長田電気工業雑誌『Zoom Up』に、(社)富岡甘楽歯科医師会が紹介される!


【トピックス】

「地域社会と共に歩む予防歯科への取り組み」

社団法人 富岡甘楽歯科医師会

群馬県富岡市七日市640-1 富岡甘楽口腔保健センター

会長 鈴木 廣  専務理事 萩原 吉則

近年、全国各地で6月4日からの歯の衛生週間を活用し、その前後に歯科医師会主催による各種催しが開催され、地域住民に好評を得ているようだ。
 ここ、群馬県内にある富岡甘楽歯科医師会でも、昭和61年以来、毎年6月の第1日曜日の 朝10時から午後3時まで「歯の健康フェア」が開催されている。こちらの地域では、地域歯科保健活動が活発に行われており、現在では小学校低学年以下の児のむし歯の羅患率が激減。3歳児健診においては我が子にむし歯が見つかると親が恥ずかしいと感じるほどに、歯科保健に対する意識が高まっているという。

そこで今号のトピックスでは富岡甘楽地区で“どんなフェアが開催されているのか”、また“どのような地域歯科保健活動が実施されているのか”をお聞きしに、6月1日、歯の健康フェアの会場になっている富岡甘楽口腔保健センターを訪問した。

 場所は上信電鉄西富岡駅から徒歩1分の静かな住宅街の一角。正面の駐車場を入ると左手に公立七日市病院、突き当たりに訪問看護ステーション・居宅介護支援事業所。右手が入り口に富岡甘楽口腔保健センターと書かれた会事務局。ここ10数年各地の歯科医師会を訪ねているが、歯科医師会館とうたわず、住民により親しみやすさを感じさせる口腔保健センターと前面に掲げている会館は初めてだ。
 当日はあいにくの雨模様で外出を躊躇される方が多いのでは?と思われたが、10時開場というのに9時半頃より住民がぞくぞくと集まりドアが開くのを待っている。
 開場と同時に入ってきた住民はまず5人ほど並んだ受付で住所氏名を記入。歯ブラシ・フッ化物配合歯磨剤・シュガーレスガム等が入ったメーカー協賛のおみやげを貰い、館内の3か所に分かれた会場へ。1階の健診、歯科相談室では4名のドクターが口腔内をチェック。2歳くらいかな、と思われる子供に若い両親が付き添い、むずがる子供の口を開けて熱心に何やら聞いている。その隣では、総入れ歯をはずしたご老人が咬み合わせについて・・・といったように順番に並んだ椅子にズラリと座って待っている。室内の一角に設けられたコーナーでは、8020を達成されたご老人に会長自らの手で表彰状が渡されている。毎年10名前後の8020達成者がいる。壁には子供たちが描いた歯科保健図画ポスターや啓発標語コンクールの応募作品が一面に貼られている。

 2階に設けられた2つの会場。1室では7〜8名の歯科衛生士さんがテキパキとフッ素塗布を。どの子も慣れているらしく、膝の上に頭を乗せて神妙に、時には笑顔でフッ素塗布を受けている。
 次のメイン会場と思われる大きな部屋では、入って右手に10名ほどの歯科衛生士さんが染め出し液を使ってのブラッシング指導を。親子連れが手鏡とハブラシを持って熱心に説明を聞きながら磨いている。隣の群馬県富岡保健福祉事務所(共催)のコーナーでは、保健グループリーダーの佐藤保健師と平良保健師が、血圧測定やコンピューターを使った食生活の診断など、総合的な健康相談。歯科医師会と保健福祉事務所の連携も密接なようだ。

その隣ではオクルーザルフォースメーターを使った咬合力の測定、握力計での握力の測定。「オレはいくつだ。お前は?」と子供たちが群がっている。
 その横には一人一人の歯垢中の細菌をマイクロスコープを使って見せ説明している。動き回る細菌を見て、「もういやだ」と泣きそうな顔をしている子供。こうすれば面倒な歯みがきも、もっとしっかりやろう!と思うだろうな。良い動機付けだな、と思いつつ次の市町村(共催)コーナーへ。ここは富岡市、甘楽町、下仁田町、妙義町、南牧村の保健師さんたちが担当している。壁一面に手書きで書かれたフッ素の効能や歯科保健についての啓発ポスターが貼られてある。フッ素入りの天然水 スパウォーター(フッ素濃度1.3 ppm)の試飲やフッ素洗口液ミラノール等の説明が行われているが、担当者はどなたもニコニコと来場者に応待。活き活きとした保健師さんたちの笑顔が印象的だ。

最後は口腔内カメラ「オサダ シンプルビジョンS8」を使った口腔内を映し出すコーナー。来場された一般の方々がご自分で口の中を画面に映し出せるとあって、鮮明に映し出されるカラー画像にほっとしたり、これはもしかしてむし歯の初期症状では?と、様々な表情で観察している。おそらく読者の先生方の診療室でも、インフォームドコンセントの一端として活用されていることであろう。

全部終わった子供たちは1階で天井まで上ったゴム風船を貰って帰っていく。ご案内下さった萩原先生によると、「毎年来場者は600〜700名(今年の名簿記載者数  748名)。今回の主催者側の参加者は、富岡保健福祉事務所と管内市町村から15名、歯科衛生士16名、歯科医師会事務局の歯科衛生士3名、歯科医師会の会員など、総勢約60名です。皆さん協力的で役員一同助かっております」とのこと。富岡甘楽歯科医師会は今回のフェアだけでなく、地域に還元できる多くの事業を企画・実行している。6月21日には下仁田町で日本口腔衛生学会の後援を受けたシンポジウムが開催される。

富岡甘楽歯科医師会(会員38名)は、富岡市・甘楽町・下仁田町・妙義町・南牧村の5市町村(人口8万5千人)を抱え、平成11年には甘楽町が平成14年には下仁田町が群馬県歯科保健賞を受賞するなど、地域の歯科保健に大きく貢献してきた。現在、歯科医師会には常勤歯科衛生士3名が勤務し、地域歯科保健活動の原動力になっている。

富岡甘楽歯科医師会では、平成5年に公衆衛生活動の目標を具体化した「各ライフステージにおける歯科保健対策」を立案し、生涯を通した歯科保健の確立をめざしてきた。その対策の内容は、乳歯のむし歯予防対策、永久歯のむし歯予防対策、児童生徒の歯肉炎予防対策から始まり、成人・高齢者の歯科保健対策、歯科訪問診療、心身障害者の歯科診療までを含む総合的なものだ。

乳歯のむし歯予防対策としては、管内全市町村で歯科保健指導の充実に加えて「フッ素塗布」が実施されている(?)。市町村ごとに多少方法は異なるが、3か月から6か月ごとのリコールシステムが、平成5年までには完成した。さらに希望者には、家庭でのフッ化物利用(フッ素洗口、フッ素イオン溶液スプレー、フッ化物配合歯磨剤 A)の指導にも力を入れている。その結果、富岡保健福祉事務所管内の3歳児のむし歯が激減した(B)。
 永久歯のむし歯予防対策としては、「フッ素洗口」の普及をめざしている。フッ素洗口は、昭和61年度から甘楽町立の4幼稚園で開始されたが、平成4年度以降急速に普及した。平成15年3月末現在、富岡甘楽地区の保育園・幼稚園30園中の29園でフッ素洗口を実施している(C)。希望者が対象だが、実施率は98%を越えている。

富岡甘楽地区では、小中学校へのフッ素洗口普及が最大の課題になっている。医師会・薬剤師会の強力な支援、市町村保健担当課の積極的な協力に加え、住民の支持があるにもかかわらず、学校関係者の協力が得られず、小中学校でフッ素洗口が実施できない状況が続いている。
 このような状況を背景にして、甘楽町と下仁田町は、次善の策として小中学生が「家庭で実施するフッ素洗口」を、町が予算化し支援する試みが始まっている(D)。また、富岡市では学童保育所においてフッ素洗口が始まった。

歯科衛生士による巡回歯科保健指導が、保育園・幼稚園の園児と保護者、小学校中学校の児童生徒を対象に、市町村の予算で実施されている。子供たちの歯肉炎予防対策が主な目的だが、将来の歯周炎予防につながることを期待している。また歯科衛生士による指導は、フッ化物配合歯磨剤、フッ素洗口剤の使用など、むし歯予防に対する正確な知識の普及啓発にも大きな役割を果たしている(E)。

歯科保健指導の実施には、何人ものベテラン歯科衛生士が必要だが、歯科医師会の常勤歯科衛生士とともに、在宅歯科衛生士(協力者10人程度)が大きな役割を果たしている。

市町村の成人・高齢者の集団歯科健診としては、下仁田町で42歳・50歳を対象にした厄年健診、70歳歯科健診が実施されている。また、事業所健診としては、農団健診(JA甘楽富岡)が毎年実施されている。

富岡市と下仁田町では、歯科医院で行う個別健診の方法で、20歳以上の国保被保険者を対象に国保歯科健診事業が行われている。

その他、市町村の職員に対する歯科保健指導や研修会、保健推進員の研修会、食生活改善推進員の研修会、幼稚園保育園の保護者に対する歯科保健指導、健康大学、禁煙教室、糖尿病教室、健康祭など、成人の健診や歯科保健指導を実施する機会は多い。

心身障害者(児)の診療は、平成6年10月から毎週水曜日に口腔保健センター診療所で実施している。小規模の歯科医師会で心身障害者の診療を実施しているところは全国的にも珍しい。平成14年度は、新患数198名、延患者数694名だった。

訪問診療は、平成4年度から歯科医師会の事業として開始した。平成13年度には、39件の依頼があり、延べ161回の訪問診療を、在宅、施設、歯科のない病院などに対して実施した。訪問診療には、オサダポータブルユニットを2セットと、県と富岡市の補助金で購入した訪問診療・障害者診療用の車両を使用している。
 また、富岡甘楽地区にある特別養護老人ホームなどの施設と委託契約を結び、積極的に歯科健診と口腔衛生指導を毎年実施している。

鈴木会長:
平成4年5月に口腔保健センターが完成しました。その設立目的は、富岡甘楽地区の歯科保健活動の拠点として機能していくことです。その意味では、これまでもある程度目的を達成してきたと思います。
 歯科医師会は、専門職として科学的根拠に基づく正確な情報を行政や住民に提供していく義務があります。歯科医師が住民の健康増進に貢献すれば、信頼が増し社会的な評価も当然向上します。
 治療中心の歯科医療から、予防や健康管理中心の歯科医療へ構造改革していくことで、住民は一生自分の歯で食べることが可能になります。行政は歯科医療費の増加にはどめがかかります。歯科医師は信頼を増し、ひいてはかかりつけ歯科医としての役割を果たすことにより経営も安定します。 
 今後は、住民、行政、歯科医師のそれぞれの利益になるような改革が必要だと思います。健康増進法の施行は、ある意味では絶好のチャンスかもしれません。

萩原専務理事:
 歯を失う原因の約9割はむし歯と歯周病ですから、この2大疾患に対する効果的な予防対策を実施していくことが大切です。
 むし歯予防対策としてはフッ化物の利用、特に公衆衛生的な方法の普及が重要です。また、歯周病予防対策としては、学校歯科保健での歯肉炎予防対策の充実、市町村や職場での成人歯科健診の充実、かかりつけ歯科医の機能を活用した予防対策の推進などが重要だと考えています。
 今後は対策の遅れた学齢期のむし歯予防対策の充実、さらには、最も優れたむし歯予防対策で、各種フッ化物利用の原点でもあるフロリデーション(水道水フッ素化)の実施等を視野に入れた活動も必要だと思います。