成人歯科保健における歯周疾患対策について

                                 岡山市開業  黒瀬真由美

 成人歯科保健について考察するに当たって、まず、参考となる数値を示したいと思います。以下に示すのは、1987年と1998年に岡山県で行われた抜歯の原因に関する調査報告です。

抜歯原因の分布(%) 1987年 1998年
う蝕 55.0 42.1
歯周疾患  38.4 46.1

 この調査結果から、歯が抜かれる主因はう蝕と歯周疾患であり、この10年間で首位が入れ替わっている傾向が示唆されます。いずれにしても、う蝕と歯周疾患のcontrolが不可欠であることは言うまでもありません。

 う蝕に対しては、公衆衛生的にフッ素を応用することによって確実な予防効果が得られることが十分に示されています。日本でもフッ化物配合歯磨剤のシェアがようやく70%を超え、加えて水道水フッ素化にも関心が集まり始めました。また、日本歯科医学会フッ化物検討部会がフッ化物応用を推奨する最終答申をまとめました。今後フッ素応用の拡大をはかることにより、う蝕が減少していくのは確実と思われます。

 一方、歯周疾患に対しては一対一の対応でなければ効果をあげることは困難であり、しかもself careとともにprofessional careの重要性が指摘されています。したがって、一般開業医における日常的な取り組みが欠かせないと考えます。

 歯周疾患の罹患率は高く、成人で80〜90%にのぼると言われています。ところが病識は低く、歯周疾患を主訴に来院する患者は多くはありません。したがって、歯科医院を訪れる患者は、その主訴の如何にかかわらず、ほとんどが何らかの歯周治療を必要としていると言っても過言ではありません。来院患者の歯周疾患を見逃さずに対処していくことが必要と思われます。

 当院は1991年、保険診療による歯周治療とメインテナンスをめざして岡山市内に開業しました。主たる診療内容は、岡山大学歯学部予防歯科診療室で行っている、術者磨きに重点を置いたProfessional Tooth Cleaningです。術者磨きの目的は、歯垢を徹底的に除去するとともに歯肉に適度なマッサージを加ることによって、@治療効果をあげること、A爽快感を味わってもらい、self careprofessional careへの動機付けとすることです。

術者磨きを徹底して行うことによって、長期にわたってより良い動機づけとメインテナンスが得られると考えています。現在、当院の来院患者の6割が歯周治療とメインテナンスのために訪れています。採算性の分析を交えながら、当院での取り組みをご紹介します。

 来院患者の主訴はほとんどが歯周疾患以外のものです。初診時にはまず主訴に対する処置を行いますが、同時に今後新たにう蝕を発生させない方法等を話し合います。また、歯肉の炎症や歯石沈着についても指摘しておき、歯の掃除もさせてもらいたい旨を伝えておきます。そして、主訴に対する一応の処置が終了した時点で、相談の上、PTCの予約を入れ、以後はPTCとその他の処置を並行して行っていきます。

          初診

           ↓

 歯科医師   主訴に対する処置  その他の処置     必要に応じて処置

           ↓        ↑            ↑

 歯科衛生士     PTC ―――――――――――――――――――――――――――→ 継続

 来院されるほとんどの患者に対して、一度はPTCの時間をとるか、あるいは少なくとも術者磨きを行うようにしています。

 しかし、歯科医院への受診率そのものを考えると、診療室で待っているだけでは当然不十分であり、むし歯予防におけるフッ素の公衆衛生的応用のようなものがない以上、より多くの人にアクセスする方法が求められます。前述の通り、歯周疾患の罹患率の高さを考えると潜在的なニーズは非常に高いはずであり、それを実際にディマンドに変えていく方策が必要になってきます。歯周疾患対策としてターゲットにするべき年代には、母子保健法・学校保健法・老人保健法のような法整備もないため、一般の人々は歯科検診を受ける機会も限られています。また、歯周疾患は初期には自覚症状も乏しいため、節目健診などに歯周検診を導入して、病識を持ってもらうことが必要であると思われます。

 歯周治療のニーズを顕在化させることにより、歯科サービスの需要が拡大することは確実です。フッ素の応用によってう蝕の減少をはかることと、歯科医院の役割をう蝕の治療から健康管理へと移行させることによって、より多くの人の歯の健康を保っていくことが、歯科医療の将来像であると考えます。

黒瀬 真由美(くろせ まゆみ)先生   E-mail:pmj-kuro@po.harenet.ne.jp

1983年  広島大学歯学部卒業

1983年  岡山大学歯学部予防歯科学講座入局

1991年  岡山市,pmj歯科診療所、開業

 日本口腔衛生学会 会員

 日本歯周病学会 会員