DENTAL TODAY  2001年12月15日号3頁

フロリデ−ションを基礎にした予防戦略を

むし歯予防全国大会が長崎で開催

 第25回むし歯予防全国大会が11月25日、「すべての人が健康に」をテーマに長崎県歯科医師会館で開かれた。木村年秀(香川県三豊病院歯科保健センター医長)、マレイ・トムスン(オタゴ大学歯科公衆衛生上級講師)、梶浦靖二(島根県健康福祉部健康増進課歯科専門員)の3氏による講演では、それぞれフロリデ−ションの必要性を指摘した。

「日本における高齢者/要介護者に対する歯科保健の取り組み」木村年秀(香川県三豊病院歯科保健センター医長)

木村氏は高齢者・要介護者に対する歯科保健について、自らの豊富な経験から、その現状を報告した。予防への意識の高まりに伴い、高齢者一人当たりの歯の保有数は年々増加していき、当然のようにようかいごしゃの齲蝕の問題がクローズアップしてきているとし、これらを踏まえて、「多数歯をもった人が、やがて要介護になり、”歯磨き””うがい”もできなくなった時に、どのようになるのか」と問題提起した。一方、現場の声からとして、訪問看護婦やヘルパーから「歯が多数残っている人が、”寝たきり”や”痴呆”になると介護に手間がかかったり、口腔内が悲惨な状態になるので大変です」といった意見をよく聞くと述べた。

「今後は”8020運動”の達成を目指すのであれば、達成後もその人の最後まで、口腔の健康を保持できる環境づくりが必要です。その意味では”フロリデーション(水道水フッ化物濃度適正化)”の実現が最善の方法と考えています。これは要介護者のみならず、幼児、生徒、成人、高齢者、障害者まですべてのひとに恩恵を浴することができるからです」と強調した。

 

「日本における予防の展開に関する考え方」、マレイ・トムスン(オタゴ大学歯科公衆衛生上級講師)

歯科公衆衛生と疫学において様々な国と研究をしているマレイ・トムスン氏は、オーラル・ヘルスプロモーション、およびニュージーランドでの現状と歯科公衆衛生・予防について紹介しながら、最後は日本への予防歯科を展開する際のアドバイスをした。

日本では依然不十分な”オーラルヘルスプロモーション”については、オタワ憲章を引用して公衆衛生的政策を立案する、支援する環境を整備する、地域における活動を強化すること、と説明した上で「具体的には、フロリデ−ション推進のための努力をし、実施地域を拡大する、高齢者へのフッ化物が含まれた歯磨剤の使用の促進などです」と指摘した。

また、予防について「口腔疾患は”予防できるもの”として分類されてきたのです。また個人のリスクの予測は不正確であることは、臨床をみれば理解できます。こうした要素を踏まえると、住民レベルでの戦略がキーポイントです」とし、世界の、そして新しい動向をレポートをもとに紹介した。日本の現状についても「治療主体から脱却できない面があり、同時に公衆衛生という考え方が希薄であり、なかなか具体的な実施まではいかない」とした分析を示した。

最後に「住民ベースのアプローチへ転換し、他の様々な予防法をより効果的なものにするためにフロリデーションを実施する。そのためにも調査・研究を継続し、他の国の研究もモニターしておくことが必要」と付言した。

 

「アメリカにおける水道水フッ素濃度適正化研修に参加して」梶浦靖二(島根県健康福祉部健康増進課歯科専門員)

行政の立場から講演した梶浦氏は、アメリカでのフロリデーションのための研修に参加した経験から。私見をまじえてその実情を紹介した。まず全国一高い高齢化率(25%)の島根県の歯科保健の取り組みとして”8020推進5ヵ年戦略(平成11年からスタート)”を説明したが、それは重点市町村を設定し、フッ素塗布、フッ素洗口、8020チャレンジ、口腔ケアの4つの事業を推進することで実効性のあるしか保健医療対策を進めるものとしている。生涯を通じての歯の喪失を防止するにはフッ化物の応用が不可欠であると考え、渡米してフロリデーションの技術的な研修のほかに、行政としてこの事業導入の背景・考え方を学んできた同氏は、今後について「フロリデーション事業についての研修会・シンポジウムなどで県民に情報提供して県歯とともに行う予定である。またこれからは、住民と行政が議論する場を設定し、首長や住民の代表たちが意志決定しやすいように、住民の声を反映させることが必要」とまとめた。

 

「素晴らしい大学の地域歯科診療」

韓国の歯科医師らが長崎大学予防歯科を訪問

近年、韓国の歯科医療は著しい変化を遂げている。特に予防歯科における意識の高さは注目されるが、その基本は公衆衛生に置いており、韓国の歯科医療を変えようとしている。韓国の歯科医師の金光洙氏(健康社会のための歯科医師会元会長)ら4人が12月4日、長崎大学歯学部予防歯科を訪問し、新庄文明教授との意見交換をした。特に予防歯科の今後の課題、研究、政策について金氏らは、新庄教授とイギリスなどの歯科事情を含めた議論をかわした。

また大学病院のシステムにも興味をもっていたことまり、新庄教授が先生方を診療科の臨床を案内した。そこでは特に、特殊歯科総合治療部について関心をもち、非常に参考になったと述べた。わずかな時間であったが、情報交換した金氏は、「日本の歯科医療に教わることがあるが、長い間大学の予防歯科が地域歯科医療の展開を行っていることは素晴らしい」と述べていた。