけられた水がフッ化ナトリウム層から通り抜けて上に流れていきます。 この場合、 4 %の理想的な溶液となるように管理されています。 定量ポンプの取水管は溶解していないフッ化ナトリウムが入るのを防ぐため、 上部に浮かんでいます。 サチュレーター下部の入水口はしっかりとしたcross-connection (交差接続) になっているので、 上水管には吸上遮断装置が必要となります。


水道水フッ化物濃度調整に対する批判

 地域社会における水道水フッ化物添加は、 むし歯予防に対して安全性や費用有効性が高い方法であることが証明されているものの、 一部の住民が地域の浄水場で添加を行うことに反対し続けています。 ある地域や国においてフッ化物添加の採用が検討される場合、 この公衆衛生の施策として証明されているフッ化物添加の恩恵や安全性、 有効性に異議を唱えようと、 反対する人が批判や主張を繰り広げることが度々あります。

 反対は大きく分けると2つで、 1つは医学的・法律的な面、 もう1つは技術的な面です。


1. フッ化物は癌の原因になるという批判は、 全く真実ではありません。

フロリデーションは集団投薬であるという批判は、 フッ化物は栄養素なのですから、 これも当てはまりません。

2. フロリデーションは非合法的であるという批判は、 アメリカでは最高裁で8回も争い、 いずれも合法的であるという判決が下っています。

3. フロリデーションはアレルギーの原因になるという批判も、 真実でありません。

4. フッ化物は蓄積性があるという批判は、 喫煙が蓄積して体に害があるということに結び付けていますが、 真実ではありません。 フッ化物は骨格や歯に蓄積性がありますが、 その結果としてむし歯予防の効果があります。 また、 軟組織には蓄積せず、 脳、 リンパ節に蓄積するという批判は真実ではありません。


 水道水フッ化物添加に反対する人々の批判や、 それがどのようにフッ化物添加の工学的側面に関連するかについて取り上げたいと思います。

1. 天然にフッ化物を含む場合と、 フッ化物添加は異なっているという批判があります。

しかし、 それは全く誤りで、 それら二つには全く相違がありません。 フッ化物がどこからきたにせよ、 飲料水中のフッ化物イオンは同じです。

2. フッ化物添加は飲料水として用いられるのはわずかだとして不経済だという批判があります。 その通りだと思います。 しかし、 このような議論を出すなら、 塩素処理を含め、 その他の浄水場の処理過程も不経済だと言えます。 当然ながら、 飲料水だけにフッ化物を添加するのは不可能です。 この 「不経済」 性を認めるとしても、 フロリデーション以外に、 むし歯を防ぐ費用有効性の高い公平な手段はありません。

3. 供給過多になる危険性があるという批判もあります。 フッ化物添加装置は事故や誤作動があった際には運転が停止するように設計されています。 高濃度のフッ化物の小さな 「固まり」 が上水管に入る可能性もあります。 しかし、 装置が正確に設計されているならばリスクは非常に低いですし、 もしそのような事が起こった場合には、 米国国立疾病予防センター (CDC) は踏むべく手順についての提案も行っています。 米国には57年もの歴史があり、 過去においてフッ化物の供給過剰という状況はごく数回でした。 事故も起こりうるという批判は、 装置や浄水場施設の設計をきちんと適切にするということが、 防ぐための鍵です。 そのような適切な設計の設備であれば、 不適切なものがシステムの中に入ることを防ぐことができます。

4. フッ化物は水道管を腐食させるという批判も、 真実ではありません。

5. フッ化物は浄水設備に味や色、 においを生じさせるという批判もあります。 これは真実ではありません。 沖縄の有名な酒造りに、 影響することはありません。

6. 米国において多くある批判の1つに、 化学企業がフロリデーションによって、 莫大な利益を得ているというのがありますが、 事実はむしろその逆でありまして、 フロリデーションによって、 赤字になるほどではないにしても、 その事業の公益性から収益をそんなには得てはいません。

7. 家庭でのフッ化物添加器具といったもので、 希望する家庭ごとでフッ化物を添加する方が安く、 代替的な方法だという意見もあります。 しかし、 地域の水道水フッ化物添加にかわる適当な代替手段はありません。 それぞれの家庭が独自でフッ化物添加設備を所有するというのは現実的ではありませんし、 かなり高くつきます。

8. 水道水フッ化物添加に用いるフッ化物について多くの疑問が投げかけられています。 米国の水道水フッ化物添加に使用されるフッ化物 (フッ化ナトリウム、 ケイフッ化ナトリウム、 フルオロケイ酸) は燐酸肥料産業の副産物です。 製造過程において、 副産物が2つ生じます。 硫酸カルシウムの固体 (sheetrock.CaSo4)、 フッ化水素酸、 四フッ化珪素 (SiF4) の気体です。 製造過程の簡単な説明を続けますと、 フロリダ中部のカルシウム鉱物である燐灰石が粉末状にされて硫酸で処理されます。 それによって燐酸と2つの副産物が生じますが、 この2つの副産物が硫酸カルシウムと二種類の気体です。 この気体は product recovery units (再生装置) に集められ23%濃度のフルオロケイ酸に濃縮されます。 フッ化ナトリウムとフルオロケイ酸ナトリウムはこの酸から作られます。 飲料水中のフッ化物の毒性、 純度、 人体への危険性についての疑問が時折投げかけられます。 しかし、 浄水場で上水処理薬品として用いられている40種類以上の薬品のほとんどが高濃度では人体に有害です。 もちろん、 塩素やフッ化物も例外ではありませんが、 実際に供給される飲料水にはわずかな量のフッ化物が溶けているに過ぎません。 しかも100%解離し、 イオンとして存在します。 しかしそれに対しケイフッ化ナトリウムは通常の上水処理条件では完全に解離せず健康上の問題を引き起こす、 というフッ化物添加の反対者からの意見がありました。 これにこたえる形でフッ化物の解離に関する基本的な働きが慎重に見直され、 米国環境保護庁 (EPA: Environmental Protection Agency) の科学者、 及び米国国立疾病対策センターの疫学者が、 水道水フッ化物添加反対者が根拠とする内容について調査を行いましたが、 その結果、 両者ともこの意見は根拠のないものであるという結論に達しています。 水道水フッ化物添加に用いられるケイフッ化ナトリウム薬品についてはなんら健康上の調査がなされていないという意見も時折あります。 それはその通りです。 私たち化学の領域にいるものは、 水中の高濃度の薬品が人体にどのような影響を与えるかについて研究してはいません。 むしろ、 処理された水が健康に与える影響について研究します。 例えば化学薬品がどんなものに変化するか、 つまり、 フッ化物イオン、 ケイ酸塩、 水素イオンなどについての研究を行っています。 フッ化物の人体への影響は50年以上の歳月をかけて文字通り何千回も分析されてきました。 そして、 それが安全で、 むし歯の減少に効果的であることが分かっています。 飲料水中で低濃度含まれるケイ酸塩の人体への影響は知られていないため、 EPA はケイ酸塩のMCL:Maximum Contaminant Level (最大汚染レベル) について何も規定しておりません。 もちろん、 水素イオンは水のpHを測定するためのものに過ぎません。

9. フッ化物に含まれる不純物への懸念もあります。 米国水道協会 (AWWA) は権威ある上水施設の協会ですが、 フッ化物を含め、 上水処理施設で利用される化学薬品すべての基準を定めています。 米国水道協会の基準にはANSI/AWWA B701-99 (フッ化ナトリウム)、 ANSI/AWWA B702-99 (ケイフッ化ナトリウム)、 ANSI/AWWA B703-00 (フルオロケイ酸) が含まれています。 米国国立衛生財団 (NSF:National Sanitation Foundation) も基準を設けており、 フッ化物を含め、 上水道で用いられる製品の認定を行っています。  ANSI/AWWA Standard 60は純度の基準を設け、 フッ化物の試験および認定を行っています。 Standard 60は上水処理薬品が有害レベルまで混入することを防ぐ目的で、 米国国立衛生財団 (NSF)、 米国水道協会 (AWWA)、 米国国立基準協会 (ANSI:American National Standard Institute) からなる組織により作成され、 水質の安全性を保証しています。 米国50州のうち40以上の州で使用される薬品がStandard 60に適合することを定めた法律があります。


 米国国立衛生財団 (NSF) は、 米国環境保護庁のMCL (最大混入 (汚染) レベル) に記載されている11種類の金属化合物が存在する水道水中のフッ素化合物について検査をしています。 ある薬品 (例:フルオロケイ酸) が認定基準に適合するためには、 11種類の各金属が最高限度勧告レベルで飲料水に加えられた状態下で、 薬品によって定められたMCLの10%以下の濃度で家庭に届かなければなりません。

 ケイ酸塩を例にとると、 ケイ酸塩は健康上の影響がないため米国環境保護庁はケイ酸塩のMCL (最大混入レベル) を特に定めてはいませんが、 Standard 60では (腐食防止剤としてのケイ酸ナトリウム) 主として濁度の点からMAL (最大許容レベル) を16mg/lに定めています。 米国国立衛生財団 (NSF) の水質検査では、 フッ化物添加の水試料に含まれるケイ酸塩はこの濃度をかなり下回っていることが示されています。 また、 砒素を例にとると、 米国国立衛生財団 (NSF) のStandard 60では砒素のMAL2.5μg/l、 また米国環境保護庁 (EPA) ではMAL5μg/lが推奨され、 MCL50μgと定められています。 米国国立衛生財団の検査によれば、 フッ化物が添加された飲料水に含まれる砒素濃度は平均0.43μg/l[ppb]。 米国水道協会発行の月刊誌Opflow (vol26, No.10, 2000年10月) によれば、 フルオロケイ酸の添加された上水中の砒素レベルは0.24μg/l[ppb]で推奨されているMALの10分の1に満たない値を示しています。 米国国立衛生財団や他の検査でもフッ化物添加の水試料中に放射性核種の存在は認められませんでした。 この他の基準物質についてもフッ化物添加水において基準に適合しないものはありませんでした。

水道水フッ化物添加反対者の中には、 浄水施設で使用されているフッ化物が製薬レベルのフッ化物ではなく工業レベルのフッ化物であると批判する人がいますが、 米国水道協会 (AWWA)、 米国国立基準協会 (ANSI)、 米国国立衛生財団 (NSF) の基準は工業レベルのフッ化物にも適応されており、 その安全性は保証されています。 また製薬レベルのフッ化物は薬の処方に用いられるものであって、 水道水へのフッ化物添加に適しているとはいえません。

 フッ化カルシウムといった天然資源のフッ化物は、 現在フッ化物として用いられている 「人工的な」 ものよりも勝っているという意見もあります。 しかし両者に違いはありません。

10. 最近出てきた新手の意見があります。 フロリデーションによってフッ化物が脳に蓄積され子供達の知能が低下している、 という論文をボラネクス医師が発表しました。 これも真実ではありません。

11. フロリデーションによって骨がもろくなるという意見もあります。 確かにフッ化物は骨に蓄積されます。 フロリデーションを行っていない地域の成人の骨のフッ化物濃度は数百ppmですが、 フロリデーションを行っている地域の成人では3〜4千ppmあります。 この値はむしろ成人にとってよい影響をもたらすという研究もあります。 現在のところ、 科学的に見て骨をもろくするということはなく、 悪影響はない、 という結論が出されています。 高齢者の骨そしょう症にどのような効果があるかについては、 現在研究が進められています。

 この一連の批判は、 それが工学、 医療、 法律、 疑問といったどの分野と関わっているものであれ、 とどまるところを知りません。 関連性のない調査、 再試行できない調査、 論駁されてしまった調査が意図的に、 公衆衛生を損なうために残念ながら提示されてきました。 また、 他国での活動を誤解したり、 きちんと裏付けされていない意見が流布し、 不必要な恐怖心を生み出しています。

 フッ化物添加に関して疑念を投げかけるような報告については、 反対にその安全性や効力を証明するような報告が無数にあります。 調査活動や医療に携わる科学者や専門家の間で意見の相違がいくらか見られるのも驚くに値しません。 しかし、 フッ化物の安全性や効果についてはほぼ万国共通の一致が見られることは注目に値します。 フッ化物添加はいかなる科学的な観点からしても争う余地がないものです。 公衆衛生の施策の中で、 フッ化物添加ほど科学上の裏付けや幅広い調査がなされているものは殆どありません。

このようなさまざまな意見に対して、 CDC (米国疾病予防センター) やU.S.Pub1ic Health Service (米国公衆衛生局) でも、 詳細に検討してきました。 1991年、 CDCとその関連組織は、 Institute of Health (米国の保健研究所) で、 長年にわたって寄せられたさまざまなフロリデーションに対する異議・批判を検討しました。 発癌性とかアレルギーとか、 骨をもろくするとかそういったことが妥当かどうか検討した結果、 いずれも真実であるものはないとし、 引き続き、 フロリデーションを進めるという結論を出しました。

 1993年に、 米国環境保護庁は米国科学アカデミーに対して、 フロリデーションに関する論議を検討してもらい、 フロリデーションは安全性や有効性は確実なものであると、 また、 信頼されるものであると結論付けてられています。

 そして、 私たちCDCは、 フロリデーションは大変安全で有効な方法と考えています。 フロリデーションに対して、 寄せられた反対意見や批判はすべて真摯に捉え、 科学的根拠があるかないか検討していきます。 科学的な根拠のない意見や批判と結論付けられたときにはそのように公表します。 口腔保健の推進のために、 地域社会が実施しうる最も重要な施策というのがフロリデーションと信じております。

 現在私の娘は28歳ですが、 子供のころからフロリデーションされた水を飲んでいて、 むし歯は1本もありません。 また、 フロリデーションは成人にとっても恩恵をもたらすものです。 これをフロリデーションを推進する人たちが言い落とすことが多いのです。 米国では高齢者で歯を失ってしまった人も多いのですが、 成人にとってのフロリデーションの効果を過小評価していた傾向が過去にはあります。

 米国政府当局、 米国公衆衛生局、 アメリカ歯科医師会、 アメリカ医師会、 世界保健機関、  米国水道協会、 そして保健分野に関わる料学的、 専門的な団体も地域におけるフッ化物添加を支援しています。

 このプレゼンテーションを行う機会を得られたことを感謝いたします。

 最後に具志川村の皆様にフロリデーションの実施について敬意を表します。

ご清聴ありがとうございました。





講演者プロフイール

 M J.Thomas G.Reeves (トーマス.G.リーブス) National Fluoridation Engineer

  ・1935年9月4日に米国ネブラスカ州 North Platte で出生

  ・1965年  アイオワ州立大学建築工学部卒業

  ・1972年  カンサス大学環境保健工学修士課程修了

        環境保健工学修士 (Master of Environmental Health Engineering)

  ・1969年  カンサス州保健局北部地域担当技師

  ・1974年  米国環境保護庁水道課、 水道水フッ化物添加事業担当技師

  ・1979年  米国国立疾病予防センター (CDC)・米国公衆衛生局 (U.S. Public Health Service)

        国立水道水フッ化物添加事業担当技師

  ・1991年―現在

        米国国立疾病予防センター (CDC)・米国公衆衛生局/

        水道水フッ化物添加事業担当主任技師

業績:発表論文17編、 著書: 「水道水フッ化物添加法マニュアル」 米国公衆衛局発行

トーマス・リーブス氏は、 現在、 米国国立CDC (Centers for Disease Control and Prevention,

疾病予防センター) の口腔保健課 (Division of Oral Health) の水道水フッ化物添加事業の主任である。 米国のみならず世界的に水道水フッ化物添加事業の技術指導とコンサルタントとしての役割で最も活躍している人物である。