第24回むし歯予防全国大会 感想文

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第24回 むし歯予防全国大会に参加して

            ベル歯科衛生専門学校(岡山県) 2年   Y.A

 

 私の中で、歯科衛生士とは歯科治療に従事して、ドクターの補助的役割が仕事だと認識していました。今日でも、多くの歯科医師・歯科衛生士の意識が、補助される側と、する側との相補的な関係とされています。

 pmj歯科(実習医院)においては、歯科衛生士はプロ意識のもとに、責任を持ち仕事を遂行しています。そして、水道水フッ素化に関することをはじめとした、あらゆる情報を患者に提供し、了解を得てから治療を行っています。情報を伝えることにより、患者に「予防が大切」だという意識を高める役割は、衛生士の仕事であることを当たり前としています。一人の患者に対して最後まで責任を持つことは、歯科衛生士自身が常に新しい情報と知識を把握していなければ対応できません。

 pmj歯科に実習生として携わるようになって、衛生士としての意識と歯科治療の関わり方の点と点だったものが線につながってゆき、歯科衛生士が補助的な役割ではなく、独立したプロ意識を持つ衛生士へと意識が変わってきました。これからの歯科医療は、治療中心から予防中心へと世の中が大きく変わろうとしていることを実感しています。

 今回むし歯予防全国大会に参加してみて、公衆衛生予防手段として、さまざまな国で、水道水フッ素化を行い、反対意見があるにも拘らず実施されていることがわかりました。しかし、わが国では水道水フッ素化を認めWHOの実施勧告決議に賛成を表明したにもかかわらず、世界の国々における水道水フッ素化の大きな成果といった情報は一切国民に伝えられず、口腔保健の専門家にも適切な情報が到達していないという現状があります。

今回の全国大会では、水道水フッ素化を最初に始めた米国、70%の普及率を誇るマレーシア、3年後には人口の3分の1が実施予定となっている韓国、6年後には全国展開をする中国など、フッ素化について各国の専門家を招いての講演でした。

 この講演において、特に印象に残っているのは、歯学研究、公衆衛生コンサルタントである米国のハーシェル・ホロビッツ氏と、ソウル国立大学歯学部予防歯科学・歯科公衆衛生学の金鐘培教授の二人の方々です。

 ハーシェル・ホロビッツ氏によると、過去50年間に合衆国ならびに各国々で行われた何百という研究によって、Fluoridation(その地域の上水道が自然の状態で含んでいるフッ素をう蝕予防に最適なフッ素濃度に調整するプロセス)が、う蝕予防に有効であることが証明され、子どもだけでなく、大人もその生涯を通じて、フッ素化された水を飲むことで効果を発揮すると述べられています。いくつもの研究から、飲料水中に十分なフッ化物が含まれている地区で生涯を過ごした人は、非フロリデーション地区の人と比べて、喪失歯数もう蝕歯数も少ないことがわかっているそうです。

 フロリデーションは効果的で安全、なおかつ経済的で簡単であると、ホロビッツ氏は述べています。合衆国、カナダ、ニュージーランドにおける研究によると、フロリデーションを開始して数年経過すると、子どもにかかる年間の歯科治療費は減少することが示されています。また、年齢、収入、教育レベル、歯科医院へのアクセスの程度に関わりなく恩恵を受けることができ、フッ素化された水を飲み、その水で作られた食品や飲料を摂ることで、自然にう蝕予防ができることを考えれば、フロリデーションが理想的な公衆衛生手段ともいえると述べられています。

 また、韓国の金鐘培教授は、都市部の水道水がフッ素化され、郡部では学校での集団フッ素洗口事業が普及し、すべての地域で学校での継続的な口腔健康管理事業が普及、実行されるべきだと主張されています。 金教授は結論として、う蝕を克服するためには歯科医師と歯科衛生士が住民に対して、水道水フッ素化事業についての教育に努めることとし、さらに水道水フッ素化を普及するために自助努力をして政府と国民が組織的に共同作業を21世紀に向けて進めていく必要があると述べています。

 そして、韓国においては、予防を基本に考える若手歯科医師たちが、健康社会のための歯科医師会を設立したり、会のメンバーのさまざまな運動やメディアを通しての活動の結果、歯科大学での教育の一環として水道水フッ素化に関する教育がなされるようになり、これらを考えれば金教授の「予防歯科」に対する熱意と努力が実った結果だと思われます。

 むし歯予防全国大会に出席して、日本が「予防」に対していかに遅れているかを痛感すると共に、今後私たちがどのように歯科医療に取り組むべきか課題が多く残りました。今や、歯科医院が乱立する社会において、まだまだむし歯は治療するものと歯科医師も患者も考えている日本の現状があります。

 各国においては、行政をはじめとして歯科医療に携わる人々の「歯科予防」に対する熱い情熱を感じ、"Education"と何度も唱えた言葉がとても印象的でした。そして、その言葉は今も私の脳裏に残っています。日本の歯科医療の遅れている状況を考えれば、将来に向けて個人として何ができるのか私自身が模索をしている状態です。

 私は現在、歯科衛生士になるために勉強をして、歯科医師の父を持つ環境の中で育ちました。そのような環境で私自身が、保育士としての資格と、衛生士として仕事をしていく中で何か接点を見つけ、子どもたちに、自然なかたちで「歯の大切さ」を取り入れることができればいいと思います。

 子どもたちはみんな歯科治療に対して何らかの恐怖心を持っています。その原因はむし歯治療は痛いものだと身をもって体験しているからだと思います。痛いから治療に行かない、行かないことによってますますむし歯がひどくなる、そんな悪循環が繰り返されるうち母親たちは「歯磨きをしないからよ」といった、間違った解釈を子どもたちに教えています。なぜなら、歯磨きをしないからむし歯になるのではなく、歯磨きをしなくてもフッ素洗口を一日一回することによって、むし歯を予防できるからです。

 このように間違った解釈をする原因は、長年にわたって医療従事者である歯科医師や歯科衛生士の責任が大いに影響を与えているからだと思います。そのような背景を考えれば、今後、歯科衛生士として、子どもたちを通して「楽しいフッ素指導」をやり、母親に正しい知識を与えて「予防の大切さ」を知ってもらうことではないでしょうか。そして、子ども、親、歯科衛生士の三者の信頼関係を築きながら、小さな事から意識を高めてゆけたらいいと思っています。

 今回の講演会に参加した人々の前向きな姿勢を忘れないで、やがて歯科衛生士として仕事に携わった時には、プロ意識を持ち上水道フッ素化に対して"Yes"と言えるよう、たえず新しい情報と正しい知識を人に伝えることができればいいです。

この感想文は、岡山の黒瀬真由美先生から,歯科衛生士科の特別講義の際に資料として使わせて頂くことをお願いし、了解を頂きました。あまりに素晴らしい感想文だったので,名前をイニシャルにして,ここに掲載させていただきました。