NHK総合テレビ番組「あすを読む」テーマ『水道水フッ素化』 村田幸子解説委員(2001年1月24日午後11:50〜12:00)

1月24日,夕方のラジオの「ラジオ夕刊」に引き続いて,深夜,NHK総合TVで,村田幸子解説委員が「水道水フッ素化」について解説をされました。たった10分間の短い時間ではありますが,大変,内容の詰まった素晴らしい解説でした。そして。なかでも素晴らしいのは,実際に韓国を訪問されての検証付きの解説であります。フッ素添加施設を視察されたり,韓国の水道施設担当者や歯科医などの口腔保健担当者に会われて,益々,日本との熱意の差を肌で感じ取られたことでしょう。わたしも,韓国視察後,変わらざるを得ませんでした。

この番組が,多くの国民の目にとまって欲しかったものですが,放映時間が遅かったということもあり、藤野先生のテープ起こしのご努力に報いるために,早速、HPに載せました。是非,多くの人に読んでいただきたいものです。(山本武夫)   

(解説)

超高齢社会を目前にして、国は予防に重点を置いた健康づくり運動、健康日本21を始めています。この中で、80歳で20本歯を残そうという8020運動を進めています。しかし、現実は8005です。歯を失う一番の原因はむし歯です。

このむし歯を予防する一番の方法が水道水フッ素化という方法です。現在、世界56カ国で実施されていまして、日本でも実施することが決まりました。フッ素がむし歯予防に効果があるということは良く知られています。これは、虫歯の初期の段階では再び健康な歯にもどしてくれるからです。

これを水道水に利用したのが水道水フッ素化です。1945年にアメリカで行なわれ、全米へ、そして、世界へと広がった55年以上の歴史をもつ方法です。具体的にどうするかというと、上水道に自然の状態に含まれているフッ素をむし歯予防に適している濃度に調整する。少ない地域では添加し、具体的な濃度以上に含まれているものには減らす。こうして、地域全体で取組む公衆衛生的な施策です。この安全性に関しては過去何百という研究や実験が行われ再三確認されました。WHOは、実行し易く、安全かつ効果的な公衆衛生手段として過去3回にわたって水道水フッ素化でむし歯予防を実施するよう勧告を行なっているわけです。

しかし日本では、昭和40年代の半ば、宝塚市で水道水基準値以上のフッ素が含まれていたために歯のフッ素症、当時は班状歯といいましたが、歯の表面がまだらになるということが起こり、住民は班状歯訴訟を起こしました。

ここで、重要なのは,安全で効果的にむし歯を予防するにはフッ素の濃度をどのくらいにするかですが、アメリカの学者の5年間に渡る調査で1ppmということがつきとめられたのです。1ppmというのは水1リットル中に1ミリグラムのフッ素が含まれることなんです。ただその最良とされる濃度はその地域の気温が熱いところか寒いところか、これによって影響されますので、地域によって多少違ってくるわけです。

アメリカでは。0.7から1.2ppmの範囲で実施されています。そして、現在全国民の65パーセントにフッ素化された水道水が供給されています。2010年には75パーセントまで実施したいという目標を掲げています。

アジアでは、香港・シンガポールでは100パーセント、マレーシアでは70パーセントの普及率です。

今、国を挙げて水道水フッ素化に取組んでいるのがお隣の韓国です。現在総人口の12パーセントに供給されていまして、2003年までには韓国政府は32.7パーセントにまで持っていきたいということを計画しています。このように力を入れている背景には、むし歯が減らずに治療費用が急激に増加しているということがあります。治療中心から予防中心に重点を置いた施策に変えるために1995年に国民健康増進法を制定します。更に、昨年1月には、口腔保健法が施行され水道水フッ素化を進めていくことを法律で決められました。

では、上水道フッ素化はどのように実施するかというと、昨年私が取材したハプチョンという農村部の例で紹介いたします。浄水場にフッ素添加装置の施設を作ります。そして、濃度、韓国では0.8ppmで実施されていましたが、その濃度を自動的に測定できる機器を設置し、それによりフッ素濃度の変動を発見し修正するという、保守と監視が容易にできるというシステムになっています。事業費は、施設整備や自動濃度測定装置などで1千万円。国と地方自治体で半分ずつ負担しています。

それでは、日本での取り組みはどうなっているのでしょうか。日本はWHOの勧告に賛成の立場を示してきましたが、国もまた日本歯科医師会も、これまでその実現に力を入れてきませんでした。これまでの厚生省の公式見解は、水道は水の供給を目的としており、むし歯予防等の健康増進を目的としていないというものでした。そして、むし歯予防の施策の中心は公衆衛生という観点ではなく個人の自助努力を主に、そしてむし歯になったら治療をという事で予防よりも治療に力を注いでまいりました。

その結果、平成11年度の保健福祉動向調査を見ますと、そういうことをやってきて毎日歯を磨くという95.4パーセントにも上っています。昨年1年間、歯医者さんでどんな治療をしたかその診療内容を見ますと、むし歯の治療が6割、抜けた歯の治療が2割と相変わらず国民は、むし歯に悩まされている、むし歯で歯を失っているということが分かります。むし歯の数ですが、12歳児では日本は昨年2.4本となりました。しかし、アメリカでは、10年前1991年に1.4本を達成しています。そして、日本では、年齢が高くなるにごとに虫歯が増えていく、30台では14本になる。このままでは、8020の達成などとてもおぼつかないということが分かります。

WHOの勧告から30年以上が経ちました。昨年、厚生省は沖縄県久米島の具志川村、人口4500人くらいのところですが、この具志川村が水道水フッ素化を行ないたいという意向を示したのに対して、安全で効果的な方法について支援するという方針を示しました。その中で、今後2002年の実現に向けて、国の水質基準で定められているフッ素濃度の上限0.8ppm以内において具志川村の適正な濃度を調べる、また、濃度コントロールの仕組みなどについて研究することになっています。

更に先週、厚生労働省は水道行政の責任をになう自治体に対して技術支援の要請があれば応じたい、という内容を全国衛生部長会議で示しています。

また、日本歯科医師会も昨年末に水道水フッ素化は有効性、安全性、経済性等に対する優れた公衆衛生手段という認識を初めて示しました。

しかし、今回の水道水フッ素化を行なうということに対しては反対運動もあります。日本フッ素研究会という民間の団体や主婦連合会が反対の声明を出しました。その理由は、発がん性の心配がある、また、フッ素化しますとフッ素を添加していない水道水を飲めない。選択ができないというものです。

アメリカや韓国でもいまだに反対運動があります。そんな中、水道水フッ素化を実現したのは国や政府機関、歯科医師会、大学関係者の努力です。国民がフッ素に対する正しい理解を深めることができるようにリーフレットやポスターを国民に配布する。あるいは住民や政策決定者に対して、説明を行なったりするなど様々な情報提供を積極的にやってきました。

これらには、水道水フッ素化がなぜ予防に役立つかとか、お金は余りかからないとかということが書かれています。

21世紀は疾病予防に力を入れるということが大きな目標です。今後、水道水フッ素化を勧めていくにあたっては、住民の合意を得ることが何よりも重要です。そのためには、フッ素に関する正しい情報を提供し、有効性、安全性についての議論を重ね国民に対してアメリカや韓国がたどってきたように国、政府機関、歯科医師会、大学関係者が歩調をあわせてこの問題に取組む姿勢を示して欲しいと思います。

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