お断わり

富山県歯科医師会会報平成13年(2001年)1月号に掲載予定だった,部会だより(その2)は残念ながら、富山県歯科医師会五役会の判断で,掲載延期の憂き目を見ました。いつ,掲載されるか見とおしは,立っていません。

これに関するコメントは、今、控えます。いずれ機会を見てさせていただきます。

その1の続編としては,物足りませんが,一応非公式ながらHPに載せます。

 


≪未掲載原稿≫

部会だより(連載・全3回)

今,なぜ水道水フッ素化なのか!(その2) 小児・学校歯科保健部

前号で,水道水フッ素化を進める公衆衛生学上の理由や,富山県歯の健康プランの2次プラン作成にあたってのフッ素化の位置付けや県への要望について述べた。本号では、フッ素のごく最近の国際的な学問的位置付けと、昨年出され日本歯科医学会で了承されたフッ化物検討部会の答申の解説,さらには,前回役員会以後,マスコミでも報道された、急速に進展している厚生省の見解等について述べたい。

(各論)

1.フッ素とは(世界的共通認識されている事実)

@自然界のフッ素(基本知識)

自然界にフッ素は、あまねく存在し,石,土,水あるいは動植物で含まれぬものを探すのが難しい。天然に産するフッ素が多く含まれる鉱石は、氷晶石, 蛍石, 黒雲母, リン灰石、リン鉱石がある。地表水、地下水中には土壌などのフッ化物が水溶性なのでフッ素は存在する。地表水中のフッ素は0.050.2ppm程度である。海水のフッ素濃度は1.3ppmで、地表水よりも高いぐらいである。一般に、魚介類、海草に多く含まれる。また、椿科の植物には含有量が多く, お茶、紅茶にも0.21.0ppm程含まれる。

平成8 年度水道統計 水質編( 厚生省生活 衛生局水道環境部水道整備課) に報告されているように、日本全国の原水(5,253 ) および浄水の水質(5,391カ所) が厚生省により調査されている。日本の原水および浄水中フッ素濃度は, ほとんど( 原水4,7011カ所, 浄水4,812 カ所) 0.16ppm 以下を示している。わずかではあるが,0.81ppm以上を示した原水(27 カ所),浄水(3カ所) の報告もみられる。

Aフッ素の発見(歯科医の常識)

フッ素のむし歯予防効果は,20世紀になって発見された。米国コロラド州の歯科医マッケイは,住民の多くが歯にまだら模様を持っていて,中にはチョコレート色の歯のものもいることに気づいた。その後,ブラック博士の協力を得て,本格的に調査すると,飲み水に原因があるとわかり,さらに,その水を飲む人達にはむし歯が極端に少ないことも気づいたので,米国国立衛生研究所のディーン達と共同研究をした。米国各地の飲み水の「フッ素濃度」と「斑状歯」・「むし歯」の調査を丹念にした結果、彼らは外見上,問題ともなる斑状歯が発生せず,しかも,最大のむし歯予防効果をあげる濃度(1ppmを発見した。

1945年1月、ミシガン州グランド・ラピッズで,世界最初の水道水フッ素化事業が開始されました。以来、世界中の多くの学者による膨大な研究から,むし歯予防のためのフッ素の役割や,安全性や効果が明らかになってきた。WHOは,各国に水道水フッ素化を含めたフッ化物の推進を1969年以来3度も勧告し,現在では56カ国が実施されるまでになった。

Bフッ素の予防効果(最近の学問的考え方)

フッ素の予防効果については,歯質の強化などがあげられている。最近の考え方の中心は、脱灰と再石灰化という現象が我々の口腔内で起こっている事は周知の事実であるが、フッ素が化学的触媒として重要な役割を果たしていることである。常時口腔内に,フッ素イオンが存在することで,歯の表面の歯質を保護し,修復する唾液の働きを増強する。

フッ素の主たる役割は,脱灰を抑制し、再石灰化作用の促進に寄与することである。普通フッ素が摂取されると,エナメル質表面の歯垢中に,カルシウム=フッ素沈殿物として貯蔵される。飲食でpHが下がると,歯垢中のフッ素が溶出してきて,脱灰を抑制し,唾液の再石灰化作用を促進してむし歯の進行を防ぐのである。

Cハロー効果(フッ素の副次的波及効果)

フッ素の効果を考える時に,忘れては行けないことがある。一般的にむし歯予防の効果は水道水フッ素化やフッ素塗布やフッ素洗口,フッ素入り歯磨剤など複雑に組み合わさって表れる。しかしながら,本当の効果は純然たる未実施地区がはじめたデータが基礎になる。

最近のアメリカでは,水道水のフッ素化の効果は以前ほど高い数値ではない。それは,周りに多くの実施地区があり,そこからの影響が多いからである。すなわち,未実施地区といえども,実施地区で作った飲食物が多く流入し,その住民もフッ素を摂取しているからである。知らず知らずの内にその恩恵の1を受け取っているのである。この波及効果をハロー効果という。

2.日本歯科医学会フッ化物検討部会の答申(抜粋)

 (要点)この部会は、齲蝕予防を目的としたフッ化物の応用は、わが国における地域口腔保健向上への極めて重要な課題であることをあらためて確認した。また、その膨大な研究情報を基にその有効性と安全性が確認された。こうした状況に鑑み、日本歯科医学会に対し、以下の2点の推奨を結論とする最終答申を提出することになった。すなわち、@国民の口腔保健向上のためフッ化物の応用を推奨すること、Aわが国におけるフッ化物の適正摂取量を確定するための研究の推進を奨励すること、である。新たな世紀を迎えるにあたって、本フッ化物検討部会は、わが国における今後の重要な課題として、Evidence-Based Medicine および Evidence-Based Oral Health Care に基づいたフッ化物応用の推進を提言する。『本答申がこうした問題提起の第1歩となり、口腔保健医療専門職のフッ化物応用の推進に対する合意の形成と確立を図り、フッ化物応用による口腔保健の達成を現実のものとし、ひろく国民の健康の保持増進に貢献できることを期待する。』 

 (今後の課題) わが国においては、齲蝕予防のためのフッ化物応用について、これまで歯科医学界を含め国民の間で、専門学会や国際的な情報の伝達が不十分で理解を得られるに至っていない。口腔保健医療専門職はフッ化物応用に対して常に最新の正確な知識を基に、それらを地域および学校保健関係者などに伝達するとともに、密接な連絡を保ち、齲蝕予防におけるフッ化物の応用について積極的なイニシアチブをとることが求められている。
 今日では、フッ化物の応用は、個人レベルのみならず、公衆衛生的な見地から、集団あるいは地域レベルにおける齲蝕予防法として、その有効性と安全性が確認され、世界各国において実施されている。公衆衛生的応用法として水道水フッ化物添加をはじめ学校などで行われるフッ化物洗口等があるが、こうした各種の公衆衛生的なフッ化物応用法の普及は、わが国において今後の地域口腔保健向上への重要な課題である。そのためには、わが国における歯科臨床の場でフッ化物応用により齲蝕の発生を効果的に抑制するための健康保険制度の改善や、学校保健にフッ化物洗口を導入するための学校保健法の充実など、今後一層の法規の改正を含めた総括的な調査・研究と、その推進のための活動が望まれる。また、行政においてはフッ化物応用の実施状況のモニタリングや一般住民の理解を得るための教育や広範な広報活動が不可欠である。研究機関においてもこれらに関連する環境整備についての調査と継続的研究が必要とされる。


3.ごく最近のニュースと厚生省の考え方(
20001210日現在)

日進月歩とはこのことだろうか。前回の会報(11月号)投稿時点では、思いもよらないニュースが飛びこんできた。115日,むし歯予防全国大会が東京駒場で外国の著明な専門家を多数招いて開催され,全国から「水道水フッ素化間近」と、大勢がタイムリーな話題に参集した。そのすぐ後、1117日、衆議院厚生委員会で,「水道水フッ素化」の質疑が出て,翌日の朝日新聞や読売新聞の記事になった。

朝日新聞2000.11.18虫歯予防 水道水へのフッ素添加を容認 厚生省方針 住民合意を条件に(抜粋) ≪記事中、事実誤認部分と、客観性に問題ある部分(筆者指摘)≫ 

フッ素(フッ化物)が歯の表面を強くして虫歯を予防する効果があるとして厚生省は17日までに、水道水へのフッ素添加を容認する方針を決め、関係自治体などに伝えた。地元住民の合意を条件とし、水道水質基準の範囲内での添加に限定する。厚生省は……慎重な態度をとってきた。歯科界でも長く安全性をめぐって意見が戦わされてきたなか、「容認」に転じたことは、虫歯予防や安全性などを巡って議論が起こりそうだ。今夏、水道水にフッ素を添加したいとする沖縄県内の村の要望を受けた厚生省が、検討を進めていた。フッ素は……米国では1945年から…水道に添加…1ppmほどでは虫歯予防に効く…米国市民の6割がフッ素入りの水道水を飲むなど38カ国で添加されているという。日本でも、日本歯科医学会は昨年末「虫歯予防のためにフッ素利用を推奨する」との見解をまとめた。世界保健機関(WHO)は69年、水道水へのフッ素添加などフッ素利用の推進を決議し、日本政府も賛同している。……一方で2ppm以上を長期間飲んだ場合は歯の表面にしみができる斑状歯、8ppm以上で骨に異常がでる骨硬化症がみられるという。 兵庫県宝塚市では71年、この斑状歯が問題化…水源…に水質基準を上回るフッ素が含まれていたためと分かり、同市が治療費を負担…さらに、「審美眼上の問題が残った」とする損害賠償訴訟まで起きた。歯科医師の中には根強い有害論を唱える人もいる。発がん性の疑いなど健康への影響を心配する市民団体の動きもある。これを受けて厚生省は、一律供給する水道水について態度表明を見送っていた。現在、フッ素の水質基準は0.8ppmで、これまで基準以下での健康被害の報告はないという。

売新聞夕刊2000.11.18 虫歯予防「水道水にフッ素」支援 厚生省 自治体要請あれば

(記事)虫歯予防に効果があるとされている水道水へのフッ素添加で、厚生省は17日、自治体からの要請があれば技術面で支援していくことを初めて明らかにした。同日開かれた衆院厚生委員会で福島豊政務次官が、武山百合子議員(自由党)の質問に対して答えた。同省は水道に添加したフッ素濃度を一定に保つための技術や、適切な濃度についての検討で支援していく。水道事業は各自治体に任されているため、水道法で定める濃度内であれば自治体の判断でフッ素添加が可能で、すでに沖縄県具志川村など複数の自治体が検討を始めている。水道水のフッ素化はすでに世界56カ国が実施。虫歯が激減するなどの効果をあげていることから、世界保健機関(WHO)は、1969年以来、日本を含めた加盟国に水道水フッ素化の検討を勧告している。国内でもフッ素添加への国の支援を求める声が研究者から出ていた。

これらのニュースに対して,全国から厚生省に問い合わせが相次いだ。なぜなら,厚生省がフッ素化を容認して,各自治体に伝えたと朝日新聞が書いたためであるが,事実確認の電話に厚生省水道環境部は、「そんなことを認可した覚えはない」と,答えたため事態は混乱した。

こうなったのには,大きい2つの理由がある。1つは,朝日新聞の悪しき体質である。それは,読売と朝日の記事を比べるに,大きな違いがある。それは、記事中2重下線部分でわかるが、いかにも反対派の肩を持ち,世論を煽り、「水道水フッ素化」を反対してつぶそうかと考えている点である。なぜなら、この記事のすぐ後に、高橋某らが開いた反対派の集会を記事にしているからである。恐らくは,事前に反対派の情報を持っていて、たまたま、国会の質疑に重なってあのような記事を書いたと考えられる。また、記事中の事実誤認部分「各自治体に伝えた」とは,反対派からうその情報を握らされて,週刊誌のような記事にしたものであろう。そうでなければ,あの大新聞(?)が,こんなうそを書くはずがない。

もう1つは,厚生省内部の問題である。8月に,水道環境部水道水質管理室が、水質基準0.8ppm以下ならば「水道水フッ素化」は「歯科保健行政の範疇」ということで、「歯科保健課の仕事」と,合意が出来たばかりであった。ところが,まだ,日が浅く省内に徹底できていなかった。こんな時に突然,衆議院厚生委員会の質疑があったものだから対応が遅れた。

4.今後は日本歯科医師会の見解待ちか?

しかし,もうすでに省内の意志統一は出来たと,厚生省の滝口徹歯科保健課長は、126日時点で、秋元秀俊医療ジャーナリストとの対談で述べている。厚生省の滝口課長は,やる気である。日本歯科医師会の地域保健委員会の問いかけに、厚生省健康政策局歯科保健課は、「自治体からの技術支援の要請があれば,水道事業者,水道利用者,地元歯科医師会等の理解を前提に厚生科学研究の成果を活用する等により歯科保健行政の一環として応じてまいりたい」と回答している。また、与党自民党内に、フッ素推進の議員団の結成のニュースも入っている。

さて、これを受けて,専門団体である日本歯科医師会はどう動くかが注目される。国民のために1歩踏み出す時が来ている。日歯執行部は決断すべきである。

(次号・その3:最終編に続く。引用文献,索引は,次回まとめて。山本武夫)

(予告)最終号では,最新の情報を交え、もう1度,「今,なぜ水道水フッ素化か?」を掘り下げて、他県で活躍中の諸氏の素晴らしい意見を引用させてもらい、完結したい。会員諸氏,請うご期待!