2001年2月26日 日本経済新聞(夕刊) Town Beat(生活欄)掲載記事 『今様 養生訓』   フッ素と虫歯   近づく水道水への添加

 厚生労働省が進めている「健康日本21」では、歯の健康も重要な課題の一つになっている。調査によれば80歳以上の人に残っている自分の歯の数は一人平均4.5本。20本以上の人は全体の11.5%しかない。「健康日本21」ではこれを20%に引き上げることを目指している。
 歯を失う二大要因は歯周病とう歯(虫歯)である。対策としては特に幼児、学童期での虫歯予防が大切である。そこで思い浮かぶのがフッ素である。
 口の中では細菌によって歯の石灰質が溶出(脱灰)し、だ液中のカルシウムなどが歯に沈着(再石灰化)することが繰り返されている。脱灰が多いと虫歯になるが、フッ素は脱灰後の再石灰化を促進する。
 
フッ素が虫歯の予防に効果があることは古くから知られていた。米国では1945年から水道水にフッ素を1ppm(100万分の1)添加しており、現在約1億5千万人の人がフッ素入りの水を飲んでいるといわれる。
 
世界保健機関(WHO)も69年に水道水にフッ素を添加することを勧告した。現在、38カ国がこれを実施している。虫歯予防は歯磨き、甘味の摂取制限と並び、フッ素が世界の趨勢(すうせい)である。
 日本ではまだ水道水にフッ素は添加されていない。ただ、フッ素が無視されているわけではない。フッ素入り歯磨きは早くから普及している。学童の歯へのフッ素塗布や、フッ素含有溶液で口をすすぐことなどが実施されている。
 水道水に添加されていないのは、フッ素の害や危険を指摘する声が強いからだ。71年に宝塚市であったフッ素の過剰摂取による歯に茶色のしみができる斑状歯訴訟がその典型例だろう。このほか過剰摂取による骨の異常や発がんの疑いも指摘されている。
 また
「不特定多数の人が口にする水道水に入れることは、危険を避けたい人の選択肢を奪うことになる」という声もある。一方で「虫歯を予防したら、患者が減って歯科医が困る」というちょっと首をかしげたくなる反対理由もあった。
 ただ、最近風向きが変わってきている。昨年11月にこれまで慎重だった旧厚生省が、地元住民の合意を条件に、水道水の水質基準内(0.8ppm以下)で水道水への添加を認めた。また、昨年12月には日本歯科医学会が、水道水へのフッ素添加のための研究促進を訴えた。
 厚生労働省は研究班を設けて、フッ素の適正添加量などの検討に入った。治療から予防へ――という流れの中で、フッ素が果たす役割を改めて考えることは重要だ。その際必要なことは、皆にわかりやすくデータなどを示すことだ。
フッ素をめぐるこれまでの論争は、国民不在の中で行われてきたような気がするからだ。 (編集委員 中村雅美)

昨年末,厚生省(現厚生労働省)が,水道水フッ化物添加に関する見解を出して以来,日本歯科医師会の追認の見解もあり、マスコミもこれに関して随分と取材をして,記事に表わされました。

一般紙,歯科関係紙は、もちろん,医学系の雑誌にも載りました。

今回は,経済紙のトップの日本経済新聞にも,ようやく記事にされ,「水道水へのフッ素添加」も,ネームヴァリューが一段と上がりました。昔から,日経新聞に載らないと一人前の話題・事件・政策でないと言われてました。そういった意味では、いよいよ、国民に認知されるべくテーマとして正念場を迎えたことに成ります。

今回の記事に対して,日経の中村雅美編集委員には,感謝もうしあげます。今後とも,是非,科学的にこの問題を捉え,引き続き取材をして,国民にあきらかにして行ってもらいたいと思います。

そこで,この記事に対して、特に赤字の部分に対して小生のコメントをさせていただきます。

「不特定多数の人が口にする水道水に入れることは、危険を避けたい人の選択肢を奪うことになる」については、基本的に危険の何たるかを理解していない人の発言です。フッ素は、我々が飲食しているあらゆるものに含まれており,我々の骨や歯などには大変多く含まれている構成元素の1つです。ましてやCaに代謝などに深く関係にし、骨や歯には大変重要な栄養素といわれているものです。水道水へのフッ素添加も疫学的に見て,斑状歯が現れにくく,むし歯予防が効果が現れるちょうど良い濃度(1ppm)を,太古の昔から飲んでいた天然のフッ素濃度の地域から学び取った,人類の英知の所産です。この1ppmという値も,予測上、最も斑状歯が表れる可能性の高い小児を基準にしたものであり、アメリカ小児学会はこれを基準に小児のフッ素の1日必要摂取量を決め,その地域のフッ素濃度によって小児へのフッ素錠剤を処方しています。大人には,障害が現れる可能性は全くないに等しい濃度です。

大体,この意見を言う人は、水道水に入る塩素についてはどの様に考えるのでしょうか。危険を避けたい人の選択肢を奪っている塩素は良いのでしょうか。水道水に含まれる,いろんな物質(鉄、Na,Ca,Mg,Zn,それからカドミウム,水銀,鉛.砒素などなど)がありますが,これらをすべて除くのは無理です。でなければ,蒸留水を飲むしかありません。アメリカや韓国などの多くの国で,水道水にフッ素を添加しているのは、不特定の人が口にしても安全(特に小児が飲んでも絶対に安全)で、効果的で、公平で、簡便であるからなのです。つまり,公衆衛生的に見て最善の方法であると判断されているのです。危険と考えること自身が,誤りなのです。

また,関連してあるのは、「絶対に嫌なのに拒否できない」という考え方がありますが,これについても,住民の大多数が健康のためにフッ素添加を望んだとしたら従わないといけません。何故なら,フッ素は先に触れたとおり危険なものではなく、安全なものです。アメリカでは、はっきり、「公共の福祉」が「個人の自由」より優先されます。日本でも同じと思います。例えば,大きな道路が必要で作られることになりましたら、地主は嫌でも土地を収用されます。厚生労働省の見解が出て,そのあと日本歯科医師会の見解が出た際、この言葉を歯科医師の口から聞かれました。これは,的外れも良いところです。本来,安全性や,効果については十分知識を持ち得,住民に説明の義務があるはずの人間が、よく知らずに口にする住民の言葉を代弁したことになるのに気がつかないのでしょうか。いや,自分が、水道水にフッ素を添加する方法が公衆衛生学的にみて最も効果的な方法であるという科学的な知識をもち得ていないことを自ら証明しているのです。

「虫歯を予防したら、患者が減って歯科医が困る」については、誰が言っているか,はっきり行ってほしかったですね。何を隠そう,歯科医自身の声ですと、読み取れもしましたが・・・ ところが,これが,歯科医以外からだったら,わたしは大きなお世話だといいたいですね。

むし歯予防は我々歯科医の勤めであり、歯科医師法の第1条に『歯科医師の任務』として「歯科医師は,歯科医療および保健指導を掌ることによって公衆衛生の向上および増進に寄与し、もって国民の健康な生活を確保するものとする」とあります。当然,むし歯予防に尽力すべきなのであります。

(これからは,あのような発言をする歯科医に言いたい!)しかしながら、これからの歯科界を見ると,治療よりも予防である.以下に歯を保存するか考えて行かねばならない。むし歯予防をしてきたアメリカ歯科医師会は,国民から大変尊敬されている。また、歯科医の仕事は,小児のむし歯の治療から、成人の総合的な治療へシフトしてきて,決して減らないそうである。有名なHorowitz夫妻はここ10年で歯科医の仕事は平均で5%以上伸びているといっています。歯科医よ,目を覚まそう!