第23回むし歯予防全国大会

富山県歯科医師会小児・学校歯科保健部会より、片岡弘一部員(写真左:記録)と柚木功部員(写真右)が出席しました。報告をします。


富山県歯科医師会 会報平成12年1月号より (小児・学校歯科保健部員 片岡弘一)

 平成11年11月14日(日)午前9時15分より、東京医科歯科大学5号館講堂(4F)において、第23回むし歯予防全国大会が盛大に開催されました。清陵女子短期大学教授の堀井欣一先生が大会会長となり、日本むし歯予防フッ素推進会議が主催し、日本歯科医師会・日本学校歯科医会・日本WHO協会・日本歯科衛生士会が後援し、日本歯磨工業会が協賛しました。
 今日、小児におけるう蝕の蔓延はピークを越えたといわれ、う蝕処置率の改善は著しいものがあります。しかし、小児のう蝕発生量そのものは欧米諸国に比べ3倍と多く、生涯を通じたう蝕予防の対策は正にこれからです。また、フッ化物利用によるう蝕予防は、ようやく一般に認知されてきたように思われますが、フッ化物歯面塗布法やフッ素含有歯磨き剤、フッ化物洗口法などの局所応用法に限られ、それらの方法にしても先進国の中では最も遅れた状況にあります。
 しかし、歯にとっての適正環境を常に保つためには飲料水からの摂取など全身応用法の方が適しています。また、個人に委ねられた応用法では落ちこぼれが多く、総ての人々が生涯に亘ってフッ素の恩恵を受けることができません。公衆衛生的な工夫、対策が必要です。
 今回の大会では、水道水フッ化物添加普及の急成長にある韓国の状況について、最近、水道水フッ化物添加が実現したロスアンゼルスからの現地報告並びにヨーロッパ、オーストラリアおよび我が国のフッ化物応用の現状を報告し、フッ化物応用がどのような方向性で行われるべきか提言し、これから私達が何を目指し、どのような活動をすべきかについて会員相互での意見交換を行いました。


 

(午前)
 大会会長の堀井欣一先生、日本むし歯予防フッ素推進会議会長(北海道歯科医師会)篠原常夫先生の挨拶、厚生省健康政策局歯科保健課長瀧口徹氏の来賓祝辞の後、読売新聞社論説委員馬場錬成氏を座長とし、基調報告「国内外におけるフッ化物応用の現況」が行われました。 
 基調報告は次の通りです。
1.フッ化物含有歯磨き剤の普及状況
       矢作 和行(日本歯磨工業会技術委員会副委員長)
2.国内のフッ化物の普及状況
       木本 一成(神奈川歯科大学口腔衛生学教室講師)
3.ヨーロッパのフッ化物応用状況
       田浦 勝彦(東北大学歯学部予防歯科学教室講師)
4.オーストラリア・ニュージーランドのフッ化物応用状況
       川口 陽子(東京医科歯科大学歯学部国際交流室講師)
5.アメリカのフッ化物応用状況
       浪越 建男(香川県・浪越歯科医院院長)
6.ロスアンゼルスの水道水フッ化物添加状況
       宮下 芳子(群馬県歯科衛生士会)
 予定より少し遅れて、釜山大学歯学部予防歯科学主任教授 金鎮範先生の特別講演「韓国における水道水のフッ化物添加のあゆみ」が講演されました。
 この話の中で印象深かったのは、韓国の水道水フッ化物添加開始の経緯における行政の対応の早さで、それは次のように語られました。
 1977年12月30日保健福祉部長官 申鉉石高が自分の補綴治療のためにソウル大学附属病院を受診し、主治医である補綴科金光男教授に“むし歯予防における一番いい方法は何ですか?”と質問したところ、金光男教授から“水道水フッ化物添加が一番大切です”との返答があった。申鉉石高長官は治療が終わって自分の執務室に戻ってすぐに当時の医政局長に対して“今からむし歯予防のために水道水にフッ化物を添加するように”と命じた。時を同じくして医政局長の部下で医政三課長が、当時、大韓口腔保健学会長であったソウル大学歯科大学の予防歯科学教室 金鐘培教授を訪問して、水道水フッ化物添加に関しての相談を行った。その当時は保健福祉部の中では口腔保健を専門とする組織はなく、医政三課が歯科保健行政を担当していた。
 翌年、1978年水道水フッ化物添加の準備のために保健福祉部の中に諮問委員会である“口腔保健事業協議会”が設置された。口腔保健事業協議会では対象地域、水道水の至適フッ素濃度、フッ化物の種類、上水道にフッ化物を添加する装置の種類について決定を下した。
 1981年韓国南部の港口 鎮海市と、1982年韓国中部の清州市の水道に最初にフッ化物を添加した。水道水の至適フッ素濃度は0.8ppmであった。米国から輸入したフッ化物添加装置でフッ化ナトリウムを(NaF)を添加した。


(午後)
 午後からは朝日大学社会口腔保健学講座助教授磯崎篤則先生を座長とし、以下の研修@・Aが行われました。

@フッ化物局所応用法普及への取り組み
  1.フッ化物局所応用法の理解を深める    馬場 俊郎
  2.千葉市における学童フッ化物洗口事業の中断に至った経緯    鏡 宣昭
  3.千葉市におけるフッ化物応用の現状    佐藤 顕正
A水道水フッ化物添加法実現への取り組み
  1.水道水フッ化物添加による歯科診療への影響    互 亮子
  2.「何故、水道水フッ化物添加の優先順位が高いのか」    藤野 悦男
  3.水道水フッ化物添加法に関する「個人の権利」について(米国研修報告)    楠本 雅子

 @の2・3では行政の理解がないとフッ化物応用の普及が困難であることの実例が報告されました。またAの3では「社会の健康権の下では個人の選択権は制限されるというのが基本的な考え方であった。米国研修では、水道水フッ化物添加に関する個人の権利については多数決での決定、また、投票権を持たない子供の健康の保障、法的判断、これらのことが挙げられ、説明がなされた。また、除フッ素フィルターの使用も可能であるとのことであった。
 しかし、現状での両国間にみられる大きな差は、歯科関係者の水道水フッ化物添加法への理解・協力の程度にあるのではないか?
 私権は公共の福祉に遵ふ(民法第1条)自己決定、個人の選択のためには、情報・知識が必要であり、さらにそれを話し合う場が必要である。コミュニケーションの場がなければ、住民は選択することができない。選択の自由のために必要なことは、まず情報と知識、さらにはそれを話し合う場である。」と発表されました。
 研修会終了後、活発な意見交換がなされ、水道水フッ化物添加に向け、一般向けのフッ素に関する書籍の出版や積極的な報道機関へのアプローチによって、行政機関に働きかけていくことを運動方針とし、午後4時過ぎ、盛況のうちに幕を閉じました。

 本県のフッ素洗口施設数は全国7位であり、現在「富山県歯の健康プラン」を推進しており、今後もフッ化物利用を中心としたう蝕予防による地域歯科保健の推進・啓発を推し進めていく所存です。

(上記文の責任:富山県歯科医師会小児・学校歯科保健部 担当理事 山本武夫)  

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