各郡市歯科医師会長(事務所)
様 平成13年1月11日 静岡県歯科医師会 会 長 大久保 満 男 フッ化物応用に関する静岡県歯科医師会の見解 静岡県歯科医師会は新執行部発足と同時に「フッ化物応用に関する考え方」について取り纏めを行うよう公衆衛生部にその作業を依頼して参りました。その結果、平成12年9月28日付けで「現時点におけるフツ化物利用推進に関する 考え方について」と題する報告書を受け、これを支持する方向で具体的な組織構成、活動内容について検討を指示している最中に日本歯科医師会からのフツ化物応用についての見解が出されました。本会としましては、基本的な考え方はすでに公衆衛生部会あるいは広報等を通じて発表いたしましたが、「フツ化物応用に関する静岡県歯科医師会の見解」として再度ご説明申し上げます。内容的には日本歯科医師会の見解と全く同じものであります。 静岡県歯科医師会としては、「フツ化物利用推進を安全かつ極めて有効な公衆衛生手段」と位置づける。 上記結論の根拠としたのは、下記の答申内容を評価したものである。
但し、静岡県歯科医師会としてはフツ化物応用の推進を契機に、今後、予防医学の観点から、このような取り組みが診療報酬体系の中で適正に評価されるよう関係機関等への特段の配慮を求めることを付記する。 * 参考として「フッ化物応用に関する総合的な見解」に関する答申内容の全文が掲載された文献をご送付申し上げます。(日歯から送付された参考資料と同じであるため、別添の参考資料をご覧下さい。) |
平成13年1月11日 静岡県歯科医師会のフッ化物応用に関する考え方について
(乳幼児期から高齢者までの生涯を通じた口腔保健の在り方について)
「口腔保健とフッ化物応用について」 静岡県歯科医師会
1.フッ化物応用の背景
8020運動は、その考え方が提唱されて依頼、あらためて口腔保健の重要性を国民各層に周知させる一助になりました. 高齢社会に突入したわが国において、8020の達成は今や国民のQOL向上を願う保健医療の課題として、口腔保健医療専門職の大きな責務となっています。
生涯にわたり健康な歯を保持するために、う蝕予防並びに歯周疾患の予防が最も重要な事柄であることは異論のないところであり、中でもう蝕はわが国における歯の喪失原因の第一要因としてあげられ、その結果は口腔機能の大きな減退をもたらすものとして、広く認識されています。
わが国においても、長年にわたり口腔保健医療関係者により、う蝕予防を目的に甘味食品の適正摂取、ブラッシングによるプラークコントロール、生活習慣是正のための健康教育、学校歯科保健におけるう蝕処置勧告等多大な努力が払われて参りました。 しかしながら、う蝕予防の効果は他の先進国と比較してはかばかしくなく今日に至っても国民の口腔保健の状況は決して良好とは言えない状況にあります。
近年、欧米やオセアニア諸国、また近隣のアジア地域では韓国や中国などから、国や地域レベルでのう蝕予防の成果が続々と報告されるようになって参りました。そこでは米国やオセアニア、アジア諸国等における地域単位の水道水フッ素化、欧州の学校保健におけるフッ化物洗口、そして世界の殆どの国でのフッ化物配合歯磨剤の普及を中心とした公衆衛生的なフッ化物利用が、その最も大きな要因として挙げられています。
一方、わが国では、う蝕予防の重要性とそれに対するフッ化物応用に関する科学的理解や認識、また、その伝達が十分といえない状況で推移しており、歯科医学以外の学術分野における研究者、保健医療従事者、あるいは保健活動にかかわる人々に対して、う蝕予防の重要性とフッ化物応用に関する情報発信が十分になされてきたとは言えません。
こうした状況に鑑み、日本歯科医学会医療環境問題検討委員会フッ化物検討部会では、世界各国における信頼すべきフッ化物応用に関する基礎的研究、疫学的研究、臨床的研究並びに公衆衛生学的調査に基づいた情報を総覧した結果、国内外において、フッ化物の応用は口腔保健向上のために重要な役割を果たしていることを確認し、各種のフッ化物応用に関する有効性、安全性、至便性、経済性についてもあわせて検討した結果、「国民の口腔保健向上のため齲蝕予防を目的としたフッ化物の応用を推奨する」との提言を出しました。具体的には、現時点で、直ちに実施可能なフッ化物洗口法及びフッ化物配合歯磨剤等の使用、ならびに臨床的応用法であるフッ化物歯面塗布法の実施を推奨しました。
元来、フツ素は自然界に普遍的に存在する元素であり、我々の生活環境や飲食物にあまねく存在する元素であります.一日の摂取量に個人差はありますが、人体に必要な栄養素の一つとしても知られています。歴史的には20世紀初頭の歯のフッ素症(斑状歯)の発見以来、今日でほば一世紀が過ぎようとしています.齲蝕予防のための水道水フッ化物添加が実施されてからもゆうに半世紀が経過しています。この間、WHO(世界保健機関)から1969年、1975年及び1978年に水道水フッ化物添加に関しまして実施勧告が出され今日に至っている事実もあります。国内的には水道水フッ化物添加について平成12年12月6日付で厚生省歯科保健課から条件付きながら容認の見解が、また続く平成12年12月21日付で日本歯科医師会から「公衆衛生上優れた方法であるが、実施にあたっては自治体と住民との合意が前提」との見解が出されるようになって参りました。
我々,口腔保健医療専門職はフッ化物応用に対して常に最新の知識を基に、う蝕予防におけるフッ化物応用について,一般国民の理解の向上のために積極的なイニシアチブをとり,フッ化物応用による口腔保健の向上を現実のものとし、口腔保健医療に対する信頼を高め、広く国民の健康増進に貢献することが期待されています。
2.本県におけるフツ化物応用の経過と今後の課題
静岡県においlては、う蝕多発地域において各地区歯科医師会や行政、保健関係者との連携のもとにフッ素洗口を実施しており、その数は昨年6月現在で134施設(保育園64施設、幼稚園24施設、小学絞45施設、中学校4施設)約19,000人に及ぶ実績を有し、全国的にも上位に位置していますが、フッ化物塗布は県下の一部の市町村で実施されているのみで、普及はまだ本格的ではありません。
最近では新聞紙上でも歯科保健とフッ素に関する問題が大きく取り上げられるようになり、以前とは違う社会情勢の大きな変化を感じざるを得ません。県歯全体としても歯科保健の理念に基づくフッ化物応用を本格的に検討していない状況下にありましたが、新執行部発足時からこの課題について真摯に検討を加えている段階にあり、少しずつ活動の方向性が提示されつつあります。
今般、厚生省から示された21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)の中にも、歯の健康目標の項目にフッ化物歯面塗布があり、目標達成に向けた対応が必要になって参ります。フッ素は各ライフステージを通じて生涯その恩恵に享受できるものであり、EVIDENCE BASED MEDICINEに基づく科学的な背景をもって実施される非常に有益なう蝕予防手段であることを再度、強調させていただくと共に、この活動を全面的に支持して行く方針でいます。
しかしながら、今後のフッ化物応用の推進策の主たる方向は、水道水のフッ化物添加に移っていくことが予想されます。この方法は公衆衛生的には効果的な手段であることはいうまでもありませんが、しかし一方で、無歯顎者のような不必要な住民までもが、飲料水として摂取するという、つまり選択の自由がないという欠点をもっています。
さらには、もし地域でこの方法を実施しようとした時点において、積極的推進派と過激反対派が、激しく衝突する事態も起きるであろうと思われます。このような事態を想定した時、地域の歯科医師会は正確な科学的根拠としての情報を提供し、あくまで住民の合意を前提としながら、そのような事態のクッションとしての役目をはたせるような存在であることが、大切な役割だと考えております。
したがって今後、本会は、このような事態までも視野に入れながら、8020運動が単なるスローガンに終わらず、実効ある運動とするためにも、フッ化物応用が果たす大きな公衆衛生学的役割を広く県民に理解していただく努力をし、さらには行政や地域住民、各郡市歯科医師会との連携を深め、正確な情報伝達をする学術団体として地域歯科保健活動を担う役割を益々充実させていく覚悟でおりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
そして最後に申し上げたいことは、このような予防の充実に我々が努力することは、一方で、その財政的な評価を行政にどのように認識させていくのか、それが歯科医師会の大きな課題であり役割であると考えております。
我々の意図することに関わりなく、時代は大きく変わろうとしています。
我々は、その認識を誤ることなく、会務の運営に努力してまいる所存でありますので、今後ともよろしくご指導をお願い申し上げます。