第25回むし歯予防全国大会
Health For All (Building a fluoridation bridge over health divide)
   ―すべての人が健康に―  フロリーデーションは健康格差解消の架け橋

大会の趣旨

 ここ数年来にわたり、先進国で21世紀の保健戦略が提示されました。これまでの取り組みにより健康改善は進んでいますが、その恩恵を享受できない人々が存在するという「健康の不平等と不均衡」の現実も指摘されました。これらの現状は決して容認できないものであります。なぜならWHOは1986年以来5回のヘルスプロモーション会議を開催し、健康問題を個人レベルの問題としてではなく基本的人権としてとらえ、それを社会的に保障する社会正義の立場で展開が進められているからです。この枠組みとして、ヘルスプロモーションの概念が提唱され、次第にその全体像が明確にされつつあります。

 昨年、アメリカ公衆衛生局が初めて口腔保健に関するレポートをまとめました。「沈黙の疫病と定義づけた口腔疾患はこの50数年間で劇的に改善されましたが、全ての人々に平等に減少しているわけではなく、経済的に恵まれていない人々や、ある民族はその恩恵を受けていないこと」を報告しています。歯科疾患を社会構造的疾患として位 置づけ、また口腔の健康は全身の健康にとって不可欠であるとして、他領域の専門家との連携を強調し、この問題に対する更なる取り組みを表明しています。

  一方、日本では1999年に厚生省の歯科疾患実態調査が行われました。しかしながら、他の先進国に見られるような、歯科疾患の劇的構造的変化までには至っていません。2000年に21世紀の国家戦略である「健康日本21」の中に歯科保健戦略が提示されました。また、日本歯科医学会のフッ化物応用についての見解、日本歯科医師会・厚生省の水道水フッ素化への見解などが公表され、歯科保健を推進する環境整備は整いつつあり、今後期待されるところであります。

 21世紀は高齢者の時代だと言われています。現在の日本における高齢者の健康問題の取り組みは、これまで全く手つかずの状況にあった在宅における高齢者に、歯科的視点を持って対応をはかりながら、地域で確実に実績を積み重ねて参りました。これらの活動により、口腔はQOLに深く係わりながら、全身への健康について不可欠であることが証明されました。しかしながら、余りにも山積みされた現状の課題の対応に追われ、これから急増する予備軍に対する対策は全くされてないのが現状です。10数年後は団塊の世代が高齢化し歯科問題も含め大きな社会問題になることが予測されます。

  社会の最も弱い立場にある子供達や高齢者の状況を見れば、その国の健康戦略のスタンスが読みとれます。高齢者の口腔保健の現状は、これまでの本人の個人的管理と、国や地方自治体の公衆衛生施策の集大成であると見なすことが出来ます。1989年に8020運動が提唱され10数年経過しましたが、8020の達成者がここ10年間ほとんど改善されていません。高齢者の歯科保健は大きな課題として残されています。

 1997年、世界に先駆けニュージーランドがヘルスプロモーションの枠組みを用い高齢者の歯科保健戦略を公表しました。それによれば、これまでの国の歯科保健政策により高齢者は多くの歯を維持するようになりました。その為、高齢者の増加に伴い今後歯科疾患のリスクが高い高齢者の歯牙が増大し、大きな歯科保健問題が生じることを指摘しています。また高齢者のQOLにとって口腔保健は不可欠であることも強調しています。高齢者の歯科保健問題を整理し、その対応のために高齢者にかかわるすべての関係者の充分な理解を基に、互いの連携と総合的アプローチが必要であるとして具体的戦略を提示しています。急速な高齢化が進む日本が早急に取り組まなければならない課題について大きな示唆を与えてくれる貴重なレポートであると思います。

 今回、むし歯予防全国大会は高齢者の歯科保健問題に焦点を当て、木村先生より日本における在宅高齢者の歯科保健問題のレポートを、
Dr. Murray先生より水道水フッ素化を中心とした高齢者の歯科保健戦略を構築したニュージーランドのレポートを報告していただき、日本人で初めてアメリカCDCのfluoridation研修に参加された梶浦先生より、アメリカレポートを発表していただきます。その後のシンポジュームでは、なぜ先の2ヶ国とこんなに政策が異なるのかその検証と、また高齢者からすべての人々の健康づくりのあり方や、口腔保健を通 じ全身の健康づくり等日本のこれからのあり方を考えてみたいと思います。健康が社会的基本的権利であることを改めて確認すると共に、それを保障する環境づくりの公的役割や公的施策の重要性は改めて指摘するまでもありません。口腔の健康は全身の健康にとって不可欠であること、その健康を保証する社会的インフラである水道水フッ素化について皆様と共に社会へアピールしたいと思います。

≪実施要領≫

日時    平成13年11月25日(日曜日)午前9時〜午後4時
場所    長崎県歯科医師会館 5階講堂 (長崎市茂里町3-19  ・095-848-5311)
主催    日本むし歯予防フッ素推進会議  
主管    長崎フロリデーション協会
後援    長崎県歯科医師会、長崎市歯科医師会、長崎大学歯学部、長崎大学歯学部同窓会
協賛    日本歯磨工業会

プログラム
 
9:00〜9:15 開会

        ご挨拶 大会会長 長崎フローデ―ション協会会長  諸熊 正武

        ご挨拶 日本むし歯予防フッ素推進会議会長     篠原 常夫

        来賓祝辞 長崎県歯科医師会会長  南  幸夫(代理 坪口 高明専務理事)


         ≪講演≫  座長 長崎大学歯学部同窓会会長  中村 康司 

9:20〜10:20 講演「日本における高齢者/要介護者に対する歯科保健の取り組み」

                 三豊総合病院歯科保健センター医長     木村 年秀     

10:30〜12:00 講演「日本における予防の展開に関する考え方」

                 オタゴ大学歯科公衆衛生上級講師   マレイ トムソン 

                 通訳 国立感染症研究所生物活性物質部抗生物質室長 新見 昌一

                 解説 長崎大学歯学部予防歯科学講座助教授 飯島 洋一

12:00〜13:00 昼食

13:00〜14:00 講演「アメリカにおける水道水フッ素濃度適正化研修に参加して」

      
                 島根県健康福祉部健康推進課歯科専門員          梶浦 靖二

14:05〜15:45 ≪シンポジウム≫ 「21世紀における歯科保健戦略(フローデ―ション)を考える」

         司会        長崎大学歯学部予防歯科学講座講師 川崎 浩二

         シンポジスト   オタゴ大学歯科公衆衛生上級講師 マレイ・トムソン 

                    三豊総合病院歯科保健センター医長     木村 年秀

                    島根県健康福祉部健康推進課歯科専門員  梶浦 靖二

                    長崎県歯科医師会専務理事          坪口 高明

                    韓国健康社会の為の歯科医師会元会長   金 光洙

                    DENTAL TODAY編集長            奥村  勝

         コメンテーター  長崎大学歯学部予防歯科学講座助教授   飯島 洋一

                    福岡歯科大学名誉教授             境  脩
15:45〜15:50   総括

15:45〜16:00   閉会


むし歯予防全国大会に参加して、福岡歯科大学の晴佐久先生の素晴らしいコメントを紹介します。

第25回むし歯予防大会レポート

11月25日に開催された第25回むし歯予防大会は、内容の充実した大会でした。長崎同窓会の大会も参加しましたが、これらの大会を企画できる松尾先生を中心とした長崎フロリデーション協会に尊敬の念を抱かずにはいられません。しかも若い先生が率先して活躍しており、これは韓国の健康社会の為の歯科医師会と同じ現象であり、日本もようやく公衆衛生の夜明けが来たのではと思いました。

今回の講演で私個人として再確認できたことを以下に挙げたいと思います。

・ う蝕は、小児のみの疾患ではなく、全年齢層に蔓延する疾患であり、高齢者・障害者においても非常に重要な課題である。木村先生の講演により、高齢者・障害者が如何にう蝕に罹患しているのか、如何にう蝕リスクが高いのかがわかり、また、それに対する個人へのアプローチは難しいことがわかりました。それは、介護保険制度における歯科サービスの利用件数は全ケースの1%にも満たないというデータからも容易に理解できました。結論として、現在、高齢者、障害者のう蝕を予防するには公衆衛生手段しか方法がなく、それは水道水フッ素濃度適正化以外他ならないと説明していました。「高齢者、障害者はうがいのできない人は多く、その人たちに歯みがきやフッ素洗口をさせるのは難しい」とのことばが印象的でした。木村先生の講演に説得力があるのは、やはり自らが臨床の場で経験し、データを収集しているからなのでしょう。

・ 日本の歯科保健政策は、根拠の質(効果)の低い個人に対するアプローチに比重をおいており、根拠の質が高い公衆衛生がない。日本においては、健康日本21の内容からもわかることですが、個人に対するアプローチ、いわゆるプロケア、セルフケアのみを推進しようとしているきらいがあります。ニュージーランドのマレイ先生は、「う蝕予防において個人に対するアプローチは証拠の質が低く、日本の保健政策はその個人に対するアプローチ(セルフケア、ホームケア)のみで、根拠の質が高い公衆衛生的な手段が欠けている。」と言っていました。水道水フッ素濃度適正化という公衆衛生手段を「選択の自由がない」といって無視し、「かかりつけ歯科医」等のプロケアのみを推進しようとする「公共の福祉」と「選択の自由」との区別がわからない歯科保健従事者がいますが、このような歯科保健従事者は、このまま効果の質の低い事業のみに国民の税金、マンパワー、時間を使いつづけるのでしょうか?

・ 日本の歯科保健は、行政の役割が重要である。現在の歯科保健事業は、行政の先生が主として立案し、組むということでした。行政の先生が適切な事業を組めば国民の税金は適切に使われ、国民の健康の増進に寄与することになり、逆に意味のない効果の低い事業を組めば、国民の税金は無駄に使われるということです。ところで、いままでの歯科保健事業はどうだったのでしょうか?「地域振興券」とまでは言わないですが、全てが適切に使われたとは言えないのではないでしょうか。しかし、目標値を設定したということで、これから行政の先生は、真の質を問われることになるでしょう。梶浦先生のような公衆衛生を理解した人が、日本の歯科保健行政を担うことを期待いたします。

・ 水道水フッ素濃度適正化を推進していくには、他の組織や一般市民との連携が必要である。これは、当たり前のことかもしれませんが、この当たり前が難しいのかもしれません。韓国の健康社会の為の歯科医師会は、全国の市民団体と連携し、統合してできており、歯科保健だけではなく、環境問題、民主主義の発展、核戦争防止などの運動をしながら他組織との連携を取っているようです。日Fという団体もこれからはより他の組織との連携を深めていく必要があるのではないでしょうか。

・ これからの日本の歯科保健対策は、社会状況(社会制度、保健状況)を考慮し、客観的にグローバルな視点で進めていかなくてはならない。海外の先生を招き海外の情報を得ることによって、現在の日本の歯科保健がどういう状況であるかがよくわかってきます。しかし、残念ながらこの海外の情報の一部分だけを取り、それをグローバルな視点であると勘違いをしている人がいます。水道水フッ素濃度適正化に関して言えば、「北欧は水道水フッ素濃度適正化を実施していないのにう蝕が少ない。フッ化物配合歯磨剤だけで充分ではないか?」という北欧かぶれの人がいますが、現在の日本と北欧の社会システムを考慮していての発言なのでしょうか?北欧は、高福祉の国である反面、高い税金を納めなければならなく、そのような国と日本を同じ土俵に立たせ主張するのは無理があるのではないでしょうか?水道水フッ素濃度適正化は、世界の約60カ国で実施されており世界に共通した公衆衛生事業あり、アメリカの20世紀10大公衆衛生事業の1つです。さらに、う蝕予防手段としては、効果、経済性が最も高く、全年齢層、貧富の差に関係なく公平に恩恵を与えます。これから21世紀に向けて、日本の歯科保健対策、公衆衛生事業として最も必要なものではないでしょうか。

福岡県 晴佐久 悟

                   


第25回むし歯予防全国大会懇親会(前夜祭)

(写真左上)東北北信越ブロック紹介

(写真右上)And You(あゆ)の会ゼッケンの紹介

(写真左)韓国からの参加の先生方と川崎長崎大学講師と小生

金光洙先生、Bae晋教事務局長(韓国健康社会NGOネット)、鄭世煥ソウル大学副教授、

もう一人の先生(名前忘れました:失礼)