上水道のフッ素添加について〜マスコミの立場から〜

毎日新聞編集委員

小 原 博 人

 南米コロンビアで歯痛に耐え兼ねた男性が、ピストルを口の中に差し入れ、痛みのもとになっているむし歯を撃ち抜いたという新聞報道を数年前に読んだことがある。あごが吹っ飛んだのはいうまでもない。かほどに歯の痛みは手に負えない。この痛みから逃げられるなら、他のどんな苦痛も我慢できるとさえ思う。子供のころ、痛みで泣きじゃくる妹のむし歯に、おじが新聞紙をあぶって滴り落ちた液を塗りつけたことがある。この液が痛みを軽くするとのことだったが、もちろん効果はなかった。

 初めて「歯」を取材したのは3年ほど前のことだ。「キシリトールって知ってる?」と、会社の事業系統の同僚から聞かれた。「何、それ」と問い返したら、「実はガムの会社がキシリトール入りのガムの販売を大々的に始めた、むし歯予防に良いそうで、ガム業界の注目株。今後のために一度、記事にしてくれないか。」との頼みがくっついてきた。

 こうしてキシリトール礼讃記事をものにした。ある歯科大のキシリトール派の先生の説明になるほどとうなずき、紹介した記事はなにがしかガム会社の販売成績に寄与しただろう。そんな私が非専門家の立場ながら、どのようにキシリトールを離れ、なぜフッ素を支持するようになったのか、それをお伝えしたい。

 中三の時、早くも左下奥歯を失ったのを最初に歯との下手な付き合いに終始してきたてつを、今の子供たちが踏まないようにと願っている。

(群馬県甘楽町 歯科シンポジウムin甘楽抄録より抜粋)