薬害オンブズパースン会議意見書に関する解説

「厚生科学研究歯科疾患の予防技術・

治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究班」

「日本口腔衛生学会」

平成147月25日


項 目

1.背景

1)                      科学情報評価を第三者機関に委託したといえるか
2)                        科学論文レビューの基本コンセプトの相違

2.「薬害会議−意見書」と世界的な歯学および医学会における見解との相違について 
3.有益性と危険性
   1)                       う蝕予防効果
         a)            問題点1 う蝕予防効果に関する疫学調査について
         b)           問題点2 齲歯減少に貢献する割合(有益性)

2)                       斑状歯(歯のフッ素症)

 
a)            問題点1 過去の水道水フッ化物添加実施と中止理由

b)           問題点2 斑状歯被害について

c)            問題点3 日本における水道水フッ化物添加実施後の斑状歯の出現について

d)           問題点4 NHS-CRDレビューの内容とその解釈の問題点

e)            問題点5 日本は欧米に比べ天然水にすでにフッ素が多量に含まれているについて

f)              問題点6 欧米の硬水による影響について

g)            問題点7 欧米と日本とのフッ化物摂取量

h)          問題点8 斑状歯出現率について

i)             問題点9 飲水量について

3)                        全身疾患

(1)     骨について

(2)     発がん性について                                                          

− 動物実験 −

a)            問題点1 NTP研究骨肉腫と用量反応関係について

b)           問題点2 ラットの口腔内偏平上皮がん、偏平乳頭腫の用量依存性の増加について

c)            問題点3 ろ胞細胞腫について

d)           問題点4 悪性リンパ腫の調整発生率と用量依存的増加について

e)            問題点5 NTP報告の骨肉腫発生関連の結論について

f)             問題点6 NTP研究におけるラットから換算された人の日常フッ化物摂取量
g)            問題点7 Procter and Gamble社の発がん実験

− 疫学調査 −

h)           問題点8 Yiamouyiannis による疫学調査

i)               問題点9 フッ化物と発がんの関連性についてのまとめについて

j)               問題点10 Lynch(1984年)の調査について

k)            問題点11 発がん開始因子と発がん促進因子について

l)               問題点12 日本における疫学調査:沖縄県について

(3)     ダウン症について

a)            問題点1 Rapaportの報告とフッ素とダウン症の関連性

b)           NHS-CRDレビューの内容と専門機関の重要な指摘

(4)     死亡率への影響について                                              

a)            問題点1 疫学調査での死亡率への影響について

b)           問題点2 用量依存性反応の可能性について

c)            問題点3 動物実験結果からみた水道水フッ化物添加の悪影響について

(5)     遺伝毒性、染色体異常について

4.法的問題点について                                                      

(1)            健康権について

(2)            自己決定権について

(3)            適正手続き侵害について                                                

a)         問題点1 フッ化物のう蝕減少貢献度とう蝕予防の政策措置の必要性

b)        問題点2 水道フッ素化政策は、適正手続きを定めた憲法31条にも反するについて

  ( 4 )   水道法の法意について

参考文献・

添付資料: 水道水フッ化物添加の安全性と有効性に関する権威ある機関による再検討の事例

(Examples of authoritative reviews of the safety and/or effectiveness of fluoriodation) 


1.背景

1) 科学情報評価を第三者機関に委託したといえるか

問題点

「薬害会議−意見書」1頁、薬害オンブズパースン会議は「EBMビジランス研究所」、「医薬品・治療研究会」に調査を委託したということについて

解説:委託先の「EBMビジランス研究所」、「医薬品・治療研究会」は民間の医薬品監視機構として活動しているというが、これらの「研究所」「研究会」はう蝕とフッ化物の応用に関する専門的な研究機関ではない。「委託先」の「EBMビジランス研究所」(所長 濱六郎)、「医薬品・治療研究会」(代表 別府宏國)の代表者は薬害オンブズパースン会議のメンバーである(Medwatcher Japan No.12 、p.2、 2001.10.1、薬害オンブズパースンタイアップグループ発行)。

「薬害会議−意見書」は、いかにも第三者的な、中立、公平な立場からの意見との印象ではあるが、医薬品監視を専門とする薬害オンブズパースン会議の身内での検討といえる。これらの研究所と研究会には、う蝕とフッ化物応用に関しての専門家は含まれていない。

2) 科学論文レビューの基本コンセプトの相違

薬害オンブズパースン会議は「薬害会議−意見書」の妥当性を主張しているが、評価された世界の研究文献の数、質の面から評価できる論文をどの程度採用しているか不明であり、エビデンスレベルの評価方法も明らかにしていない。

 問題点

「薬害会議−意見書」1頁、「薬害オンブズパースン会議は「委託先」の「文献−調査報告書」の妥当性を主張し、世界の研究文献を収集し、エビデンスレベルを評価し、有益性と危険性のバランスを検討したとしている。」について

 解説: 「委託先」のこれら民間機関の分析では、歯科医学的な面からみて、う蝕とフッ化物に対する基礎的ならびに疫学的知識の不足は否めない。斑状歯(歯のフッ素症)の質的評価についても、極く微量のフッ化物である0.1ppmで6.3%に美容的に問題がある歯のフッ素症が出現すると記載しているが、そのような調査結果はこれまで報告されたことはない。

 また、日本の自然の状態で摂取するフッ化物量と、水道水や他の手段により調整された場合に摂取する量の合計から予測される水道水フッ化物添加の有益性と危険性のバランスを検討したというが、その計算方式には全く科学的な根拠はない。日本の食事は欧米のそれよりフッ化物摂取は0.45mg多いというように、根拠のない数字が持ち出されている。

一方、彼らは「世界でこれまで実施された疫学的な調査研究文献を収集」したというが、現在までにWHO、FDI、ORCA、英国王立医学、米国公衆衛生局、ヨーク大、CDC(米国疾病管理予防センター)など世界の権威機関がレビューを行い、水道水フッ化物添加の安全性と有効性を認めている。「薬害会議−意見書」が、このような世界の専門機関のレビュー(*)を上回っているという証拠はどこにもない。

 また、「文献−調査報告書」は、システマティックレビューといいながら、以下の各項目で指摘するようにその内容はこれまで蓄積された文献を一部かつ断片的につまみ食いしており、全体的、総合的、あるいは系統的な評価になっていない。したがって、「薬害会議−意見書」の記述から、偏ったレビューであると解される。

  (*)添付資料:水道水フッ化物添加の安全性と有効性に関する権威ある機関の再検討の事例 (Examples of authoritative reviews of the safety and/or effectiveness of fluoridation): British Fluoridation Society, 2000.

2.「薬害会議−意見書」と世界的な歯学および医学会見解との相違について

 1950年代以降、世界の歯学および医学の専門機関は幾度となく水道水フッ化物添加の安全性と有効性について科学的に解明してきた。それらを基に、世界の150に及ぶ歯学、医学および保健専門機関が水道水フッ化物添加を支持し、推奨している。

 ところが、 「薬害会議−意見書」においては、独自の限られた調査による特異な主張が展開されている。「薬害会議−意見書」の問題点について、項目ごとに以下に記す。

その内容をまとめると、@水道水フッ化物添加によるう蝕予防効果を過小評価ないし否定、A斑状歯の質的な程度を無視した短絡的な表現、B実証されていない全身への有害作用の主張がなされており、薬害オンブズパースン会議の「危険性が相当な程度で予測され、危険性を上回る有益性はない」とする主張は、う蝕予防とフッ化物応用の専門家ではないための誤解から生じた意見といえる。

 したがって、このような過った主張を基に、「健康権、個人の自己決定権などを侵害する」という意見には合理性がないので、当然ながら法的な解釈も棄却されるべきである。 

なぜならば、世界の歯学、医学および保健専門機関が水道水フッ化物添加は最も安全で、かつ有効な歯科公衆衛生的方法であると推奨し、現在では3億1千万人以上の人々が日常的に水道水フッ化物添加の利益を得ている。21世紀における歯科保健施策の方向性は、先ずう蝕をつくりにくい社会の環境整備である。水道水フッ化物添加はこの社会的方策の優れた典型例として位置づけられている。

. 有益性と危険性

1) う蝕予防効果

フッ化物応用によるう蝕予防効果については、これまで莫大な研究が行われ、科学的に証明されている。よって、多くの国において、フッ化物の全身応用および局所応用が実施されている。特に、水道水フッ化物添加によるう蝕予防効果については、多くの研究機関や専門団体が推奨しており、その根拠となる研究も数多く示されている。 

また、先進諸国におけるう蝕の減少は、フッ化物の種々の応用法が普及したことによるものであり、フッ化物応用によるう蝕予防効果は明らかである。

a) 問題点1

「薬害会議−意見書」2頁、「水道水へのフッ素添加によって齲歯(いわゆる「虫歯」のこと)を減少させる効果が多少認められるとの疫学調査の報告があるが、これは調査時期(年代)による補正が行われてなく、方法論的に不十分な調査である。」につい

解説:フッ化物が、1945年上水道に適正に濃度調整をして地域住民に供給するようになった背景は、1930年代、1940年代に実施された米国公衆衛生局のDeanらの天然に含まれていた飲料水中フッ化物濃度と歯のフッ素症とう蝕罹患状況の広大な疫学調査結果に基づいている。その結果、飲料水中フッ化物濃度を1.0〜1.2ppmに調整すれば、う蝕が予防できるのではないかとの仮説を検証するために、米国の3つの州とカナダの1つの州において都市を対象に、1945年から前向き野外研究が行われた。13〜15年以上にわたる経年的断面調査から、上水道に適正なフッ化物を調整した地域では、50〜70%のう蝕抑制効果があることが判明した。

水道水フッ化物添加によるう蝕予防効果の初期(1950年代)の研究では、高いう蝕予防効果が報告されたが、1979年〜1989年に米国で行われたう蝕予防効果のレビューによると8〜37%(平均26.5%)と報告されている。米国のう蝕は、水道水フッ化物添加された地域、水道水フッ化物添加されていない地域ともに減少している。この傾向は、水道水フッ化物添加された地域で製品化された飲料水や調理飲食品が、水道水フッ化物添加されていない地域に拡散していること、さらにフッ化物配合歯磨剤の使用によるう蝕予防効果が影響している。しかし、米国だけでなく、他の国も含めた水道水フッ化物添加によるう蝕予防効果を証明した莫大な研究があり、 1991年に、23カ国の113の研究について分析が報告され、乳歯では40〜49%、永久歯では50〜59%のう蝕予防効果が認められている。

米国CDCでは、フッ化物応用に関する推奨にあたって、それぞれのフッ化物応用方法のう蝕予防効果、歯のフッ素症との関連および費用効果に関する根拠の程度を評価している。その結果、水道水フッ化物添加は、利用を支持する確固たる根拠のある方法とし、う蝕予防効果の評価方法については、無作為ではないが、よくデザインされたコントロール研究から得られた証拠としている。

われわれが日常に使用する薬剤は、ある有用な作用が基礎的に証明されて、それを毒性試験、有用性の試験、臨床試験などを経てそれぞれの効果が確認され、国の機関の認可を得て一般には販売される。このとき、新薬の効果を確認する方法としてランダム化試験法が推奨されている。同じ条件下の人々をランダムに抽出し、一方に新薬、もう片方にプラセボを用いて行う試験法である。

 フッ化物がう蝕予防に有効であるというEBMは、すでに疫学調査で明らかにされており、また有効な濃度についても自然の飲料水のフッ化物濃度とう蝕発生の関係が明らかになっている。この結果に基づき、米国では1945年から飲料水中フッ化物濃度が低くう蝕の多い地域において適正濃度に調整した水道水が地域に供給されている。

b) 問題点2

「薬害会議−意見書」2頁、「近年の齲歯減少により、フッ素添加が齲歯減少に貢献する割合(有益性)は著しく減少している。」について

解説: 今回示されている(「薬害会議−意見書」2頁、図2-2)すべての国において、フッ化物局所応用法が実施されている。従って、先進諸国におけるう蝕の減少は、フッ化物の種々の応用法が普及したことによるものであり、フッ化物応用によるう蝕予防効果は明らかである。

先進国では、近年う蝕罹患傾向が減少している。この傾向を世界の専門家は、水道水フッ化物添加が実施されている国では水道水フッ化物添加を1番の理由に上げ、水道水フッ化物添加が実施されていない国ではフッ化物配合歯磨剤をその理由としている。

 今回示された図2-2は、世界の先進国における12歳児う蝕(DMFT)本数の推移と水道水フッ化物添加の有無という単一の要因によりう蝕減少傾向を説明している。この中で水道水フッ化物添加されていない国のうち日本、オランダを除いた国々では天然にフッ化物が入っている上道水を供給している。また、イタリア、日本を除いた国では、全身的なフッ化物応用法としてフッ化物錠剤が用いられている。さらに、今回示されているすべての国において、フッ化物局所応用法が実施されており、先進国におけるう蝕の減少は、フッ化物の種々の応用法が普及したことによるものである。

 また、日本においても乳幼児や12歳児のう蝕は減少している。しかし、成人(年齢群別)のう蝕罹患傾向は、変化がないあるいはわずかに増加している。12歳児以降年齢のう蝕罹患傾向を日本と水道水フッ化物添加実施国と比較するとう蝕の減少は十分ではなく大きな差がある。水道水フッ化物添加実施国の一つであるオーストラリアでは、12歳児のDMFTは0.8であるのに対して日本では2.44と、約3倍の開きがある。日本では12歳から14歳までの2年間にDMFTは2.44から5.22と約3本の増加を示すのに対し、オーストラリアでは0.8から1.3と約0.5本の増加である。年齢とともに、日本とオーストラリアの差は大きくなる。一方、う蝕の有病率を比較すると、日本では12歳児で72%、14歳児で85%であるのに対し、オーストラリアではそれぞれ37%、47%であり、依然として大きな開きがある。このように水道水フッ化物添加実施国と実施していない国の差は歴然としており、水道水フッ化物添加による有益性は減少していない。

 さらに、成人期には歯周病の進行に伴い根面う蝕の発生が問題となるが,高齢者集団(70歳)に対する2年間の追跡調査によると、根面う蝕の発生者率は35.9%であり、歯牙の喪失リスクの視点からも予防は緊急の課題である。根面う蝕に対する水道水フッ化物添加の予防効果に関する研究報告は、1980年ごろから行われている。1990年に、Stammらは、これまでの根面う蝕に対する水道水フッ化物添加の予防効果の研究を総括した。歯根面う蝕の有病者率、う蝕経験歯数ともに統計的にも明らかに水道水フッ化物添加地域の方が低い値を認めている。このように、生涯を通じたう蝕予防効果が期待できる水道水フッ化物添加は有益である。


2) 斑状歯(歯のフッ素症)

日本ではう蝕予防を目的として水道水フッ化物添加を行った地域が3箇所(京都山科地区、三重県朝日町、米軍の管理下にあった沖縄本島)あったが、現在は実施していない。しかし、水道水フッ化物添加を中止したのは、斑状歯の問題ではなく、給水量の拡大、水源の変更および行政権の日本への返還という理由である。

また、日本における水道水フッ化物添加の実施は、問題となる歯のフッ素症を増やすことなく、むし歯0の子を150万人増やし、乳歯、永久歯を合わせたむし歯の総本数を3,800万本減らすことが可能である。

a) 問題点1

「薬害会議−意見書」3頁、「日本では、過去にう蝕予防を目的にして水道水にフッ素添加を行った自治体があったが、斑状歯の問題などによって現在ではこれを実施している自治体はない。」について

解説:日本で初めての水道水フッ化物添加は1952年京都山科地区において、0.6ppmのフッ化物濃度で、京都大学医学部美濃口 玄教授の指導の下に開始された。その結果、明らかなう蝕予防効果が認められたにもかかわらず、13年後には中止されることになった。この中止の直接の理由は、この事業が厚生省の委託研究で10〜15年の期限付きであったこと、また、山科地区の給水量の拡大に伴い他の浄水場より一部給水されることで調査目的の継続性が失われたことであった。

 三重県朝日町では、1967年11月より三重県歯科医師会の協力の下に、0.6ppmのフッ化物濃度で水道水フッ化物添加事業が開始された。しかしながら、この事業は1971年9月に中止されてしまった。中止の理由は水源変更によるものであった。実施期間が短かったため、う蝕予防効果および斑状歯の発現率は確認されていない。

 米軍の管理下にあった沖縄では、1957年より1973年にかけて順次水道水フッ化物添加が実施されていた。しかしこの期間中には歯科保健調査が行われていなかったためう蝕予防効果も斑状歯の出現率も示されておらず、行政権の日本返還を機に水道水フッ化物添加は中止されることになった。

 以上の説明から、水道水フッ化物添加事業の中止は、すべて斑状歯の問題ではないことが明らかである。

b) 問題点2

「薬害会議−意見書」3頁、「水道水のフッ素による斑状歯被害について市に損害賠償責任を認めた判例がある(神戸地裁尼崎支部昭和61年10月9日判決)。」について

  解説:水道水のフッ化物による斑状歯被害について西宮市に損害賠償責任を認めた判例は、1審の神戸地裁尼崎支部で昭和61年10月9日に出された判決としてあるが、その後上告審判決において、西宮市の損害賠償責任は否定され、原告の請求は棄却されている(2審大阪高裁平成元年6月20日判決、最高裁平成5年12月17日3小法廷判決)。

宝塚市の斑状歯問題は、昭和46年5月に、同市内の小学校の歯科検診で、学童の歯に多数斑状歯症状が見られるという朝日放送の報道により始まった。同月内に市は「宝塚市フッ素問題研究協議会」を発足させ、事態の究明を図ったが、昭和56年2月には被害者32名を原告とする「斑状歯による損害賠償請求事件」として、大阪地方裁判所へ提訴された。また、同様の民事訴訟は昭和53年に西宮市でも起こり、1審においては被告の過失を認め、請求を一部容認する判決が下されたが、その後2審では被告である市の過失を否定し、1審判決を取り消して原告の請求を棄却した。この判決を不服とする原告はさらに上告したが、平成5年12月最高裁において、宝塚・西宮両市の「損害賠償請求事件」は「水道の設置・管理の瑕疵及び水道事業を経営する市の担当職員の過失が否定」されて結審となった。

 この宝塚市の事件は、夏場の渇水期に、通常は用いていなかった第4水源の水を従来の貯水池に引水したことから発生した。それは宝塚温泉地帯特有の高濃度のフッ化物を含んだ水であった。水源を変えたことでその後には斑状歯の発生はない。また、市では昭和57年に「宝塚市斑状歯の認定及び治療の給付に関する条例」を設け、1,300名を超える認定患者の治療補償を実施してきた。

 薬害オンブズパースンの意見書では、このような経過を説明せずに「市の損害賠償責任」を認めたかのような記述がされている。宝塚斑状歯の問題は天然の高すぎるフッ化物濃度であり、調整した水道水フッ化物添加によるものではない。

) 問題点3

「薬害会議−意見書」3頁、「欧米の場合、フッ素濃度が0.4ppmの水道水にフッ素を添加して1.0ppmとした場合、6人につき1人の割合で、う歯のない子が増える一方、何らかの程度の斑状歯が少なくとも1本ある子が1人増え、その4人に1人は美容上も問題になる斑状歯を持つことになる、と報告されている。結局、日本においては、フッ素を水道水に添加してう歯を1〜2本減らそうとすると、美容上問題になる程度の斑状歯を持つ子が1人出現する可能性がある。」について

解説諸外国における最近の歯のフッ素症問題は、複合して利用される各種フッ化物源からのフッ化物摂取によるものである。

米国では、水道水フッ化物添加地区でフッ化物錠剤が処方されるという誤った形のフッ化物利用で歯のフッ素症の増加がみられる地域がある。また、うがいができない1歳前後の子供がフッ化物配合歯磨剤を使い、結果として飲み込んでいる、さらに極端な話として歯磨剤を食べている子がいるといった報告がみられ、これによる歯のフッ素症も話題となっている。歯のフッ素症の発現を水道水のフッ化物濃度との関係だけで評価できる時代ではない。

Riordanは最新の報告書で、オーストラリアの水道水フッ化物添加実施地区において、フッ化物錠剤の処方を厳しく制限し、低フッ化物濃度の歯磨剤の市販を広めた結果、歯のフッ素症の発現割合が減少し始めた例を紹介している。

歯のフッ素症を検討する際に、注意すべき点が幾つか存在する。これら抜きの検討は結論を大きく誤る危険があるので、先ずはこれらの注意点を整理しておく。

* 歯のフッ素症を検討する上での注意点

(i)  歯のフッ素症は、歯のエナメル質が形成される時期に過量のフッ化物を摂取することによって発現するエナメル質形成不全の1つである。なお、エナメル質の形成に障害を与える原因は多く、文献的には約100種類もの原因があげられている。水道水中の過量のフッ化物はその多くの原因の1つであることを忘れてはならない。

(ii)  上記歯のフッ素症のメカニズムから、歯のフッ素症は、同時期に形成される歯にはほぼ同じ症状が現れることになる。よって左右の同名歯は過量のフッ化物を含む水道水を形成期間中に経験すると、ほぼ同じ症状を表す。逆に言えば、左右の同名歯の1本だけが症状を持っている場合にはフッ化物以外の局所的原因が関係していると解釈する方が合理的である。

(iii) Deanの分類では歯のフッ素症を2本以上持つ者をその所有者と判定している。しかし他の指標には、歯のフッ素症を持つ者の評価に “2本以上” という条件がなく、結果的に、かなりの確率でフッ化物によらないエナメル斑を持った者を歯のフッ素症所有者としてカウントする誤りを犯していることになる。

(iv) NHS-CRDのレビューではDeanの分類でQuestionable以上のグレードの歯のフッ素症を持つ者を所有者として解析しているが、Questionableはあくまでも「疑わしいもの」であり、これを含めた解析は少々乱暴な手法であると言わざるを得ない。正式には、次のグレードのVery mild以上の歯を2本以上持つ者を歯のフッ素症所有者、さらにModerateあるいはSevereを2本以上持つ者を審美的に問題となる歯のフッ素症所有者としている(NHS-CRDのレビュー 34頁)。

) 問題点4

検討材料としたNHS-CRDのレビューの内容と問題点と、それを材料とするEBMビジランス研究所ならびに医薬品・治療研究会の解釈の問題点

解説

表 NHS-CRDのレビューに掲載された歯のフッ素症および

審美的に問題となる歯のフッ素症を持つ人の割合

フッ化物濃度(ppm)

A:歯のフッ素症(全体)

B:審美的に問題となる歯のフッ素症

C: A-B

D: (A-B)/A×100**

0.1

18(12〜26)

6(2〜14)

12

66.7

0.2

25(18〜33)

6(3〜14)

19

76.0

0.4

33(26〜41)

7(3〜15)

26

78.8

0.7

41(33〜49)

9(4〜17)

32

78.0

1.0

46(37〜55)

10(5〜20)

36

78.3

1.2

49(40〜58)

12(6〜22)

37

75.5

*:審美的に問題とならない斑状歯  **:審美的に問題とならない斑状歯の割合

(注:NHS-CRDのレビュー p. 36 Table 7.1、 p. 38 Table 7.7を基に作成)

@ 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点1」

「歯のフッ素症、歯のフッ素症を含むエナメル斑を評価する疫学指標は各種存在し、NHS-CRDのレビューでは、歯のフッ素症を持つ人の割合をTSIF、 T&F、 DDE scoreで0より大きなもの、またDeanの分類におけるQuestionable以上のものを持つ人の割合としている(NHS-CRDのレビュー 34頁)。」について

解説:上記注意点の@〜Cに示したように、Deanの分類基準においても、他の各種指標においても歯のフッ素症を持つ者の割合を過剰に評価することになる。

A 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点2」

「フッ素によらないエナメル斑も含んでおり、割合は真の歯のフッ素症割合を過剰に評価していると記載されている(NHS-CRDのレビュー 34頁)。」について

解説「文献調査報告書」にはこの重要な記述が抜けている。

B 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点3」

「歯のフッ素症を持つ者の割合は水道水中フッ化物濃度と関係があった。」について

解説:新たな知見ではない。しかしNHS-CRDによる表中のA:歯のフッ素症(全体)は、審美的に問題とならない歯の小さな白点や白線などを多く含んでいるということを忘れてはいけない。差をC:(A - B)で、また割合をD: (A-B)/A×100で示した。ここに示されたものの67〜79%は審美的に問題とならないものである。

C 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点4」

「審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合は水道水中フッ化物濃度と関係があった。」について

解説:新たな知見ではない。表からは、A:歯のフッ素症(全体)、B: 審美的に問題となる歯のフッ素症のいずれについてもNHS-CRDのレビューには「フッ素によらないエナメル斑も含んでおり、割合は真の歯のフッ素症割合を過剰に評価している(NHS-CRDのレビュー 34頁)」と記載されている。例えば0.1ppmでも6%の審美的に問題となる歯のフッ素症が発現していることになっているが、歯学、医学の病理学に基づいた因果関係情報からは考えられない数値である。すなわちこの6%の歯の異常はフッ化物によらないエナメル斑と考えた方が妥当である。同様に0.2〜1.2ppmのフッ化物濃度における所有者6〜12%にも、一定の割合でフッ化物によらないエナメル斑が存在していることになり、ここに示された関係はさらに弱いものとなってしまう。

D 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点5」

「歯のフッ素症(全体)を持つ者の割合は、0.4ppm-1.0ppm比較、0.4ppm-1.2ppm比較で、それぞれ15.7%、18.9%の差となっている(NHS-CRDのレビュー37頁)。」について

解説:ここに、「6人が1.0ppmの水の供給を受ければ新たに1人がフッ素症を持つようになる(NHS-CRDのレビュー37頁)」との表現がみられるが、これは見かけ上問題とならない歯のフッ素症(普通の生活ではまったく問題とならない)を多く含んだ割合を評価したものであることを忘れてはいけない。

E 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点6」

「審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合についての解析の部分には、審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合は、0.4ppm-1.0ppm比較、0.4ppm-1.2ppm比較で、それぞれ4.5%、6.5%と差は小さくなっている(NHS-CRDのレビュー39頁)。NHS-CDRレビューでは、このことについて、信頼区間に無限infinityを含んでいることは、リスクがないという可能性を意味している。これは割合の差が統計学的に有意ではないことによるものである(信頼区間が0を含んでいる)と記述されている。」について

解説:上記内容は、審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合については、0.4ppm-1.2ppmの範囲において、増える、増えない、いずれとも言えないということである。しかしながら、「文献−調査報告書」では、この部分について次のように記述している。

NHS-CRDでは、95%信頼区間が0を含んでいるため、統計学的に有意でないから、差があるとは言えないとの判断をしている。しかしながら、フッ素濃度を増加させれば明瞭に斑状歯は増加するのだから、この差は意味があると考えるべきものである。」

F 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点7」

「レビューでは、さらに解析がすすめられ7.3 Sensitivity analysis(NHS-CRDのレビュー39頁)が行われている。この解析において水道水中フッ化物の高濃度群の存在は、1ppm付近のフッ化物濃度と歯のフッ素症との関係を検討する上で、必要性は少なく、さらには真に存在する関係を強調しすぎるという理由で1.5ppm以上のデータ群を除外して解析しなおしている。」について

解説:フッ素症を持つ者、審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合はいずれも水道水中フッ化物濃度との間に、全体の解析とほぼ同様の関係を表していたが、オッズが低く、信頼区間もより幅が広くなり、関係の強さは弱くなっていた。

G 「NHS-CRDのレビューの内容と問題点8」

Sensitivity analysisでは、フッ素症を持つ者については、0.4ppmと1.0ppmでは、それぞれ33%、46%となり(NHS-CRDのレビュー40頁)、1人が持つためには8人が追加して水道水フッ化物添加地区に居住しなければならないことになる。」について

解説:この内容を、審美的に問題となるフッ素症を持つ者の割合について当てはめると、1人が持つためには33人が追加して水道水フッ化物添加地区に居住しなければならないことになり(NHS-CRDのレビュー41頁)、人数は大きくなる。結果的に、歯のフッ素症の発現の可能性はさらに低いものとなる。これに、フッ化物によらないエナメル斑の発現割合を勘案すると、この数値の信頼性は、より低いものとなる。

e)  問題点5

「薬害会議−意見書」3頁、「日本は欧米に比べ天然水にすでにフッ素が多量に含まれている」について

解説:上記に関して根拠は示されていないが、米国では1,924地域、3,784ヵ所の公共水系の水を、また、およそ1千万人がフッ化物濃度0.7ppm以上の天然由来の水を利用していることが報告されている。わが国では、96.6%が水道の供給を受けている。このうち、原水においては、浄水場5,550施設中31施設で0.65ppm以上の水が取水されており、浄水では浄水場5,709施設中7施設において供給されている。この数値を米国と単純に比較することはできないが、決して欧米に比べ多量に含まれているとは言えない。

f)  問題点6

「薬害会議−意見書」3頁、欧米では硬水のために添加されたフッ素が難溶性のフッ化カルシウムとなって体内に吸収される率が日本に比べて少ない」について

解説: フッ化物イオンがカルシウムと結合してフッ化カルシウムとなるためには、フッ化物イオンとして8.0ppm以上の濃度が必要である。水道水フッ化物添加により調整されるフッ化物濃度は1.0ppm前後であるために、フッ化カルシウムとはなりえない。また、サチュレーター装置の場合は、4%フッ化ナトリウムの飽和溶液となるため、硬水を前処理として、軟水器に通し、軟水に交換した状態で使用されており、上記のような問題は発生しない仕組みとなっている。

g) 問題点7

「薬害会議−意見書」3頁、「日本で現行水道法の規制のフッ素添加上限である0.8ppmまで添加したとすれば、欧米よりも食事からのフッ素摂取は0.45ppm多くなり、1.25ppmのフッ素添加水道水を飲用するのと同等の影響が現れると考えておくべきである。」について

解説:「NHS-CRD報告のまとめ」にはない増加分の考え方を展開しているが、NHS-CRD報告はあくまで飲料水中のフッ化物濃度(ppm)と斑状歯との関連性を評価したものである。食事等に由来するフッ化物摂取量の増加分の考え方を保障するものではない。したがって増加分の考え方は「NHS-CRD報告のまとめ」からは逸脱した結論を導くことになる。

さらに、増加分の考え方はフッ化物の生体反応性の違いを考慮していない。飲料水由来のフッ化物と、その他、食事や嗜好品等に由来するフッ化物に対する生体利用能(吸収率)は同じではない。食品由来のフッ化物の生体利用能は高くない。

「日本では、すでに欧米での0.45 ppmのフッ素化に相当する水道水を利用しているのと同じ効果がある」と述べている。この主張が正しいとすると、NHS-CRD報告で指摘されているように33%以上の斑状歯有病を、あるいは8.2%以上の審美的に問題とすべき斑状歯有病がすでに認められていなければならないことになる。わが国においてそのことを支持する研究内容はこれまでに報告されていない。このことはそのような前提が成り立たないことを意味している。

h) 問題点8

「薬害会議−意見書」3頁1.25ppmの濃度の水道水で斑状歯のできる程度を欧米の研究から算出すると、何らかの斑状歯は52%、美容上問題になる程度以上の斑状歯は14.5%に生じることになる。」について

解説「薬害会議−意見書」は「日本での0.8 ppmのフッ化物添加は、欧米における1.25 ppmに相当する」と述べている。問題点7で指摘したが、この前提が成り立たないことを考慮すれば0.45 ppmの濃度を上乗せして考えておくべきであるとの主張は受け入れられない論旨の展開である。しかも、NHS-CRD報告の原文では、審美的に問題にしている歯のフッ素症は、必ずしもフッ化物が原因ではない場合も含まれることを明確に述べているが、薬害オンブズマンパースン会議はその点についてはふれてはいない。日本で水道水フッ化物添加が実施された場合、審美的に問題となる斑状歯の発現率が高くなる点のみを強調する表現となっている。しかも、0.8ppmの水道水フッ化物添加によって美容上問題となる斑状歯は発生していないとする、日本における斑状歯疫学調査を参考にしていない。

i) 問題点9

「薬害会議−意見書」3頁「欧米よも高温傾向のある日本では、水をより多く飲むことを考慮する必要がある。」について

解説:日本は欧米より高温傾向にあるとはいえず、また、子どもたちの水分摂取量もより多いとはいえない。
南北に長い日本は、年平均気温が10℃を下回る北海道から20℃を超す沖縄県まで寒暖の差がある。また、米国の水道水フッ化物濃度基準の根拠とする最高気温の年間平均値をみると、札幌市12.5℃、仙台市16.2℃、東京19.7℃、名古屋市20.2℃、金沢市18.2℃、大阪20.7℃、福岡市20.5℃、鹿児島市22.4℃、那覇市25.3℃(以上1971年〜2000年の平年値:気象庁提供)で、米国の主な都市の最高気温(年間平均値)と比較すると、サンフランシスコ、シカゴ、ニューヨーク、マイアミ−いずれも水道水フッ化物添加実施−では23〜25℃であり、南九州から沖縄県に匹敵する最高気温(年平均)である。したがって、日本が欧米より高温傾向にあるというのは正しくない。
 また、飲水量についても、米国のノースキャロライナ州の2歳〜10歳を対象とする報告では971〜1,242ml (表1)、アイオワ州の6週〜9ヶ月児では414〜562ml  (表2)、チリの首都サンチアゴの3〜5歳では410〜490ml(原著からの推計値) (表3)に対し、日本の調査(未発表)では、1歳未満児〜11歳で576〜1,050g(≒ml) (表4)であり、日本の子どもたちで水分摂取量が多いとはいえない。

表1 表2 表3
出典 J Dent Res 71[7]:1382-1388,1992
    Pang DTY et al.
出典 J Dent Res 47[7]:1399-1407,1995
    Levy SM et al.
出典 Community Dent Oral Epidemiol28
    :344-355,2000 Villa A et al.
調査時期 1990年4-6月 調査時期 調査時期 1998年 lat最高気温28.2℃
調査地域 North Carolina州 6地域 調査地域 Iowa州 Iowa市 調査地域 Santiago(飲料水中F濃度0.58ppm)
調査方法 diary format 調査方法 questionaires and beveage
          and food diaries
調査方法 duplicate sample(孤児院で実施)
年齢  対象者数 総液体摂取量(ml) 月齢  対象者数 総液体摂取量(ml) 年齢   対象者数   総液体摂取量(ml)
2,3歳     57         971
4,6歳     79        1048 
7-10歳    89        1242  
 6週    124           414
3ヶ月    120           562
6ヶ月     99          503
9ヶ月     77          473
3歳        7         490.7
4歳        7         457.2
5歳        6         410.8

表3の詳細(下表)

月齢*     年齢       液体由来のF(mg)* 飲料水量(g)    総液体摂取量(ml)【ミルク220mlを加算】 
37.9        3.16           0.452        298.28               518.28
41.8        3.48           0.453        300.00               520.00
42         3.50           0.408        222.41               442.41 
42         3.50           0.430        260.34               480.34     
43.6        3.63           0.461        313.79               533.79  
45.1        3.76           0.449        293.10               513.10
47.7        3.98           0.399        206.90               426.90
                                              Mean      490.69
                                               SD       41.81       
48.6        4.05           0.449        293.10               513.10          
48.7        4.06           0.603        558.62               778.62        
49.5        4.13           0.412        229.31               449.31        
54.1        4.51           0.371        158.62               378.62         
54.4        4.53           0.386        184.48               404.48      
54.9        4.58           0.360        139.66               359.66       
59         4.92           0.335         96.55               316.55
                                              Mean      457.19    
                                               SD      155.32 
60.7        5.06           0.392        194.83               414.83           
62.5        5.21           0.323          75.86               295.86      
65.3        5.44           0.399        206.90               426.90
66.5        5.54           0.443        282.76               502.76         
68         5.67           0.356        132.76               352.76
68.5        5.71           0.425         96.55               471.72       
                                              Mean      410.80
       *原著に表示                               SD       76.19


 表4.小児の液体*摂取量(陰膳食法による;群馬県N町)

 年齢 対象者数   総液体摂取量(g)  
  Mean    SD  
1歳未満    1   650.7
  2歳     2     629.9   133.9
  3歳    3   631.6   141.2
  4歳    9   666.0   211.9
  5歳    5   576.1   209.2
  6歳    7   749.7   178.8
  7歳    9   638.3   213.6
  8歳    3   751.9   357.0
  9歳    7   666.8   119.1
 10歳    3    597.2   293.8 
 11歳    4  1050.2   260.9

*:水、茶、ジュース、スポーツ飲料、牛乳など
 食品回収時期:2001年8月上旬
 近隣地域の8月の平均最高気温(1971―2000年の平均値):前橋市30.9℃  軽井沢町25.6℃
      http://www.wet.co.jp/data/max_temp.html

3) 全身疾患

(1) 骨について

 水道水フッ化物添加の実施により骨折の発生頻度が増加する証拠はない。

問題点

「骨粗鬆症患者へのフッ化物療法の有効性・安全性に疑問があるので、水道水フッ化物添加にも問題がある」について

 解説:骨粗鬆症患者へのフッ化物療法においては、水道水フッ化物添加に比べて遙かに大量(F- にして数十mg)のフッ化物を含む製剤が用られており、1ppm F- 程度に調整される水道水フッ化物添加と同一論点で考えることは妥当でない。両者は目的も用量も全く異なるものである。

飲料水中のフッ化物濃度と骨折の関係については、「文献-調査報告書」中で紹介されたNHS-CRD報告の他、以下に示すレビューにおいても、水道水フッ化物添加の実施により骨折の発生頻度が増加することはない、と結論されている。これらの調査の中では、至適フッ化物濃度の飲料水を長期間継続摂取していた高齢女性では、大腿骨頸部骨折(hip fracture)の発生率が有意に低かったことを示している報告もある。

なお、骨粗鬆症患者に対するフッ化物療法の有効性については、Haguenauerらのシステマティックレビューで示されたごとく、まだ確固たる根拠が得られていない現状にある。しかし、1995年以降、Pakらの報告により有効性が示された徐放型フッ化ナトリウム製剤(slow-release NaF)では有効性が認められ、副作用も限られていることから、FDAにより治療薬として認可されるに至っている。

(2) 発がん性について

 水道水フッ化物添加が1945年に開始されてから、ヒトを対象とした多くの疫学調査や動物実験が広範にかつ継続的に行われてきたが、水道水フッ化物添加ががん発生のリスクを高めるという証拠は認められていない。

− 動物実験 −

a)    問題点1

38頁、6-10行目: NTP研究、「骨肉腫が、雄の中等用量群で50匹中1 匹、高用量群で80匹中3 匹(皮下に発生したものを含めると4匹)で発生した(対照群と低用量群では発生なし)。弱いながらも用量反応関係を認めた(対照群0/80、11ppm 群0/51、45ppm 群1/50=2%、79ppm 群3/80=4%(4/80=5%) )。ロジスティック回帰分析では P=0.027であった(皮下の骨肉腫を含めると p=0.010)。」につい

解説:弱いながらも用量反応関係を認めたとされているのは、本研究のうちequivocal (どっちにもとれる、あいまいな関連性)との評価となった雄ラットの結果である(下表)。一方、雌ラット、またマウスの雄、雌の実験系においては用量反応関係が認められなかった、と原報告書には記載されている。

トレンドテストではP=0.027であったが、対照群とフッ化ナトリウム投与群のpair wise comparison(対比較)では、P=0.380(45ppm F)、P=0.099(79ppm F)で対照群との間に有意差は認められていない。

雄ラットhistorical control群における硬組織以外の組織も含めた骨肉種の発生率は0.5%であり、雄ラットhistorical controlに属する単一群の最大発生率は6%である。しかし、雄ラットhistorical control群の餌に含まれていたフッ化物濃度が今回の研究対照群よりも高かったことを考慮する必要がある。

追加解説: NTP研究について、各臓器における悪性腫瘍の発生状況を評価するうえで、2年という研究期間を考慮することも参考となる。マウス、ラットにとって、2年間の本実験期間は平均寿命に近い。よって、この間に多くの固体の各臓器に何らかの異常が生じていた。雄ラットの場合、下表のごとく、各臓器に生じた全悪性腫瘍の発生率に量用反応関係はまったく認められていない。

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

対照群(0ppmNaF群)  25ppmNaF群  100ppmNaF群  175ppmNaF群

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

全悪性腫瘍

発生率        54/80(73%)      31/51(61%)     26/50(52%)     62/78(78%)

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

b)         問題点

38頁、11-14行目: 「ラットでは、弱いながらも、口腔内の偏平上皮がん(舌、口蓋、歯肉)が増加(0/80、 1/51、 1/50、 2/80) を認め、偏平乳頭腫を合わせると、より強い用量依存性の増加を認めている(0/80、 1/51=2%、 2/50=4%、 3/80=4%)。同様の傾向は、雌でも認められている(1/80=1%、 1/51=2%、 1/50=2%、 3/80=4%)。」、と紹介されている。

解説: 「文献-調査報告書」の表記は正確でない。NTPのTable 11によれば、口腔の乳頭腫(良性)が(0/80、 1/51、 1/50、 2/80)であり、口腔粘膜の扁平上皮がんは(0/80、 0/51、 1/50、 1/80)である。両方を合わせると(0/80、 1/51=2%、 2/50=4%、 3/80=4%)となるが、NTPの「Results」では、「対照群と比較して統計学的に有意に多くはなかった; it was not significantly greater than that of the control groups」と述べられている。

 また以下に示すように、この種のラットにおいて口腔扁平上皮がんは稀な発生で、historicalなuntreated 対照群の雄で0.7%、雌で0.6%の発生率であり、単一対照群での最高発生率が4%である。扁平上皮がんはpaired control群の雄1匹、雌1匹でも発生しているので、フッ化ナトリウムを投与されたラットの扁平上皮新生物が化学的なものと関連するとは考えられない、としている。またフッ化ナトリウム投与群の発生率はhistorical control群での発生率の範囲内であることから、フッ化ナトリウムが口腔粘膜の新生物を引き起こす原因となっているという証拠は無いと結論付けている。

c)   問題点3

 38頁、15-19行目: 「甲状腺についても、ろ胞細胞腫(follicular cell neoplasm)も高用量群で増加する傾向が認められた。そのままでは統計学的には有意でないが、中間対照群や年齢をマッチさせた対照群を主実験の対照群と合わせて対照群とすると、ロジスティック回帰分析によるトレンドはp=0.027 となる。  雌のラットや、マウスでは雄も雌も骨肉腫の発生を見ていない。」とNTP報告を紹介している。

 解説:濾胞細胞新生物には、濾胞細胞腺腫と濾胞細胞がんの両方が含まれている。「文献-調査報告書」の説明では「ロジスティック回帰分析によるトレンドはp=0.027 となる。」という途中までしか紹介されていないが、以下に示すNTPの「考察」ではその後に説明が続き、最終的な結論として、甲状腺濾胞細胞新生物の発生はフッ化ナトリウムと関連していないと記述されている。

Follicular cell neoplasms of the thyroid gland appeared with a marginally increased incidence in high-dose male rats compared with controls. This increase is not statistically significant compared with controls unless control animals from both interim groups (27 and 66 weeks) and the age-matched controls are pooled with the main study control group. If this is done,  the logistic regression P value for the trend is 0.027. Thyroid follicular cell neoplasms typically occur with an incidence of 1.2% in historical control animals. Incidences of 6% have previously been observed in untreated control groups and incidences as high as 10% have occurred in control groups for gavage studies. The incidence of these neoplasms in the high dose groups was 5/90 (5.5%; includes 10 animals from the 66-week interim sacrifice、 one of which had a thyroid follicular cell carcinoma). Three of these tumors were adenomas. The incidence of carcinomas did not differ across the dosed groups and the incidence of follicular cell hyperplasia was not increased. No increase in the incidence of these tumors occurred in female rats. Based on these considerations,  follicular cell neoplasms of the thyroid are not considered related to sodium fluoride administration.

d)         問題点4

38頁、20-22行目: 「マウスの発がん性試験では、メスに悪性リンパ腫の調整発生率が用量依存的に増加したことが報告されている(0ppm、25ppm、100ppm、175ppmでそれぞれ、19.3%、12.4%、30.0%、32.6%)。」とNTP報告を紹介している。

解説NTPの以下の考察に記載してあるように、リンパ腫はマウスにおいて一般的に良く認められるもので、historical control群で10%〜74%の発生率である。雌マウスのフッ化ナトリウム低用量投与群の発生率14%、10%はhistorical controlのどの9群よりも低い発生率であり、高用量投与群の発生率24%はhistorical control群の発生率とほぼ同じ値であることから、フッ化ナトリウムは雌マウスのリンパ腫の発生に関与していないという結論を出している。

In mice, the only neoplasm that appeared to be possibly related to sodium fluoride administration was lymphoma in females. However, lymphoma is a common neoplasm in mice, occurring with rates varying from 10% to 74% in historical controls. In the current studies, the incidences in control and in low-dose female mice (14% and 10%) were less than the lowest incidence observed in the 9 studies composing the historical database at the study laboratory. The incidence of 24% in high-dose female mice (or 30% when considering the combination of all lymphomas and histiocytic sarcomas) is similar to the average historical control incidence of 31% in female mice. There was no increase in the incidence of lymphomas in male mice. For these reasons, it is considered unlikely that sodium fluoride administration affected the incidence of this neoplasm in female mice.

e)   問題点5

38頁、下から1-4行目: NTP報告について、「総合的に考慮すれば、確実といえないが骨肉腫の発生との間の関連を弱いけれども支持していると結論している」、と紹介されている。

解説: 問題点1でも解説されているごとく、NTP研究において、「弱いけれども関連を支持している」との評価は、雄ラット実験系についてだけである。他の系:マウス雄、マウス雌、ラット雌、においてはネガテブな結果であった。実際、原NTP報告において、一部の結果を全体の結論とするような記述は見られず、他の研究報告を総合的に考慮してがんリスクの関連性が認められた、との記述もない。

また、National Research  Council の特別委員会(Health Effects of Ingested Fluoride、 P.122、 1993)は本件に関して次のように解説している。「NTP研究における雄ラットにみられた骨肉腫発生に関するあいまいな(equivocal)関連性の結果は、雌ラットにおいて、またP&G研究の結果によって支持されていない。」(The  equivocal result of osteosarcoma in male rats  in the NTP study was not supported by results in females in the same study or by the P&G rat study, even though the latter had much higher exposure levels.)


f)      問題点6

19頁、下段:フッ化物尿中排泄量の2倍が吸収量と仮定し、排泄量より吸収量を推定し、 また、体表面積当たりに換算した。20頁、表1-3、表1-4: NTP研究におけるラットの飼育条件は、体表面積を基に換算した1日フッ化物吸収量でみると、人の日常で生ずる値とほとんど差がない」と推定している。例えば、表1-4で、175ppmNaF群、66週、雄、9.3mgF/日となっている。

解説: 飲料水からのフッ化物はほとんど100%が吸収されるとされているが、食餌との混合摂取も考えられ、実際のフッ化物吸収量を推定することは困難である。よって、飼育条件の評価は投与量を基にする方が妥当であろう。薬害オンブズパースン会議からの「文献-調査報告書」において、フッ化物濃度のデータのない条件で、尿量からフッ化物吸収量を推定し、9.3mgF/人・日、としていることには無理があると思われる。

NTP報告書には、飲用しているフッ化物濃度と飲水量から求めたフッ化物投与量の値が示されている。下表のごとく、175ppmNaF群、雄ラット(0.4kg)の場合、3.9mgF/kg体重であった。これを60kg体重の人に換算すると、234mgF/人・日となる。体表面積当たりの負荷量が、人はラットの4.4倍であることを考慮すると、このラットの負荷量は、人に投与する場合の53.1mgF/人・日に相当すると推定される。このようなレベルのフッ化物摂取量は、日常の人にはありえないものである。

表 体表面積換算

[NTP 研究:飲料水として NaF175ppm (F79ppm)]

        体重(BW)  体表面積(S) NaFmg/BWkg
  (Fmg/kg) 
NaFmg/BWkg
  (Fmg/kg)
マウス♂     0.04kg     0.011u**
 16.7mg/kg*
  (7.55Fmg/kg)*
マウス♂     0.4kg      0.049u**
 
8.6mg/kg*
  (3.9Fmg/kg)*
人         60kg      1.657u**
          165cm      


 *:NTP,Drinking Water Study より
 **: FDA Dose Calculator による
 

A [体表面積での換算投与量:ラットで投与量が3.9mgF/kgである場合]
ラット 3.90mgF/kg ×0.4= 1.56mgF/匹           人  3.90mgF/kg ×60kgBW =234mgF/人・日
    1.56mgF/ 匹÷0.049=31.84mgF/u             234mgF/人÷1.657=141.22mgF/u
                      体表面積を考慮した負荷量 234÷4.4=53.14mgF/人・日
ラットの飼育条件、175ppmNaF(79ppmF)は、3.9mgF/kgのフッ化物投与量に相当していた。この値は
体表面積あたりで換算すると31.84mgF/uである。また人(60kgBW)に対応させてみると141.22mgF/uと
すいていされ、体表面積を考慮した負荷量は、ラットの4.4倍である。よって、ラットの投与するフッ化物
3.90mgF/kgBWは、人に投与する場合の53.14mgF/人・日に相当すると考えられる。

フッ化物含有飼料の投与を行ったProcter and Gamble社の発がん実験において、フッ化物投与量はNTP研究よりもさらに多かった。実際、高フッ化物投与群:25mgF/kg体重でラット雄の骨フッ化物濃度、16,761ppmF(Bone Ash)、はNTP研究における175ppmNaF群のラット雄、5,263ppmF(Bone Ash)に比べ、約3倍の高い値であった。フッ化物イオン濃度約1ppmに調整された水道水フッ化物添加では、2リットルの水を飲むと2mgFの摂取量となる。NTP研究、Procter and Gamble研究においては、人が水道水フッ化物添加によって体験するレベルをはるかに越えたフッ化物摂取量と考えることができる。これらの高濃度フッ化物投与の動物実験を総合的に判断して、フッ化物摂取ががんのリスクを高めることの確証が得られなかった、との結論は水道水フッ化物添加が安全性な方策であると考えられる根拠の参考となる。


g)   問題点7

38頁、中段: 「Procter and Gamble社の発がん実験、高F群で有意に増加していた良性骨腫瘍(Osteoma)について、マウスF群で散発的発生をみた骨肉腫との関連性が疑われる」について

解説 Procter and Gamble社の発がん実験において高F群でみられた良性骨腫瘍(Osteoma)の病理標本が、軍病理研究所(Armed Forces Institute of Pathology)に紹介された。その結果、1) 悪性に進行している症例は一例もなかった。2) 前がん病変の兆候を示している症例は一例もなかった。3) 一般に原発性の骨新生物が示す非中心性の組織像と異なり、本実験にみられた多くのOsteomaは多重遠心像の組織像であった。それらの証拠から、Osteomaと骨肉腫との関連性は認められていない。

− 疫学調査 −

h)       問題点8

41頁、上段、「註: Yiamouyiannis による疫学調査の解説に含め、動物試験でもがんとの関連が認められており」との記述がある。

解説: WHOをはじめとする信頼の置ける医学専門機関の報告として、動物試験でもがんとの関連を認めた、とする事例は見られない。

i)       問題点9

62頁、63頁:「フッ化物と発がんの関連性についてのまとめとして、『少なくとも2件』、あるいは『少なくとも1件』の疫学調査ががんを増加させる可能性がある」と結論的に紹介している。

解説: 一部を読んで全体の結論を導き出すことは妥当でない。異なる地域間の比較が課題となる生態学的研究(エコロジカル研究)においては、調整できない要素が含まれる可能性が高い。そこで、限界を含みながらも得られる限り精度の高い、多数の疫学調査報告を基に、総合的に結論を導き出す方が信頼される。実際、米国、イギリス、カナダ、オーストラリアなどをはじめ、多くの国々の各種関連団体は科学論文を広範囲に再評価した結果、水道水フッ化物添加とがん発生との間には関係が認められないと結論されてきている。以下に代表的な事例を示す。

ヨーク大学のシステマティックレビュー(2000;添付資料後述)においては、水道水フッ化物添加とがん発生との関係についての研究報告26編を、また骨関節悪性腫瘍との関係では8種の解析を、さらに骨肉腫との関係は12種の解析を評価している。その結果、総合的な結論として、水道水フッ化物添加とがんの発生、あるいは腫瘍の発生との間に関連性があるという明らかな根拠は見出されていない。

 イギリス政府から諮問された調査委員会の報告書(Knox Report)によれば、1969〜1973年における性別、部位別のがん発生率を、天然水に含まれるフッ化物濃度別地域に分類して検討したところ、フッ化物濃度とがん発生率との間に何の関連性も認められなかった。

米国における1969〜1981年の部位別のがん発生率と水道水フッ化物添加の飲水歴から検討した報告や、1950〜1987年の白人の年齢調整がん死亡率を分析した報告などからも、フッ化物濃度あるいは長期間にわたる飲水歴と、がん発生率やがん死亡率との間に何の関連性も見出せなかったとしている。また1990年に、米国国立がん研究所(NCI)により、36年間の米国における水道水フッ化物添加とがんの死亡率ならびに15年間隔でのがん発生率について評価して、水道水フッ化物添加地域での230万人のがん死亡者と125,000のがん症例を調べたところ、水道水フッ化物添加とがん発生のリスクには関連性がないとの結論を報告している。 したがって、米国がん協会(AACR)が発行した「フッ化物と水道水フッ化物添加」の中では、「水道水フッ化物添加と発がん性との関連を示す科学的根拠はない」と述べている。また、わが国では、米国軍管理下当時の沖縄本島で水道水フッ化物添加が行われた経緯があり、日本返還にともなって浄水場の管理が行政移管されて水道水フッ化物添加が中断されたことから、水道水フッ化物添加中断直後の10年間(1973〜1982年)とその後の10〜20年間(1983〜1992年)の同一地域における子宮がん死亡率が分析された。この結果も同様に、水道水フッ化物添加の飲水歴と子宮がん死亡率との間の関連性を明らかにすることはできなかった。

 なお、WHOの下部組織である国際がん研究機関(IARC)は、ラットを対象とした高濃度実験結果から、フッ化物をグループ3、すなわちヒトにとって発がん性に関する分類ができない群(下表参照)に指定しているが、WHOは人における膨大な疫学調査から飲料水中フッ化物の発がん性は認められないとしていることも付記しておく。

  グループ1:人にとって発がん性あり

  グループ2:人にとって多分(probably)発がん性あり

  グループ3:人にとって発がん性に関する分類ができない(unclassifiable)*

  グループ4:人にとって多分(probably)発がん性なし

*グループ3には“お茶”も含まれているので留意されたい。)

j)        問題点10

41頁、下段より9-7行目: 「Lynch(1984年)の調査では、部分的にしろフッ素化とがん罹患率との間に有意な関連を認めている。」について

解説: しかし実際には、Lynch(1984年)の調査で、フッ化物要因とがん罹患率との間に一貫した関連性が認められていない。生態学的調査に含まれ調整が困難な交絡因子や偶然の要素を除外するためには、一部のデータを優先せずに、全体の傾向や一貫性を重視して結論を求める方が適切である。本調査においては、1969-1981年、アイオワ州のがん発生のデータが分析された。158市町村、約140万人が対象となり、66,572例のがん発生例があった。これらは、4つのグループに分類され、2群は調整による、別の2群は天然によるフッ素地区であった。多変量解析の結果、フッ化物とがんの関連性を支持する結果が得られなかった、と報告されている。

k)        問題点11  

 56頁、17-19行目: 「フッ化物が、骨の成長期間中に発がん開始因子(initiator)というよりは、発がん促進因子(promoter)として作用するのならば、暴露期間/潜伏期間の問題を考えることは適切といえない。」について
  59頁、9-13行目:「 がんの場合には、感受性の高い人だけが比較的早い時期に発がんし、他の人は長期間暴露されても発がんしない場合もある。この結果、ある時期を過ぎると発生率はかえって減少することになる。感受性の高い人のみがある種のがんに罹患し、そのような人は5年以内に発がんするが、他の人はあまり影響を受けず、暴露年数が経過すれば、一旦増加していたがん罹患率がまた減少することはありうることである。」について

解説: 「フッ化物が発がん促進因子(promoter)として作用するのならば」、との仮定のもとに、「暴露期間/潜伏期間の問題を考えることは適切といえない」、と続く論旨は一般的に受け入れがたい。発がん促進因子は一回の暴露でがんを発症させるものでなく、繰り返し、また暴露期間の長いほどがんの発症リスクを高めるものと考えられている。発がん促進因子とがん発生率は、暴露回数や暴露期間と強く関連することが一般的に受け入れられている(Raymond Tennant, 1999)。   

地域比較となる生態学的研究において、ある環境因子が発がん促進因子であるかを評価するうえで、交絡因子や調整が困難な地域特性因子を克服するためには、むしろ、当該因子との暴露期間を考慮することは有用である。実際、水道水フッ化物添加の実施期間と骨がん発生率との関係をみた、time-trend研究が多く行われ(Hoover, 1991; Mahoney, 1991; Hrudey, 1990; Freni and Gaylor, 1992)、フッ化物が発がん因子であることの証拠は認められていない。

 
l) 問題点12   日本における疫学調査:沖縄県について

60頁、下から3-11行目、61頁1-4頁、「米軍統治下にあった時代の沖縄県における水道水フッ化物添加と子宮がん死亡率に関連性がある、との疫学調査(遠山、1996)が紹介されている。」について

解説: 本調査は、疫学調査上の基本的な誤り、水道水フッ化物添加地区の分類ミス等があり、本論文の結論は誤っている。また、当地で約30年前に実施されていた水道水フッ化物添加の実施状況について、今日、正確な情報を得ることができず、当地における調査から子宮がんとの関連性を認めたとする結論に信憑性が無い。

追加解説: Journal of Epidemiology,「遠山論文*」に関する問題点

*Tohyama, E. Relationship Between Fluoride Concentration in Drinking Water and Mortality Rate from Uterine Cancer in Okinawa Prefecture, Japan.  Journal of Epidemiology, Vol 6, No. 4 December 1996.

  本報告の問題点は、特に水道水フッ化物添加(F化)の経験年数が考慮されておらず、また、市町村単位の水道水中のフッ化物濃度が不正確であったという批判が加えられている(小林、日本公衆衛生学会誌、1997)ことである。ここに改めて、遠山論文の問題点を指摘する。

問題点 T 沖縄県におけるF化期間の誤りについて−

184頁、概要、1-2行目・189頁、左段、4-5行目:

“沖縄におけるF化は1945-1972年の27年間に亘って行われていた”と記載されているが、沖縄におけるF化は、地区によって異なり、最長期間の地区で1959-1973年1月までの約13年、最短期間の地区で約3年である。なお、浄水場(米軍基地内)のF化開始時期とその給水市町村における民間給水施設の敷設完了時期がずれている点に留意しなければならない。すなわち、浄水場のF化実施期間は1957年より最長で約15年であり、一方、民間へのF化水道の給水期間は最長で約13年であった。

問題点 U F化期間分類の誤りについて

185頁、左段、14行目:

沖縄におけるF化地区として、那覇市、石川市(1972年当時は石川村)、具志川市、宜野湾市、浦添市、糸満市、沖縄市(1972年当時はコザ市)、金武町(1972年当時は金武村)、嘉手納町(1972年当時は嘉手納村)、北谷町(1972年当時は北谷村)、西原町(1972年当時は西原村)、佐敷町(1972年当時は佐敷村)、与那原町、南風原町(1972年当時は南風原村)の14市町をとりあげている。しかし、このうち金武町は非F化地区である(琉球水道公社報告、1972年)。また、F化地区として分類されている地区の中にも、昭和46年当時の上水道普及率が50%に満たない勝連町(3.4%)、佐敷町(19.5%)、西原町(45.8%)が含まれており、これらの誤りは地区のフッ化物イオン濃度の誤りにつながっていると思われる。

問題点 V 市町村単位の代表値として用いるフッ化物イオン濃度が妥当でない−

各市町村のフッ化物イオン濃度の代表値を特定期間における平均値で表現していることは誤りである。

185頁、右段、9-10行目・187頁、Figure 2:

“1968-1980年の平均値(未発表:著者データ)をもって、各市町村のフッ化物イオン濃度の代表値としている。”  
 
しかしながら、F化経験市町村では、1971年3月〜1973年1月の間の異なる時期にF化が中止されており、中止に伴う水道水のフッ化物イオン濃度の大幅な変化(低下)があったもので、特定期間(1968-1980年)における平均値で代表することは不合理である。

すなわち、1959年〜1968年のF化期間がまったく考慮されていないことは根本的なミスである。このため、フッ化物イオン濃度の市町村代表値が0.02ppm〜0.37ppmとなっており、このレベルにおける量反応関係を求めようとしていることは、人におけるフッ化物代謝量からして一般的でなく、妥当ではない。

ちなみに、一日フッ化物摂取量は約1mgとされている。また、一市町村の中でも、給水系統が異なっていた例があるので、一か所で採水したと思われる試料をもとに、また著者だけが持ち合わせているフッ化物イオン濃度のデータを使用することには問題がある。

このことは下の問題4.のエラーに繋がっているものと思われる。市町村のフッ化物イオン濃度の代表値は公的機関より発表された資料をもとに総合的に判断することが妥当である。

問題点 W 那覇市のフッ化物濃度について

那覇市のフッ化物濃度について

188頁、Figure 3

那覇市のフッ化物イオン濃度について、「遠山論文」では“1968-1972年における那覇市のフッ化物イオン濃度は0.7-0.8ppm”と図示されている。しかし、実際には、“那覇市の一般市民が受ける泊浄水場において、フッ化物イオン濃度は、1967年11月〜1971年 3月の期間、0.3-0.6ppmとされており、その他の期間はフッ化物添加が行われておらず、0.1ppm以下であった” (那覇市の泊浄水場記録により)ことが確認されている。図示された濃度は、コザ浄水場から給水されていた一部地域のフッ化物イオン濃度と思われ、那覇市の代表値とすることはできない。

日本民族衛生学会「遠山報告」に関する問題点

(出典) 日本民族衛生学会 2001.11.15-16 「水道水へのフッ素添加期間と子宮がん死亡率」  (遠山英一)

問題点 X 水道水フッ化物添加群分類の誤りについて

 1972年時点まで、琉球水道公社管轄の水道供給対象市町村(米軍基地浄水場から民間に給水されていた地域)の中に金武町は含まれていない(琉球水道公社報告、1972年)。また、1973年時点で、金武町の水道は5か所の簡易水道のみであった(「沖縄の水道、昭和48年度」、沖縄県環境保健部環境衛生課)。よって、金武町は非F群に分類されるべきである。

  ところが、遠山報告において、本来、非F群に分類されるべき金武町がF化約15年群に分類されている。子宮がんの年齢調整がん死亡率を見ると金武町では15.28であり、地区のF期間分類を誤ったため、事実とは大きく隔たる結果を導くことになっている。

問題 Y 本島,離島の条件が考慮されていない

 遠山報告において、非F化地区に本島の名護市と離島の平良市及び石垣市が含まれている。しかし、以下の理由から本島と離島の市を同一に扱うことは妥当でない。

同じく非F地区の市町村のなかで、子宮がん死亡率は1973-1982年において本島に比べ離島の市町村で低い。一方、1983-1992年に向けての推移を見ると本島では著しい減少傾向があり、一方、離島では明らかな変動はみられない。生活環境の変化が離島と本島で大きく異なっていることが認められる。このような場合、本島の市と離島の市を一緒に扱うことは妥当でない。また、離島の市町村は総て非F地区で、F化した地区は一つもない。これらの理由から、離島の市町村は今回の分析対象から除外すべきである。

参考文献

1.           沖縄県における成人病死亡の疫学調査;沖縄県環境保健部予防課、1995年3月

2.             Eiichi Tohyama ; Relationship Between Fluoride Concentration in Drinking Water and Mortality     Rate from Uterine Cancer in Okinawa Prefecture, Japan, Journal of Epidemiology Vol 6,No4; 184-      191,1996.

3.         木成 充、福村圭介、桑江なおみ;沖縄県におけるがん死亡に関する統計的解析−昭和48〜59年−、沖縄県公害衛生研究所報、No20: 23-38, 1987.

4.         Fluoridation The Cancer Scare , Consumer Reports July : 392-396, 1978.

5.         Robert N. Hoover, Frank W. McKay et al ; Fluoridated Drinking Water and the Occurrence of       Cancer,  J NATL CANCER INST , Vol 57, 4 ; 757-768, 1976.

6.          E .G. Knox ; Fluoridation of Water and Cancer : Her Majesty’s Stationery Office, Dept. of Health and  Social Security, London , 1985.

7.          小林清吾他;フッ素は子宮がん死亡率を増加させるか、日本公衆衛生雑誌、44(9):1383,1997.

8.          沖縄県の水道 昭和48年度;沖縄県環境保健部環境衛生課

9.       遠山英一:水道水フッ化物添加、琉球新報、11月5日.

10.       A Systemic Review of Public Water Fluoridation (University of York, 2000), McDonagh Ms, et al .: Systematic review of water fluoridation, BMJ 2000; 321: 855-859 (7 October)

11.      新里真美子他;沖縄県における水道水フッ素化中断13年後の歯科的影響(1)−水道水フッ素化の経緯―、口腔衛生学会雑誌36;408−409、1986.

12.       遠山英一;日本民族衛生学会誌、2001.

13.        BENEFITS and RISKS : Department of Health and Human Services,: 76-83, 1991.

14.       「フッ素を利用するむし歯予防行政に関する意見具申の件」に関する問題点とその解説

3) ダウン症について

 水道水フッ化物添加とダウン症との間に関連性があることを示す科学的な根拠はない。

a 問題点1

薬害オンブズパースン会議では、イギリス政府機関(NHS-CRD)が行ったレビューに対して、独自に問題点を掲げた上で(「文献−調査報告書」64−65頁)、独自の内容評価を行い(「文献−調査報告書」65−70頁)、Rapaportの報告したフッ素とダウン症との関連性を肯定化しようとする手法がとられている。

解説: 薬害オンブズパースン会議では、イギリス政府機関(NHS-CRD)が行ったレビューに対して、独自の内容評価を行っているが、水道水フッ化物添加とダウン症との間の関連性について、一貫した結論を示すことはできていない。NHS-CRDレビューの最終報告書が示した最も重要な指摘は、ダウン症の出現は母親の出産年齢と密接に関連しているため、交絡因子に対する配慮が必要であるとした点である。その点、Rapaportの行った研究はその配慮がなされていないため適切な研究ではないと評価された。一方、Ericsonの研究では母親の年齢階級別に発症率が求められている点や人種間の影響を除くために調査対象を白人に限定している点などから、交絡因子に対する配慮がなされていると評価された。したがって、このことからは、水道水フッ化物添加とダウン症との間に関連性があるとする科学的な根拠は示されていない。

b 問題点

  「文献−調査報告書」64−65頁に掲げたNHS-CRDの問題点に関連して、薬害オンブズパースン会議ではイギリス政府機関(NHS-CRD)が行ったレビューの内容を重視するあまり、今までになされてきた専門機関での重要な指摘を軽視している点について

解説:、薬害オンブズパースン会議は、「文献−調査報告書」64−65頁の中で独自にNHS-CRDレビューに対する問題点を掲げRapaport論文とErickson論文を比較しているが、以下に示す内容を追加して考慮されるべきである。その内容とは、英国王立協会からだされたフッ化物と歯と健康 (1976年)によるRapaportの研究手法に対する指摘である。

第一の指摘はRapaportの最初の研究についてである。それは、ダウン症児がその母親の妊娠中を通して生活をしていた住所が出生証明書に記載されていたにも関わらず、出生した町の住所をもとに区分され、その頻度を出生地の水道水中のフッ化物濃度と比較された点である。この比較は、証明書に記載された出生場所はたまたま分娩した場所であって、母親が妊娠中を通して生活していた場所でないため、母親の飲水歴との整合性が失われることから、適切な比較ではなく、記述疫学の面からも重大な誤りであると評価された。

二つ目の指摘は第二の研究に関する指摘である。第二の研究は上記欠陥を修正して実施されたのであるが、調査結果の値において、小児科医が一般的に認めている厳密な調査にもとづく一定したダウン症の発生率に比べ、この調査の最高値が約半数、また最低値が約6分の1にすぎなかった点である。この原因は、本来であればダウン症を観察している医療関係者からの広範な情報をもとに、家庭で療養中のダウン症児も全て対象にすべきところを、事実、家庭で療養中のダウン症児を見落としていたところにあった。その結果、このような限られた対象者による調査からは、いかなる意味づけをすることも困難であると結論づけられた。

上記に書かれた内容を考慮すれば、Rapaportの論文は研究手法上の重大な誤りに対する指摘のみならず、調査内容からはいかなる意味づけをすることも困難であることが理解できる。

(4) 死亡率への影響について

NHS-CRDレビューにおいて、水道水フッ化物添加とがん死亡率には何の関連もないと記述されている。すなわち、「薬害会議−意見書」及び「文献−調査報告書」に示されている「疫学調査では、死亡率への影響の可能性を否定しえない。」の記述は、都合のいい解釈により導かれた結果といえる。

a) 問題点1

「文献−調査報告書」71頁、【総死亡、その他の死亡率への影響】〔1〕NHS-CRDのまとめと疫学調査において、「NHS-CRDレビューでは、総死亡について、Erickson(1978年)、Hagen(1954年)Rogot(1978年)、Schatz(1976年)の調査を採用して検討した結果を報告している。性・年齢、および都市の人口密度などをも考慮した調整死亡率を1.01であったとしている(Ericksonの報告が根拠)。他の報告では、総死亡率の増加は認めなかったとしている。しかしEricksonの報告では粗死亡率や性・年齢だけを調整した死亡率では、低フッ素地域の10万人対1102.4人に比して、フッ素化地域は、同1156.0人であった。」と記述し、これに基づいて「疫学調査では、死亡率への影響の可能性を否定しえない。」というまとめを導いている。

解説: 交絡因子を取り除くために調整死亡率を用いられているにもかかわらず、わざわざ交絡因子が含まれている粗死亡率や性・年齢だけを調整した死亡率を持ち出して、あたかもフッ素化地区と非フッ素化地区の死亡率に差があるように記述していることは適切とはいえない。

NHS-CRDレビューにおいて、がん死亡率に関しては「目的 4: 水道水フッ化物添加には副作用があるか? 9. がん研究」で、そのレビューが行われている。しかしここではErickson(1978年)、Hagen(1954年)Rogot(1978年)、Schatz(1976年)の論文は「Inclusion Criteria」の要件を満たしていないため、議論されていない。これらの論文については「10. Other possible negative effects」で記述されている。「9. がん研究」の「考察」では以下に示すように水道水フッ化物添加と癌死亡率には何の関連もないと記述されている。

The findings of cancer studies were mixed, with small variations on either side of no effect. Individual cancers examined were bone cancers and thyroid cancer, where once again no clear pattern of association was seen. Overall, from the research evidence presented no association was detected between water fluoridation and mortality from any cancer, or from bone or thyroid cancers specifically.

b) 問題点2

「薬害-会議意見書」4頁、「他の1件(マウス2年)では論文の著者は指摘していないが、用量依存的な早期死亡を認めている。」と、もう1つ「文献−調査報告書」25頁、「マウス2年の毒性試験については、論文の著者らは、『フッ素に関連した生存への影響は認めなかった。』としているが、オス、メス100ppm群がやや生存率が早期に低下の傾向があり、メスの175 ppm群は早期から生存率の低下がみとめられ、用量依存性の反応の可能性がある。」について

解説 0、 25、 100、 175 ppmのフッ化物を含む飲料水を2年間マウスに与えた生存分析研究(NTP Report)の「材料と方法」において、著者は「生存に関する用量の効果を統計学的に分析するためにCoxの比例ハザード分析とTaroneの生命表テストを用いた。」と記述している。そして「結果」では「統計学的有意差が認められなかった。」と述べている。

すなわち、NTP Reportの著者は「飲料水中のフッ化物濃度の違いによって、マウスの生存率に統計学的有意差は認められない(生死に用量依存性があるとはいえない)。」という統計学に基づいた結果を出しているにもかかわらず、薬害オンブズパースン会議はそれを完全に無視し、個々の数値データと生存曲線グラフの視覚的な感覚だけから、「用量依存性がある」という解釈を行っている。

c) 問題点3

「文献−調査報告書」74頁、「動物での腎障害や、発がん性、胃・十二指腸潰瘍等、死亡につながりうる病変の増加なども考慮すれば、水道水に添加する程度のフッ素濃度においても、悪影響がある可能性がある。」について

解説: NTP Reportにおけるマウスまたはラットの6ヶ月毒性試験において300 ppm以上の飲料水で飼育したマウスの腎障害やオス・ラットの胃腺部粘膜肥厚や出血が確認されたことから、上記の記述がなされたのであろう。しかしながら、水道水フッ化物添加における飲料水中のフッ化物濃度は1 ppm前後であり、300ppmの飲料水と同じレベルで議論するのは非科学的である。自然の状態での海水のフッ化物濃度が1.3ppmであることを考えれば、薬害オンブズパースン会議の指摘することがいかに非現実的であるかは明確である。

5) 遺伝毒性、染色体異常について

 「薬害会議−意見書」3頁にある、「フッ素は、ほぼ確実に変異原性物質であり、染色体異常誘発物質である。」について

 解説: 化学物質はもとより、食品・栄養素であっても、作用する濃度、量、時間によっては生体に障害を与えうる。ビタミンでさえ、過剰摂取による障害が観察されている。フッ化物を培養細胞に作用させて毒性を調べるin vitroの実験においては、う蝕予防に用いるフッ化物応用のフッ化物濃度、応用量と時間だけでなく、応用後に摂取・吸収され、体液中に存在するフッ化物濃度、量、時間を想定して条件を整えるべきである。「薬害会議−意見書」3頁にある、「フッ素は、ほぼ確実に変異原性物質であり、染色体異常誘発物質である。」という指摘を裏付ける「文献−調査報告書」資料は見当たらないが、う蝕予防に用いるフッ化物濃度を体液に存在する濃度として培養液に添加して毒性・変異原性を証明しようとした研究もあるので区別が必要である。このような実験条件では、生体において致死量以上のフッ化物を摂取したことになり、フッ化物応用による毒性を評価する研究としては不適当である。

ただし、「文献−調査報告書」の中で、添付文献10)の「歯科疾患の予防技術・治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究、平成12年度研究報告書」の27頁から35頁、および11)の「フッ化物応用と健康 −う蝕予防効果と安全性−」の65頁から72頁にこの指摘を説明する記述があるので参考になる。これを要約すれば次のようになる。

in vitroの毒性試験は、大きくは細胞毒性試験と変異原性試験とに分類でき、それぞれに種々な試験法が開発されている。前者の細胞毒性試験の結論は「高濃度のフッ化物を作用させると細胞毒性(DNA合成阻害や増殖抑制)が見られるが、低濃度フッ化物作用では、逆に培養細胞に好影響を与える可能性が高い。ただし、フッ化物に対する感受性は細胞の種類あるいは年齢によって変動する。」である。

また、後者の変異原性試験については培養哺乳類細胞の染色体異常試験が多く実施されており、結論としては「高濃度フッ化物作用で染色体異常を認めるが、低濃度フッ化物作用では染色体構造異常が対照群よりも減少する。」というものである。また、現実に長期にわたって高濃度のフッ化物を含む飲料水を摂取し続けている複数の地域で生活する住民の末梢血リンパ球では染色体異常が認められなかったという事実から、う蝕予防に用いるフッ化物濃度による変異原性は否定できるとしている。

よって、「フッ素は、ほぼ確実に変異原性物質であり、染色体異常誘発物質である。」という意見は、う蝕予防のためのフッ化物応用により現実にもたらされることはなく、水道水フッ化物添加の危険性として考慮されるべきものではないといえる。

以上、基礎実験、動物実験、疫学調査を含む数多くの医学研究が検討され、その結果、フッ化物イオン濃度を約1ppmに調整される水道水フッ化物濃度添加によって、人の全身に有害な作用がある、又は予想されるとの証拠は認められなかった。

4.法的問題点について

(1) 健康権について

健康権の侵害にはあたらない。

 問題点

「薬害会議−意見書」1頁「2 有効性と危険性の比較検討」の結果、「危険性を上回る有益性はないから、国際人権(社会権)規約と憲法が保障する健康権を侵害する」について

解説:上記は危険性を上回る有益性がないとする主張からの展開である。しかし、先にも述べたように、水道水フッ化物添加の安全性と有効性については、世界の歯学医学の専門機関が幾度となく推奨している。また、「薬害会議−意見書」にある、経済的、社会的及び文化的権利に関する国際規約の締結国の中にも、水道水フッ化物添加を政府が推奨し、法制化して実施している国がある。

また逆に、住民から歯の健康づくりの社会的な施策である水道水フッ化物添加を奪うことになれば、まさに住民の健康権の侵害にあたると考えられる。

(2) 自己決定権について

地域社会で意思決定が行われたのであれば、水道水フッ化物添加によるう蝕予防は強制されたものではなく、むしろ地域社会を構成する個人が健康維持増進のために、個人の自発的意思を反映したものと位置づけられる。 

 問題点

「薬害会議−意見書」5頁、「健康維持増進は強制よりも個人の自発的意思による方が効果的であるから、う蝕予防は個人の選択する方法によるべきである。」について 

解説WHOのオタワ憲章(1986)によれば、健康維持増進(ヘルスプロモーション)とは、「人々が自らの健康をコントロールし、改善することができるようにするプロセス」であり、また、グリーン(1991) の定義によれば、「健康的な行動や生活状態が取れるように、教育的かつ環境的なサポートを組み合わせること」である。健康づくりができる環境の整備、政策の決定、健康教育、情報の提供などがなければ、個人ひとりの能力だけで健康維持増進を行うことは難しい。

水道水フッ化物添加は、う蝕予防のための地域環境を整備する手段の一つである。全ての人に平等に健康維持増進ための環境を提供していくことができれば、個人の努力では健康維持増進できない人々、例えば低年齢児、高齢者、障害者、低所得者層などが恩恵を得ることができる。

「個人の選択ができない」と主張する人は、水道水フッ化物添加の実施を望む人の意見をも尊重しなければならない。一人一人の人権を守ることは、個人の無制限な自由を許すことと同義ではない。地域単位の意思決定にあたり、全ての人々に選択の権利を平等に与えること、それが人権を守ることである。一定のルールに基づいて地域の意思がいずれかに決定したならば、これに遵うということが社会のルールでもある。それでも、効果と安全性が証明されている手段の導入が決定されたとき、その決定がいやだという主張は、個人のわがままになる。民法第1条には「私権は公共の福祉に遵う」ものとされている。地域単位の意思決定は一人の反対者によって左右されるのではなく、現行の議員代議員制のもとでは、市町村議会(地方自治体)の議決方式に従うものである。

健康維持増進の主体と場面からいえば、個人が主に家庭で行うもの、専門家が歯科診療所等で行うもの、人々が地域社会の場で行うものの3つに分類できる。健康維持増進は個人一人だけで行うものでなく、地域社会で生活する人たちがみんなで参加して、つくりあげていくものである。さらに、う蝕原因菌の母子感染という視点からも、母親のう蝕経験がその子どものう蝕罹患に影響を与え、う蝕の害はその個人だけに留まるものではない。したがって、う蝕が他人に危害を及ぼす性質のものではないから個人的な対応が望ましいとする見解は誤りである。

米国CDCは、1990-1999年における、10の偉大な公衆衛生を挙げている。この10の偉大な業績とは、予防接種、交通安全、労働安全、伝染病管理、心疾患による死亡率低下、食品衛生、母子保健、家族計画、水道水フッ化物添加、タバコの有害性認識である。このように、水道水フッ化物添加は、国籍、老若男女、貧富の差に関わらず、すべての人に利益を与えることができ口腔保健を改善する経済的な方法であり公衆衛生として優れていることが認められている。

 (3) 適正手続き侵害について

  水道水フッ化物添加を実施することは、水道法の目的に反することではなく、適正手続き侵害とはいえない。

a) 問題点1

 「薬害会議−意見書」5頁、4-4-3判断基準「現在では齲歯が顕著に減少し、フッ素の齲歯減少貢献度は減少し、 齲歯予防の政策措置の必要性は乏しい。そもそも、齲歯の害はその個人だけにとどまり他人に危害を及ぼす性質のものではないから強制になじまない。」について

解説: う蝕減少が顕著とする認識が誤っており、う蝕を社会的疾患としてとらえ、個人の健康に対する基本的な健康を社会全体が保障するという考えが欠如している。う蝕予防の政策的措置は、公共の福祉の理念に基づき地域単位で意思決定すべきである。

わが国における小児のう蝕は以前に比較すると減少傾向にあるが、う蝕有病者率は、5歳児(乳歯+永久歯)で64%、12歳児(永久歯のみ)で70%と依然として高い水準にある。また、重症う蝕を所有する子どもたちとう蝕のない子どもたちとの2極分化現象がみられる。さらに、国民一人当りのう蝕経験歯数も依然として増加している。

最もう蝕に罹患しやすい時期は、乳歯、永久歯ともに歯が生えてからの2、3年間である。乳歯では1歳から就学前まで、永久歯では5、6歳から15歳くらいまでの子どもたちが該当する。この年齢層の子どもたちは、自分自身の健康を保持増進する知識や技術が未熟なことから、すべての子どもたちが等しく健康を確保するには、子どもたちを支援する適切な環境を整備する必要がある。また、成人期には歯周病の進行に伴い根面う蝕の発生が問題となるが、高齢者集団(70歳)に対する2年間の追跡調査によると、根面う蝕の発生者率は35.9%であり、歯の喪失リスクの視点からも予防は緊急の課題である。このような高齢者や障害者もまた小児と同様に支援環境の整備が望まれる。様々な理由から予防行動を取れない人をも含めて、基本的な健康は社会全体が保障しなければならない。

う蝕は有病率の高い病気である。特に虚弱な人だけがかかる病気ではない。個人的に努力する方法だけでは歯の健康を獲得できにくい人がいるのが現状である。努力できる人だけが健康を獲得できれば良いというのは傲慢である。WHOによる公衆衛生の定義にもあるように、「最大多数の人々にとって最良の健康を確保しながら、健康上の不平等を減らす」ことが求められている。したがって、予防の必要性の高いすべての人たち(低年齢児、障害者、高齢者、低所得者層など)が恩恵を受けることができる方法が政策的措置として採用されなければならない。さらに、地域単位の意思決定に当たっては、「すべての人々に選択の権利を平等に与えること」が重要であり、「一人ひとりの人権を守ることは、いつでも個人の無制限な自由を許すことと同義ではない。」という概念を形成する必要がある。

b) 問題点2

 「薬害会議−意見書」6頁、「水道水へのフッ素添加を地方議会の決議で実施するのは適正手続き侵害である。 すなわち、水道水へのフッ素添加は人権(自己決定権等)の制約となるから、仮に公共の福祉によって正当化されるとの立場にあっても、国会の議決を経ないで人権を制約することになり、法の支配に反することになる。すなわち、法律に根拠をもたない水道フッ素化政策は、適正手続きを定めた憲法31条にも反することになる。」について

解説:水道水フッ化物添加に対して、法律を規定して国家が取りうる態度は、以下のように3つあると想定できる。

 @.水道水フッ化物添加を、国が水道事業者に対して命令する。

 A.水道水フッ化物添加を、国が水道事業者に対して禁止する。
 
 B.水道水フッ化物添加を、水道事業者が自らの判断によって決定しうる、国は水道事業者の判断に委ねる。

 現実にはわが国の場合、水道法によって国の態度を決めている。

 水道法の目的は、水道法第1条(法の目的)によれば、「水道の布設及び管理を適正かつ合理的にするとともに、水道を計画的に整備し、及び水道事業を保護育成することによって、清浄にして豊富低廉な水の供給を図り、もって公衆衛生の向上と生活環境の改善とに寄与する」である。すなわち、水道法の全ての規定を設けた最終的な目的は、公衆衛生の向上と生活環境の改善の2つである。水道水フッ化物添加は、生活環境を改善することによって得られる公衆衛生的なう蝕予防手段である。

 また、現行法の水道法は、水道水フッ化物添加を命令も禁止もしているわけではなく、許容量内(フッ素・・・0.8mg/l以下であること;水道法4条)であれば、水道水フッ化物添加の実施を水道事業者の判断にまかせていると解釈できる。

4) 水道法の法意について

 基準値の範囲(0.8ppm以下)であれば、水道水フッ化物添加を行うことが水道法の法意に背くということにはならない。

問題点

「薬害会議−意見書」6頁「水道法4条1項は『水道により供給される水は、次の各号に掲げる要件を備えるものでなければならない』と定め、3号に『銅、鉄、弗素、フェノールその他の物質を許容量をこえて含まないこと』とあり、水道法4条2項で『前号各号の基準に関して必要な事項は、厚生省令で定める』と規定している。そして、水質基準に関する省令で、『フッ素・・・0.8mg/l以下であること』と定めている。

 この水道法4条および水質基準に関する省令は、水道水利用のために天然水に含まれる化学物質の含有量の上限を示したもので、天然水への化学物質添加の根拠規定ではない。 したがって、水道法4条および省令をフッ素添加の根拠規定と解することはできない。」について

 解説:上記で述べたように、現行法の水道法は、水道水フッ化物添加を命令も禁止もしているわけではなく、許容量内(フッ素・・・0.8mg/l以下であること;水道法4条)であれば、水道水フッ化物添加の実施を水道事業者の判断に委ねているものと解釈できる。

 また、水質基準は、浄水場における最終的な水質を規定しており、その水質を守るために各種の化学薬を使用することは認められている。実際、沈殿のための硫酸アルミニウム、アルカリ度調整のための消石灰およびソーダ灰、あるいは消毒のための液体塩素などの添加が用いられている。

 さらにいえば、水道水フッ化物濃度が0.8mg/l以上の地域において、仮に、フッ化物を0.8mg/lをわずかに下回る濃度まで除くことによってう蝕予防を図ろうとしても、それだけでは法に違反することにはならない。水道水フッ化物添加とは、フッ化物濃度が過剰であれば除去し、それが不足であれば追加調整することによって水道水のフッ化物濃度をう蝕予防に適正なレベルに保つことである。単にフッ化物を追加調整することだけが水道水フッ化物添加を意味するものではない。

 水道事業者を含む地域の人びとが、水道水フッ化物添加の導入についてより積極的に合意できるよう、法的な整備を促進する社会的な努力が求められている。



参考文献

1 まとめ
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3.筒井昭仁、八木 稔、平田幸夫、境 脩:日本における水道水フッ化物添加の実現に関する論考、口衛会誌、51巻138−144頁、2001.

2 有益性と危険性

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2) 斑状歯

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5.  水道水中に含まれるフッ素によりその飲用者に斑状歯の被害が生じた場合につき水道の設置・管理の瑕疵及び水道事業を経営する市の担当職員の過失が否定された事例、判例時報、1483:38−50、1994.

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13.   平成13年度厚生科学研究費補助金(医療技術評価総合研究事業)歯科疾患の予防技術・治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究(課題番号 H12-医療-003)の援助により群馬県吾妻郡長野原町で調査(陰膳食法による):未発表

 3 全身疾患

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添付資料 

水道水フッ化物添加の安全性と有効性に関する権威ある機関による再検討の事例 (Examples of authoritative reviews of the safety and/or effectiveness of fluoridation): British Fluoridation Society, 2000.

(1) Ministry of Health、 Department of Health for Scotland、 Ministry of Housing and Local Government. (1953):スコットランド厚生省 (1953)。う蝕をコントロールする手段として、北アメリカでは水道水フッ化物添加が実施されている。イギリス政府の報告書。ロンドン:HMSO

背景

これはMedical Research会議の推薦によって行われた米国の政策に関する報告書である。目的は、う蝕の発生率を減少させる手段としての水道水フッ化物添加について調査することであった。

結論

至適濃度のフッ化物を含んでいる水道水の継続的な消費から生じる健康被害を示す証拠はない。

フッ化物濃度が1ppmに調整された水道水によってう蝕が減少することは明らかである。

フッ化物が加えられた水道水と天然にフッ化物を含む水道水が異なるという理由は全くない。

水道水フッ化物添加が行われている地域の子供の約10%に非常に軽度な歯のフッ素症があらわれる。しかしこれは健康被害などではなく、専門家でさえも見分けることができない。

水道水フッ化物添加された水が産業に悪影響をあたえるという証拠はなかった。

Membership

The Mission membership was Jean Forrest、 Dental Officer、 Ministry of Health、 J Longwell、 Principal Scientific Officer in the Department of the Government Chemist、 in charge of the Division dealing with the Examination and Treatment of Water、 Professor HH Stones、 Professor of Dental Surgery and Director of Dental Education、 University of Liverpool、 Director and General Consultant Liverpool Dental Hospital、 Member of the Dental Research Committee、 Medical Research Council、 Member of the Liverpool Regional Hospital Board and of the Board of Governors of the Liverpool United Hospitals、 AM Thomson Research Lecturer、 Department of Midwifery、 University of Aberdeen.

参考文献 115の参考文献を引

(2) World Health Organisation世界保健機関(1958) 、水道水フッ化物添加に関する専門委員会の報告書。テクニカルレポートシリーズNo146 WHOジュネーブ

背景

この調査は米国のグランドラピッズで初めて水道水フッ化物添加が行われてから13年後に行われたものである。

結論

水道水フッ化物添加の安全性を示すのに最も説得力のある証拠は、多くの人々(米国では300万人、イギリスでは50万人)が天然のフッ化物濃度が1ppmもしくはそれ以上の水を生活の上で飲んできたということである。この地域での開業医や専門家たちはフッ化物を消費することによる総合的な健康被害について何一つ異常を検出することもできず、もちろん明らかにすることもできなかった。

(3) Ministry of Health、 Scottish Office、 Ministry of housing and Local Government. (1962): The conduct of the fluoridation studies in the United Kingdom and the results achieved after five years. Reports on public health and medical subjects No. 105. London. HMSO.

背景

アメリカ合衆国での方針に対して、水道水フッ化物添加を英国で一般化する前には、英国内での調査を実施すべきであるとの勧告があった。この時代、その勧告に沿った2つの報告が出されている。そのうちの最初の一つが本報告である。

結論

水道水フッ化物添加による害を示す証拠は継続的な調査にもかかわらず認識されていない。

3つの調査対象地域における5年間の水道水フッ化物添加によって小児の歯にはかなりの向上が見られた。

ここで得られた結果は米国での結果に沿うものである。

水道水のフッ化物濃度を調整する際の技術的な問題はない。

Membership

The Steering Committee included officials knowledgeable in the relevant dental, medical, chemical, water supply and statistical matters drawn from the Ministry of Health, Department of Health for Scotland, Welsh Board of Health, Laboratory of the Government Chemist, Ministry of Housing and Local Government and its Welsh Office and Ministry of Education.  The Medical Research Council were also represented, and subsequently, the committee was joined by the medical officers of health and water engineers of the local authorities concerned and representatives of the Ministry of Health and Local Government of Northern Ireland, the Central Council for Health Education and the British Dental Association.

参考文献 41の文献を引

(4) Department of Health and Social Security, Scottish Office, Welsh Office. (1969): The fluoridation studies in the United Kingdom and the results achieved after eleven years. Reports on public health and medical subjects No. 122. HMSO.

背景

これはイギリスにおける水道水フッ化物添加に関する二番目の報告書であった。

結論

1ppmフッ化物濃度が調整された水道水を供給するのはきわめて有効的にう蝕を減少させるものであり、全く安全なものである。

調査委員会では、水道水フッ化物添加に関していかなる有害作用も見つけることはできなかった。他の方法は,有効な代換え手段にはならない。子供の歯に確かな改善をもたらす方法は他にない。

世界の様々な地域からの結果が一貫していることが、水道水フッ化物添加の強みである。この報告によって、この重要な公衆衛生的手段の有効性が強化された。

レビュー(再検討)によれば11年後に医師達は、水道水フッ化物添加に関連すると彼らが思った徴候を有する2名の患者を報告した。2名の患者に対する注意深い調査の結果、これらの徴候はフッ素化された飲料水の摂取に起因するものではなかった。

Membership

The Committee on Research into Fluoridation was chaired by RM. Shaw, and members were: Dr W Alcock, Professor DAK Black, Dr ER Bransby, Dr G Crompton, JK Foreman, Surg.R/Admiral W Holgate, Professor GN Jenkins, Professor JN Mansbridge, Dr BR Nisbet, Miss JD Oswald, J Rodgers, Professor MA Rushton, Professor AI Darling, Professor GL Slack, Professor AM Thomson, Dr AE Martin

参考文献 40の文献を引用

(5) World Health Organisation. (1970): Fluorides and human health. Geneva: World Health Organisation Monograph Series No 59.WHO(1970):フッ化物と健康。ジュネーブ:WHO学術論文シリーズ、No59.

背景

この報告書は、フッ素(sic)の代謝に関する権威ある最新の報告書のために国際歯科連盟からWHOへ依頼したものであった。この目的は水道水フッ化物添加の様々な面に関する科学論文の公平性を再検討することであった。多くがフッ化物の代謝と医学的かつ公衆衛生的な利用に関連する複雑な問題であった。

結論

水道水フッ化物添加された飲料水に関しては、科学的証拠として圧倒的な支持を得ている。

Membership

29 international expert contributors and 93 international expert reviewers

参考文献 800を越える文献を引用。

(6) Royal College of Physicians。(1976)フッ化物と歯と健康。

Bath: Pitman Medical.

背景

王立医科大学は、水道水フッ化物添加の医学的見地に基づく見解を歯科専門家から求められたのに対して特別委員会を設置した。委員会は、18ヶ月間、フッ化物特に水道水フッ化物添加の効果に関する多量のデータを審査した。口述証言は水道水フッ化物添加に反対する組織のリーダーから採取し、それらの団体によって発行された印刷物が詳細に審査された。

結論

温和な気候で約1ppmの飲料水を消費することは、水の硬度に関係なく安全である。

1ppmという至適濃度に調整された飲料水、もしくは天然の飲料水は、歯の形成時期をこえて持続的に摂取することで、一生涯う蝕を減少させる。

水道水フッ化物添加と比べてフッ化物錠剤やフッ化物ドロップといったようなフッ化物補助剤、そしてフッ化物添加食塩は地区レベルでの有効性がまだ明らかにされていない。

フッ化物濃度適正化は環境を破壊することはない。

大学は水道水のフッ化物濃度が1ppmよりかなり下回るイギリスの地域において水道水フッ化物添加を推奨する。

メンバー

医学全般、小児科、地域医療、毒物学、疫学および遺伝学における専門家および歯科専門医の代表

参考文献 47の文献を引用

(7) Clemmesen(J.(1983)):水道水フッ化物添加とがんとの相関性についての主張:再調査 Bull. World. Health. Organ 61、871-883.

背景

この調査は、水道水フッ化物添加に関連してがんが増加すると主張する一つの論文をレビューした。

結論

この調査によって、上記の主張が誤っていることを明らかにした。

「水道水フッ化物添加とがんとの相関性について誤解を招きやすく、かつ反論される主張は、たとえ相関性が出たとしても、両者の因果関係は証明されてはいない。そして、このような水道水フッ化物添加ががんを増加させるという誤解と主張は、他の分野での研究や予防において本当に必要な努力と資源をかなり無駄にしたことになるので責任を負うべきである。」

メンバー

J Clemmesen (Formerly Chief Pathologist in Finsen Institute、 Copenhagen、 and Director of the Cancer Registry for Denmark、 and member of the WHO Advisory Group on Cancer.)

参考文献 32の文献から引用

(8) Lord Jauncey. (1983): Opinion of Lord Jauncey in causa Mrs Catherine McColl (A.P.) against Strathclyde Regional Council. Edinburgh: The Court of Session.

背景

Strathclydeにおける水道水フッ化物添加を守るためのスコットランドの法的チャレンジ。請願者は、水道水フッ化物添加は特にがんの発生との因果関係に関して有害だろうと主張した。スコットランドの歴史上最も長くそして最も経費がかかったといわれる裁判に201日が費やされた。裁判官(Jauncey卿)は、大量の証拠を調べるのに12ヶ月を要した。

結論

Jauncey卿は、完全に水道水フッ化物添加の安全性および有効性を立証した。請願者の嘆願にもかかわらず、水道水フッ化物添加は他に例をみないほどに有効な方策であることが支持された。

(9) Knox、 E. G. (1985): Fluoridation of water and cancer: a review of the epidemiological evidence. London: HMSO.Knox.E.G.(1985)):水道水フッ化物添加とがん。疫学的根拠の調査。ロンドン:HMSO。

背景

水道水フッ化物添加ががんの原因となるという主張に対し厚生省は、フッ化物濃度が追加調整された飲料水、もしくは高濃度の天然フッ化物を含む飲料水を飲んでいる地域で、がん発生率と死に関する最新の疫学調査を行う特別調査委員会を設立した。

結論

水の中に自然に含まれている、あるいは、調整されたフッ化物ががんを引き起こす原因となりがんによる死亡率を増加させるという結論に結びつく疫学的な証拠は、どこにも見出すことはできなかった。この声明は、がん全体および多数の特定部位のがんについても当てはまる。われわれはこの分野における非常に大多数の科学研究者および科学評論家に同意するものである。

メンバー

The Working Party was chaired by Professor EG Knox, Professor of Social Medicine, University of Birmingham, and membership included 10 eminent UK scientists from the disciplines of Cancer Research, Cancer Epidemiology, Medical Statistics, Biostatistics, Pathology and Water Research.

参考文献 110の文献を引用

(10) Ad Hoc Subcommittee on Fluoride of the Committee to Coordinate Environmental Health and Related Programs. (1991): Review of Fluoride Benefits and Risks. Washington DC: Public Health Service, Department of Health and Human Services, USA.

背景

飲料水などにおけるフッ化物の公衆衛生的有効性の包括的な再検討と評価は、オスのラット一匹に、悪性の骨腫瘍(骨肉腫)が発生したという「曖昧な根拠」を持ち出した毒物学会の研究報告が元になり行われた。

結論

人間においては、水道水のフッ化物濃度が適正に調整された飲料水によってがんが引き起こされるという証拠は、広範囲な疫学調査のデータでは導き出せない。これにはここで引用している新しい疫学調査でも同様のことである。骨肉種を含むがんの傾向は、水道水フッ化物添加の導入やその継続期間に起因しなかった。継続的に低濃度のフッ化物を摂取することは、先天奇形またはダウン症に関係していない。もちろん胃腸器や泌尿器そして呼吸器などのようないかなる器官にも問題を生じさせるという証拠はない。さらに骨フッ素症は米国における公衆衛生的な問題とはならない。

Membership

The Ad-Hoc Subcommittee on Fluoride of the Committee to Coordinate Environmental Health and Related Programs US Public Health Service was chaired by Frank Young MD PhD.  Membership included over 30 eminent US Public Health Service scientists and utilised the Committee to Coordinate Environmental Health and related Programs to organise and guide the work of the Subcommittee.

参考文献 52頁におよぶ参考文献を引用

(11) Murray, J. J., Rugg-Gunn, A. J., and Jenkins, G. N. (1991): Fluorides in Caries Prevention. 3rd ed. Oxford: Wright.

背景

第一版は1975年に出版された。この本の主旨はう蝕を予防する物質として、様々な形で応用される臨床的なフッ化物の有効性を示すことであった。

結論

水道水フッ化物添加が行われている113の地域における調査の結果は、理論を超越して次のことを示した。それは水道水フッ化物添加が気候、人種もしくは社会的格差にかかわらずう蝕有病率をおよそ50%減少させ、う蝕予防に有効であるということである。

健康全般についての水道水フッ化物添加の影響は、一連の住民調査で徹底的に調査された。 (温和な気候中で)約1ppmのフッ化物を含んだ飲料水を使用することが有害な影響に関係するという証拠はない。

原著者

3 authors: Professor JJ Murray, Professor and Head, Department of Child Dental Health, University of Newcastle upon Tyne Dental School, Professor AJ Rugg-Gunn, Professor of Preventive Dentistry, departments of Child Dental Health and Oral Biology, University of Newcastle upon Tyne Dental School, Professor GN Jenkins, Emeritus Professor of Oral Physiology, University of Newcastle upon Tyne.

参考文献  36 頁におよび参考文献を引用

(12) National Health and Medical Research Council. (1991): The effectiveness of water fluoridation.(水道水フッ化物添加の有効性) Canberra(キャンベラ): Commonwealth of Australia(オーストラリア).

背景

オーストラリア NHMRCは、水道水フッ化物添加が過大評価されているという主張を評価するために研究班を発足させた。研究班は3つの主な問題点を評価した。その3つとは、「水道水フッ化物添加の有効性について」と「調査結果に科学的な不正あるいは誤りがあるかどうか」、そして「経時的う蝕有病状況の変化について」である。さらに、研究班は、フッ化物を摂取したときのあらゆる有害作用に関する証拠についても再検討した。

結論

水道水フッ化物添加は継続してう蝕予防に寄与する方法である。つまりこの方法によって広範囲かつ非常に実用的なう蝕予防の基盤を歯科公衆衛生的に提供しつづけてくれるのである。

水道水フッ化物添加は1ppmの濃度で最大のう蝕予防効果を発揮するが、その一方で子供に最小限度の審美的に問題とならない歯のフッ素症を発現させる。

水道水フッ化物添加によるフッ化物と日常的に自由意思で摂るフッ化物を併用しても健康被害が生じるという証拠は全くない。

個人の自由意思で摂取しているフッ化物の摂取を注意すれば、幼少期に過度のフッ化物を摂取することは避けることができる。

水道水フッ化物添加が行われていない地域では行うように奨励すべきである。

Membership

Professor AJ McMichael, Professor of Occupational and Environmental Health, Department of Community Medicine, University of Adelaide, Ms Hilda Bastian, Consumer’s Health Forum, Canberra, Professor RM Douglas, Director, National Centre for Epidemiology and Population Health, Australian National University, Canberra, Dr BT Homan, Department of Dentistry, The University of Queensland, Dr BG Priestly, Department of Clinical and Experimental Pharmacology, The University of Adelaide, Professor AJ Spencer, Professor of Social and Preventive Dentistry, The University of Adelaide, Dr SR Wilson, Statistics Research Section, School of Mathematical Sciences, Australian National University, Canberra, Mr GD Slade, Public Health Research Fellow, Department of Dentistry, The University of Adelaide.

参考文献 200の文献を引用

(13) Medical Research Council Physiological Medicine and Infections Board (1993) Report of the Working Group on fluoridation of drinking water - link with osteoporosis(骨粗鬆症と水道水フッ化物添加との相関性について調査委員会の報告). 17 December 1993. MRC. London

背景

水道水フッ化物添加と骨粗鬆症の発生率との関係が提起されたため調査グループが召集された。調査委員会の目的は骨粗鬆症の発生率に水道水フッ化物添加が影響を与える可能性についての証拠を検討し、さらに研究が必要かどうかについて委員会に助言することであった。

結論

・作業班は、大腿骨骨折の危険性が水道水フッ化物添加でもたらされるう蝕予防という恩恵を上回るという確証は得られなかった。

・現在の知識を向上させ、かつ公衆衛生政策を支持するためにも更なる調査を推奨する。

Membership

The Group was chaired by Dr A Lucas, MRC Dunn Nutrition Unit, Cambridge and membership was: Dr C Cooper, MRC Environmental Epidemiology Unit, Southampton, Professor JJ Murray, Department of Child Dental Health, University of Newcastle upon Tyne, Dr J Reeve, Bone Diseases Group, Department of Medicine, Cambridge, Professor RGG Russell, Department of Human Metabolism & Clinical Biochemistry, Sheffield University.

参考文献 17の文献から引用

(14) Public Health Commission. (1993): Fluoridation of water supplies(水道水フッ化物添加) Draft Policy Statement. May 1993. Wellington, New Zealand.

背景

ニュージーランド政府のPHCは水道水フッ化物添加に関する再調査と、口腔衛生を促進するための手段としての水道水フッ化物添加に関する国策の推奨を行うようオタゴ大学に委託した。

結論

う蝕はニュージーランド人にとって未だ大きな問題である。水道水のフッ化物濃度を1ppmに調整することは、その水道水が供給されている地域全体を網羅できる最も効果的かつ効率的なう蝕予防法である。水道水フッ化物添加という現在の政策を変更するほど健康に与える有害な影響についての根拠は全くない。

PHCは水道水フッ化物添加の計画を継続し、さらにそれを技術的に可能な範囲までできるだけ拡大することを推奨する。

Membership

Dr Elizabeth Treasure, Senior Lecturer, Department of Community Dentistry, University of Otago, Dr Bernadette K Drummond, Senior Lecturer, Department of Community Dental Health, University of Otago, Dr Heather A Buchan, Senior Research Fellow, Department of Preventive and Social Medicine, University of Otago, Dr Michael G Beasley, Research Fellow, National Toxicology Unit, R Mark Henaghan, Senior Lecturer, Faculty of Law, University of Otago, Dr Barbara R Nicholas, Assistant to the Director, Bioethics Research Centre, University of Otago.

参考文献 94の文献から引用

(15) National Research Council: National Academy of Sciences Committee on Toxicology. (1993): Health effects of ingested fluoride(フッ化物摂取による健康への影響). Washington DC: National Academy Press.

背景

米国環境保護局(EPA)はthe National Research Council’s Board on Environmental Studies and Toxicology (BEST)に、フッ化物の摂取量と毒性についての調査を委託するとともに、EPAで定めた水道水中の上限のフッ化物濃度(4ppm)が潜在的な有害作用から公衆を守ることができる濃度かどうかを決定することも依頼した。EPAの依頼に応じて、BESTの毒物学委員会(COT)は、フッ化物摂取による健康への影響について調査する小委員会を設立した。小委員会は、以下の項目における詳細なデータの評価に基づいている。

フッ化物の摂取、代謝、排泄

歯のフッ素症

骨強度および骨折の危険性

腎や胃腸管や免疫システムへの影響

動物における出産への影響

遺伝子毒性

動物と人間への発がん性

結論

現在認められている飲料水中の至適フッ化物濃度レベルでは、健康問題をもたらすことはない。

Membership

The subcommittee was chaired by Bernard M Wagner, Wagner Associates Inc, New Jersey, and members were: Brain Burt, University of Michigan, Kenneth P Cantor, National Cancer Institute, Steven M Levy, University of Iowa, Ernest Eugene McConnell, Raleigh, NC, Gary M Whitford, Medical College of Georgia, Augusta, GA

参考文献  400の文献から引用

(16) Expert Committee on Oral Health Status and Fluoride Use. (1994): Fluorides and oral health(フッ化物と口腔衛生). WHO Technical Report Series No. 846. Geneva: World Health Organisation.

背景

口腔衛生とフッ化物の応用に関するWHOの専門委員会の報告によって、う蝕予防におけるフッ化物の最適な公衆衛生的応用についての最新の科学的かつ技術的アドバイスがWHOから提示された。

結論

水道水フッ化物添加は、安全かつコスト効率が優れた方法であり、それが社会的に許容可能かつ実現可能であればどこの地域でも導入されて維持されるべきである。

Membership

The Expert Committee was chaired by Professor BA Burt, School of Public Health, University of Michigan, and members were: Dr Y de Paiva Buischi, São Paulo, Brazil, Dr I Ghandour, Faculty of Dentistry, University of Khartoum, Sudan, Professor JJ Murray, University of Newcastle upon Tyne, England, Dr DL Mwaniki, Medical Research Centre, Kenyan Medical Research Institute, Nairobi, Kenya, Professor D O’Mullane, Department of Preventive and Paediatric Dentistry, University College, Cork, Ireland, Dr P Phantumvanit, Faculty of Dentistry, Chulalongkorn University, Bankok, Thailand, Professor SH Wei, Dean, Faculty of Dentistry, University of Hong Kong, Hong Kong.  Special contributions were made by a further seven international experts in the fields of medicine and dentistry.

参考文献  15の文献から引用

(17) Health Promotion Wales (1996) Effective oral health promotion: literature review Technical Report No 20. Cardiff. Health Promotion Wales.

背景

Literature review by University College of Wales College of Medicine in partnership with Health Promotion Wales.  主な調査目的は様々な口腔衛生の推進が効率的か否かを識別することであった。

結論

水道水フッ化物添加はう蝕予防に有効である。安価かつ安全であり、そしてすべての住民に恩恵を与える。

水道水フッ化物添加によって健康の不平等を是正するという証拠がある。

この調査報告では、水道水フッ化物添加と同等の予防法は報告されていない。

参考文献 109の参考文献から引用

(18) Proceedings of the International Symposium on Water Fluoridation (1996) Community Dental Health 13 Suppl 2.

背景

これらの議事録は、1995年6月1日、2日にバーミンガム(英国)で行われた水道水フッ化物添加に関する国際シンポジウムで発表された科学的調査を含んでいる。特にがん、骨、免疫機能に与える水道水フッ化物添加の影響について各分野の英国の専門家によって調査されている。

結論

飲料水中のフッ化物ががんの危険性の増加を引き起こすとは示されていない。Dr Paula Cook-Mozaffari, MRC Cancer Epidemiology Research Group, Oxford, UK.

水道水フッ化物添加が大腿骨骨折の危険因子かもしれないと示唆する証拠の質は低く、水道水フッ化物添加プログラムを後退させるのには十分な証拠とはいえない。Professor Cyrus Cooper, MRC Environmental Epidemiology Unit, University of Southampton, Southampton, UK.

水道水フッ化物添加が特定の免疫に有害作用を及ぼすという証拠は全くない。これはアレルギー反応に関しても同様である。Professor SJ Challacombe, Department of Oral Medicine and Pathology, UMDS, Guy’s Hospital, London, UK.

参考文献 がんに関しては38の文献から引用・骨については38の文献から引用・免疫学については15の文献から引用

(19) Kay L, Locker D (1997) Effectiveness of oral health promotion: a review. London. Health Education Authority

背景

In 1996 the Health Education Authority commissioned a review of the research evidence on the effectiveness of oral health promotion interventions.  The research was carried out by Dr Liz Kay, of the Department of Oral Health and Development, University of Manchester, and Professor David Locker of the Community Dental Health Services Research Unit, University of Toronto.

結論

フッ化物の有効性に関する証拠の質は高い。

もしフッ化物の応用がされていなかったとしても個々の行動の変化が起きさえすれば口腔衛生の推進それ自身によってう蝕有病状況に影響を与えるという証拠は全くない。

参考文献 164の論文をレビュー

(20) Jones, G., Riley, M, Couper, D, and Dwyer, T. (1999): Water fluoridation, bone mass and fracture(水道水フッ化物添加と骨量と骨折)a quantitative overview of the literature. Australia and New Zealand Journal of Public Health 23, 34-40

背景

この研究は、次の質問に答えるためにメタ分析の技術を用いた。

1.      水道水フッ化物添加は集団レベルでの骨折の危険性(特に大腿骨)と相関性があるか。

2.      様々な研究における差異はそれらの各研究間における交絡要因あるいは偶然の変化と一致しているか。

結論

水道水フッ化物添加は、う蝕予防を目的とした濃度であっても、またそれよりも高い天然の濃度であっても骨折には影響がほとんどないように思われる。集団レベルでの保護であって有害ではないのである。

著者

Dr Graeme Jones, Malcolm Riley, David Couper, Terence Dwyer, Menzies Centre for Population Health Research, University of Tasmania, Hobart, Tasmania.

参考文献 40の文献から引用

(21) Faculty of Public Health Medicine of the Royal College of Physicians of Ireland (1999): Water Fluoridation and Public Health(水道水フッ化物添加と公衆衛生). Royal College of Physicians of Ireland. Dublin.

背景

この調査は、the Research Committee of the Royal College of Physicians of Ireland’s Faculty of Public Health Medicine によって行われた。そして1999年10月に政策公文書としてFaculty of Public Health Medicineによって出された。

結論

委員会は次のように結論付けた。「フッ化物がう蝕から歯を守るという疫学的証拠は圧倒的であり、歯のフッ素症以外の副作用については立証されていない」。委員会は、アイルランドで現在行われている水道水フッ化物添加政策の継続を強く支持する。

Authorship

Research Committee of the Royal College of Physicians: Dr M O’Connor, Dr P Fitzpatrick, Dr H Johnson, Dr L Thornton.

参考文献 81の参考文献を引用

(22) Burt, B. A., and Eklund, S. A., eds. (1999): Fluoride Human Health and Caries Prevention and Fluoridation of Drinking Water. In: Dentistry, Dental Practice, and the Community. 5th ed. pp 279-314 : WB Saunders. Philadelphia.

背景

BurtおよびEklundがこの本で述べている意図は社会背景に対して歯科学および歯科臨床のあるべき姿を示すことにある。社会背景とは口腔疾患の分布と同様で経済的、技術的および人口統計学的傾向のことである。フッ化物と水道水フッ化物添加についての章では、水道水フッ化物添加のすべての面における証拠を再検討し解釈する。

結論

フッ化物の上手な使用によって、その恩恵を受ける全員のQOLが向上した。水道水フッ化物添加はフッ化物をその地域に供給するための最もコスト効率の良い方法である。また、それは社会的に恵まれた人よりも、比較的に社会的に恵まれていない人により多くの恩恵を与えることになる。

Authorship

Brian A Burt, BDS, MPH, PhD, and Stephen A Eklund, DDS, MHSA, DrPH, Program in Dental Public Health, School of Public Health, University of Michigan, Michigan, USA.

参考文献 314の文献を引用

(23) Public Health Branch, Ontario Ministry of Health (1999).  Benefits and Risks of Water Fluoridation(水道水フッ化物添加の利点と危険性): An Update of the 1996 Federal-Provincial Sub-committee Report

背景

その報告書は水道水フッ化物添加に関するオンタリオ協議会の一部として、オンタリオ厚生省によって委任された。それは、水道水フッ化物添加に関する利点と健康の危険に関する論文で1994年と1999年の間に発表されたものから成る。最終報告は、厚生省のウェブサイトで利用可能である(www.gov.on.ca/health)。

結論

う蝕の割合は非フッ素化地区よりもフッ素化地区のほうがより低いと述べている論文のほうが多い。

う蝕が少ない地域ではう蝕の減少と歯のフッ素症の増加との間のバランスについて、慎重な評価が行われるべきである。

飲料水中のフッ化物濃度のガイドラインは、地域間でのう蝕有病の差に合わせることができるように柔軟にすべきである。

これらの現在までの論文には有害作用を示すような系統的かつ注目を浴びる証拠はない。

Membership

Submitted by Dr David Locker of the Community Dental Health Services Research Unit, University of Toronto.

参考文献 266の文献を引用

(24) University of York NHS Centre for Reviews and Dissemination (2000): Fluoridation of the Water Supply: a Systematic Review of its Efficacy and Safety. University of York. UK.

背景

In its 1999 public health White Paper Saving Lives: Our Healthier Nation the UK Government committed itself to new legislation to ensure that water suppliers fluoridate supplies when asked to do so by health authorities.  This commitment was subject to confirmation of the benefits and safety of water fluoridation by this independent systematic review of the evidence. 

この再評価は、ヨーク大学のNHSよって行われ、2000年10月6日に公表された。最終報告は以下のウェブサイトで利用可能である。http://www.york.ac.uk/inst/crd/fluorid.htm

結論

報告書によると、水道水フッ化物添加は、平均して2.25本のう蝕を減少させ、う蝕経験のない子供たちの割合を15%増加させる。

この再評価では水道水フッ化物添加が、がん、骨疾患あるいは他の有害作用に関連しているという証拠を見つけることができなかった。

歯の健康に関する不均等については、次のように述べている「5歳および12歳の断面調査において水道水フッ化物添加が歯の健康の不均等を是正させる証拠がいくらかあるようにおもわれる」。

この再評価では、水道水フッ化物添加に関する研究の質が低〜中程度であることを述べている。

Membership

Team members: Dr Matthew Bradley, NHS Centre for Reviews and Dissemination (CRD); Professor Jos Kleijnen, CRD; Dr Marian McDonagh, CRD; Kate Misso, CRD; Penny Whiting, CRD; Dr. Ivor Chestnutt, Dental Public Health Unit, Cardiff; Professor Elizabeth Treasure, Dental School, University of Wales College of Medicine, Cardiff.

Advisory Panel: Professor Trevor Sheldon, York Health Policy Group, University of York (Chair); The Earl Baldwin of Bewdley, Vice President National Pure Water Association; Dr. Iain Chalmers, UK Cochrane Centre; Dr. Sheila Gibson, Vice President National Pure Water Association; Ms. Sarah Gorin, Help for Health Trust;  Professor MA Lennon, Department of Clinical Dental Sciences, University of Liverpool School of Dentistry, and Chairman British Fluoridation Society; Dr. Peter Mansfield, President National Pure Water Association; Professor JJ Murray, Dean of Dentistry, University of Newcastle; Mr. Jerry Read, Department of Health; Dr. Derek Richards, Centre for Evidence-Based Dentistry; Professor George Davey Smith, Department of Social Medicine, University of Bristol; Ms. Pamela Taylor, Water UK.

参考文献  3,236の参考文献を精査した後、251が設定した基準に合格していた。

(25) 保健省による継続的な調査

In Health Circular HC(87)18, to Regional Health Authorities and District Health Authorities giving guidance on the introduction of schemes to fluoridate water supplies following the passage of the 1985 Water (Fluoridation) Actで政府は次のように約束した。

「水道水フッ化物添加の有効性と安全性について今まで以上の適切な証拠を継続して調査し、権威ある機関の注目を浴びるような重大な新事実を提供する。」

我々は、この調査が進行中であり定期的にこれらの機関(Committee on Carcinogenicity in Food, Consumer Products and the Environment, the Committee on Medical Aspects of Food Policy, the Committee on Toxicity of Chemicals in Food, Consumer Products and the Environment, and the Physiological Medicine and Infections Board of the Medical Research Council)に再評価されるという意味を含んでいると理解している。