薬害オンブズパーソン会議「フッ化物洗口の集団適応に関する意見書」対する解説(厚生科学研究班・日本口腔衛生学会)

2003年11月5日

厚生労働省医政局 歯科保健課長

   瀧口  徹 殿

                          厚生労働科学研究(H15-医療-020)   主任研究者 高江洲 義矩
                         
 日本口腔衛生学会           理事長  中垣  晴男

薬害オンブズパースン会議「フッ化物洗口の集団適応に関する意見書」に関する見解

貴職より、平成15年9月 1日付け文書にて依頼をいただきました、薬害オンブズパースン会議からの意見書についての検討結果と当検討班の見解を下記のごとくご報告致します。

                記

 当検討班は、薬害オンブズパースン会議より厚生労働大臣に提出された、「フッ化物洗口の集団応用に関する意見書」(2003.8.4.)(以下、「洗口−意見書」)を詳細に検討したところ、以下の結論を得た。

1)    先に厚生労働省医政局・健康局長通知である、わが国におけるフッ化物洗口を4歳から14歳までの期間に実施することを主旨とする「フッ化物洗口ガイドライン」の方策を変更する必要は認められないこと。 

2)    「洗口−意見書」の医学的検討の項目は、昨年、同薬害オンブズパースン会議より提出された「水道水フッ素添加についての意見書」および「報告書」(2002.5.7.)と同様の内容で、それらはすでに当検討会より「薬害オンブズパースン会議意見書に関する見解」(2002.7.8.)として解説した内容と重なる点が多いこと。

3)    フッ化物洗口の実施に伴う、心配される全身的な影響があるとの証拠は認められないこと。

4)    WHOは、フッ化物応用法の一つとして推奨している6歳以上の者に対する洗口の実施(1998、WHO ”FIFTY YEARS OF THE WORLD HEALTH ORGANIZATION IN THE WESTERN PACIFIC REGION”) を、今日まで変更していないが、日本口腔衛生学会の見解が示しているごとく、わが国では6歳以下であっても、永久歯萌出途上の幼児が歯列の完成するまで一貫してフッ化物洗口法を行なうことが推奨されること。

5)    フッ化物洗口の集団応用は、保護者と学校など施設関係者の合意のもとで実施されており、また実施を希望しない者の選択も認められている。施設でのフッ化物洗口実施のために行なう環境整備は、個人の健康権や選択権を侵害するものでなく、施設内での継続実施を望む者達の健康権を保護し支援するものであること。


薬害オンブズパースン会議「フッ化物洗口の集団適用に関する意見書」の問題点とその解説

 

(用語について、薬害オンブズパースン会議意見書の記述を引用する場合はそのまま用い、解説においてはできるだけ正確な学術用語を用いた。)

 

1.「洗口−意見書」の主旨

 

問題点 1)

「フッ化物洗口を集団(4歳から14歳対象)に行なうべきでない」、 との意見について。

 

解説: フッ化物洗口を4歳から14歳までの期間に実施することは永久歯う蝕予防対策として有用であり、学校などの施設単位で行なうことが継続実施の支援になっていることから、先に厚生労働省医政局・健康局長通知である「フッ化物洗口ガイドライン」の方策を変更する必要は認められない。

わが国では、フロリデーション等の全身応用が行なわれていないこと、小児う蝕は減少傾向にあるものの先進諸外国に比べ2倍以上のう蝕数であること、またわが国におけるこれまでのフッ化物洗口事業の実施上で、洗口動作が十分にできることを確認したうえでフッ化物洗口を実施しているので、その点に関する懸念はない。したがって、わが国の実情では、永久歯萌出途上の幼児が6歳以下であっても、永久歯の歯列が完成するまでの期間、一貫してフッ化物洗口法を行なうことが推奨されてきている1)

参考文献:1) 日本口腔衛生学会フッ素応用研究委員会:口腔衛生学会誌, 46: 116-118, 1996.

 

2. WHO(世界保健機構)の動向

 

問題点 2)

[WHO必須薬品モデルリスト第13版 (2003.4.)]で、この品目の公衆衛生上の当面の問題との関連性、および/または有効性、安全性には疑問がある、と注記し、モデルリストから削除する方向で検討している」、との紹介について。

 

解説: CDC(米国国立疾病管理予防センター)の紹介によれば、「WHO必須薬品モデルリスト第13版」2)において対象となっているものはサプリメント(補充剤)のことであり、う蝕予防に用いるフッ化物の場合、フッ化物錠剤が対象となっている。フロリデーション、歯磨剤、フッ化物洗口などはサプリメントに含まれてはいない。

実際、WHOはフロリデーションやフッ化物配合歯磨剤の利用を推奨しており、その他のフッ化物応用法の一つとして、6歳以上の者に対する洗口の実施も推奨している3)。今日までこれら推奨の方策を変更した文書は見当たらない。

なお、[WHO必須薬品モデルリスト第13版 (2003.4.)]において、モデルリストから削除する方向で検討している、との記述はない。しかし、再検討の対象になる薬品に定型の表現として、「the public health relevance and/or safety of this item has been questioned and its continued on the list will be reviewed at the next meeting of the Expert Committee.(この品目の公衆衛生的応用の妥当性および/または安全性が疑問視されてきており、本リストへの掲載の継続について次回の専門委員会で再調査されるであろう。)」と記述されている。「錠剤は適正量が注意深く与えられれば有効である。しかし、錠剤は公衆衛生的に応用されるより家庭で個人的に応用されることの方が一般的である。毎日、子どもに錠剤を与えるという両親のコンプライアンスは概して乏しいので、有効性は縮小する方向にある。」と考えられており、意見書に引用されているコメントは、そのような趣旨であると理解される。また、今回のWHO文書にみられるコメントは、今後検討される予定であるとの意味で、現在のところ、フッ化物錠剤は適切な専門医の指導管理のもとで利用されるべきであると解釈される。

参考文献:2) WHO: Essential Medicines, WHO Model List (revised April 2003), 2003.
     3) WHO: FIFTY YEARS OF THE WORLD HEALTH ORGANIZATION IN THE WESTERN PACIFIC REGION, 1998.

 

3.医学的検討

 

問題点 3)

  [フッ素の急性最少中毒量は0.1〜0.5 or 0.8mg/kg体重 と考えられる]、との記述について。

 

解説: 一般に、中毒とは毒物を摂取して何らかの生体機能が障害され悪影響がみられるものをいう。悪影響が見られない場合(ホメオスターシス保持)は単なる負荷とよばれる。フッ化物の急性毒性に関して、医療機関への紹介が必要なレベルとして国際的にPTD(見込み中毒量) 5mgF/kg体重が使用され、CDCもこの基準を採用している4)

  学生実習での評価は調査のデザインや医学的判断のあいまいさが大きく、急性中毒量を推定する学術的な根拠にすることはできない。

参考文献:4)Bayless, J.M., et al: J. Am. Dent. Ass., 110:210,1985.

 

問題点 4)

  [長期的害作用について:フッ化物洗口では、年齢の低い者ほど飲み込んでしまう量が多いことから、水道水へのフッ素添加と同様に発癌性を含む長期的害作用に危険がある]、との記述について。また、 [「骨折、腎疾患、神経系および遺伝系の疾患」との関連性が証明されている]、との記述について。

 

解説: 今日までの数多くの疫学調査を総合的に検討した医学専門機関、WHOを含む25例の報告がある。これら報告において、適正濃度で調整されている、または天然によるフロリデーションが何らかの全身の悪影響を増加させるとの証拠を確認することができなかった、と結論されている5)。フッ化物洗口の場合は、長期間で積算される摂取フッ化物量がフロリデーションの場合に比べて約1/5程度であるので、フロリデーションの疫学調査結果を越えて心配することは妥当でない。

骨のフッ素症: 過剰のフッ化物曝露を経験した人々における疫学調査の結果に基づけば、フッ化物洗口に用いられる濃度と量のフッ化物応用によって骨のフッ素症を引き起こすとの報告は無い。

   腎疾患:う蝕予防に用いられるフッ化物応用レベルで生体に摂取されるフッ化物については、腎がフッ化物の均衡を維持にするのに重要な器官であることから、腎疾患には医学的な考慮が払われてきた。

摂取されたフッ化物の約50%が24時間以内に腎を通して排泄され、残りのフッ化物の多くは、骨や歯などの硬組織に取り込まれる。フロリデーションにおけるフッ化物の推奨量が腎疾患をもった子どもたちになんらかのリスクをもたらすという証拠は認められない。フロリデーションが腎疾患の人々にとって安全であるように、フッ化物洗口における口腔内残留量を検討しても、生体にとって安全域のレベルである6)。腎患者の場合は、健常人以上に歯科治療に伴う苦痛や身体的リスクを避けるべきであることから、フッ化物洗口は腎患者にとっても有用な方法として推奨される。

 アレルギー:フッ化物洗口に用いられるフッ化ナトリウム溶液によってアレルギーが発現したという報告はない。疑いが持たれた、との事例はあるが、パッチテストなどによる第三者の確認でフッ化物とアレルギーの関連性が認められたことはない。

   骨折、ガン、神経系および遺伝系の疾患: フロリデーションと骨折、ガン、神経系および遺伝系の疾患とに関連がないように、フッ化物洗口においても関連があるという報告はない。

参考文献: 5) British Fluoridation Society: Examples of authoritative reviews of the safety and / or effectiveness of Fluoridation, 2000.
     6)John J. Clarkson, Mary Waldron: Topical and Systemic Fluorides in Children with Renal Diseases, FDI Statement, General Assembly 2003.

   

問題点 5)

  「フッ化物洗口は歯のフッ素症のリスクとなる」 、との危惧について。

 

解説:永久歯の萌出時期から開始するフッ化物洗口で、“歯のフッ素症”が発現することは   生命科学的にあり得ない。

WHOは「毎日摂取されたフッ化物の全体量を考慮すべき」といっているが、これは、フロリデーションなど全身的応用の行われている地域において摂取されるフッ化物量に、さらに、う蝕予防のための各種のフッ化物応用が過剰に行われた場合の全体量が問題になるという意味である。現在、わが国においては、調整によるフロリデーション地域はなく、4歳からフッ化物洗口を実施したとしても、歯のフッ素症発生が問題となるような条件は存在しない。日本口腔衛生学会では、「就学前からのフッ化物洗口法に関する見解」を発表し1)、わが国において就学前からのフッ化物洗口が推奨される妥当性とその必要性を明らかにしている。

 佐久間らは、日本人における6歳未満児のフッ化物洗口による洗口液の残留量を調べているが、日本の児童は洗口を適正に行っており、その残留量を検討してみても、歯のフッ素症発現にかかわる要因にはならないことを示している7)

 また、八木らは、日本において飲料水中に天然にう蝕予防に有効なフッ化物が含まれる地域の児童(天然フッ素群)、4歳からフッ化物洗口を実施している地域の児童(フッ化物洗口群)、および飲料水中フッ化物不足地域に住むフッ化物洗口を実施していない児童(非フッ素群)において歯のフッ素症の発現を調べた。その結果、天然フッ素群の方が非フッ素群よりフッ素性とみなされたエナメル斑の発現が多かったのは当然であるが、フッ化物洗口群では非フッ素群に比べて、むしろフッ素性とみなされたエナメル斑の発現が少なかったと報告されている8)

 よって、フッ化物洗口の実施に先立って洗口と吐き出しの練習を行い、洗口液の不用意な飲み込みがないことを確認した後に実施される場合、4歳児から開始されるフッ化物洗口が歯のフッ素症のリスク要因であるとみなすことはできない。

参考文献: 7) S. Sakuma et al: Fluoride mouth rinse proficiency in Japanese Preschool Children, Int. Dent. J., 2003 (in press).
8) 八木 稔, 佐久間汐子, 宮崎秀夫: 就学前4歳児からのフッ化物洗口プログラムは歯のフッ素症のリスク要因か, 口腔衛生会誌, 50, 375-381, 2000.

 

問題点 6)

  「近年、子供のう蝕は減少しており、フッ素洗口の必要性はそもそも低い」、との意見について。

解説: 子供のう蝕は減少傾向にあるものの、さらに改善を図っていくべきであり、フッ化物洗口の必要性は高い。

 う蝕は健康障害の1つであり、最も有病率が高い小児疾患の一つである9)。また、う蝕は蓄積性の疾患であり、修復処置を行ったとしても、予防対策を行わなければ、その後もう蝕に罹患するリスクは高いまま推移する。そのため、小児期にう蝕に罹患することは、将来的に歯を失うリスクが高くなることを意味し、学齢期に好発するう蝕を予防することは、歯の一生を考えたうえで最優先されるべき歯科保健対策といえる。

 近年、子供のう蝕は減少傾向にあり9、10)、最新データでは12歳児DMFT(一人平均う歯数)は2.28と報告されている9)【文献:H14文科省学校保健統計速報】。

 しかし、この値は、「健康日本21」の「歯の健康」における学齢期の目標値(12歳児DMFTを1以下にする)に比べると高いし、一生涯のQOLの向上という点からも、さらに改善を図っていく必要性は高い。

 フッ化物洗口が全国で最も普及している新潟県の最新データ(2002年度)をみると、12歳児(中学1年生)のDMFTの値が1以下となっている市町村は41(全市町村の37%)あり、その大半がフッ化物洗口を実施している11)

 したがって、健康日本21の目標値を達成し、高いQOLを確保していくためにフッ化物洗口を実施する必要性は高いといえる。

参考文献: 9) 文部科学省:平成14年度学校保健統計調査速報http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/14/12/021203.htm
             10) 厚生労働省医政局歯科保健課:平成11年歯科疾患実態調査報告, 口腔保健協会, 2001
           11) 新潟県福祉保健部ホームページ

http://www.pref.niigata.jp/fukushihokenbu/kenko/kenko.htm

 

問題点 7)

     う歯予防は、歯磨きの励行、おやつへの注意、歯科検診と早期の虫歯治療など、フッ素を用いない方法を徹底することで充分である」、との意見について。

 

  解説: 「洗口−意見書」の記述は、近年の歯科医学の進歩や学説に一致していない。「洗口−意見書」で述べられている対策(歯磨きの励行、おやつへの注意、歯科検診と早期の虫歯治療)は、わが国では古くから実践されてきた。これらの対策は、歯磨き実施率ならびに治療率の向上、低い砂糖消費量など一定の成果を上げることはできたものの、う蝕の発生そのものを抑制する成果が乏しかった点が現在の歯科医学・歯科保健の専門家の間では常識となっている12)。また、早期のう蝕治療を必要以上に推奨することの弊害も指摘されるようになり、現在では、歯科臨床の場でも、歯の再石灰化を促進させてう蝕の発生・進行を抑制する予防的な処置を優先させる必要性が強く指摘されている。この再石灰化療法の中心的役割を担うのがフッ化物である。したがって、「う蝕予防は、フッ素を用いない方法を徹底することで充分」とする「洗口−意見書」の記述は、近年の歯科医学の学説に一致していない。
参考文献: 12) 予防歯科臨床教育協議会編:実践予防歯科, 医歯薬出版, 1999.


問題点 8)

「フッ素洗口に有効性があるとした報告には、二重目隠し法を用いたものはまったくない」、との記述について。

 

解説:二重目隠し法によるフッ化物洗口の調査事例も少なくない。それらを含めた多数の研究を総合的に評価した結果から、フッ化物洗口法によるう蝕予防の有効性が示されている。

2003年5月に発表されたコクランレビュー(システマティックレビュー)13)では、広範な文献検索から選ばれた34研究についてメタ分析が行われ、フッ化物洗口の効果をDMFS(一人平均う蝕歯面数)でみた場合、対照群に比べてう蝕発生が26%抑制されることが示されている(95%信頼区間は23〜30%)。このレビューでは、論文選択の基準として、研究デザインがRCT(Randomized Controlled Trial)または準RCTという条件が設けられ、選ばれた34研究のうち、二重盲検(double-blind)で行ったものが29研究あることが示されている。したがって、比較する2つの群の違いはフッ化物洗口を実施しているか否かという点のみに絞られた研究のみを扱っていることになり、フッ化物洗口以外の対策の効果が加算される可能性を極力排除されていると解釈できる。

参考文献: 13) Marinho VC,  Higgins JP,  Logan S,  Sheiham A.: Fluoride mouthrinses for preventing dental caries in children and adolescents., Cochrane Database Syst Rev., 2003;(3):CD002284. Review.

 

4 フッ化物洗口を集団に行なうこととインフォームド・コンセント

 

問題点 9)

「集団にう蝕予防目的でフッ素洗口を展開すること(集団適応)は、個人の自己決定権を侵害する違法な公衆衛生政策である」、との意見について。

解説: ここで「違法な公衆衛生政策」に該当するものとしては、その国の国家行政や世界保健機関であるWHOが公認していない地方自治体における独自の公衆衛生施策についての違法性が論議の対象となるものである。

今回のガイドラインに示されているフッ化物洗口法は、わが国の厚生行政およびWHOによって公認されているものであるので、違法性の指摘は該当しない。問題は、現在の公衆衛生施策において、たとえ国家やWHOの機関が、その実施を推進する場合においても、個人の自己決定権等に関わる要因については、論議の対象となってきている。

そこで、自己決定権に関わるコンセプトとして、「インフォ−ムド・コンセントとは、正しい説明を受けて理解した上での自主的な選択・同意・拒否という意味である」14)、との定義があり、これを参照しながらフッ化物洗口について検討することがよいと考える。

フッ化物を集団応用する場合、ガイドラインでは事前の説明会が行政、現場(学校関係者)、保護者の理解などを得るために実施するよう指導されており、さらに不安を持つ人達への対応まで配慮されている。実際に現場で実施する場合は、自己決定(自主的な選択・同意・拒否)の機会としてフッ化物洗口実施についての希望調査が保護者(保育園児、幼稚園児、小学校児童)に行われている。集団応用の場合においても、インフォームド・コンセントの原則にもとづいた展開が行われている。

ところで、情報が提供され、フッ化物洗口の理解が高まったとしても、フッ化物洗口の個人的な応用にとどまれば、その継続は困難であることが指摘されている15)。フッ化物洗口は、学校教育現場等の集団で行われるときに継続性が保たれやすく、その結果、集団応用においてその十分な効果を期待され、わが国においても世界的にもその実績が確証されている。WHOが推奨している根拠はそこにある。

 インフォームド・コンセントは、個人レベルでの選択に関わるところが大きいが、それと同時に、地域における保健政策を決定するために、政策決定に関わる人々と保健専門職によるインフォームド・ディシジョン(情報に基づく決定)が求められる。そうした決定は、フッ化物洗口に公共的な議論や検討に耐えうるだけの科学的な根拠(効果と安全性)があるかどうかで判断するべきである。

 う蝕予防方法の選択に際しては、安全で効果的に健康を手に入れる枠組みづくりを優先させるべきである。その上で、その枠組みに入りたくないという人々には、それがう蝕予防にもちこまれるとき、果たして適切に表現され得る概念であるかどうかはともかく、いわゆる「個人の決定権」という概念によって、そこからはなれるという選択があってもよいであろう。集団的フッ化物洗口は、そうした性格を有する公衆衛生的な予防手段として位置づけることができる。

参考文献: 14)
  久道 茂:公衆衛生の責任, 東北大学出版, 193-196, 2000.
15)  松尾敏信:すべての人々が健康に −診療室の予防から、すべての人々の予防を目指して, 歯科衛生士, 25(11): 66-67, 2001.