「歯科保健におけるフッ化物の偉大な役割」(その1)

歯学研究・公衆衛生コンサルタント
 元米国国立衛生研究所・歯科研究所(NIH/NIDR)

 疫学・口腔疾患予防プログラム・ 臨床応用部 主任

ハーシェル・ホロビッツ

DDS, MPH

【スライド1】

フッ素は自然界に存在する元素のうち13番目に多い元素です。フッ素は,土,植物,動物,水等すべてのものに含まれています。従ってすべての食物はフッ素を含んでいるのです。55年間以上の研究からフッ素はう蝕抵抗性をもたらすことがわかっています。

【スライド2】

フッ素のう蝕予防メカニズムにはいくつかあります。第一にフッ素によってエナメル質のハイドロキシアパタイトの一部がより溶けにくいフルオロアパタイトに変化し,う蝕原因菌が産生する酸でエナメル質が溶かされるのを減少させます。第二にフッ素は歯垢中の細菌に直接作用して代謝や酸産生能を阻害します。第三に初期齲蝕病巣の再石灰化を促進します。今日ではこの再石灰化能が最も重要であると考えられていますが,フッ化物はこれらのメカニズムが協調しあって作用しているのです。

【スライド3】

フルオリデーションとはその地域の上水道が自然の状態で含んでいるフッ素をう蝕予防に最適なフッ素濃度に調整するプロセスのことです。この定義のキーワードは「Adjust:調整」です。なぜならば全ての水道はある程度フッ素を含んでいるからです。全くフッ素を含まない上水道はありえません。フルオリデーションされている地域では,もともとその水系に含まれているフッ素量を単に住民の口腔保健に最適なレベルに調整することなのです。

【スライド4】

「artificial water fluoridation;人工的水道水フッ素化」という表現はフルオリデーションは自然的ではないプロセスであるような感じを与えます。より適切な表現は「adjusted water fluoridation;水道水フッ素調整化」です。これは地域の上水道の適正なフッ素濃度を維持するという意味です。

【スライド5】

フルオリデーションの至適フッ素濃度は熱帯地区の0.7 ppmから寒帯地区の1.2 ppmまで地域の気候によって異なります。温暖地区では1 ppmが至適濃度となります。

【スライド6】

フルオリデーションに用いられるフッ素量は非常に少量です。どれくらい少量なのかを理解するために例をあげてみましょう。

1 ppmと同じ割合は:

  【スライド7】

過去50年間に合衆国ならびに他の国々で行われた何百という研究によって,フルオリデーションがう蝕予防に有効であることが証明されています。初期の研究によると,フッ素が飲料水ならびにある食品にだけ含まれている場合,フルオリデーション地区の子供達の永久歯う蝕は非フルオリデーション地区の子供達よりも50〜60%少ないこと示しています。これら初期の研究における乳歯に対する効果はフルオリデーション地区で40〜50%のう蝕減少として報告されています。

【スライド8】

フッ素のう蝕予防効果は絶大だったので後に歯磨剤や洗口剤などの口腔衛生商品にも取り入れられました。非フルオリデーション地区のほとんどの人はこれらの歯磨剤や洗口剤に含まれるフッ化物,あるいはフルオリデーション地区で作られた食品や飲料を摂取することでう蝕予防の恩恵を受けられるようになりました。このことが近年合衆国でフルオリデーションによるう蝕予防効果が20〜40%と小さくなってきた理由なのです。

【スライド9】

子供だけでなく大人もその生涯を通じてフッ素化された水を飲むことで恩恵を得ることができます。いくつもの研究から飲料水中に十分なフッ化物が含まれている地区で生涯を過ごした人は非フルオリデーション地区の人たちと比べて喪失歯数もう蝕歯数も少ないことが分かっています。多くの人が長生きをするようになり自分自身の歯を保つようになると歯肉が退縮して歯根が露出するようになるので,歯根う蝕という問題が増えてきます。最近の研究によると至適フッ素濃度の上水道供給地区で暮らしている成人は低フッ素地区の同年齢の人たちよりも歯根う蝕が少ないことが分かっています。