平成1364NHKラジオ第一放送『夕刊』

むし歯を予防するための水道水フッ素化について今年1月厚生労働省は、今後自治体からの技術的支援の要請があれば応じるという方針を明らかにしました。

むし歯予防のため水道水にフッ化物を添加することについては、有効で安全な方法だとして推進する意見がある一方で、発癌性の心配がある、また、水道水をフッ素化すると消費者がフッ素化していない水道水を選択できないとして反対する意見があります。

そこで、この問題について双方の立場からご意見を聞き、視聴者の皆さんがこの問題を考える手掛かりとしたいと考え、まず、推進の立場からは日本歯科医学会フッ化物検討部会委員で元福岡歯科大学教授境脩さん、反対の立場からは日本フッ素研究会評議員で歯科医師の秋庭賢司さんにお話を伺い、59日にラジオ夕刊の時間に放送しました。

このテーマについては放送をお聞きになった様々な方々からお手紙やFaxを頂きました。このうち沖縄県具志川村の具志川歯科医院の歯科医師、玉城民雄さんに電話でお話を伺いました。

南氏

沖縄県具志川村では、むし歯予防のため水道水にフッ化物を添加する水道水フッ素化を進める方針を、自治体として検討しています。具志川村で歯科医師として診療している玉城さんとしては推進の立場からこの動きをどのように見ておられますか。

玉城先生

具志川村は現在人口4500人の村です。非常にむし歯の多い村でした。子供たちは全国平均の約2倍以上のむし歯をかかえて非常に困っていました。歯磨き指導や食事指導にこれまで力を入れてきましたが、むし歯は減りませんでした。

それで、平成3年よりむし歯予防のためのフッ素洗口を実施致しました。それは0.05%のフッ素洗口液で1分間ブクブク嗽をします。幼稚園・保育園では毎日、小学校・中学校では週1回現在行っています。子供たちのむし歯は約4分の1にまで減少しました。中でも3人に1人は、これまで一度もむし歯になったことがない子供たちです。むし歯のない子供たちが年々増えてきています。

むし歯の減少に伴って歯科医療費も並行して減少してきています。しかし、現実は大人やお年寄りが多くのむし歯をかかえて困っています。子供たちばかりでなく全ての人々のむし歯を予防し、歯と口の健康を守るために上水道のフッ素調整に着目しました。

アメリカやカナダ、オーストラリアやニュージーランド、シンガポールやマレーシア、香港や韓国など、歯科保健の先進国を手本にしてWHOのガイドラインに添って検討しています。

南氏

水道水フッ素化については発癌性など様々な健康への影響の心配があるという意見があります。これについてはどんな風にお考えですか。

玉城先生

発癌性やダウン症、腎臓疾患への影響、骨折や細胞の変性など、健康を害するという問題については非常に重要なこととして、フッ素洗口導入以前からこれまで独自に私たちは資料収集を行い、調査検証をしてきました。

フッ素が害であるという論文は、かなり以前の1970年代までに殆ど出揃っています。これらの一つ一つは、大学や国立の研究機関の専門家の人たちによって検証され、追加実験が行われています。夫々の問題の行き着く所は、疫学調査の不備や過剰な濃度での実験でした。有効濃度で健康を害するという事実はどこからも出てきませんでした。上水道フッ素化地区では通常の2倍以上の癌やダウン症が増えているという主張も調べてみますと、すべて統計学上の誤りが指摘され、そのような事実は全く無いことが明らかになりました。

栄養学の専門書には微量ミネラルであるフッ素は、むし歯を予防できる唯一の栄養素であると明記されています。

上水道のフッ素調整を行っている世界の56カ国、食塩にフッ素を添加している36カ国、フッ素入り歯磨き剤を用いている124ヶ国からもこのような健康被害の報告は全くありませんでした。事実、近年特に言われている、根拠に基づいた医療というエビデンス・ベイスト・メディスンの中で、上水道のフッ素調整は最も安全で信頼できる方法として医学会で評価されています。

お隣の中国の上水道のフッ素調整は、1988年に設立された国家プロジェクトチームの指導で現在行われています。その責任者である北京大学のチャン・ボウセイ教授は日本での講演の中で次のように述べています。「多くの国々と地域の研究データ及び実施経験から、既にむし歯予防のフッ素応用は有効であることが科学的に証明されている。長年にわたり中国と諸外国のフッ素の研究と実践によって、適切なフッ素の添加、上水道のフッ素添加及び食塩へのフッ素添加は安全、有効、且つ経済的なむし歯予防手段である」と述べています。

南氏

水道水をフッ素化すると、フッ素を添加していない水道水を選択できないという理由で反対する意見があります。その点についてはいかがでしょうか。

玉城先生

確かにそうおっしゃる方が出てくると思います。例えば、フッ素がむし歯を予防できるということも理解できる、しかも安全であることも理解できる、しかし私は飲みたくないという人が出てくるかもしれません。飲みたくない人をどうするかということですが、アメリカやカナダを始め56ヶ国の上水道のフッ素調整を行っている国々でも過去に同様の訴えがあり、実は最高裁まで争われてきた歴史があります。各国で共通している結論は、むし歯という国民病を予防するという公共の福祉と国民の利益が優先される、そのためには一部の権利は制限されるという判決が何度も出されています。

平成11年に行われた日本の厚生省歯科疾患実態調査では、日本人のむし歯の罹患者率は40歳から44歳をピークに99.52%に達しています。むし歯は国民病であり、予防法は確立されているのにこれまで放置されてきました。歯科保健の先進国の人々が、むし歯の痛みや不快な歯科治療の苦しみから開放されている現実を、日本では知らされていません。具志川村のような小さな村では全住民の理解を得て、全ての人々の健康を求めていきたいと考えています。

南氏

水道水フッ素化については、水道水の利用者の理解が必要になります。この点についてはどのようにお考えですか。

玉城先生

具志川村ではこれまで、むし歯の洪水から脱するために20年間あらゆる予防法を取り入れてきました。その中でも最も有効だったのはフッ素洗口でした。平成3年より導入されたフッ素洗口も行政や議会、教育委員会、学校や教職員、PTA、地域の人々の理解の上で、全会一致でスタートしました。

具志川村の行政や議会や、住民の方々のフッ素の知識と理解度は群を抜くものがあります。上水道のフッ素調整は、具志川村のあらゆる分野の人々によって構成されている具志川村健康づくり推進協議会というものがあります。それが母体となって啓発活動を行っています。具志川村でこの計画に最も積極的なのが議会です。これからも十分に時間を掛けて全ての村の人々にその意義と安全性と有効性を理解してもらい、全村民が一致団結して実現して行きたいと思っています。

現在80歳で健康な歯を残そうという8020が提唱されてきましたが、具志川村では残念ながら5017の状況です。50代の人に残された歯がわずか17本ということです。健康で長寿の8020を目指す上でも、子どもばかりでなく成人や老人の歯科保健の戦略としても、上水道のフッ素調整が必要であるということの理解を、これからも求め続けて行きたいと思っております。