長崎大学歯学部同窓会創立15周年記念学術講演会

上記の講演会があり,長崎に聴きに行ってまいりました。

大変素晴らしい企画で,これから長崎大学歯学部の同窓生が日本の歯科保健をリードされる予感をして帰ってまいりました。ここに,当日のプログラムと,福岡歯科大学口腔保健学教室の晴佐久悟先生の的を得たレポートをご紹介します。

最後に大会宣言として出された『長崎宣言2001』をご紹介し,この講演会の質の高さを認識して頂き、歯科大学の同窓会講演会あるいは歯科医師会の講習会などで、このような内容のものがもっと開催され,歯科医の質の向上を図られるといいと思います。(山本武夫)

≪参考≫歯科医師法 第1章 [歯科医師の任務]

第1条 歯科医師は、歯科医療および保健指導を掌ることによって,公衆衛生の向上及び増進に寄与し,もって国民の健康な生活を確保するものとする。

 むし歯予防の世界標準 ”水道水フッ素化”を探る 〜長崎から21世紀への提言〜   

   【日時】 平成13年7月8日(日)

   【会場】 長崎ブリックホール 国際会議場

   【主催】 長崎大学歯学部同窓会

   【後援】 長崎県歯科医師会・長崎県歯科衛生士会・長崎大学歯学部

 

《 特別講演 》特別講演座長 小林清吾先生

「A Review of Current Fluoridation Efforts and Strategies 

(水道水フッ素化への努力と戦略)」

ニューヨーク州立大学バッファロー歯学部助教授 マイケル・イーズリー先生

 

 私の講演の主題は、アメリカ合衆国における水道水フツ素化の歴史、現在の普及状況、および政治学的問題点について概説することである。ミシガン州グランドラピッズで世界初の水道フッ素化が実現した1945年以来、アメリカ合衆国における保健専門家や公衆衛生担当者達は、全国民に水道水フツ素化の恩恵を提供することができることを目指し、さまざまな苦心を重ね、今日までに着実な成果をあげてきた。

 20世紀、我々は自然から学んだ一つの方法を実際に取りいれた。そして今日、その水道水フツ素化は完璧な公衆衛生的施策として役立っている。現在、アメリカ合衆国において一般の水道施設で、フツ化物が適性濃度で調整された水道水の恩恵を受けている人々は、1億4,500万人にのぼっている。10,500以上の地域に給水している14,300以上の水道施設で水道水フッ素化が行われている。アメリカ合衆国の50大都市のうち、46都市が既にフッ素化されており、残りのうち2都市についても最近フッ素化が認可された。来月には、国内における水道水フツ素化普及状況の最新データが発表されることになっている。

 水道水フツ素化は70%以上のう蝕予防効果があり、効果一費用比は80:1であり、安全性、有効性、効率性、経済性、社会的平等性に優れ、環境保護の面からも適応した公衆衛生的方策である。

 水道水フツ素化は我々社会にとって最優先の公衆衛生政策であり、この40年間、科学的データの評価において、国民一般の意見において、また法律の面からも、いかなる反対派の攻撃にも屈することなく推進されてきた。

 水道水フッ素化は最良のう蝕予防の方策で、これを凌ぐものは他に無い、とアメリカ合衆国では一般に考えられている。反対派が用いる策略について検討し、我々がそれらの攻撃に適切に対処するための様々な方法について紹介する。加えて、メディアや一般大衆と対面する上での様々な戦略を紹介する予定である。   (小林清吾教授監訳)

 

Michael W.Easley,DDS,MPH 

 Associate Professor,Department of OraI Biology  Schoo1 0f Dental Medicine

              University at BuffaIo;Buffa10,New York,USA

It is the purpose of this paper to review the history,the current status,and the political science of community water fluoridation in the United States.Since 1945 when Grand Rapids,Michigan,became the first city to fluoridate its water system,health professionals and public health officials have struggled,with moderate success,to enact universal fluoridation in the U.S.

Fluoridation is a 20th Century adaptation of a naturally occurring process and serves perfect public health intervention.Currently,over 145 million Americans are benefiting from fluoridation,With additional public water systems being fluoridated on a regular basis. Over 14,300 water systems serving more than 10,500 communities provide fluoridated water.Forty-six of the 50 largest U.S. cities fluoridate,with 2 of the remaining nonfluoridated cities having approved fluoridation recently.New census data,Which will available next month,will be presented to update currently available statistics.

With up to 70% effectiveness in reducing dental caries and an 80:1 benefit-to-cost ratio, fluoridation remains a safe,effective,efficient,economical,socially equitable,and environmentally sound public health intervention.As an important primary public health policy,it has withstood assaults by antifluoridationists for over 40 years,whether in court of scientific review,in the court of public opinion,or in courts of law.

In the U.S.,it is widely felt that there are no acceptable alternatives to water fluoridation. Tacticsused by opponents of fluoridation will be discussed,as will various means by which proponents of fluoridation can counter those tactics.In addition,various strategies for dealing with the media and the public will be presented.

 

 


《 シンポジウム 》座長 長崎大学歯学部助教授(予防歯科学講座) 飯島洋一先生

「水道水フッ素化はなぜ必要なのか」

 

◇シンポジスト・演題

@.「むし歯予防に対するフツ素応用」

                   長崎大学医学部長            斎藤 寛先生

A.「う蝕予防におけるフルオリデーションンの科学的根拠」

                   長崎大学歯学部附属病院講師(予防歯科) 川崎 浩二先生

B.「長崎県歯科医師会はなぜ、フロリデーションの実現を目指すのか」

                   長崎県歯科医師会公衆衛生担当理事    有田 信一先生

C.「日本におけるフツ素利用の現状と水道水フツ素化の動き」

                   香川県フッ素利用を推進する会      浪越建男先生

D.「日本における水道水フッ化物添加は可能か?」

                   埼玉県健康福祉部健康づくり支援課    田口円裕先生

@.「むし歯予防に対するフッ素応用」

        長崎大学医学部長            斎藤 寛先生

わが国の公衆衛生上の問題で私にとって不思議でならないことが一つある。それは「むし歯予防に対するフッ素応用」に関するわが国の現状である。

 今世紀はじめからアメリカ合衆国のEagar博士、McKay博士、Dean博士らによる飲料水中のフツ素濃度とむし歯有病状況に関する仕事は世界の疫学研究の歴史に残るすばらしい業績である。私はまた同時に、この疫学的知見をもとに飲料水フッ素添加を承認したアメリカ合衆国公衆衛生局やグランドラピッド市の態度(科学的に正しいと認められたとき、これをシステム化して国民全体に恩恵が及ぶようにする健康政策の決定)に敬意をはらっている。

 私は大学医学部卒業後の16年間を東北大学病院で内科臨床医(腎臓学専攻)として過ごし、この間に手がけていた中毒性腎障害(重金属、薬剤など)の仕事が縁となって、臨床から離れ環境医学(重金属中毒学)・衛生学(予防医学)に転じて20年を越えた。この間に地域保健を学ぶなかで無歯顎が高齢者の健康の質に非常にマイナスの影響を及ぼしていることを知った。高齢者から無歯顎をなくす第一の方法はいうまでもなく年少者のむし歯予防である。

 新潟県の「むし歯半減10か年運動」は県市町村行政当局、地元歯科医師会、大学の連携のもとにフッ素塗布とフッ素洗口を中心とするむし歯予防事業であるが、ここであげた成果は第二次世界大戦後のわが国の学校保健の最大の成果といっても過言ではない。なぜ、

この運動がほかの地域に広がらないのであろう?何が普及を妨げているのであろう?

 財政基盤が崩壊して、支払いが不可能になってきている国民医療費のなかで、疾患別支出の第一位は歯科診療費である。このように、高齢者のクオリティオブライフ低下の大きな要因となり、かつ医療費の面でも大きな問題となっていて、今や歯科保健は国民のもっと大きな健康上の問題となっているのに「歯の健康を守る事業」が国の具体的な政策が打ち出されず、お題目にとどまっているのは何故なのだろう?

 地域および学校歯科保健に熱心に取り組んでおられる長崎市内の開業歯科医のおひとりに「先生が学校歯科医をしている小学校でフッ素洗口ができませんか?」とお尋ねしたことがある。「フッ素は有毒だと信じ込んでいるお母さんがいて歯科医師だけでは説得が難しい、また学校医の協力と理解を得られないことも多い」というお返事であった。

 むし歯予防、ひいては無歯顎者を減少させることは高齢社会における国民の健康水準向上の必須条件である。換言すれば「健康に関して専門性を持つ」と任ずるすべての組織が連携して対処すべき問題である。日本歯科医師会は「むし歯予防に対するフッ素応用」、とくに「水道水フッ素化」に対してどのようにお考えなのだろうか。

 


A.「う蝕予防におけるフルオリデーションンの科学的根拠」

長崎大学歯学部附属病院講師(予防歯科) 川崎 浩二先生

 

近年、医療・保健の分野ではEvidence−Based Medicine(EBM)の重要性が叫ばれている。EBMとは世界中の科学的論文を可能な限り全て収集し、それらを適切な方法で批判的吟味した上で最も効果的な医療を患者に提供しようとするものである。

日本ではう蝕予防といえば、まず「歯磨き」という観念が常識化している。しかし、カナデイアン・タスク・フオースが発表した「EBMに基づいたう蝕予防法の評価」によれば、「歯磨き」の予防効果のエビデンスの質は最も低いレベルのV:「臨床経験に基づく権威者の意見、記述研究や専門委員会の報告書によるもの」であり、推奨されるレベルはC:「う蝕を予防するという科学的根拠に乏しい」と評価されている。

 このように科学的にその効果が裏づけられていない方法が旧態依然として幅を利か

せている背景には、EBMのような科学的検証の情報が広く一般に流布していないため

であろう。

今回の発表ではまず

1)フルオリデーションの基本的う蝕予防メカニズムと安全性について概説し、引き続き

2)EBMに基づいたフルオリデーションデョンの評価を紹介する。

 


B.「長崎県歯科医師会はなぜ、フロリデーションの実現を目指すのか」

       長崎県歯科医師会公衆衛生担当理事     有田 信一先生

 

1.長崎県における歯科保健活動とその評価

1) かかりつけ歯科医を中心としたう蝕予防戦略の限界

  かかりつけ歯科医を中心とした歯科保健管理を模索中ではあるが、「現社会保険制度上でのかりつけ歯科医を中心としたう蝕予防の戦略には限界がある」が現時点での評価である。 (資料:長崎市歯科医師会事業、「すくすく健診」結果より)

2) 小児のみを対象とした集団的予防戦略の限界

 従来、公衆衛生的な手段として推進してきたフッ化物洗口は、一部の小さな市町村や学校、 幼稚園、保育所において実施されているものの、その普及拡大の速度は緩い。(資料:長崎県フッ化物洗口実施施設調査結果より)

 

2.新たな発想での歯科保健戦略

1) 社会のセーフティネットとしての歯科保健政策

 子供の健康は社会の優北淑題であり、今後予想される親の就労形態の多様化や女性の生活形態の変化を念頭に入れた歯科保健戦略でなければならない。

(1)保健政策は住民の一人一人の能力を十分に発揮し、自立と尊厳を持って生きることができるセーフティネットであるべきである。

(2)保健政策は年齢・性別・障害の有無にかかわらず、う蝕予防効果が期待できるバリアフリーであるべきである。

(3)歯科保健政策は少子高齢化時代に対応できる予防戦略でもあるべきである。

2) フロリデーションをべ−スにおいた地域歯科保健システムの提示

長崎県歯科医師会は過去の反省に立ち、今後のあるべき姿として、フロリデーションをベースとした地域歯科保健システムを提示した。フロリデーションの利点は@住民参加型の予防法であること(実施決定には住民の意思が反映される)Aより質の高い1次医療の供給ができること B歯科治療技術の保障を高めることができる C社会保険制度の中での効率的な医療供給が可能となるなどである。

3)結論

フロリデーションは歯科医師会、住民双方にとって、有効な歯科保健政策である。その実現のためには歯科医師会は社会への貢献策を明示することと、住民一人一人が社会の主要メンバーという立場で、保健政策を冷静に判断する姿勢が不可欠である。

 


C.「日本におけるフッ素利用の現状と水道水フッ素化の動き」

 

        香川県フッ素利用を推進する会 浪越建男先生

 

生涯にわたり口腔の健康を保持増進することは国民すべての願いである。先進諸国における齢蝕予防の成果を鑑みれば、EBM(Evidence−based Medicine)の考えに基づいたフッ化物応用は、21世糸己のわが国の地域口腔保健向上のために極めて大きな課題であり、フッ化物応用において積極的にイニシアチブをとることは、口腔保健医療専門職の責務である。  今日に至るまで、先進諸国におけるフッ化物応用では全身的応用と局所的応用が複合的に利用されてきた。これらの応用法、成果を見る限り、今後日本においても診療室内、個々人の局所応用のみで、地域住民全体の口腔の健康向上が効果的に得られるとは考え難い。したがって、身体的、社会経済的条件などにかかわることなく、水道を利用する人々に公平に齢蝕予防の恩恵をもたらす水道水フッ素化(水道水フッ素濃度の調整)を現実的な地域歯科保健施策として位置付ける必要がある。

 人類がかつて経験した最も大規模かつ優れた公衆衛生手段の一つである水道水フッ素化は、WHOなど世界の150以上の医学・保健専門機関がその安全性、有用性を認め、繰り返し実施を推奨している。現在世界の56か国で実施されており、この中には天然の適正フッ素濃度水道水を利用している国も含まれる。日本国内でも、適正フッ素濃度の原水、浄水の存在が確認されているが、齢蝕予防のために有効利用できていないのが現状である。その一方で、日本の米軍基地内では水道水フッ素化開始からすでに40年以上が経過していることは、意外と知られていない事実である。

1999年日本歯科医学会により「フッ化物んと二川についての総合的見解」が出され、翌2000年には厚生省、日本歯科医師会が、地域住民の合意を前提に水道水フッ素化を容認、支持する見解を表明した。水道水フッ素化の実施が先送りにされてきたわが国においても、ようやく水道水フッ素化実施に向け動き出した自治体があらわれている。このような先進自治体(沖縄県具志川村、宮崎県都城市、群馬県甘楽町、富山県利賀村、栃木県西方町、東京都町田市など)には、水道水フッ素化に関して根拠ある適切な情報を提供し、一般住民の理解を得るために努力している専門家、団体の活動がある。今回はそれらの活動状況を通して、日本における水道水フッ素化への動きを紹介する。

 


D.「日本における水道水フッ化物添加は可能?」

埼玉県健康福祉部健康づくり支援課 田口円裕先生

 

フッ化物の応用は、餉蝕予防のグローバル・スタンダードであり、国内外において口腔保健向上のため重要な役割を果たしていることは紛れもない事実である。 昨年来より、わが国においても水道水フッ化物添加に関する報道が、新聞・テレビ・ラジオ等のマスメディアにおいてクローズアップされてきている。このような動きの中で、国(厚生労働省)では、条件付ながら自治体からの技術的支援の要請があれば、それに応えることを示している。

 日本における水道水フツ化物添加は可能であるのか。行政の立場から、私見を交えて論じてみたい。

1.水道水フッ化物添加を実施する上でのキーワード

1)合意形成⇒専門家・地域住民・行政内での合意形成と三者による合意形成

2)インフォームド・チョイス:自由選択⇒選択の自由をどう反映させるか

3)アカウンタビリテイ:説明責任⇒主体は、行政・責任の所在を明確に

4)ディスクロージャー:情報公開⇒行政・専門家の役割の明確化

5)コストーべネフィット(コストーエフェクティブ):経済性⇒評価指標の一つになりうる

 

2.フッ化物応用の現状と今後の展望 一埼玉県の事例から−

1)フッ化物応用に関する見解について

2)水道水フッ化物添加の可能性について

 

3.結 論

・反対派の意見に対する反論⇒行政内部だけでの対応では無理⇒専門家の役割

・住民の合意形成を如何に形あるものにしていくかがポイント ⇒住民・行政の役割

・わが国における水道水フツ化物添加は可能か⇒可能

晴佐久レポート 『長崎大学歯学部同窓会創立15周年記念学術講演会の報告』

今回の講演会は、本当に有意義なものになりました。一大学の同窓会で水道水フッ素化をテーマにした講演会を開けるということもさることながら、内容も今までになく充実していたと思います。これから日本で水道水フッ素化を実施していく中での問題点、まだ具体的な活動内容などが聞くことができ、これから歯科保健を推進していく中で非常に参考になる講演会でした。

 マイケル・イーズリー先生の講演では、アメリカの現状を説明していただき、1992年で62.2%であったのが現在も普及し、70%〜75%(もう少しで最新の報告が出るそうです)になっているということ、日本で報告されている「水道水フッ素化は時代錯誤(アナクロニズム)の方策である。」「アメリカでは水道水フッ素化を止める方向にいっている」が全くの「嘘」であることがわかりました。大学の教授や、大学の元講師は、平気で嘘を言ってもいいのですね。学生のころは、教授が言う事は全て正しいのだと思っていました。

 午後は、長崎大学医学部長の斎藤先生の公衆衛生に関してとてもわかり易い説明をしていただきました。驚いたことに斎藤先生は公害である「イタイイタイ病」の研究を長年研究されており、そのような研究をされているにもかかわらず、水道水フッ素化の有効性・安全性を非常に理解されている先生だと思いました。あの村上徹に斎藤先生の爪の垢でも飲ませてあげたいのですね。

 川崎先生にはフッ素のう蝕予防のメカニズム、EBM、カナディアンタスクホース、ヨーク大学のシステマティックレビューについてわかり易く解説していただきました。水道水フッ素化の安全性・効果が確立しているということを再認識することができました。

 長崎県歯科医師会の有田先生は、長崎歯科医師会の現在の事業の問題点を上げ、やはりこれからの地域歯科保健には水道水フッ素化が必要であるということを話されました。話の中で印象に残ったのは、最初に無料で定期検診をすると60%来るが、1年後30%になり、2年後有料になると10%になってしまうということでした。そして、この定期検診に来ない子供が結局むし歯が多いということで、プロケアの限界の実例を示していただきました。イギリスでは、定期管理しているのは全体の80%といいますが、残りの定期管理を受けていない20%に80%の疾患が存在していると聞きます。このことからもプロケアだけではなく、パブリックケアが必要であることがわかります。

 浪越先生は現在地域で水道水フッ素化を推進している開業医の先生の一人で、現在の日本のフッ素化実施に向けての動きをしている地域の紹介をされていました。日本でまだ数箇所ですがこの動きはこれからもっと増えていくことが期待されます。まず、沖縄で実施されれば他の地域が非常にやり易くなるのではと思いました。

 最後に、田口先生が行政の立場から、水道水フッ素化は実施可能かということに対して、「実施できます」と力強く言っておられました。また、地域で実施に向けての具体的な活動内容を提示していただき、非常に参考になりました。

 今回の大会で一番印象に残ったのは「住民合意」は「いいわけ」であるということです。「選択の自由」の問題もそうですが、まず「水道水フッ素化の実施は住民合意が必要である」、「選択の自由はどうするのか」と言う前に、歯科専門家は国民に水道水フッ素化の有効性・安全性を伝えてきたのか?ということです。そのような先生は「あなたは水道水フッ素化の有効性・安全性を伝えるために、講演・シンポジウムをしたことがありますか?ビラを配ったことがありますか?患者に説明したことがありますか?」と逆に質問されたら何と答えるのでしょうね。たぶん答えは「No」だとは思います。住民合意も選択の自由もまず国民が水道水フッ素化に対して正しい知識を知ってもらってそれからのことであって、歯科専門家が現時点で言うことではないと思います。

 「水道水フッ素化の実施には地域の住民の合意が必要である」裏を返せば「水道水フッ素化未実施には歯科医の言い訳が必要である」というところでしょうか。まあともかく、国民に選択の自由の説明としてイーズリー先生が言っていたのを以下に示しますので参考にされたらと思います。

 ・少数の人が調整化された水道水を飲みたくないといった場合、逆に調整化された水を飲んでう蝕を予防したいと言う大部分の人はどうするのか。

 ・水道から出た水を必ず飲まなくてはいけないわけではなく、どうしても飲みたくない場合はペットボトルの水を飲んでもいいわけで選択の自由の侵害にはならない。逆に少数の人が大部分の人の調整化された水を飲むという権利を奪うことこそ選択の侵害である。

 ・除フッ素装置がある。どうしても飲みたくなく、水道から水を飲みたい場合には除フッ素装置があるのでそれを使用すればよい。ということです。

 アメリカでの話ですが、水道水フッ素化が実施された地域で反対する人にためにフッ素を調整化する前の水を無料で差し上げるから取りに来てくださいとしたところ、誰も取りに来なかったということです。このような事例を話すともっといいのではないでしょうか。 

最後に・・・

 長崎大学は本当に凄いですね。日本の歯科保健の玄関口として十分に機能を果たした大会でした。そして、同窓会長をはじめ若い先生が先導に立って活動しており、この中から日本の21世紀の歯科保健を担う人材が多数いるのだろうという感じを受けました。

これから私もさらに歯科保健の推進に頑張らないといけないと思いました。(福岡歯科大学口腔保健学講座 晴佐久 悟)

 

【長崎宣言2001】

 我が国においては、従来、歯科疾患は個人的な問題として扱われてきた。すなわち、歯科疾患を健康問題の一環としてとらえる意識が低く、社会システムとして予防を図っていく姿勢が希薄であった。しかしながら、歯科疾患は、有病率が極めて高いことや生活の質に及ぼす影響が高く、社会的な問題であること、全身の健康状態と密接に関連している可能性があることなどから、その対応についての責任を個人にだけ求めるべきものではなく、社会的なレベルでの取り組みが要請されている。口腔領域の2大疾患である「う蝕」と「歯周疾患」に対する予防対策については、国内外の多くの調査研究により、予防が十分可能であることが明らかになってきている。特に、う蝕に関しては、その科学的アプローチにより、子供達の確患率の劇的減少と軽症化、高齢者の根面う蝕など、疾病の量的・質的変化が世界各国で報告され、すべての人々が健康になる社会的基盤が確立されているが、我が国においては未だ不十分といえる。

 WHOヘルス・プロモーション健康宣言では、「環境問題と健康問題の両面が中核的で最も優先性の高いものとして位置づけられ、日々の政策課題のなかで最も大きな関心が示されるべき」と述べられており、これからの歯科保健医療にかかるベクトルは、疾病対応型の歯科保健医療から早期予防(1次予防)のみでなく、あらゆる領域の機関、関係者と連動し、疾患の発生を予防する環境づくり(0次予防)の推進への方向転換が望まれている。

  ここに、我々長崎大学歯学部同窓会は、すべての人々の健康を守るという基本目的のために、21世紀の口腔保健にかかる問題に対する基本的スタンスと今後の活動方針を明確にするものである。

 1.公衆衛生の向上に寄与する。

 2.基本的な権利である健康を擁護し、国民・地域住民を主体者として、行政や関連機関・団体と連携を図る。

 3.地域における歯科保健施策の立案と実施に積極的に参加する。

 4.歯科保健医療に関わる正確で最新の情報と活動の成果を提供し、社会に還元する。

 5.生涯にわたる歯科保健を推進するための社会的基盤として、う蝕予防のグローバルスタンダードであるフロリデーショ ン(水道水フツ化物濃度適正化)を推奨し、地域における合意形成とその実現に向けて働きかける。

 

※“Fluoridation ”,の日本語訳について

 “Fluoridation”の日本語訳について、カタカナで表記する場合は「フロリデーション」または「フルオリデーション」が併用されています。 和訳について、これまで「水道水フッ素化」でしたが、イオン化する無機のフッ化物はフッ素と称しないことから、口腔衛生学会では「水道水フッ化物添加」が用いられ、さらに最近では、その定義を正確に訳した言葉として、「水道水フッ化物濃度調整」や「水道水フッ化物濃度適正化」にすべきという意見もあるようです。

 本講演会では、現状に鑑み、それぞれの先生方のご判断にお任せし、いただいた原稿をそのまま印刷し、講演でも使用していただきました。“Fluoridation”の普及のために、しかるべき機関において早急に用語の整理・統一をすることが望まれます。