デンタルタイムズ21 平成16年7月15日号

デンタルタイムズ21 平成16年7月15日号 8頁

NPO法人日本むし歯予防フッ素推進会議   第28回むし歯予防全国大会 〜温故知新〜

 国と地域における口腔保健政策としてフッ化物の利用の優先を  

 第28回むし歯予防全国大会が7月3日(土)特定非営利活動法人日本むし歯予防フッ素推進会議(以下、NPO法人日F会議)主催、佐賀県歯科医師会、佐賀県共催により佐賀県唐津市の唐津シーサイドホテルで開催された。紺碧の玄海、虹の松原の風光明媚な唐津市に約400名が参集し、「温故知新(古い事柄も新しい物事もよく知っていて初めて人の師となるにふさわしい:論語{為政})をテーマに、むし歯予防に利用されるフッ化物の過去・現在を総括し、未来を展望した。【今回は、NPO法人日F会議理事で東北大学講師の田浦勝彦氏による大会リポートを紹介する】

 午前中は、地元の幼児と保護者がウルトラマンとともに、クイズとショーを介して歯の健康づくりを楽しく学びました。
 午後の冒頭、本大会会長の寺尾隆治佐賀県歯科医師会会長は「歯科医療が少しづつ予防にシフトしつつある中、フッ化物の応用は大きな役割を担っている」と挨拶し、主催者の境 脩NPO法人日F会議会長は「歯の喪失防止に確実につながるう蝕予防方策として、フッ化物の公衆衛生的応用は欠かすことのできない社会的施策として国際的にも広く認識され、長年にわたり実施されてきた歴史があります。学校等で行うフッ化物洗口や水道水フッ化物濃度適正化等、集団や地域を基盤とした公衆衛生対策がその要となる。」と述べました。唐津市坂井俊之市長と日本口腔衛生学会の中垣晴男理事長から御祝辞をいただきました。

【高江洲義矩東歯大名誉教授が基調講演】フッ素からフッ化物へ〜その歴史の始まり〜

 次いで高江洲義矩東京歯科大学名誉教授が「フッ素からフッ化物へ −その歴史の始まり−」と題して、基調講演を行いました。フッ素(フロ−リン)という元素に始まり、むし歯予防に利用される無機のフッ素はフッ化物であることの解説がありました。主題である生命科学の幕開けにおけるフッ化物応用と保健生態学におけるフッ化物応用の項目にわけて解説されました。
 1世紀以上前に、むし歯予防に用いられるフッ化物の幕開けは、斑状歯発生(歯のフッ素症)が飲料水中のフッ化物イオンによることが究明され、さらに驚くことに、当該地区住民にむし歯(う蝕)がきわめて少ないことが注目されました。1940年前半に、ディーンはう蝕予防に有効な飲料水中のフッ化物イオン濃度1ppmを決定します。これと並行して、栄養素としてのフッ化物とフッ化物の代謝メカニズムの研究も進展しました。ここ半世紀以上にわたり、フッ化物がむし歯の発生を抑制している科学的な証拠が次々と報告され、地域の保健政策に位置づけられて、WHOによる勧告も相俟ってフッ化物応用の時代を迎えています。
 また、
今後のフッ化物応用では、栄養素としてのフッ化物、ミネラル成分としてのフッ化物の認識が重要であると指摘されました。さらに、口腔保健におけるフッ化物応用では、国家的・地域的な保健政策に位置づけることが優先されなければならないとまとめられました。

【シンポジウム「フッ素の現在と未来」】

 後半のシンポジウムのテーマはフッ素の現在と未来で、小川内充
佐賀県歯科医師会理事と中村清徳NPO法人日F会議理事を座長に進行しました。晴佐久悟福岡歯科大学口腔保健学講座助手はNPO法人日F会議が隔年で実施する集団フッ素洗口の全国調査について報告しました(図)。

. わが国の集団フッ化物洗口の実施人数と施設数の推移

 本年3月末の最新調査で約40万人、約4千施設と飛躍的に拡大したものの、都道府県間に格差が認められたので格差是正すればすべての子どもの歯の健康づくりに寄与し、歯の健康寿命の延伸とQOLの向上につながると発表しました。
 
日本歯磨工業会の氏家高志技術委員長は、フッ素入り歯みがき剤の機能性とその科学について発表し、平成15年度のフッ素配合歯磨剤の市場占有率は87%まで上昇しており、むし歯予防効果のある歯磨剤中のフッ化物の有効利用をすすめるべきであると結びました。 岩瀬達雄佐賀県健康福祉本部健康増進課副課長はフッ化物利用を基礎としたう蝕予防の県レベルでの実践として、フッ化物歯面塗布の導入で3歳児のう蝕を劇的に改善させ、同時に保育園・学校へのフッ化物洗口事業を行政施策に取り入れるというように歯の健康づくりの基盤整備の実際を分かりやすく発表しました。
 眞木吉信東京歯科大学教授は、う蝕予防に使われるフッ化物の効果と安全性は国際的に認知されており、今後わが国では
、歯科医療の専門家であるかかりつけの歯科医師や歯科衛生士による保健医療情報の整理・選択と適切なアドバイスが求められる時代となると展望を語られました。会場からもフッ化物洗口の安全性、わが国の水道水フロリデーションの動向についての質問が寄せられました。これに対し集団フッ化物洗口の先進県である新潟県では過去35年以上の経験で一例の事故もないとの回答、2002年久米島具志川での水道水フロリデーションの取り組みでは両村合併による町長選挙で内間清六具志川村長が13票差で敗北して辛酸を舐めましたが、同氏は沖縄県議会議員に当選し、今後久米島町での水道水フロリデーションへの新たな挑戦が起こるものと期待されるとの報告がありました。
 最後に、「
国民の口腔保健とQOL向上、健康寿命の延伸のために、むし歯予防に安全かつ安心で、効果的、経済的な集団用フッ化物洗口製剤の開発・普及に努める」ことを大会宣言として閉幕しました。

 本大会から、こどものみならずすべての人々の健康にフッ化物の利用は欠かせないことを改めて知ることができました。次回2005年10月)の香川県高松市で開催される第29回むし歯予防全国大会にも「フッ化物利用」のおおきな輪が拡がり、ますます地域住民の口腔保健の改善に貢献できるものと考えます。