歯科衛生士向け業界誌『デンタル・ハイジーン』5月号  p.472〜473に掲載
 「Public Health Mind をもって」
   
            長浦 寛子
(歯科衛生士:岡山県PMJ歯科診療所勤務)


*「磨いてください」から「磨かせてください」へ

 「歯科衛生士の仕事は患者さんに、歯を磨いてもらうことではなく、歯周疾患から歯を守ることだ」――これは、森下真行先生(広島大学口腔健康発育学講座)の言葉です。以前私は、歯科衛生士の仕事=TBIととらえて、「赤く染まった所を落としてください」と患者さんのできていないところを指摘し、患者さんにブラッシングをしてもらうことを目標に指導していたように思います。
 12年前に「つまようじ法」を用いた術者磨きと出会ってから、森下先生の言葉の意味がわかるようになりました。歯周疾患の治療にはブラッシングが一番効果的と言われています。ならば、歯科医師や歯科衛生士が行う Professional Brushing が一番の治療となるはずです。私もいまでは、「磨いてください」から「磨かせてください」に変わりました。
 「つまようじ法」は岡山大学の渡邊達夫教授が考案されたもので、歯ブラシの毛先を歯間部に突っ込んで、歯間部の歯垢を押し出すとともに、歯間部の歯肉をマッサージする方法です。爽快感があり、治療効果の高い磨き方なので、気持ちよさが得られながら早期に歯肉の改善が見られます。つまようじ法で術者磨きをした後の反応は、「すっきりして気持ちがよい」「口が軽くなった感じがする」「今から食事をするのがもったいない」など、とてもうれしい一言がもらえます。連続して来院されている患者さんからは、「歯がしっかりして噛めるようになった」という言葉もよく聞かれます。
 美容師さんにしてもらうシャンプーは気持ちがいいですよね。それと同じように、私もひと味違うプロのブラッシングを目ざして、どんな方のお口もぴかぴかに気持ちよく磨くことができるよう心がけています。患者さんは美容院から帰るときのようにさっぱりとして気持ちよく帰っていただけます。その結果、定期的に継続して来院してくださいます。
 私は、診療室の外でも術者磨きを活用しています。
 市町村からの依頼で、1歳6カ月児健診や3歳児健診に来られる保護者の方々に術者磨きを行います。
 若いお母さんにも歯周疾患があります。気づいていらっしゃらない方が多いのですが、術者磨きを体験して、磨き方を少し帰るだけで歯肉の状態がもっとよくなることをわかっていただきたいのです。お子さんが2人いれば4回、3人いれば6回、術者磨きを体験していただけるので、歯肉からの出血の減少で改善を確認することができます。ほかにも企業の歯科検診のときなど、公衆衛生の場で実際に術者磨きを体験してもらうことで成果あがります。
 また、仕事以外にも友だちやちょっと親しくなった人など、誰にでも術者磨きをしてしまいます。名詞代わりにバッグの中には、いつも新しい歯ブラシを持ち歩いています。「つまようじ法」による術者磨きができて楽しく仕事をしています。そして、いつでもどこでも誰でも歯ブラシ一本で爽やかなお口に変えてしまうことを楽しんでいます。

*齲蝕予防の正しい情報を
 
 もう1つ、私たち歯科衛生士がきちんと伝えなければならないことは、齲蝕予防です。
 一般の方の多くは、齲蝕予防はハミガキとおもっていらっしゃいます。「ハミガキだけではムシ歯予防はできないこと! ムシ歯予防にフッ化物の応用が有効であること!」をどれほどの方がご存知なのでしょうか? 齲蝕の予防法は確立されているにもかかわらず、国民に情報がこうかいされていないように思います。誰が知らせるのでしょうか。歯科の専門家がどれだけ Fluoidation (水道水フッ素濃度適正化)を熟知して、その情報を提供しているのでしょうか? フッ素洗口、フッ化物配合歯磨剤、甘味制限など、個人の努力で行う方法にも限界があります。乳幼児や高齢者、障害のある方や寝たきりの方など、努力したくてもできない人もいます。 Fluoridation はすべての人々が平等に,生涯にわたって齲蝕予防の恩恵を受けられる、唯一の方法です。日本でもやっと Fluoridation の検討に入ってる自治体が出てきました。アメリカや韓国では、歯科の専門家が住民に情報を提供し、何回も何回もアピールし、住民に正しく理解されるように努力して実現しています。
 私の勤務する歯科医院では、院長だけでなくスタッフも全員で、学会やフッ素のシンポジウムなどに参加しています。そして全員が正しい情報をもち帰り、患者さんに正しく理解されるよう心がけています。

 私たち診療所に勤務している歯科衛生士も、つねに Public Health Mind をもって仕事をしたいと思っています。

(山本武夫のコメント)
 歯科衛生士の長浦さんがすばらしい記事を書いてくれました。
 歯科衛生士として、科学する人間として、正しいことを一般の方に正確に伝えたいという一心で、勤務される様子がはっきり伝わってくる記事の内容でした。内のスタッフたちにもしっかり、読ませました。
 患者さんに「すっきりした」「気持ちがよかった」が、歯周疾患を予防するきっかけになることを体験してもらい、それを実践に結びつけるすばらしさを持っている長浦さん、多くの歯科衛生士がこのようになってくれれば良いですね。
 そして、むし歯予防をフッ化物を中心に考えていく器量、これは多くの講演や実践で理解ができないと持ちえません。院長の黒瀬先生とともに、度重なる研修の成果と伺えます。
 今後ますますの活躍を期待いたします。

[長浦寛子さんの連絡先]
〒700-0035  岡山市高柳西町16-13 TMCビル6階  PMJ歯科診療所(院長:黒瀬真由美先生)
  TEL 086-252-0648   FAX 086-252-0713  
  E-mail: pmj-kan@po.harenet.ne.jp