富山県歯科医師会報   平成12年11月号(第54巻6号:通算211号)

部会だより(連載・全3回)

,なぜ水道水フッ素化なのか!(その1)富山県歯科医師会 小児・学校歯科保健部

(前文)今年度中に県は「歯の健康二次プラン」を策定する。世界では多くの国々が水道水フッ素化を最も優れたむし歯予防手段として利用,以来人々の口腔保健は著しく向上してきている。県民の健康を考える時,新しいプランに、いま国内でも実現可能となってきた「水道水フッ素化」を盛り混むよう期待する。役員会でも,議題となったので,会員の先生方にもご理解頂きたく,最近の情報や基礎知識を連載する。 

 

歯科医師法

第1章 総則

〔歯科医師の任務〕

1条 歯科医師は、歯科医療および保健指導を掌ることによって,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする。

(総論)今なぜ水道水フッ素かなのか

医療費が老人医療費を中心に伸びているが,歯科は横ばいである。これは,老人の歯科医療費が伸びないせいである。これは,兎にも角にも,年取ると歯がなくなるため,義歯を中心とした治療に限界があり,これが頭打ちの大きな原因である。そんな中で,水道水フッ素化はむし歯予防を原点に、歯の保存かつ寿命を延ばすのに大いに役立つ政策である。

また、アメリカの55年以上に渡る水道水フッ素化の歴史を見ても, 1965年と1985年を比べた時、小児の診療時間は大幅に減少するものの,その減少幅を遥かに超えて成人の診療時間が増加したのである。(資料1)つまり、予防はトータルでは仕事を増やした事になる。また,不正咬合や顎関節異常の治療時間も増加して,前よりも歯科医の診療体系が多様化した。

アメリカ歯科医師会は,水道水フッ素化の政策を推進することで,国民に対して,最大限の健康づくりの責任を果たすことになった。これは,ギャロップ世論調査の,国民の信頼する職業のベスト5に常に歯科医がランクされていることでわかる。

水道水フッ素化は,WHOが1969,1972年と1975年の3回勧告している通り、公衆衛生的に見て,ベストのむし歯予防対策である。公衆衛生施策とは,公平で,簡便で,安全で,有効で,かつ,経済的である方法が良いが、水道水フッ素化は,まさにこれにぴったりの政策である。

一方、厚生省や日本歯科医師会は、8020運動などと呼びかけているが,地に付いていない。なぜなら,真のEBMに裏付けられる政策を掲げられないからである。「健康日本21」で,厚生省はいろいろの目標を挙げているが,ベストの公衆衛生施策を取らずして高い評価を国民から得られない。個人衛生の強要では限界がある。

国民の健康を勝ち取るには公衆衛生と両輪で進めなければならない。(資料2)モデルとした,アメリカの「ヘルシーピープル2000プラン」の最も大事な公衆衛生施策(水道水フッ素化)を抜いてしまっている。

国際交流が盛んになったり,国際協力が評価され出したりして,国際的にボーダーレスになってきた今日,世界の常識が日本の非常識と言われるくらいむし歯予防では,日本が遅れているのが目立ってきた。

それが,国・厚生省や日本歯科医師会の情報公開に原因があるといわれてきている。それを,マスコミが取り上げ出した。(読売新聞,毎日新聞,共同通信など)

逆に言えば,今が,チャンスである。水道水フッ素化を歯科医師会が推進していけば、マスコミが精一杯歯科医師会を持ち上げるのは必定である。何しろ,歯科界で国民にこれ以上の政策はない,つまりベストの健康政策を提唱することになるのだから。

昨年12,フッ化物検討部会の答申を受け,日本歯科医学会も見解を発表した。長い間のフッ素の論争に決着をつけるべく,フッ素の安全性を認め,歯科保健担当者が、フッ化物利用を推進する様求めた。また,大学関係の教育にフッ素推進を取り上げる様要望している。

ようやく厚生省は、学会の見解を踏まえ,積極的な自治体からの要請に応じ、研究班を作り,フッ素化を実施した場合の適正濃度や摂取量の検討に入ることにした。

そうして, 2000年(今年)7月、水道法の基準0.8ppm以下ならば,水道施設長(市長村長または,広域水道事業団長)の判断で、水道水にフッ素を添加してかまわないという見解を,厚生省歯科保健課長が示した。

6群馬県甘楽町で歯科保健シンポジウムが開かれ,水道水フッ素化推進をテーマに議論された。同席の町長は,推進の意志表明を行い,実施に向け動き出した。

その他,隣の下仁田町や,栃木県・熊本県や鹿児島県などの町村で、実施に向け検討に入った。

沖縄の具志川村は,厚生省のモデル事業として2002年実施に向け,村と厚生省が協議に入った。

「富山県歯の健康プラン」では,フッ素塗布・フッ素洗口の予防措置の導入で、成果が上がった。現在,二次プラン策定に向け,10年計画を練っているが,この中に水道水フッ素化を県民の健康づくりの基本政策に盛り込む様期待する。なぜなら,今後10年間の間に,水道水フッ素化は健康政策の要になってくる可能性が高いからである。県は,策定にあたって,国際的に見ても恥ずかしくないプランをと考えており是非実現して欲しい。

富山県には,市町村で浄水場を単独で持っておるところもあるが,広域圏でもっているところもあり、後者のようなところで水道水フッ素化を実現するには,是非とも県の指導力や調整力が必要となる。この,水道水フッ素化は,乳幼児から,成人・高齢者まで、また、障害児(者)も含む,その地域住民みんながその恩恵に浴することが出来る。県内でも無歯科医地区では実施の希望もあり,また,障害児の父兄からは望む声もある。

ところで,一旦始めたら好むと好まざるとに拘わらずその水を飲むことになると心配する向きもあるが、米国や韓国では,絶対反対という住民には,行政が除フッ素フィルター装置を支給している。

このようないくつかの心配事をとり除きながらということで、すぐに実施に移すのは困難かもしれないが,環境を整備するためにも,県の二次プランに何らかの形で推進に向け盛り込まれるべきと考える。

県歯科医師会は、「富山県歯の健康プラン」では,対策会議・県と協力し『フッ素利用マニュアル』を作成し,関係機関に配布したが、今後はさらなるむし歯予防のベストの公衆衛生施策である水道水フッ素化を県民に向けて,推進する立場を表明し,県・市町村に働きかけるべきと考える。そうすることによって,歯科医師会は県民の口腔の健康に関して最大限の責任を持ち得,しいて言えば、今以上にどこに行っても胸の張れる団体となり得る。

また,会員は,診療所においては,県民に対して自信を持って診療にあたることが出来,予防管理を進めるにあたってもプラスになる。なぜなら,健康の回復・保持増進には公衆衛生と個人衛生の両面で行くのが1番効果があるからで,その意味においても、この政策の上にのった予防管理は、受診者の大いに理解の得られやすい面を持っている。

長期展望の上に立つと,こうして歯を残す健康施策が,将来富山県の歯科医の未来に明るい希望をもたらすであろうことは,先に説明した通りである。

21世紀は決して暗くはない。      次号(平成13年1月号)に続く (山本武夫)

(後記)これは,歯科医師会会員が、なぜ、「治療」から「予防」に考えをシフトして行かなければならないのかを、わかり易く解説したつもりです。

公衆衛生を理解する先生にとっては,何をいまさらとお思いになるかもしれません。誰も,診療時間を増やしたくて保健活動や予防を言っているわけではないといわれるかもしれません。

しかし、役員会の中の議論や,その後の幾人かの先生との話し合いの中で、我々は「医療の提供者」で、「ヘルスの提供者」ではないと考えている先生がたくさんおられます。直接,ヘルスを提供できなくとも,歯科専門家として、口腔保健医療専門職として、我々の発言は,大変重要です。ましてや、歯科医の中だけの発言と,一般の人への発言と使い分ける先生もおられます。

少なくとも,私は,歯科医に対しても,一般の人に対しても,健康に関するポリシーは一貫しているつもりです。役員会の発言は,会員すべてへの発言ですし,一般の方への発言も同じです。

是非,ご理解頂きたいと思います。(山本武夫)

ご意見感想は,山本武夫までお願いいたします。(e-mail:info@f-take.com)