DENTAL TODAY 6月15日号 学術forum欄

韓国鎮海市と慶州市水道水フッ素濃度適正化施設を見学して

                   山本武夫(富山県あゆの会代表)

 日本と目と鼻の間の韓国において、国レベルで水道水フッ素濃度適正化が進んでいます。「百聞は一見に如かず」。2001419日〜21日の2泊3日で、釜山周辺都市の水道水フッ素濃度適正化施設の見学に出かけました。総勢12名、歯科医師4名、行政関係3名と医師、大学研究生、議員、水道業者、報道関係者各1名でした。2ヵ所の施設見学と懇談懇親会の状況を報告し,若干の感想を述べたいと思います。

1.韓国の実地見学に行こう

 1999年11月、日本歯科医学会フッ化物検討部会の答申が了承され、むし歯予防にフッ化物の推進が欠かせぬという認識が広まりました。2000年11月以降、厚生労働省と日本歯科医師会は、水道水へのフッ化物濃度適正化を、水質基準0.8ppm以下の条件で、県や地元歯科医師会の支持を得て住民の合意が得られれば技術的支援を行うという見解を出しました。このような環境の中で、韓国の水道水フッ素濃度適正化施設の見学となりました。

2.鎮海市上水道管理事業所

 初日、私たちは福岡より釜山に向かい案内役の金鎮範教授の歓迎を受けました。空港から約1時間、入り江の地形を利した韓国海軍基地のある鎮海市石洞浄水場の上水道管理事業所を訪問しました。鎮海市は1981年に韓国初の水道水フッ素濃度適正化都市です。粉末フッ素投入方式(フッ化ナトリウム)で、鎮海市(人口約30)の約6割にあたる約17万人が給水を受けています。フッ化ナトリウムの袋(125kg)には日本国大阪・小野田化学という会社の名前が印字されていました。濃度適正化装置には砂時計形式で一定量のフッ化ナトリウムが移送されて攪拌溶解され、4%のフッ化ナトリウムの飽和溶液が作られます。その飽和溶液を浄水処理された水に流水量に応じて一定量注入する方式となっていました。その注入されて浄水池に入った状態でモニタリングがなされ、浄水中のフッ素濃度が自動的に計測されています。鎮海のフッ素濃度は0.8ppm±0.1ppmにコントロールされています(なお韓国の飲料水フッ素イオン濃度許容範囲の上限は1.5ppmです)

3.健康歯牙連帯及び韓国KIWON社との懇談懇親会

 19日夜、金鎮範教授のお世話で、健康歯牙連帯メンバーとの懇親会の運びとなりました。「健康歯牙連帯」は、釜山広域市(人口約400)の水道水フッ素濃度適正化と障害者の歯の健康増進を目的で結成した釜山広域市の52の市民社会団体のネットワーク組織です。昨年67日に結成され、10万人の署名を目指し、市民広報キャンペーンを行っています。

 発足以降、市民のむし歯予防として一番効果的な水道水フッ素濃度適正化事業の早期実施と種々の口腔保健政策の立案のための懇談会を提言しています。その背景には,韓国でも治療中心の歯科医療の結果,治療費用が急増していること,さらに,市民が主体的に現行の治療中心の政策を予防中心の政策に変えていくための新しい形態の市民運動と保健医療運動の必要性が生じたことであります。懇談会で健康歯牙連帯の活動の内容(ポスター、チラシ、パンフや、街頭キャンペーンのチョッキなどの紹介)が紹介されました。健康歯牙連帯の中心団体の、健康社会の為の歯科医師会釜山地区代表者からは、水道水フッ素濃度適正化のために日本に協力したいこと、また日本で水道水フッ素濃度適正化の暁には訪問したいと激励の挨拶がありました。韓国の口腔保健運動が市民をまきこんだ形態で力強く躍動している姿を実感しました。

 懇親会後、韓国KIWON者の3名の担当者と、今回同行した()ミヤシゲテクノの石名田氏との技術関係の懇談会が行われ、今後双方が連絡を取り合って、技術指導や意見交換を行うことで合意しました。

4.慶州上水道管理事務所

 翌20日、二千年の歴史が生きている新羅(しらぎ)の古都、慶州(Kyongju)市の上水道管理事務所を訪問しました。慶州市は人口約20万の都市で、3ヵ所の浄水場があり、その内2ヵ所が水道水フッ素濃度適正化を実施しており、約14万人がその恩恵を受けています。慶州では、経済的な液状フッ素投入方式を採用しています。材料は、液体のフッ化珪素酸(水に無限に溶解)を用います。精製工場から40%の濃度のものが運ばれ、浄水場の屋上にある2基のタンクに貯蔵され、階下にある適正化装置で浄化された水の流水量に併せて調整されます。

 慶州の浄水場見学後、慶州の老舗のレストランで、金美京慶州市保健所長から昼食の歓待を受けました。金所長は、女性医師で、たいへん口腔保健にもしっかりした考えをもっておられました。慶州市の水道水フッ素濃度適正化について、導入のきっかけについて尋ねると、保健所関連会議の委員の歯科医が、大変熱心であった事を上げられました。口腔保健専門家としての歯科医の活躍がここにもありました。

5.まとめ

 かって韓国は「近くて遠い国」というイメージがありましたが、今回の釜山周辺浄水場視察では、彼らの歯科保健への先進的な取り組みを身近に感じ、今後のわが国の水道水へのフッ素濃度適正化について多面的に考えることが出来ました。国の姿勢、法的整備、大学教育、開業歯科医の意識、市民運動、水道技術などあらゆる角度から、韓国側との懇親会や意見交換などで、幅広い交流が出来ました。特に、水道技術者としての石名田さんの質問や意見は明日の日本の水道水フッ素濃度適正化の道を技術面から切り開いてもらえるものと思います。ジャーナリストとして参加された黒島さんは、早速430日の四国新聞に「水道水にフッ素・先進地韓国を訪ねて 虫歯追放へ官学一体 ”治療より予防”が定着」という記事を執筆されました。1997年に通貨危機に陥った韓国ですが、官民の目指す口腔保健医療は治療でなく,予防中心であります。公衆衛生的むし歯予防策である水道水フッ素濃度適正化の拡大こそ,その要件を満たすものであると考えられています。2000年に口腔保健法の立法化の整備も行われる一方、そのすすめ方はトップダウン方式とは言えず、市民運動のうねりも合わさったものであることを実感しました。

 日本でもフッ素濃度適正化の実現に向けて、基盤整備を行うことが重要でしょう。さらに大事なことは、今まさにやる気のある自治体の水道水フッ素濃度適正化の具現化に向けて,各層の意志決定者がきちんとした行動をとることであろうと感じました。

この記事には、いろんな方のご援助をいただきました。拙い原稿の校正をして頂きました、今回の韓国視察の団長役の、東北大学歯学部予防歯科講師の田浦勝彦先生、そして、まとまりのない文章を載せていただきました、DENTAL TODAY編集部の奥村さん、有難う御座いました。この場を借りて、御礼申し上げます。

皆さん、是非素晴らしい歯科情報紙、DENTAL TODAYを周りに広めましょう。

発行所:医学情報社 〒113-0033 東京都文京区本郷1-4-6 TEL 03-5684-6811 FAX 03-5684-6812

是非、歯科界の多くの読者に、むし歯予防鎖国日本の現状を知っていただき、一刻も早く、責任ある立場の人間は、国民の口腔保健を担う専門団体のとり得る行動を、将来の「歯科医師会の不作為」を指摘される前に、起こさないと行けないことを認識して欲しいものであります。(山本武夫)

この記事の感想は山本まで。メール・アドレス info@f-take.com