コーディネーター

日本大学松戸歯学部教授・衛生学
小林清吾先生

小林: 今の話をお聴きして皆さんも大体どこが問題かお分かりいただけたかと思います。 これはあくまでも、 瀧口課長からお話があったとおり、 地域選択の課題です。 地域の選択にはエビデンス、 科学的なデータがまず必要ですし、 そしてそれをどう受け止めて、 どう活かしていこうかという考え方が問題になります。 科学的データと政策的な知恵、 このふたつが組合わさらないと正しい選択はできないわけです。 この科学的なデータについて、 アンケート用紙に書いていただいた20ぐらいある質問の中にもそういったものがいくつか含まれております。 そこでまず、 事実認識に関することからとりあげていきたいと思います。 限られた時間しかありませんので、 足りないところは、 新聞などで解説するチャンスがあると思いますし、 村の広報でもできると思います。 それから、 村の方にだけなんですけども、 フロリデーション問答集という、 日本の予防の歯科の先生達が総力をあげて作った解説書があります。 この前の 『勉強会』 で出ました話題をさらに追加して、 現在123の問題に答えるよう整理しております。 こういったものも是非御参考にして頂きたいと思います。 それでは皆さんといくつかの課題をこのアンケートから拾ってみたいと思います。


例えば、 つぎのようなコメントがありました。

『去る2月22日、 ある新聞の記事で、 ヨーロッパではフロリデーションが退散、 廃止』 と書かれているのを読んでびっくりしたし、 私は (フロリデーションに) 大反対です。

 これも是非正しい情報を確認して頂きたいんですけれども、 ヨーロッパを含め世界中でフロリデーションを禁止している国は1ケ所もありません。 ただ、 ヨーロッパでは、 例えばスイスとかフランスとかそういったところでは、 地形の関係から、 上水道が上手く使えないということから、 食塩のフッ化物添加や、 あるいはタブレットや、 歯磨剤の利用などなどによりまして、 水道水の利用に代わるフッ化物応用法を行っております。 ヨーロッパを含めて、 国がフロリデーションを禁止している例はありません。 (参考:フロリデーション問答集 第3版、 質問124)


それから、 次のような質問もありました。

医師会の立場からの考えはどうなっていますか。 歯が健康でも五体不満足にならなければよいのですが。

 これは、 長崎大学医学部長の齋藤先生、 病院長の西平先生、 それから、 トムリーブス先生のお話の中で紹介されたように、 安全性については繰り返し繰り返し検討されてきたことがわかります。 それでも、 それらの情報の承知はなかなか難しい場合があります。 そのような場合、 敢えて何度でも、 理解してもらうチャンスをいろんな形で作っていくべきではないかと思います。 WHOを含め150をこえる世界の医学専門機関が、 安全性を認めた上でフロリデーションを推奨しています。


それからこれは是非シンポジストの方、 またはフロアの方からのご意見を頂きたいのですけれども、 この、 効果、 安全性が証明されたとしても、 もしそうならば、

なぜ、 久米島からなのか、 もっと歴史のある先進地から、 例えば、 新潟とか他のところとか、 なぜ久米島に先に話を持ってくるのか。 そんなこといっている大学の先生の地元でやってからいってくれ。

というような意見がありました。

 なぜ沖縄から、 なぜ久米島からというものは、 最初の喜屋武先生の話しにありました。 この件に関する情報として、 数日前ですけれども、 栃木県の西方町では、 すでにこの久米島に一歩リードする形で、 議会の中で特別委員会を設置して、 このフロリデーションを検討することが決定された、 という事例がございます。 中田先生、 よろしかったら現状を御紹介いただけたら、 ありがたいです。


中田嘉之先生: 栃木県の西方町の歯科医師をしております中田と申します。 私達の町では今議会でフロリデーションを審議しております。 一昨年の12月の議会にフロリデーションの請願を致しまして、 5回ほど、 議会では、 結論が出ないということで審議を続けておりました。 今度の3月議会が3月5日から始まるのですけれども、 そのための議員協議会というものが2月25日に行われました。 実は、 その前の2月22日に私達の町の医師会と歯科医師会と薬剤師会で三師会というものを構成しております。 その三師会で再度西方町の上水道のフッ素濃度適正化を求める請願書を提出致しました。

 三師会として全部の会員の署名、 捺印をもって議会にお願いにあたりました。 そうしましたら、 2月25日の議員運営委員会の方で、 まだ議会はこれからなんですけれども、 議会の中に議員全員でフロリデーションを検討するという特別委員会を設置しようということを決定致しました。 そういう流れなのです。 私の町は、 人口7千名の小さな町で、 30年前私が開業した時に、 歯科医院が1件しか無いような状態でした。 子供達の口の中もひどい状態で昭和51年からフッ素洗口を始めました。 26年間フッ化物洗口をやってきております。 むし歯は当時の5分の1に減りまして、 DMFTは、 私達の小学校の12歳児のDMFTは1.17になっております。 非常に減っておりますが、 やはり、 幼児から高齢者、 そして障害者、 全てにフッ化物の恩恵を与えるためには、 やはり、 水道水フッ化物濃度適正化が一番大切だと思いまして、 議会に申請しているところです。

小林先生: ありがとうございました。 次も、 中田先生の話とつながる質問と思います。


安全性は理解できたのだけれども、 歯のない、 いってみますと、 総入れ歯の老人の方々の場合になんの役にもたたないではないか。 そういうことを考えると、 無理矢理、 上水道のフッ化物応用というのは、 ちと、 納得いかない。

という質問がございました。

 このような問題につきましては、 社会的な観点からもう一回考え直してみる必要があると思います。 実際に皆さんも容易に予測できると思いますけれど、 歯というものは失くした時に一番、 その大切さを痛感致します。 歯の失くなった老人ほど、 「歯を失う悲しみはもう自分達でたくさんだ」 ということを訴えたいものです。 そういう気持ちを持つ御老人の方が当たり前なのであって、 「私は歯が失くなったんだから、 子供や孫や、 他人の健康なんて関係ない」と考えるような人がいるでしょうか?本当にそんなふうに思う人はいないと思います。 むしろ、 苦しみを、 悲しみを、 もう、 孫や子供や町の将来をになう人たちに与えたくない、 こういうのが普通の人間の考え方じゃないかと私は思うんですけれど、 いかがでしょうか。

次に、


ノーベル賞を受賞したある研究者がフッ素化に反対しているという事実をどう受け取めたらいいのか。

という質問がありました。

 私達も前に耳にしていた話題でしたので、 フロリデーション問答集 (40ページ質問95) でその内容を御紹介してあります。 ここでノーベル賞を受賞した方とは、 医学生理学賞を受賞したアービットカールソンです。 スウェーデンの方で2000年に受賞しました。 実は、 反対していたというのは、 25年くらい前の1970年代のことでした。 2000年にノーベル賞をもらったわけですけれども、 ノーベル賞をもらった今もアービットカールソンがフロリデーションに反対の具体的行動をとっているという情報はありません。 1970年代に、 アービットカールソンが反対していた理由として、 むし歯を予防する上でフッ化物を歯磨剤に利用したり、 局所利用によって効果があるとすれば水道を利用する必要はないのではないかということを言っておりました。 この意見は公衆衛生という立場を全く無視したものとして批判されていました。 そもそも、 ある研究者がノーベル賞をもらったとして、 その研究者が反対したからといって、 だからその意見に従うべき、 という必然性はないと私は思います。 例えば、 大リーグのMVPをもらったイチローが何か意見を言ったとします。 これは打者の部分でMVPをもらったわけでありますが、 投手の立場からも、 彼が十分な専門性が発揮できるかといえば、 必ずしもそうではないわけでしょう。 このアービットカールソン自身はフッ化物に関する専門家ではありませんし、公衆衛生学の専門家でもありません。 そういう意味で、 一人のある分野の専門家が反対したからといって、 結論を早まることできません。 また、 このノーベル賞受賞者の中に他にも12名の反対する人がいたと書いてあるのですけれども、 この12名の方は1929年から1963年までのノーベル賞受賞者でありまして、 すでに40年から70年も前の科学者でありまして、 彼等が何をいったかまったく明かされておりません。 そういうわけでありますので、 ノーベル賞受賞者というだけでは、 重みづけた情報にはなりません。 現に、 アメリカの国立医学研究所 (NIH) には、 すでに90名をこえるノーベル賞学者がいます。 このNIHがフロリデーションを推奨しています。 そもそも一部の学者の意見だけで結論を急ぐと結構間違ったところへいってしまう、 これは田辺先生のご指摘にも含まれていました。 私達は正しい情報をいかにして整理していくべきでしょうか。 ひとりひとりの見解は、 100いれば100ありますから、 これはやはり専門機関で十分検討した情報を優先して選んでいくべきではないかと思います。

 ここで追加しておきたいコメントがあります。 日本の口腔衛生学会、 中垣晴男理事長からこのシンポジウムの成功を祈るというメッセージをいただいております。

 そして今、 一番最初の村長さんのお話をふり返りたいと存じます。 健康を村の財産にしよう、 新しい文化をこの沖縄、 久米島から発信しようとの決意表明、 この前向きな姿勢に皆様も心を打たれたことと思います。 それから最後にもうひとつだけとりあげさせていただきたいことがあります。 日本のフロリデーション実現に向けて、 文字どうり全力を尽くし大きなインパクトを残された私たちの偉大な友人、 山下文夫先生のことです。 彼のことを思うと胸がつまります。 私はこの話をするのにはちょっと余裕がないのでどなたかに代わって頂きたいのですが。

中田俊一さん: 那覇市に在住しております、 中田と申します。 私は、 4年ほど前までは一生懸命フッ素について勉強したり、 多くのシンポジウムに参加してきました。 沖縄であるということで、 私はメッセージを送ろうと思いました。 後ろの方にはご覧になるとおり、 村長さんに千通のメッセージが来たということで、 それで終わろうと思ったのです。 しかし、 もう引退した人間でありますが、 どうしても言って声を出してみたいと言うことで、 沖縄県で初めて、 あるいは、 日本で初めて、 この水道水のフッ素化、 あるいはフロリデーションになるということに久米島の皆さんに激励をしたいと思います。 それはどういうことかと申しますと、 一つは、 昨年の5月に私の友人でありました、 都城の山下文夫という先生がアメリカにおいて表彰されまして、 アジア人として2人目でフッ素運動を進めた人に送られるアメリカ公衆歯科衛生学会 (AAPHO) 国際特別賞をもらいました。 それに私も同行致しました。 その時に、 久米島の話がアメリカ人の間で出たのです。 それで、 日本でもフロリデーションになりそうだという話が大会の中であったのです。 それで私は、 今日ここに御参加の御両親に写真を持ってきてくれと、 この山下文夫がどんなに世界でサポートされ、 そして私は1市民でありますけれども、 一緒になってがんばろうと、 それは沖縄県からだったらいいなという夢が今実現しようとしています。 是非、 久米島の皆さん、 それから、 全国の皆さん、 久米島を一番最初のフロリデーションのところにしてください。 よろしくお願い致します。

小林: ありがとうございました。 延長に、 延長を繰り返して、 もう50分も超えてしまいました。 まだご質問したい方いらっしゃると思いますが、 是非、 懇親会などでお話し合いを深めて頂きたいと思います。 シンポジストの喜屋武先生、 西平先生、 田辺先生、 喜久里先生、 ありがとうございました。 皆様、 拍手をお願い致します。