フッ化物応用(水道水へのフッ化物添加)に関する見解

平成121221

日本歯科医師会

 日本歯科医師会は、平成11111日の日本歯科医学会(医療環境問題検討委員会フッ化物検討部会)の「フッ化物応用についての総合的な見解」に関する答申にある、「国民の口腔保健向上のためのう蝕予防を目的としたフッ化物の応用を推奨する。」との、主旨を全面的に支持するものである。

 WHOは水道水フッ化物添加について、加盟各国に対して「水道水フッ化物添加を検討し、実行可能な場合にはこれを導入すること、不可能な場合にはフッ化物の他の応用方法を検討すること」を趣旨とする勧告を行っている。また国際歯科連盟(FDI)において、水道水フッ化物添加については「う蝕の発生を安全かつ経済的に抑制する手段として、現状における最も有効な公衆衛生施策であり、すべての関係当局はこれを推奨すべきこと」を決議している。

 厚生省では、厚生科学研究のテーマとして、今年度より3年計画で、日本歯科医学会の答申を受ける形でフッ化物の全身・局所応用に関しての、より具体的な指針を得るべく、総合的研究を開始している。また、厚生省は、自治体からの、水道水フッ化物添加の技術支援要請に応じる旨回答している。

 これらの状況を踏まえ、日本歯科医師会は水道水フッ化物添加が、各種フッ化物応用の中で、有効性、安全性、至便性、経済性等に対する、公衆衛生的に優れた方法であると認識するが、水道水への添加という手段の性格上、これらの実施は、最終的には、地方自治体の問題であり、その経過においては、地域の歯科医師会をはじめとする関連専門団体、地域住民との合意が前提であると考える。

 今後、水道水フッ化物添加に対しては、厚生省との連携等、国レベルの専門団体としてのさらなる検討が必要であると思われる。

―フッ化物に対する基本的見解 (抜粋)―

1971年

日本歯科医師会企画調査室

 

1. 序文

2. フッ化物と齲蝕予防

3. 国際的機関のフッ化物応用に対する見解

4. フッ化物添加の安全性(抜粋)
上水道のフッ化物添加に対しては、毒物学的観点から、いまだに反対の声もある。しかし、根拠をもった反対はなく、観念的なもの、空想的・幻想的なもの、先入観からのものがほとんどである。飲料水中の適当なフッ化物濃度(フッ素として1.0ppm前後)では、多くの実験の結果、生理的になんらの有害性も認められず、また実際に15年以上フッ化物添加を行っている10カ国以上の諸国で、安全性を疑わせるような徴候は何一つ見出されていない。わが国の京都市山科における13年間の成績でも同様である。…・
 以上の点から、総合医学的にも十分な検討が加えられており、また、毒物的観点からも、1.0ppm前後のフッ素では有害性をしめすものではないものと考えられる。…・・

5. フッ化物添加実施上の技術・経済面
浄水場におけるフッ化物添加の技術的な面も、また維持管理の面も、WHO見解の如く、それほどの複雑化及び困難性を示しておらず、ことに、上水中のフッ素定量は、現在、正確かつ容易なものが開発されている。さらに、経験ある諸国の報告によれば、これに要する費用も、また住民の経済的負担も微々たるものである。

6. 日本における至適フッ素濃度
…・・
このことは、日本食品中のフッ素含有量を特別に考慮する必要のないことを示唆しているといえよう。したがって、日本人におけるフッ素添加至適濃度も米国におけるそれとほぼ等しく考えてもよいという根拠が得られている。
 以上の見地からして、フッ化物の全身的応用法は非常に有益であり、なかでも、水道水へのフッ化物添加を推進されることは、最も好ましいことと考えられる。但し、工場などによるフッ素汚染のうたがわれる地区での、フッ化物全身応用は慎重に行われるべきである。

7. その他の全身的フッ化物応用法

8. フッ化物の局所応用法

9. 結 論
前述の如く、フッ化物による局所的齲蝕予防メカニズムで最も重要な点がエナメル質表層および歯垢中の至適濃度以上のフッ素によるものであることを考えれば、飲料水中フッ化物添加が最も有用性のあることが考えられ、次いで他の全身的応用法が挙げられよう。局所応用法については、なるべく多数回あるいは規則的に、しかも安全に応用しうるものが理論的にも有効性が強くなるであろうことが考えられる。もしも、全身および局所応用法が併用されれば、その効果は一層増大されよう。いずれにしても、現在、フッ化物応用にまさる齲蝕予防手段の存在しない事実からして、フッ化物による齲蝕予防の推進こそが、現時点における最良の方法であるといえよう



― 齲蝕抑制のためのフッ化物応用に関する見解 ―

1977年 
日本歯科医師会

 

はじめに

1. フッ化物応用の方法

(1)一般的に齲蝕抑制手段を採用するときに考えなければならない条件

(2)フッ化物応用の3つの場とその特徴

(3)まとめ

2. フッ化物による齲蝕抑制機序

(1)齲蝕発病とその抑制

(2)フッ化物の歯の耐齲蝕性増強についての機序

  3. フッ化物による齲蝕抑制効果

(1)齲蝕抑制効果の確認

(2)フッ化物による齲蝕抑制の直接的効果

(3)フッ化物齲蝕抑制の付帯的効果

(4)まとめ

4. フッ化物応用の場合の安全性

(1)フッ化物は自然の状態でかなり広く存在しているものであること

(2)いわゆる斑状歯、ことに歯牙フッ素症について正しい認識をもつこと

(3)高濃度フッ素含有飲料水の長期飲用による影響

(4)フッ化物歯面塗布の場合の安全性

(5)洗口の場合の安全性

(6)フッ素の急性中毒 

齲蝕抑制のためのフッ化物応用は我国はじめ諸外国においても広く普及を示し、効果をあげていることが知られている。一方フッ素のおよぼす影響に関する疑問もないわけではなかった。この点については、鋭意検討を加えた結果その応用にあたっては、有効性と安全性の兼ね合いから考えてみて、齲蝕抑制手段として有効なものの1つであることを再確認し、従来どおり、基本的にはフッ化物応用の推進を確認する。
しかしながら、齲蝕抑制なためのフッ化物応用の方法には各種あり、それぞれについて、応用性や抑制効果についての差があり、それぞれの特徴を勘案した上での応用でなければならない。現在、応用面から最も実際的であると考えられる代表的な3つの方法についての基本的な考え方を示しておく。

 

(1) フッ化物の歯面塗布法
フッ化物の歯面塗布法は、歯科医師または歯科衛生士によって、歯科医療ないし公衆衛生の場で専門的な判断と注意の下で、個別的に行われるものであるから、効果も安全性の確保も確実である。
国民の齲蝕抑制の手段として、今後とも大いに推進されるべきものであろう。

(2) フッ化物水溶液による洗口法
本法は公衆衛生施策として小中学校や幼稚園など集団を対象に行うものであり、近年、本法の普及は著しいものがあり、その効果についてもかなりの期待が持たれている。
しかし、本法を家庭で個別的に応用することは現時点では好ましいものとは言えず、従って行うべきではないと考える。本法の応用はあくまでも集団を対象として十分な教育と管理の下に実施されるべきものである。……
本法については、対象者および関係者への教育を行い、十分な管理下で実行するよう推奨する。しかしながら、幼稚園や小学校での実施にあたっては関係者の理解と合意を得た上で慎重に行われなければならない。

(3) フッ化物を上水道に添加する方法
本法は公衆衛生的応用の代表的方法であるが、本法の採用は地方自治体、住民および専門団体との合意によってすすめるべきものである。しかしながら我国において実施する場合は、かなり慎重に取り扱わなければならない。例えば、南北につながる我国の平均気温にはかなりの差があり、飲水量も当然、差があると考えられる。また、生活習慣、食習慣についても異なる点が少なくないことから、至適添加量についても地域別に研究、検討しなければならない点がある。公害多発国としての国民感情を考慮し、選択の自由のないと言われる水道水フッ化物添加の立場からも考えなければならないものであろう。 ……・・