DENTAL TODAY  10月15日号1面

第50回日本口腔衛生学会 

 ”水道水フッ化物添加法の学術的支援”を表明  シンポジウム名古屋宣言として発表

 第50回日本口腔衛生学会(大会長=中垣晴男・愛知学院大学教授)が9月29・30の両日,愛知学院大学で開催された。第1回認定医(226名)、論文奨励賞,LION AWARD賞の各授与式が行われたが,今回は特に、一般口演数(ポスター発表含む)が200を越えるなど、各会場で活発な議論が行われた。演題内容もフッ化物の応用・評価。予防・管理と医療費の関係など基礎的分野以外からの発表も多く,今後の歯科医療の具体的な方向性を示唆させるものであった。なお,シンポジウム「21世紀における口腔保健とフッ化物応用」の最後には”水道水フッ化物添加法の学術的支援”とする名古屋宣言を高江州座長の下で発表した。

(内容)

 社会的な関心が高まっているフッ化物応用についてのシンポジウム「21世紀における口腔保健とフッ化物応用」はシイラ・ジョンズ氏(リバプール大学歯学部助教授)、トマス・リーブス氏(CDC=アメリカ疾病予防センター口腔保健部)、ヒョックスムーン氏(ソウル国立大学歯学部教授)、小林清吾氏(日大松戸歯学部教授)によって行われた。

 まず、ジョンズ氏は英国における水道水フッ化物添加の経緯,現状,問題点について「1974年までは、英国全土の地方自治体は水道水フッ化物添加を希望すれば実施できる状況だったが、その後10年は,反対運動やフッ化物の安全性に対する懸念などの理由によって,1984年までの10年間は,水道水フッ化物添加にブレーキがかかった状態になった」と課題を抱えていた時代があったことを報告した。その後、フッ化物添加を可能にする新しい法律が制定されるなど,環境が整備されつつなったことを含め結果として、「水道水フッ化物添加が実施されている地域と、そうでない地域の違いが明確になってきた。ここで水道水フッ化物添加の必要性は不均一であること、など新しい問題が出てきたりしたが,水道水フッ化物添加の展開を推進するために、政府および衛生専門家が合意し,様々な問題に対処している」と説明した。

 リーブス氏は、米国口腔保健課やCDCが,新しい時代に向けて「2010国民健康フッ素化目標」を制定したが,その戦略について解説した。それによれば,最適レベルのフッ化物を低京する地域水道サービスを受ける国民の割合を少なくとも75%に引き上げるとしており,さらにCDCは,その優先事項を設定し,今後の活動主力6項目を明らかにした。1)査定・評価および・調査、2)相談、3)州・地域の努力、4)専門家教育と参加、5)国民教育、6)品質の保証をあげ、全力で取り組んでいることを紹介した。

 ムーン氏は「厚生省は46地方自治体にたいして、フッ化物添加装置費用の半分を拠出し,39市でフッ素が添加され、9市でフッ化物添加装置が設置されている最中である」と報告した。また水道水フッ化物添加反対の対応としても「小規模な150のNGO(非営利組織)が結集して一つの大きなNGOを結成した運動を推進した。同時に,反対派の活動があるにせよ,厚生省は水道水フッ化物添加の計画を次々と打ち出し,国民に理解していただく努力をしている」とした。  

 最後の小林教授は,過去3ヵ所で行われた水道水フッ化物添加の経緯を紹介しながら、その問題点を指摘した上で。「こうした歴史がありましたが,1999年の日本歯科医学会の『フッ化物応用による総合的な見解』,2000年厚生省の水道水フッ化物添加要請における技術的支援の表明、など大きな動きが出てきたこともあり,実施方向へ着実に進んでいる」と現状認識を示した。さらに,歯科関係者,国民にも周知徹底される水道水フッ化物添加のコンセプトとして「この方法はすべての人々に区別なく疾病予防の機会が与えられることに、最高の優先権が与えられるべきであること」と強調した。

 なお,本シンポジウム終了にあたり,座長の高江州義矩・東歯大名誉教授のもとで、「わが国における水道水フッ化物添加法の学術的支援」(別掲:DENTAL TODAY紙では紙面の関係で要旨のみ掲載:下記には全文掲載)をシンポジウム名古屋宣言として示した。

(以下略)

  わが国における水道水フッ化物添加法の学術的支援

 わが国におけるう蝕(むし歯)は、近年減少傾向にはありますが、欧米先進諸国に比べて依然として高い有病状況にあります。しかも、わが国の口腔保健指標のーつであります8020目標達成には、疫学的見地から一層のう蝕予防の推進が強く望まれるところであります。

 日本口腔衛生学会は、従来からわが国の歯科保健対策に多くの実績を挙げてきましたが、WHO(世界保健機関)の推奨するフッ化物応用については、現在、水道水フッ化物添加法以外のフッ化物局所応用(フッ化物歯面塗布法、フッ化物洗口法、市販フッ化物配台歯磨剤)が漸次的に普及している状況にあります。しかしながら、生涯を通した歯質の強化と健康な歯列の保持のためには、水道水フッ化物添加法が生命科学の基盤に即した予防方法であり、公衆衛生的施策としても永年の幾多の疫学的検証に基づいて世界の多くの国々で実施されてきております。

 水道水フッ化物添加法の生命科学的根拠とその実証性の実績を要約しますと、以下の通りであります。

 1.フッ素は、健康に有益な生体必須微量元素である。

 2.水道水フッ化物添加法は、歯の形成期から歯質を強め、生涯を通して口腔の生体環境の健全性を維持する有効性が実証されている。

 3.水道水フッ化物添加法は、多数の医学専門機関が認めている最も安全な予防方策である。

 4.水道水フッ化物添加法は、効果の公平性、経済性かつ簡便性など公衆衛生的特性に優れた予防方策である。

 5.水道水フッ化物添加法は、WHOをはじめ国際的に広く推奨されている地域保健政策である。  

 本学会は、1972年に日本歯科医師会の「弗化物に対する基本的な見解」を支持し、水道水フッ化物添加法の推進を表明しました。さらに1982 年には「う蝕予防プログラムのためのフッ化物応用に対する見解」を示し、 1984年にこの見解を日本口腔衛生学会として歯科衛生主管部局長宛に通知しております。その後、 1999年に答申された日本歯科医学会による「フッ化物応用による総合的な見解」において、水道水フッ化物添加法が優れた公衆衛生施策として表明されております。また 2000年11月、厚生省(現厚生労働省)は水道水フッ化物添加法について市町村からの要請があった場合、技術支援をすることを表明しています。
これらの経緯によって、日本歯科医師会は厚生労働省の見解を支持し、水道水フッ化物添加法の効果、安全性を認め、実施にあたっては、地域歯科医師会、関連専門団体や地域住民の合意形成が必要との主旨を表示しております。

 わが国における地域保健法の制定(1994年)以来、地域住民の立場を重視した新たな地域保健政策が地方自治体の主体性進展として期待されています。このような背景にあって、水道水フッ化物添加法は最近の各種報道にもみられますように、社会的関心が高まってきています。
 ここに、21世紀のわが国における口腔保健の向上を図るため、日本口腔衛生学会は水道水フッ化物添加法を推奨し、地方自治体の保健政策としての推進に関連専門学会として学術的に支援することを表明します。

    平成13年9月30日

                                                               日本口腔衛生学会