『 DENTAL TODAY 』 No.18 2000年12月15日号

医学情報社(奥村勝編集長)の学術情報誌.『 DENTAL TODAY 』  No.18 平成2000年12月15日号の第24回むし歯予防全国大会シンポジウムの内容について詳細にお知らせします。

 

シンポジウム参加者

・座長 馬場錬成氏

・米国 トム.リーブス先生 米国立防疫センター 水道水フッ素化技師長

    ・米国 アリス.ホロビッツ先生 米国立衛生研究所 上席研究官

    ・米国 ハーシェル.ホロビッツ先生 公衆衛生コンサルタント

    ・韓国 金鐘培先生 ソウル大学歯学部予防歯科教授

    ・マレーシア モハマド.アブドラ先生 歯科公衆衛生専門官

    ・梶浦靖二 島根県健康福祉部

    ・古宮とし男 東京都町田市市議会議員

    ・小原博人 毎日新聞編集委員

    ・境脩  福岡歯科大学教授

    ・小林清吾 日本大学教授

 

 シンポジウム内容

 

◇内々の議論では限界

馬場錬成座長

「日本ではまだ水道水フッ素化はされていませんが、マスコミの立場でいかがですか。」

毎日新聞小原編集委員

「フッ素は適量であればむし歯予防に効果がある、ということを『むし歯とキッパリ別れる本』で読みました。それから考えを方向転換したのです。今では″むし歯予防にはフッ素″というのは、私の座右の銘になっています。ただこのように思っている新聞記者は非常に少ないということです。なぜ、厚生省や日本歯科医師会が水道水フッ素化を進めないのか、というところを先生方から具体的な材料を出すと共に、マスコミに提供して欲しいのです。内々の議論だけでは道を切り拓くことはできないと思います。」

馬場錬成座長

「アブドラー先生には、マレーシアでの水道水フッ素化の話しをしていただき、日本に対してのアドバイスをお願いしたいと思います。」

アブドラー

「水道水フッ素化は、むし歯予報として、政府がプライオリティを一番において行っています。日本は経済、工業、技術においてはリーダー的存在でありますので、早い時期に水道水フッ素化が実現されますことを望んでおります。」

馬場錬成座長

「『健康日本21』という立派なタイトルを掲げて、日本人の健康にどのような目標を掲げればいいのか、という厚生省の医療目標があるのですが、この中にむし歯の予防として、どのようなことが盛り込まれているのか、梶浦先生いかがですか。」

◇「健康日本21」の限界

梶浦

「『健康日本21』を読みましたが明確に覚えていません。なぜか、といいますが、『健康日本21』の島根版を1年速く作りましたので、関心が薄れてしまったので・・・  歯磨きと回数を増やす、甘味摂取の頻度を控える、フッ素についても書いていたようですが、フッ素入りの歯磨き剤の両者の割合を増やす、ということだと思います。」

会場

「『健康日本21』を読んで愕然としました。パブリックケアの点が全くないということです。つまり、セルフケアとプロフェツショナルケアについてはフッ素もちゃんと書いてあります。ところが、たいへん重要なパブリックケアの観点からの記述が全くないということです。例えば学校においてフッ素洗口とか、水道水フッ素化のすの字もありませんでした。」

馬場錬成座長

「公衆衛生の視点からの対策が何もないということですね。米国の行政にいるハーシェル・ホロビッツ氏に日本の施策である『健康日本21』についてコメントをいただきたいと思います。」

◇マスコミの人に期待

ハーシェル・ホロビッツ

「過去数年間似ほんの施策について聞いてきましたが、非常に理解が困難です。その例として″80歳で20本歯を残す″というプログラムがあります。それはある意味で、意味のないことだと思います。これは、″80歳で健康な歯を20本歯を残す″ということではなくて、ただ″20本歯を残す″ということです。こうした中で今回マスコミの人も興味を持っていただいて、この水道水フッ素化という運動に関わっていきたいと表明したことをたいへんうれしく思います。」

馬場錬成座長

「そのためには、各水道施設に適切なフッ素量を添加する装置が必要です。添加装置について経費がどのくらいかかるのか、トム・リーブスさんいかがですか。」

トム・リーブス

「コストそのものは機械によって異なるのです。強調しておきたいのは人数が多くなればその分コストが高くなりますが、人頭割りのコストは安くなります。また、長期間運営していくことでコストも安くなります。日本で最初に行うときには高価なものでなくてもいいですから、安全性を含めて、地域にあわせて選択して欲しい。このときに技術者の教育が大切です。5000人の町であれば、50万円程度のコストです。これは米国の平均的な数字です。それにモニターを設置すればコストもアップしてきます。」

馬場錬成座長

「古宮先生から言い足りないことがあればどうぞ。」

古宮

「今日の大会は半年前から準備していたはずです。集まっても50から60人程度かなと思ったが、これだけの人が集まったのです。これほど大事なことを議論するのに、テレビ・新聞の席がないのです。はっきり言ってPRが下手です。」

馬場錬成座長

「この会場にいる読売新聞の記者の意見を聞きたいと思います。」

◇記者として正しい情報提供を

会場

「日本の常識と世界の常識がこんなに違うことが、まだあったのかというのが素直な気持ちです。先日も厚生省に取材に行きましたが、かなり厚生省の態度も従来と変わってきているようです。このような状況下で水道水フッ素化に注目していくと共に、節目節目で正しい情報を伝えたいと思います。」

 

◇大学教育の問題

境教授

「水道水フッ素化が一番ということなのですが、すぐにできないからフッ素洗口を勧めてきたのです。水道水フッ素化が当然だと思っていますから、逆にいえば水道水フッ素化が安全性で怪しくてできないというなら、局所応用もできません。すへ手の局所応用は水道水フッ素化の安全性を根拠にして論じられています。馬場氏の書いた文章に、″水道水フッ素化が進まない理由として、日本歯科医師医、厚生省、大学が一生懸命しないから″としています。特に、″歯学部の大学の教授が自分の研究分野以外は関心を示さない″とかいております。私も大学人ですが正にそのとおりだと思います。日本で水道水フッ素化が進まないのは、根本的には大学の教育に問題があったからだと思わざるを得ません。昨年、日本歯科医学会で、″フッ素への見解″を出しました。ただ、残念なことに最初から局所応用を謳っているのです。まとめとして、″局所応用を進める、ただし全身応用については研究を進める″としています。一方、口腔衛生学会では水道水フッ素化を学会として進めるという文章を執行部に出して、次の常任委員会で検討されます。日本歯科医学会の見解が出たあと、すぐに、厚生省は厚生科学研究費として6000万円を用意しました。各自治体から、水道水フッ素化の希望が出たとき対応できるよう話が進んでいます。」

馬場錬成座長

「有難うございました。韓国の金先生がコメントを述べます。」 

◇水道水フッ素化実現に期待

「官僚にしてもマスコミにしても、専門化の勉強が足りない。私は、30年来、開業医、公衆衛生の歯科医師を教育する形で予防歯科、公衆衛生を通じてコントロールしてきたが、1次予防をすることで国民の長寿に大きく貢献します。」 

◇歯科医師は不要か

小林教授

「沖縄県の水道水フッ素化については、厚生省が本腰を入れて取り組んでいます。サポートには、トム・リーブス氏が全面的に協力するそうです。」

◇公衆衛生には具体的政策が伴う

境教授

「フッ素塗布というのは、個人の歯科医院で希望者に対してするものと決めていいのではないか。フッ素洗口は、小学校、保育園などというところで、希望者に集団で行い、いずれは水道水フッ素化に移行していくのが正しい道だと思います。私たちが考える公衆衛生は施策が具体的でしっかりしたものではなくてはダメなのです。水道水フッ素化をすれば他の方法はいらないかというと、そんなことはありません。個人によってはう蝕に強い子、弱い子がいます。その対応が必要です。」

 

アリス・ホロゴッツ

「米国では歯科医師は人気がある職業で、収入は医師よりも多いほどです。歯科医師の仕事はまだまだ他にあり必要です。したがって歯科医師・歯科衛生士が必要なのです。」

◇能動的な対応が必要

馬場錬成座長

「有難うございました。最後に一言感想を申し上げます。各国同様ですが、当事者になっている方々が、非常に努力されているのがよく分かりました。特に米国では、人口の60%以上の人がフッ素化された水道水を供給されているのにもかかわらず、″正しい知識を普及する″、″反対派の人たちを説得する″、といったことに特段の努力を行っているのを感じます。そのような諸外国の現状分析を国民として学んで、冒頭私が、歯科医師会・厚生省・マスコミの許しがたい後ろ向きの姿勢・取り組みに対して発言しましたが、もう他人を非難してあげつらうことには別れを告げ、今後私たちは能動的に歯の健康・体の健康に役立つことに取り組んでいかなければなりません。そのために、行政関係者とも肩を組んでいかなければなりません。これを糧にしてシンポジウムを終了させていただきます。」