日本歯科医師会雑誌 8月号 p.56 「BOOKS」欄

「だれにでもできる 小さな努力で 確かな効果」(砂書房)が紹介される


『だれにでもできる 小さな努力で 確かな効果  〜う蝕予防とフッ化物の応用〜』
 著者:田浦勝彦、木本一成、磯崎篤則、田口千恵子、小林清吾
 発行:砂書房 (TEL 03-3814-6251)
 定価:3,300円

  フッ素の理解に最適な一冊
 フッ素に関する話題がにわかに多くなってきたが、実はフッ素のことが私はよく分からないので、もう少し詳しく知りたいと思っていた。そう思っておられる方が結構多いことに気づかされ、私は安心した。そういう方に向けて最適な本をご紹介したい。
 最近、水道水へのフッ素導入が認可されて、一挙にフッ素の話題が多くなった。歯磨剤へのフッ素含有、歯科医院での歯面清掃剤のフッ化物応用、含嗽剤にフッ素含有、などの話題が多くなった。一方では、う蝕予防としてのフッ素の役割が叫ばれてきた。しかし長い間、フッ素の水道水応用に対して、安全性の面から反対の意見もあった。患者さんからの素朴な質問に対して、明確に答えられるようになりたいものだと思っていた。
 フッ素の安全性、う蝕予防効果、に回答を与える目的で書かれた本がこの本である。5章から構成され、1章は「予防とヘルスプロモーション」、2章は「フッ化物とう蝕予防」、3章は「フッ化物応用の必要性と安全性」、4章は「フッ化物によるう蝕予防の実際」、5章は「フッ化物応用とう蝕予防のQ&A」である。2章と3章が中心である。
 2章の目次は、う蝕発生のメカニズム、脱灰の過程、再石灰化の過程、フッ化物のはたらきー脱灰の抑制と再石灰化の促進、となっていて、興味をそそられる内容である。
 3章の目次は、人は常にフッ化物を吸収・排泄している、フッ化物応用の適量と安全性、世界のフッ化物応用の現状、日本のフッ化物応用の現状、と挙げられていて、これも読みたくなる内容である。
 全体がイラスト中心で、グラフや表や写真を多用して、理解しやすく編集されている。Q&Aの章は活字だけとなっているが、このQ&Aも大変良くできている。いくつかの例を挙げると、「フッ化物溶液を誤って飲んだ場合の対策は?」、「フッ化物洗口法で斑状歯が発生しますか?」、「今まで日本ではなぜ水道水にフッ素応用が行われなかったのですか?」など、患者さんから受ける質問の多いものの代表例が選ばれていて、適切な回答が用意されている。
 待合室に置いておくのもよいと思う。
 「う蝕発生のメカニズム」の解説は圧巻である。分かりやすいイラストで、脱灰と再石灰化の過程を、食生活習慣や唾液のフッ化物との関連を含めてステファンカーブで解説してくれている。大きなグラフとイラストなので、患者さんに見せながら説明するのにも使える。
 この本を読むことで、フッ素に関する正しい知識を持つことができ、フッ素を知らないことによる反発はなくなる。患者さんからの質問や不安に対して、適切に答えることへの一助になるであろう。(会誌編集委員・黒田昌彦)