フッ素入り歯磨剤の現状


日本歯磨工業会 技術委員会     
委員長 氏家高志   

はじめに
 日本歯磨工業会は、国民の口腔衛生の普及・向上に寄与するとともに、健康産業として歯磨及び関連業界の発展を図ることを目的とした団体です。その目的を達成するために、行政官庁、関連業界、消費者団体等から必要な情報の入手等を行うと共に、歯磨剤に関する情報提供を行っています。たとえば、厚生労働省、文部科学省並びに日本歯科医師会及び都道府県歯科医師会などと共同して、国民的な行事となっている毎年6月4日から10日までの1週間の「歯の衛生週間」に、歯磨剤を通じての口腔衛生思想の普及・向上を図るキャンペーンを行っています。また、国際歯科連盟(FDI)、国際標準化機構(ISO)等の国際会議に積極的に参加し、「歯磨剤国際規格」の作成にも協力しています。

歯みがき行動について
 厚生労働省による平成11年の歯科疾患実態調査報告では、毎日歯をみがいている人の割合は、成人で96%以上、5〜19才でも94%以上の人が毎日歯をみがいています。特に5〜19才では、昭和38年の調査以降、年々その割合が顕著に増加しています。歯みがき行動の啓発、口腔疾患予防への意識の高まりを反映しているものと思われます。
 歯みがき回数の内訳は、2回以上みがく人の割合が年々増加しており、1回みがく人や、ときどきしかみがかない人の割合は減少しています。平成11年の調査によると、平均歯みがき回数は約1.8回です。
 また、厚生労働省による平成11年の歯科疾患実態調査報告では、19才以下の若年層ほど永久歯の有病者率が減少しています。これは、口腔保健指導の普及、1日の平均歯みがき回数の増加、フッ化物応用の拡大(例えばフッ化物配合歯磨剤使用率の増加)等が影響を及ぼしていると考えられます。
 一方、20才以上では減少が見られず、60才以上の高齢者層では増加傾向にあります。生涯にわたって健康な歯を保つためには、早い時期からの正しい歯みがきの指導とその実施が必要であるとともに、高齢者の積極的なう蝕予防も大切となってきております。

フッ化物配合歯磨剤について
 フッ化物の主な機能は「耐酸性の向上」と「再石灰化促進効果」です。「耐酸性の向上」は歯の成分であるハイドロキシアパタイトをフッ素化して、フルオリデーテッドハイドロキシアパタイトに変換して歯の耐酸性を向上させるものです。「再石灰化促進効果」は、う蝕病巣にあるウィットロカイト、ブルッシャイト、リン酸オクタカルシウムにリンやカルシウムを補給してハイドロキシアパタイトに変換させる効果です。
 多くの先進諸国において、過去30年間にう蝕の減少が認められています。そこで、「う蝕の減少に寄与が大きいと信じている項目」に関するアンケート調査が日本人の歯科専門家2名を含む世界の歯科専門家55名を対象に行われました。
 調査された25項目は、食事、フッ化物、歯垢、唾液、歯科医/歯科材料、他の因子に分類されました。これらの様々な可能性のある因子について、歯科専門家の評価はばらつきましたが、フッ化物配合歯磨剤の使用に関しては、
@調査した25項目の中で、フッ化物配合歯磨剤はう蝕の減少に関して効果があるという明確な意見の一致が得られた。
A歯科専門家の63%が、フッ化物配合歯磨剤はう蝕の減少にとって非常に重要と考えている。
という調査結果が得られたそうです。
 すべての国民が健やかで心豊に生活できる活力ある社会とするために、平成11年度に、厚生労働省により、健康増進、発病予防に重点をおいた政策を推進することで、健康寿命の延伸を図っていくことを趣旨とした「健康日本21」が策定されました。歯科領域においても、歯や口腔の健康を保つことが豊な人生を送るための基礎になるとして、歯の喪失防止に強く関与しているう蝕、歯周病予防の目標がライフステージごとに、設定されました。その目標達成を図る方法として、セルフケア能力の向上、歯科専門家による支援と定期管理等が示され、セルフケアの役割の重要性が提言されています。予防効果ある薬効成分(特に、フッ化物)のデリバリーシステムと考えた場合、歯磨剤は安価で手軽に利用できる口腔保健のセルフケア剤といえると思います。


講演者プロフィール 氏家 高志
  【略歴】
昭和24年    山形県生まれ
昭和49年3月  東海大学大学院卒業
昭和49年4月  ライオン歯磨株式会社(現ライオン梶j入社
平成10年4月  ライオン褐、究開発本部分析センター所長
平成14年4月  ライオン潟Iーラルケア事業本部オーラルケア研究所長
            日本歯磨工業会 技術委員会 委員長
財団法人8020推進財団評議員
財団法人8020推進財団ロゴマーク審査委員
日本歯科材料器械研究協議会 国際規格動向に関する調査研究委員会委員