2003年 FAO/WHO 歯科疾患予防の勧告

(原著)『WHOテクニカルレポートシリーズ916 食事、栄養および慢性疾患予防』
【国連食糧農業機関/世界保健機関の共同報告書】WHO(世界保健機関) ジュネーブ2003年
          東北大学医学部坪野吉孝教授翻訳  
            
このページは、坪野教授の了解を得て「5.6 歯科疾患予防の勧告」から抜粋しました。(NPO法人日F会議:葭内、田浦)
原著・翻訳文をご覧になりたい方は、下記をご覧下さい。
原著(English) WHO Terminal report series 916 "DIET, NUTRITION AND THE PREVENTION OF CHRONIC DISEASES"
Report of a joint FAO/WHO Expert Consultation

翻訳著 WHOテクニカルレポート916 「食事、栄養および慢性疾患予防」【国連食糧農業機関/世界保健機関の共同報告書】

(抜粋)上のレポートの「フッ化物の影響」「歯科疾患予防の勧告のまとめ」を下記に掲載します。
(追加)さらに、「5.7 骨粗鬆症予防の勧告から、「フッ化物と骨粗鬆症の関係」の抜粋も掲載します。

フッ化物の影響  (Word File:21KB)

 フッ化物は疑いもなく抗むし歯性物質である(95)。飲料水のフッ化物とむし歯の関連が逆相関であることはよく知られている。フッ化物は小児のむし歯を20〜40%減少させるが、むし歯を100%防ぐわけではない。
 むし歯に対するフッ化物利用の効果に関する対照研究が800以上行われ、フッ化物がむし歯に対して最も効果的な予防要因であることが示されている(95)。
 しかし、適切なフッ化物が存在するにも関わらず、研究は未だに糖類摂取とむし歯の関連を示している(33,71,96,97)。小児を対象とした2つの主要な縦断研究では、フッ化物利用と歯口清掃の実行で管理した後も、糖類摂取とむし歯の進行の間に関連が残されていることが観察された(66,67)。
 Marthaler(68)はむし歯有病率の変化を見直して、フッ化物利用などの予防的手段を講じても、糖類摂取とむし歯に関連がみられると結論付けた。また、適切なフッ化物を利用する工業国では、糖類摂取を減少させない限り、むし歯の有病率と重症度が低下しないとも述べた。
 フッ化物を利用する集団において、糖類摂取のむし歯の病因における重要性を検討した最近のシステマティックレビューでは、以下のように結論付けている:適切にフッ化物を利用する場合の糖類消費は、ほとんどのヒトで中等度の危険因子となる、定期的にフッ化物を利用しない場合の糖類消費は、むし歯のリスクに対するより強力な指標となる、フッ化物を広範囲に利用すれば糖類消費を制限することがむし歯予防に役割を果たすが、フッ化物利用がない場合ではそれほど強力ではない。
 フッ化物の予防的役割には議論の余地がない
 一方、歯口清掃とむし歯の間には明確な相関関係を示す強力な根拠はない(98-100)。
 エナメル質形成中に長期にわたり過剰なフッ化物を摂取すれば、歯のフッ素症をもたらす。上水道中のフッ化物濃度が高すぎる場合に限って、歯のフッ素症が観察される(95)。

2003年 FAO/WHO 歯科疾患予防の勧告 (Word File:22KB)

(まとめ)
 母集団の糖類消費が少ないとむし歯の程度も低いため、遊離糖質消費の勧告最大レベルが重要である。母集団の目標により口腔健康リスクが評価され、健康促進目標がモニターされることが可能である。
 入手できた最も良い根拠とは、1年間の1人あたりの遊離糖質消費が15〜20kg未満の国で、むし歯のレベルが低いことが示されているものである。これは1日の40〜55g摂取と等しく、エネルギー摂取の6〜10%と同じである。現在の遊離糖質消費が低い国(1年間1人あたり15〜20kg未満)では、消費レベルを増大させないことが特に重要である。高消費レベルの国には、政府保健当局および意思決定者が遊離糖質量減少のための国特定および地域特定目標を作成し、エネルギー摂取の10%を超えない最大量にすることを勧告している。
 遊離糖質量に関する母集団目標に加えて、遊離糖質消費の頻度目標も重要である。遊離糖質を含有する食物および/または飲料の消費頻度は、1日最大4回に制限すべきである。
 現在栄養に関する過渡期にある多くの国は、適切にフッ化物を利用していない。例えば、安価な歯磨剤や水、食塩、牛乳などの適切な方法を介して十分なフッ化物利用を促進すべきである。

 各々の国に応じたフッ化物利用の計画と実行は、政府保健当局の責任である。また、その他地域で選択できるフッ化物利用計画の実施と結果の研究を奨励すべきである。
 歯の酸蝕症の発生を最小にするために、清涼飲料とジュースの摂取量および頻度を制限すべきである。低栄養を排除すると、エナメル質形成不全および他の低栄養が口腔の健康に与える影響(例えば、唾液腺萎縮、歯周病、口腔感染症)を予防することができる。

フッ化物と骨粗鬆症の関係 (Word File:26KB)

フッ化物と骨粗鬆症(骨折)との関連なし WHO/FAO 2003年

 椎骨および股関節の骨折発生率は加齢とともに関数的に増大する。骨粗鬆症の骨折は高齢者における罹患率および障害の主な原因で、股関節骨折は早期死亡をもたらす。このような骨折は世界的に医療サービスのかなりの経済的負担になる。(中略)食事と骨粗鬆症との関連は中等度にすぎないが、高齢者がビタミンDとカルシュウムを同時に十分摂取する場合、リスクを低下させる;高齢者ではカルシュウムおよびビタミンDの役割を別々に裏付けるおそらく確実な根拠がある。(後略)

 フロリデーションの濃度では図表にあるように「骨粗鬆症の骨折」と「フッ化物」の関連性がないことが、「おそらく確実な根拠(Probable)」として下記出典に記載されている。

骨粗鬆症による骨折に対する食事に関連する根拠の要約(下表)

リスク低下
関連なし リスク上昇
確実な根拠 ビタミンD アルコール大量摂取
高齢者a  カルシュウム 軽い体重
身体活動
おそらく確実な根拠  フッ化物

高齢者a

可能性がある根拠  果物および野菜 リン ナトリウム高摂取
適度なアルコール摂取 蛋白質低摂取(高齢者)
大豆製品  蛋白質高摂取
a高い骨折発生率の母集団のみである。50〜60歳でCa少量摂取および/またはVDの状態が不良な男女に適用される。 bフロリデーション濃度

◆ 出典 WHOテクニカルレポートシリーズ916(ジュネーブ2003年)食事、栄養および慢性疾患予防 5.7 骨粗鬆症予防の勧告


(補足)
現在、栄養界は国立健康・栄養研究所を中心に「栄養情報担当者(NR)という健康・栄養食品アドバイザーリースタッフ」づくりを始めています。
「いわば健康食品」による健康被害という笑えない現実を「科学的に評価できる人々」をつくろうという動きです。この方面の歯科界教育が必要と思います。  詳しくは「健康・栄養食品アドバイザースタッフ・テキストブック  第一出版」 2700円をどうぞ。(旭川市 葭内顕史)