マレーシアにおける上水道フッ素化プログラム

                        マレーシア・サワラク州保健課 歯科行政官

                        モハマッド・アブドラー

1.マレーシア

 マレーシアは赤道近く,北緯1〜7度,東経100〜119度の東南アジアに位置している。1957年に独立し,マレーシア半島(西マレーシア)とボルネオ島の一部であるサワラクおよびサバー地区(東マレーシア)の13州と2アメリカ領で構成されてる。北はタイ,南はインドネシアとの国境を有しており,総面積は332,600km2,気候は高温多湿で平均気温は21〜33℃である。人口は約2,100万人で,その半数近くが20歳未満,民族はマレー系および土着民が65%,中国系25%,インド系,ヨーロッパ系その他10%から構成されている。.

2.歯科医療およびむし歯の状況

 マレーシアでは歯科医療は個人開業と政府の双方から提供されている。人口あたり歯科医師数は1:15,095(1985年)で,歯科医療は都市部では個人開業医や病院歯科,地方では保健センター,学校内の歯科診療室,移動歯科診療チームによって提供されている。近年,先進国ではむし歯は減少しているが,マレーシアでも減少傾向にある。6歳児のむし歯経験歯数(dft)は1970/71年の6.3本から1997年の4.1本と27年間で34.9%減少している。12歳児では西マレーシアにおいて1970/71年の3.7本(DMFT)から1997年1.6本と56.8%減少した。マレーシア全体の平均DMFTは1997年で1.9本である。

3.マレーシアの歯科保健サービス

 歯科保健サービスは大きく分けると2つある.予防歯科プログラムと個人歯科医療プログラムである。予防歯科プログラムはさらに上水道フッ素化と歯科保健教育の2つの活動に区分されている。マレーシアの歯科保健対策の中で上水道フッ素化は非常に主要な部分として位置づけられている。

4.マレーシアでの上水道フッ素化

 マレーシアにおける上水道フッ素化は1957年にシンガポールで開始された。当時,シンガポールはマレーシアの一部であった。続いて,1957年ペナン州で開始された。私が担当している東マレーシアのサワラク州では1961年にスリ・アマン上水場で開始された。翌年にはセリアン上水場がフッ素化され,現在サワラク州全体で29ヶ所,州の人口の52.5%をカバーしている。1972年,マレーシア政府は上水道フッ素化をむし歯に対する一次予防プログラムとして承認し,上水道のフッ素濃度を適正なレベルである0.7pmにするように勧告している。これはマレーシア保健省,口腔保健課の一次予防プログラムの核になるものである。1994年から1998年にかけてフッ素化された水道水を供給する上水場は増加しつづけている。このように上水道フッ素化がどんどん広がっているのは政府の支援があるからである。フッ素添加浄水場は1985年までにマレーシア半島で77ヶ所,サワラク地区で15ヶ所,サバー地区で1ヶ所の合計93,1994年で170,1998年には253に達している。1996年で人口の62.6%,1997年で64.6%,1998年には66.8%,マレーシアの人口2,210万人中1,480万人がフッ素化の恩恵を受けていることになる。

 マレーシアでは様々な予防プログラムの結果として,乳歯,永久歯ともむし歯の発生率,経験数が減少しているが,その大きな要因は上水道フッ素化プログラムである