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薬害オンブズパースン会議意見書に関する解説
「厚生科学研究歯科疾患の予防技術・ 治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究班」 「日本口腔衛生学会」
平成14年7月25日 項 目
1.背景 1) 科学情報評価を第三者機関に委託したといえるか 2.「薬害会議−意見書」と世界的な歯学および医学会における見解との相違について 2) 斑状歯(歯のフッ素症) 3) 全身疾患 (1) 骨について (2) 発がん性について − 動物実験 − b) 問題点2 ラットの口腔内偏平上皮がん、偏平乳頭腫の用量依存性の増加について d) 問題点4 悪性リンパ腫の調整発生率と用量依存的増加について f) 問題点6 NTP研究におけるラットから換算された人の日常フッ化物摂取量 − 疫学調査 − i) 問題点9 フッ化物と発がんの関連性についてのまとめについて (3) ダウン症について a) 問題点1 Rapaportの報告とフッ素とダウン症の関連性 b) NHS-CRDレビューの内容と専門機関の重要な指摘 (4) 死亡率への影響について a) 問題点1 疫学調査での死亡率への影響について b) 問題点2 用量依存性反応の可能性について c) 問題点3 動物実験結果からみた水道水フッ化物添加の悪影響について (5) 遺伝毒性、染色体異常について (1) 健康権について (2) 自己決定権について (3) 適正手続き侵害について a) 問題点1 フッ化物のう蝕減少貢献度とう蝕予防の政策措置の必要性 b) 問題点2 水道フッ素化政策は、適正手続きを定めた憲法31条にも反するについて ( 4 ) 水道法の法意について 添付資料: 水道水フッ化物添加の安全性と有効性に関する権威ある機関による再検討の事例 (Examples of authoritative reviews of the safety and/or effectiveness of fluoriodation) 1.背景 1) 科学情報評価を第三者機関に委託したといえるか。 問題点 「薬害会議−意見書」1頁、薬害オンブズパースン会議は「EBMビジランス研究所」、「医薬品・治療研究会」に調査を委託したということについて 解説:委託先の「EBMビジランス研究所」、「医薬品・治療研究会」は民間の医薬品監視機構として活動しているというが、これらの「研究所」「研究会」はう蝕とフッ化物の応用に関する専門的な研究機関ではない。「委託先」の「EBMビジランス研究所」(所長 濱六郎)、「医薬品・治療研究会」(代表 別府宏國)の代表者は薬害オンブズパースン会議のメンバーである(Medwatcher Japan No.12 、p.2、 2001.10.1、薬害オンブズパースンタイアップグループ発行)。 「薬害会議−意見書」は、いかにも第三者的な、中立、公平な立場からの意見との印象ではあるが、医薬品監視を専門とする薬害オンブズパースン会議の身内での検討といえる。これらの研究所と研究会には、う蝕とフッ化物応用に関しての専門家は含まれていない。 薬害オンブズパースン会議は「薬害会議−意見書」の妥当性を主張しているが、評価された世界の研究文献の数、質の面から評価できる論文をどの程度採用しているか不明であり、エビデンスレベルの評価方法も明らかにしていない。 問題点 「薬害会議−意見書」1頁、「薬害オンブズパースン会議は「委託先」の「文献−調査報告書」の妥当性を主張し、世界の研究文献を収集し、エビデンスレベルを評価し、有益性と危険性のバランスを検討したとしている。」について 解説: 「委託先」のこれら民間機関の分析では、歯科医学的な面からみて、う蝕とフッ化物に対する基礎的ならびに疫学的知識の不足は否めない。斑状歯(歯のフッ素症)の質的評価についても、極く微量のフッ化物である0.1ppmで6.3%に美容的に問題がある歯のフッ素症が出現すると記載しているが、そのような調査結果はこれまで報告されたことはない。 また、日本の自然の状態で摂取するフッ化物量と、水道水や他の手段により調整された場合に摂取する量の合計から予測される水道水フッ化物添加の有益性と危険性のバランスを検討したというが、その計算方式には全く科学的な根拠はない。日本の食事は欧米のそれよりフッ化物摂取は0.45mg多いというように、根拠のない数字が持ち出されている。 一方、彼らは「世界でこれまで実施された疫学的な調査研究文献を収集」したというが、現在までにWHO、FDI、ORCA、英国王立医学、米国公衆衛生局、ヨーク大、CDC(米国疾病管理予防センター)など世界の権威機関がレビューを行い、水道水フッ化物添加の安全性と有効性を認めている。「薬害会議−意見書」が、このような世界の専門機関のレビュー(*)を上回っているという証拠はどこにもない。 また、「文献−調査報告書」は、システマティックレビューといいながら、以下の各項目で指摘するようにその内容はこれまで蓄積された文献を一部かつ断片的につまみ食いしており、全体的、総合的、あるいは系統的な評価になっていない。したがって、「薬害会議−意見書」の記述から、偏ったレビューであると解される。 (*)添付資料:水道水フッ化物添加の安全性と有効性に関する権威ある機関の再検討の事例 (Examples of authoritative reviews of the safety and/or effectiveness of fluoridation): British Fluoridation Society, 2000.
2.「薬害会議−意見書」と世界的な歯学および医学会見解との相違について 1950年代以降、世界の歯学および医学の専門機関は幾度となく水道水フッ化物添加の安全性と有効性について科学的に解明してきた。それらを基に、世界の150に及ぶ歯学、医学および保健専門機関が水道水フッ化物添加を支持し、推奨している。 ところが、 「薬害会議−意見書」においては、独自の限られた調査による特異な主張が展開されている。「薬害会議−意見書」の問題点について、項目ごとに以下に記す。 その内容をまとめると、@水道水フッ化物添加によるう蝕予防効果を過小評価ないし否定、A斑状歯の質的な程度を無視した短絡的な表現、B実証されていない全身への有害作用の主張がなされており、薬害オンブズパースン会議の「危険性が相当な程度で予測され、危険性を上回る有益性はない」とする主張は、う蝕予防とフッ化物応用の専門家ではないための誤解から生じた意見といえる。 したがって、このような過った主張を基に、「健康権、個人の自己決定権などを侵害する」という意見には合理性がないので、当然ながら法的な解釈も棄却されるべきである。 なぜならば、世界の歯学、医学および保健専門機関が水道水フッ化物添加は最も安全で、かつ有効な歯科公衆衛生的方法であると推奨し、現在では3億1千万人以上の人々が日常的に水道水フッ化物添加の利益を得ている。21世紀における歯科保健施策の方向性は、先ずう蝕をつくりにくい社会の環境整備である。水道水フッ化物添加はこの社会的方策の優れた典型例として位置づけられている。
3. 有益性と危険性 1) う蝕予防効果 フッ化物応用によるう蝕予防効果については、これまで莫大な研究が行われ、科学的に証明されている。よって、多くの国において、フッ化物の全身応用および局所応用が実施されている。特に、水道水フッ化物添加によるう蝕予防効果については、多くの研究機関や専門団体が推奨しており、その根拠となる研究も数多く示されている。 また、先進諸国におけるう蝕の減少は、フッ化物の種々の応用法が普及したことによるものであり、フッ化物応用によるう蝕予防効果は明らかである。 a) 問題点1 「薬害会議−意見書」2頁、「水道水へのフッ素添加によって齲歯(いわゆる「虫歯」のこと)を減少させる効果が多少認められるとの疫学調査の報告があるが、これは調査時期(年代)による補正が行われてなく、方法論的に不十分な調査である。」について 解説:フッ化物が、1945年上水道に適正に濃度調整をして地域住民に供給するようになった背景は、1930年代、1940年代に実施された米国公衆衛生局のDeanらの天然に含まれていた飲料水中フッ化物濃度と歯のフッ素症とう蝕罹患状況の広大な疫学調査結果に基づいている。その結果、飲料水中フッ化物濃度を1.0〜1.2ppmに調整すれば、う蝕が予防できるのではないかとの仮説を検証するために、米国の3つの州とカナダの1つの州において都市を対象に、1945年から前向き野外研究が行われた。13〜15年以上にわたる経年的断面調査から、上水道に適正なフッ化物を調整した地域では、50〜70%のう蝕抑制効果があることが判明した。 水道水フッ化物添加によるう蝕予防効果の初期(1950年代)の研究では、高いう蝕予防効果が報告されたが、1979年〜1989年に米国で行われたう蝕予防効果のレビューによると8〜37%(平均26.5%)と報告されている。米国のう蝕は、水道水フッ化物添加された地域、水道水フッ化物添加されていない地域ともに減少している。この傾向は、水道水フッ化物添加された地域で製品化された飲料水や調理飲食品が、水道水フッ化物添加されていない地域に拡散していること、さらにフッ化物配合歯磨剤の使用によるう蝕予防効果が影響している。しかし、米国だけでなく、他の国も含めた水道水フッ化物添加によるう蝕予防効果を証明した莫大な研究があり、 1991年に、23カ国の113の研究について分析が報告され、乳歯では40〜49%、永久歯では50〜59%のう蝕予防効果が認められている。 米国CDCでは、フッ化物応用に関する推奨にあたって、それぞれのフッ化物応用方法のう蝕予防効果、歯のフッ素症との関連および費用効果に関する根拠の程度を評価している。その結果、水道水フッ化物添加は、利用を支持する確固たる根拠のある方法とし、う蝕予防効果の評価方法については、無作為ではないが、よくデザインされたコントロール研究から得られた証拠としている。 われわれが日常に使用する薬剤は、ある有用な作用が基礎的に証明されて、それを毒性試験、有用性の試験、臨床試験などを経てそれぞれの効果が確認され、国の機関の認可を得て一般には販売される。このとき、新薬の効果を確認する方法としてランダム化試験法が推奨されている。同じ条件下の人々をランダムに抽出し、一方に新薬、もう片方にプラセボを用いて行う試験法である。 フッ化物がう蝕予防に有効であるというEBMは、すでに疫学調査で明らかにされており、また有効な濃度についても自然の飲料水のフッ化物濃度とう蝕発生の関係が明らかになっている。この結果に基づき、米国では1945年から飲料水中フッ化物濃度が低くう蝕の多い地域において適正濃度に調整した水道水が地域に供給されている。 b) 問題点2 「薬害会議−意見書」2頁、「近年の齲歯減少により、フッ素添加が齲歯減少に貢献する割合(有益性)は著しく減少している。」について 解説: 今回示されている(「薬害会議−意見書」2頁、図2-2)すべての国において、フッ化物局所応用法が実施されている。従って、先進諸国におけるう蝕の減少は、フッ化物の種々の応用法が普及したことによるものであり、フッ化物応用によるう蝕予防効果は明らかである。 先進国では、近年う蝕罹患傾向が減少している。この傾向を世界の専門家は、水道水フッ化物添加が実施されている国では水道水フッ化物添加を1番の理由に上げ、水道水フッ化物添加が実施されていない国ではフッ化物配合歯磨剤をその理由としている。 今回示された図2-2は、世界の先進国における12歳児う蝕(DMFT)本数の推移と水道水フッ化物添加の有無という単一の要因によりう蝕減少傾向を説明している。この中で水道水フッ化物添加されていない国のうち日本、オランダを除いた国々では天然にフッ化物が入っている上道水を供給している。また、イタリア、日本を除いた国では、全身的なフッ化物応用法としてフッ化物錠剤が用いられている。さらに、今回示されているすべての国において、フッ化物局所応用法が実施されており、先進国におけるう蝕の減少は、フッ化物の種々の応用法が普及したことによるものである。 また、日本においても乳幼児や12歳児のう蝕は減少している。しかし、成人(年齢群別)のう蝕罹患傾向は、変化がないあるいはわずかに増加している。12歳児以降年齢のう蝕罹患傾向を日本と水道水フッ化物添加実施国と比較するとう蝕の減少は十分ではなく大きな差がある。水道水フッ化物添加実施国の一つであるオーストラリアでは、12歳児のDMFTは0.8であるのに対して日本では2.44と、約3倍の開きがある。日本では12歳から14歳までの2年間にDMFTは2.44から5.22と約3本の増加を示すのに対し、オーストラリアでは0.8から1.3と約0.5本の増加である。年齢とともに、日本とオーストラリアの差は大きくなる。一方、う蝕の有病率を比較すると、日本では12歳児で72%、14歳児で85%であるのに対し、オーストラリアではそれぞれ37%、47%であり、依然として大きな開きがある。このように水道水フッ化物添加実施国と実施していない国の差は歴然としており、水道水フッ化物添加による有益性は減少していない。 さらに、成人期には歯周病の進行に伴い根面う蝕の発生が問題となるが,高齢者集団(70歳)に対する2年間の追跡調査によると、根面う蝕の発生者率は35.9%であり、歯牙の喪失リスクの視点からも予防は緊急の課題である。根面う蝕に対する水道水フッ化物添加の予防効果に関する研究報告は、1980年ごろから行われている。1990年に、Stammらは、これまでの根面う蝕に対する水道水フッ化物添加の予防効果の研究を総括した。歯根面う蝕の有病者率、う蝕経験歯数ともに統計的にも明らかに水道水フッ化物添加地域の方が低い値を認めている。このように、生涯を通じたう蝕予防効果が期待できる水道水フッ化物添加は有益である。
日本ではう蝕予防を目的として水道水フッ化物添加を行った地域が3箇所(京都山科地区、三重県朝日町、米軍の管理下にあった沖縄本島)あったが、現在は実施していない。しかし、水道水フッ化物添加を中止したのは、斑状歯の問題ではなく、給水量の拡大、水源の変更および行政権の日本への返還という理由である。 また、日本における水道水フッ化物添加の実施は、問題となる歯のフッ素症を増やすことなく、むし歯0の子を150万人増やし、乳歯、永久歯を合わせたむし歯の総本数を3,800万本減らすことが可能である。 a) 問題点1 「薬害会議−意見書」3頁、「日本では、過去にう蝕予防を目的にして水道水にフッ素添加を行った自治体があったが、斑状歯の問題などによって現在ではこれを実施している自治体はない。」について 解説:日本で初めての水道水フッ化物添加は1952年京都山科地区において、0.6ppmのフッ化物濃度で、京都大学医学部美濃口 玄教授の指導の下に開始された。その結果、明らかなう蝕予防効果が認められたにもかかわらず、13年後には中止されることになった。この中止の直接の理由は、この事業が厚生省の委託研究で10〜15年の期限付きであったこと、また、山科地区の給水量の拡大に伴い他の浄水場より一部給水されることで調査目的の継続性が失われたことであった。 三重県朝日町では、1967年11月より三重県歯科医師会の協力の下に、0.6ppmのフッ化物濃度で水道水フッ化物添加事業が開始された。しかしながら、この事業は1971年9月に中止されてしまった。中止の理由は水源変更によるものであった。実施期間が短かったため、う蝕予防効果および斑状歯の発現率は確認されていない。 米軍の管理下にあった沖縄では、1957年より1973年にかけて順次水道水フッ化物添加が実施されていた。しかしこの期間中には歯科保健調査が行われていなかったためう蝕予防効果も斑状歯の出現率も示されておらず、行政権の日本返還を機に水道水フッ化物添加は中止されることになった。 以上の説明から、水道水フッ化物添加事業の中止は、すべて斑状歯の問題ではないことが明らかである。
b) 問題点2 「薬害会議−意見書」3頁、「水道水のフッ素による斑状歯被害について市に損害賠償責任を認めた判例がある(神戸地裁尼崎支部昭和61年10月9日判決)。」について 解説:水道水のフッ化物による斑状歯被害について西宮市に損害賠償責任を認めた判例は、1審の神戸地裁尼崎支部で昭和61年10月9日に出された判決としてあるが、その後上告審判決において、西宮市の損害賠償責任は否定され、原告の請求は棄却されている(2審大阪高裁平成元年6月20日判決、最高裁平成5年12月17日3小法廷判決)。 宝塚市の斑状歯問題は、昭和46年5月に、同市内の小学校の歯科検診で、学童の歯に多数斑状歯症状が見られるという朝日放送の報道により始まった。同月内に市は「宝塚市フッ素問題研究協議会」を発足させ、事態の究明を図ったが、昭和56年2月には被害者32名を原告とする「斑状歯による損害賠償請求事件」として、大阪地方裁判所へ提訴された。また、同様の民事訴訟は昭和53年に西宮市でも起こり、1審においては被告の過失を認め、請求を一部容認する判決が下されたが、その後2審では被告である市の過失を否定し、1審判決を取り消して原告の請求を棄却した。この判決を不服とする原告はさらに上告したが、平成5年12月最高裁において、宝塚・西宮両市の「損害賠償請求事件」は「水道の設置・管理の瑕疵及び水道事業を経営する市の担当職員の過失が否定」されて結審となった。 この宝塚市の事件は、夏場の渇水期に、通常は用いていなかった第4水源の水を従来の貯水池に引水したことから発生した。それは宝塚温泉地帯特有の高濃度のフッ化物を含んだ水であった。水源を変えたことでその後には斑状歯の発生はない。また、市では昭和57年に「宝塚市斑状歯の認定及び治療の給付に関する条例」を設け、1,300名を超える認定患者の治療補償を実施してきた。 薬害オンブズパースンの意見書では、このような経過を説明せずに「市の損害賠償責任」を認めたかのような記述がされている。宝塚斑状歯の問題は天然の高すぎるフッ化物濃度であり、調整した水道水フッ化物添加によるものではない。 c) 問題点3 「薬害会議−意見書」3頁、「欧米の場合、フッ素濃度が0.4ppmの水道水にフッ素を添加して1.0ppmとした場合、6人につき1人の割合で、う歯のない子が増える一方、何らかの程度の斑状歯が少なくとも1本ある子が1人増え、その4人に1人は美容上も問題になる斑状歯を持つことになる、と報告されている。結局、日本においては、フッ素を水道水に添加してう歯を1〜2本減らそうとすると、美容上問題になる程度の斑状歯を持つ子が1人出現する可能性がある。」について 解説:諸外国における最近の歯のフッ素症問題は、複合して利用される各種フッ化物源からのフッ化物摂取によるものである。 米国では、水道水フッ化物添加地区でフッ化物錠剤が処方されるという誤った形のフッ化物利用で歯のフッ素症の増加がみられる地域がある。また、うがいができない1歳前後の子供がフッ化物配合歯磨剤を使い、結果として飲み込んでいる、さらに極端な話として歯磨剤を食べている子がいるといった報告がみられ、これによる歯のフッ素症も話題となっている。歯のフッ素症の発現を水道水のフッ化物濃度との関係だけで評価できる時代ではない。 Riordanは最新の報告書で、オーストラリアの水道水フッ化物添加実施地区において、フッ化物錠剤の処方を厳しく制限し、低フッ化物濃度の歯磨剤の市販を広めた結果、歯のフッ素症の発現割合が減少し始めた例を紹介している。 歯のフッ素症を検討する際に、注意すべき点が幾つか存在する。これら抜きの検討は結論を大きく誤る危険があるので、先ずはこれらの注意点を整理しておく。 * 歯のフッ素症を検討する上での注意点 (i) 歯のフッ素症は、歯のエナメル質が形成される時期に過量のフッ化物を摂取することによって発現するエナメル質形成不全の1つである。なお、エナメル質の形成に障害を与える原因は多く、文献的には約100種類もの原因があげられている。水道水中の過量のフッ化物はその多くの原因の1つであることを忘れてはならない。 (ii) 上記歯のフッ素症のメカニズムから、歯のフッ素症は、同時期に形成される歯にはほぼ同じ症状が現れることになる。よって左右の同名歯は過量のフッ化物を含む水道水を形成期間中に経験すると、ほぼ同じ症状を表す。逆に言えば、左右の同名歯の1本だけが症状を持っている場合にはフッ化物以外の局所的原因が関係していると解釈する方が合理的である。 d) 問題点4 検討材料としたNHS-CRDのレビューの内容と問題点と、それを材料とするEBMビジランス研究所ならびに医薬品・治療研究会の解釈の問題点 解説: 表 NHS-CRDのレビューに掲載された歯のフッ素症および 審美的に問題となる歯のフッ素症を持つ人の割合
*:審美的に問題とならない斑状歯 **:審美的に問題とならない斑状歯の割合 (注:NHS-CRDのレビュー p. 36 Table 7.1、 p. 38 Table 7.7を基に作成) @ 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点1」 「歯のフッ素症、歯のフッ素症を含むエナメル斑を評価する疫学指標は各種存在し、NHS-CRDのレビューでは、歯のフッ素症を持つ人の割合をTSIF、 T&F、 DDE scoreで0より大きなもの、またDeanの分類におけるQuestionable以上のものを持つ人の割合としている(NHS-CRDのレビュー 34頁)。」について 解説:上記注意点の@〜Cに示したように、Deanの分類基準においても、他の各種指標においても歯のフッ素症を持つ者の割合を過剰に評価することになる。 A 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点2」 「フッ素によらないエナメル斑も含んでおり、割合は真の歯のフッ素症割合を過剰に評価していると記載されている(NHS-CRDのレビュー 34頁)。」について 解説:「文献−調査報告書」にはこの重要な記述が抜けている。 B 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点3」 「歯のフッ素症を持つ者の割合は水道水中フッ化物濃度と関係があった。」について 解説:新たな知見ではない。しかしNHS-CRDによる表中のA:歯のフッ素症(全体)は、審美的に問題とならない歯の小さな白点や白線などを多く含んでいるということを忘れてはいけない。差をC:(A - B)で、また割合をD: (A-B)/A×100で示した。ここに示されたものの67〜79%は審美的に問題とならないものである。 C 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点4」 「審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合は水道水中フッ化物濃度と関係があった。」について 解説:新たな知見ではない。表からは、A:歯のフッ素症(全体)、B: 審美的に問題となる歯のフッ素症のいずれについてもNHS-CRDのレビューには「フッ素によらないエナメル斑も含んでおり、割合は真の歯のフッ素症割合を過剰に評価している(NHS-CRDのレビュー
34頁)」と記載されている。例えば0.1ppmでも6%の審美的に問題となる歯のフッ素症が発現していることになっているが、歯学、医学の病理学に基づいた因果関係情報からは考えられない数値である。すなわちこの6%の歯の異常はフッ化物によらないエナメル斑と考えた方が妥当である。同様に0.2〜1.2ppmのフッ化物濃度における所有者6〜12%にも、一定の割合でフッ化物によらないエナメル斑が存在していることになり、ここに示された関係はさらに弱いものとなってしまう。 「歯のフッ素症(全体)を持つ者の割合は、0.4ppm-1.0ppm比較、0.4ppm-1.2ppm比較で、それぞれ15.7%、18.9%の差となっている(NHS-CRDのレビュー37頁)。」について 解説:ここに、「6人が1.0ppmの水の供給を受ければ新たに1人がフッ素症を持つようになる(NHS-CRDのレビュー37頁)」との表現がみられるが、これは見かけ上問題とならない歯のフッ素症(普通の生活ではまったく問題とならない)を多く含んだ割合を評価したものであることを忘れてはいけない。 E 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点6」 「審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合についての解析の部分には、審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合は、0.4ppm-1.0ppm比較、0.4ppm-1.2ppm比較で、それぞれ4.5%、6.5%と差は小さくなっている(NHS-CRDのレビュー39頁)。NHS-CDRレビューでは、このことについて、信頼区間に無限infinityを含んでいることは、リスクがないという可能性を意味している。これは割合の差が統計学的に有意ではないことによるものである(信頼区間が0を含んでいる)と記述されている。」について 解説:上記内容は、審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合については、0.4ppm-1.2ppmの範囲において、増える、増えない、いずれとも言えないということである。しかしながら、「文献−調査報告書」では、この部分について次のように記述している。 「NHS-CRDでは、95%信頼区間が0を含んでいるため、統計学的に有意でないから、差があるとは言えないとの判断をしている。しかしながら、フッ素濃度を増加させれば明瞭に斑状歯は増加するのだから、この差は意味があると考えるべきものである。」 F 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点7」 「レビューでは、さらに解析がすすめられ7.3 Sensitivity analysis(NHS-CRDのレビュー39頁)が行われている。この解析において水道水中フッ化物の高濃度群の存在は、1ppm付近のフッ化物濃度と歯のフッ素症との関係を検討する上で、必要性は少なく、さらには真に存在する関係を強調しすぎるという理由で1.5ppm以上のデータ群を除外して解析しなおしている。」について 解説:フッ素症を持つ者、審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合はいずれも水道水中フッ化物濃度との間に、全体の解析とほぼ同様の関係を表していたが、オッズが低く、信頼区間もより幅が広くなり、関係の強さは弱くなっていた。 G 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点8」 「Sensitivity analysisでは、フッ素症を持つ者については、0.4ppmと1.0ppmでは、それぞれ33%、46%となり(NHS-CRDのレビュー40頁)、1人が持つためには8人が追加して水道水フッ化物添加地区に居住しなければならないことになる。」について 解説:この内容を、審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合について当てはめると、1人が持つためには33人が追加して水道水フッ化物添加地区に居住しなければならないことになり(NHS-CRDのレビュー41頁)、人数は大きくなる。結果的に、歯のフッ素症の発現の可能性はさらに低いものとなる。これに、フッ化物によらないエナメル斑の発現割合を勘案すると、この数値の信頼性は、より低いものとなる。 e) 問題点5 「薬害会議−意見書」3頁、「日本は欧米に比べ天然水にすでにフッ素が多量に含まれている」について 解説:上記に関して根拠は示されていないが、米国では1,924地域、3,784ヵ所の公共水系の水を、また、およそ1千万人がフッ化物濃度0.7ppm以上の天然由来の水を利用していることが報告されている。わが国では、96.6%が水道の供給を受けている。このうち、原水においては、浄水場5,550施設中31施設で0.65ppm以上の水が取水されており、浄水では浄水場5,709施設中7施設において供給されている。この数値を米国と単純に比較することはできないが、決して欧米に比べ多量に含まれているとは言えない。 f) 問題点6 「薬害会議−意見書」3頁、欧米では硬水のために添加されたフッ素が難溶性のフッ化カルシウムとなって体内に吸収される率が日本に比べて少ない」について 解説: フッ化物イオンがカルシウムと結合してフッ化カルシウムとなるためには、フッ化物イオンとして8.0ppm以上の濃度が必要である。水道水フッ化物添加により調整されるフッ化物濃度は1.0ppm前後であるために、フッ化カルシウムとはなりえない。また、サチュレーター装置の場合は、4%フッ化ナトリウムの飽和溶液となるため、硬水を前処理として、軟水器に通し、軟水に交換した状態で使用されており、上記のような問題は発生しない仕組みとなっている。 g) 問題点7 「薬害会議−意見書」3頁、「日本で現行水道法の規制のフッ素添加上限である0.8ppmまで添加したとすれば、欧米よりも食事からのフッ素摂取は0.45ppm多くなり、1.25ppmのフッ素添加水道水を飲用するのと同等の影響が現れると考えておくべきである。」について 解説:「NHS-CRD報告のまとめ」にはない増加分の考え方を展開しているが、NHS-CRD報告はあくまで飲料水中のフッ化物濃度(ppm)と斑状歯との関連性を評価したものである。食事等に由来するフッ化物摂取量の増加分の考え方を保障するものではない。したがって増加分の考え方は「NHS-CRD報告のまとめ」からは逸脱した結論を導くことになる。 さらに、増加分の考え方はフッ化物の生体反応性の違いを考慮していない。飲料水由来のフッ化物と、その他、食事や嗜好品等に由来するフッ化物に対する生体利用能(吸収率)は同じではない。食品由来のフッ化物の生体利用能は高くない。 「日本では、すでに欧米での0.45 ppmのフッ素化に相当する水道水を利用しているのと同じ効果がある」と述べている。この主張が正しいとすると、NHS-CRD報告で指摘されているように33%以上の斑状歯有病を、あるいは8.2%以上の審美的に問題とすべき斑状歯有病がすでに認められていなければならないことになる。わが国においてそのことを支持する研究内容はこれまでに報告されていない。このことはそのような前提が成り立たないことを意味している。 「薬害会議−意見書」3頁1.25ppmの濃度の水道水で斑状歯のできる程度を欧米の研究から算出すると、何らかの斑状歯は52%、美容上問題になる程度以上の斑状歯は14.5%に生じることになる。」について 解説:「薬害会議−意見書」は「日本での0.8 ppmのフッ化物添加は、欧米における1.25 ppmに相当する」と述べている。問題点7で指摘したが、この前提が成り立たないことを考慮すれば0.45 ppmの濃度を上乗せして考えておくべきであるとの主張は受け入れられない論旨の展開である。しかも、NHS-CRD報告の原文では、審美的に問題にしている歯のフッ素症は、必ずしもフッ化物が原因ではない場合も含まれることを明確に述べているが、薬害オンブズマンパースン会議はその点についてはふれてはいない。日本で水道水フッ化物添加が実施された場合、審美的に問題となる斑状歯の発現率が高くなる点のみを強調する表現となっている。しかも、0.8ppmの水道水フッ化物添加によって美容上問題となる斑状歯は発生していないとする、日本における斑状歯疫学調査を参考にしていない。 i) 問題点9 「薬害会議−意見書」3頁「欧米よも高温傾向のある日本では、水をより多く飲むことを考慮する必要がある。」について
表3の詳細(下表)
*:水、茶、ジュース、スポーツ飲料、牛乳など
3) 全身疾患 (1) 骨について 水道水フッ化物添加の実施により骨折の発生頻度が増加する証拠はない。 問題点 「骨粗鬆症患者へのフッ化物療法の有効性・安全性に疑問があるので、水道水フッ化物添加にも問題がある」について 解説:骨粗鬆症患者へのフッ化物療法においては、水道水フッ化物添加に比べて遙かに大量(F- にして数十mg)のフッ化物を含む製剤が用られており、1ppm F- 程度に調整される水道水フッ化物添加と同一論点で考えることは妥当でない。両者は目的も用量も全く異なるものである。 飲料水中のフッ化物濃度と骨折の関係については、「文献-調査報告書」中で紹介されたNHS-CRD報告の他、以下に示すレビューにおいても、水道水フッ化物添加の実施により骨折の発生頻度が増加することはない、と結論されている。これらの調査の中では、至適フッ化物濃度の飲料水を長期間継続摂取していた高齢女性では、大腿骨頸部骨折(hip fracture)の発生率が有意に低かったことを示している報告もある。 なお、骨粗鬆症患者に対するフッ化物療法の有効性については、Haguenauerらのシステマティックレビューで示されたごとく、まだ確固たる根拠が得られていない現状にある。しかし、1995年以降、Pakらの報告により有効性が示された徐放型フッ化ナトリウム製剤(slow-release NaF)では有効性が認められ、副作用も限られていることから、FDAにより治療薬として認可されるに至っている。 (2) 発がん性について 水道水フッ化物添加が1945年に開始されてから、ヒトを対象とした多くの疫学調査や動物実験が広範にかつ継続的に行われてきたが、水道水フッ化物添加ががん発生のリスクを高めるという証拠は認められていない。 − 動物実験 − a) 問題点1 「38頁、6-10行目: NTP研究、「骨肉腫が、雄の中等用量群で50匹中1 匹、高用量群で80匹中3 匹(皮下に発生したものを含めると4匹)で発生した(対照群と低用量群では発生なし)。弱いながらも用量反応関係を認めた(対照群0/80、11ppm 群0/51、45ppm 群1/50=2%、79ppm 群3/80=4%(4/80=5%) )。ロジスティック回帰分析では P=0.027であった(皮下の骨肉腫を含めると p=0.010)。」について 解説:弱いながらも用量反応関係を認めたとされているのは、本研究のうちequivocal (どっちにもとれる、あいまいな関連性)との評価となった雄ラットの結果である(下表)。一方、雌ラット、またマウスの雄、雌の実験系においては用量反応関係が認められなかった、と原報告書には記載されている。 トレンドテストではP=0.027であったが、対照群とフッ化ナトリウム投与群のpair wise comparison(対比較)では、P=0.380(45ppm F)、P=0.099(79ppm F)で対照群との間に有意差は認められていない。 雄ラットhistorical control群における硬組織以外の組織も含めた骨肉種の発生率は0.5%であり、雄ラットhistorical controlに属する単一群の最大発生率は6%である。しかし、雄ラットhistorical control群の餌に含まれていたフッ化物濃度が今回の研究対照群よりも高かったことを考慮する必要がある。 追加解説: NTP研究について、各臓器における悪性腫瘍の発生状況を評価するうえで、2年という研究期間を考慮することも参考となる。マウス、ラットにとって、2年間の本実験期間は平均寿命に近い。よって、この間に多くの固体の各臓器に何らかの異常が生じていた。雄ラットの場合、下表のごとく、各臓器に生じた全悪性腫瘍の発生率に量用反応関係はまったく認められていない。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 対照群(0ppmNaF群) 25ppmNaF群 100ppmNaF群 175ppmNaF群 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 全悪性腫瘍 発生率 54/80(73%) 31/51(61%) 26/50(52%) 62/78(78%) ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 38頁、11-14行目: 「ラットでは、弱いながらも、口腔内の偏平上皮がん(舌、口蓋、歯肉)が増加(0/80、 1/51、 1/50、 2/80) を認め、偏平乳頭腫を合わせると、より強い用量依存性の増加を認めている(0/80、 1/51=2%、 2/50=4%、 3/80=4%)。同様の傾向は、雌でも認められている(1/80=1%、 1/51=2%、 1/50=2%、 3/80=4%)。」、と紹介されている。 解説: 「文献-調査報告書」の表記は正確でない。NTPのTable 11によれば、口腔の乳頭腫(良性)が(0/80、 1/51、 1/50、 2/80)であり、口腔粘膜の扁平上皮がんは(0/80、 0/51、 1/50、 1/80)である。両方を合わせると(0/80、 1/51=2%、 2/50=4%、 3/80=4%)となるが、NTPの「Results」では、「対照群と比較して統計学的に有意に多くはなかった; it was not significantly greater than that of the control groups」と述べられている。 また以下に示すように、この種のラットにおいて口腔扁平上皮がんは稀な発生で、historicalなuntreated 対照群の雄で0.7%、雌で0.6%の発生率であり、単一対照群での最高発生率が4%である。扁平上皮がんはpaired
control群の雄1匹、雌1匹でも発生しているので、フッ化ナトリウムを投与されたラットの扁平上皮新生物が化学的なものと関連するとは考えられない、としている。またフッ化ナトリウム投与群の発生率はhistorical
control群での発生率の範囲内であることから、フッ化ナトリウムが口腔粘膜の新生物を引き起こす原因となっているという証拠は無いと結論付けている。 38頁、15-19行目: 「甲状腺についても、ろ胞細胞腫(follicular cell neoplasm)も高用量群で増加する傾向が認められた。そのままでは統計学的には有意でないが、中間対照群や年齢をマッチさせた対照群を主実験の対照群と合わせて対照群とすると、ロジスティック回帰分析によるトレンドはp=0.027 となる。 雌のラットや、マウスでは雄も雌も骨肉腫の発生を見ていない。」とNTP報告を紹介している。 解説:濾胞細胞新生物には、濾胞細胞腺腫と濾胞細胞がんの両方が含まれている。「文献-調査報告書」の説明では「ロジスティック回帰分析によるトレンドはp=0.027 となる。」という |