2002年3月2日(土)沖縄タイムス
水道水フッ化物応用  
健康長寿と歯の長命を目指して 

一生自分の健康な歯で楽しく食を味わうことができれば、この上ないことです。数年前に行われた全国調査によると、60歳を過ぎるころから急激に「総入れ歯」の人口が増えて、80歳以降の半数以上の人はまったく自分の歯を持たずに食事をするという不自由さに直面しているデータが示されています。
歯の寿命は人の平均寿命より短いのが現状です。さて、歯を失う原因は大きく分けて「虫歯」と「歯周病」です。これまでの歯と口の健康に対する取り組みは、虫歯から歯周病などが発生してから、それらに対応するという方法が主流でした。病気をあらかじめ防ぐというよりも、できてしまった虫歯と歯周病を治療するやり方が一般的でした。
これでは人々にはより多くの時間がかかり、苦痛が伴います。歯と口の清掃には「歯みがき」はとても大切で歯周病の予防には有効ですが、虫歯予防には思うような結果が出ませんでした。世界的に見ると、虫歯を減らした国々が多くあり、その成功の秘けつは上手な「フッ素」の利用であると認められています。
もともと「フッ素」は、私たちの身の回りにある植物、動物、土、水、すべての食べ物と飲み物に含まれ、沖縄の海にも1.3ppmにフッ素が含まれています。このような自然界で、昔から特に「天然の飲み水の中に適量のフッ素があるところでは虫歯が少ない」ことが知られていました。また、フッ素は多過ぎるとよくない(斑状歯が発生する)ことも分かっておりました。このように適量のフッ素が大切であることは、はじめ自然の中で判明したのです。
そこでこの自然界の現象に習って、地域の水のフッ素量を「適度に調節」して、乳幼児から高齢者までの虫歯予防を行う方法がフロリデーション(水道水フッ素濃度適正化)として生まれました。1945年アメリカとカナダで始められました。
その後、この方法は公平で、安全で、かつ公衆衛生的方法であるとWHO(世界保健機関)、FDI(世界歯科連盟)、CDC(米国疾病予防センター)、世界各国の医師会、歯科医師会など150の専門機関が、日本では日本歯科医師会、日本歯科医学会、日本口腔衛生学会、厚生労働省が推奨しています。現在、天然によるものも含め世界約60カ国で実施されています。アジアではシンガポール、香港が100%、マレーシア70%、中国、韓国が国家プロジェクトや口腔保健法を成立させ実施に入っています。
わが国でも本県では、本土復帰前の50年代から73年まで、コザなどいくつかの市町村で行われていました。しかしながら、皮肉なことに、本土復帰によって世界水準の虫歯予防策が閉ざされ今日に至っておりました。近年ようやく、久米島具志川村を皮切りに、21世紀の住民の歯と口の健康づくりの具体策としてフロリデーションを実現する機運が高まってきました。
3月2日(土)午後2時から健康長寿と歯の長命を目指して、「水道水フッ化物応用シンポジウム」が開かれます。場所は具志川村農村環境改善センター。基調講演は斉藤寛氏(長崎大学医学部長)とトーマス・リーブス氏(米国疾病予防センター)のお二方です。引き続いて、4人のシンポジスト(県歯科医師会長、公立久米島病院長、朝日新聞編集委員、具志川村健康づくり推進協議会長)によるシンポジウムが行われます。主催は県、県歯科医師会、具志川村です。皆様の参加を希望します。
(長嶺和弘先生:長崎県歯科医師会理事)