「健康日本21」地方計画に対する取り組み 日本歯科評論』2001年7月号に掲載

 田口円裕(たぐちのぶひろ)先生     埼玉県健康福祉部健康づくり支援課

「日本歯科評論」7月号の『霞ヶ関レポート』に,現在埼玉県健康福祉部で活躍中の,田口円裕先生の評論が掲載されました。

各都道府県、あるいは、政令市や特別区でそれぞれ,都道府県民や地域住民を対象に、口腔の健康づくりをメインに歯科保健計画が策定されています。ところが,数年前には,文章だけのものであったり、予算処置の伴わぬ実行力のない計画であったり、いろいろでありました。ところが、当時厚生省の「8020推進特別事業」に対する各都道府県への事業計画立案や予算請求の段階での指導や、各都道府県の担当者,各都道府県歯科医師会担当者を中心に検討が始まりました。そして、予算措置のお蔭で、8020協議会などをはじめとして、ややレベルの高い歯科保健計画が練られることになりました。もちろん,厚生省の努力でそのモデルにすべく、「健康日本21」が急遽策定されたのは,ご承知の通りであります。

ところが,本当に質の高い歯科保健計画,いわゆる、田口先生のコメントにもあります、「健康日本21」地方計画は,各都道府県でどこまで咀嚼されているかはなはだ疑問であります。それぞれの担当者が,その真の意味での健康づくりを目指すプランになるよう,努力してもらいたいものです。つまり、公衆衛生施策の盛込まれたプランを期待するものであります。田口先生の言われるWater Fluoridationも含めた健康政策づくりを21世紀の歯科保健計画としてもらいたいものです。(山本武夫:前富山県歯科医師会理事、「富山県歯の健康プラン」「新しい富山県歯の健康プラン」策定時企画参加)

「本文」

 わが国の健康づくり対策としては,昭和53年からの第一次国民健康づくり対策および昭和63年からの第二次国民健康づくり対策が実施されてきた.これらの取り組みの中で,健康診査体制の確立,施設整備・人材育成,健康づくりのための指針策定等の基盤整備が推進されてきた.

 少子高齢社会の到来や医療技術の進歩,社会背景の変化等に伴い,21世紀のわが国を,すべての国民が健やかで心豊かに生活できる活力ある社会とするため,第三次国民健康づくり対策として「21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)」が,昨年厚生省(現厚生労働省)より示された.国から示されたこの「健康日本21」を受けて,各都道府県では,疾病状況や県民の健康に対する意識等を勘案し,都道府県独自の「健康日本21」地方版が次々と策定されている(表1).

 表1 「健康日本21」地方計画の策定状況について  (厚生労働省 平成13年5月現在)

  総数 計画策定済み 平成13年度策定予定 平成14年度策定予定 平成15年度策定予定 未定
都道府県  47     27        20        0       0  0
政令市  51      6        24       17       1  3
特別区  23      3         4        6            2  8

 

 さらに,国の「健康日本21」の一額域として「歯科保健」が取り上げられたことから,すでに策定された各県の計画においても,「歯科保健」の分野が取り上げられている(表2).

 表2 「健康日本21」地方計画における「歯の健康」の策定状況について(予定も含む)(厚生労働省 平成13年5月調査)

  総数 歯の健康(数値目標あり) 歯の健康(数値目標なし) 検討中・未定・なし
都道府県  47       43       3     1
政令市  51        27       8     16
特別区  23       7       4    12

 各県の計画における基本方針をみると,@一次予防の重視,A健康づくり支援のための環境整備,B評価指標等の設定(目標値の設定)等が掲げられ,推進手法として「ヘルスプロモーション」の考え方が多く示されている.

 また,各分野において目標とそのための関連指標が明示されており,目標指向型の健康政策となっている.各県の歯科保健の関連指標をみると,健康指標として代表的なものは表3に示すとおりであり,多くの都道府県で幼児期・学齢期の麟蝕予防,成人期の歯周疾患予防,歯の喪失防止など,ライフステージごとの目標値が設定されている.

 表3 各県における歯科保健関連の健康指標  (目標値はいくつかの県計画より抜粋)

            指      標    目 標 値
@ う蝕のない幼児(3歳児)          60〜80%以上 
A 12歳児の1人平均う歯数(DMF歯数)    1〜2本以下
B 60歳で24(25)本以上の自分の歯を有する人の割合   50〜55%以上
C 80歳で20本以上の自分の歯を有する人の割合  20〜40%以上

 一方,行動目標として代表的なものは表4に示すとおりであり,離蝕予防に関しては,個人レベルでのフッ化物応用を指標として挙げている県が多く,歯周疾患予防に関しては,歯間清掃補助用具の使用と定期健診の受診を掲げている県が多い.

 表4 各県における歯科保健関連の行動目標  (目標値はいくつかの県計画より抜粋

            指      標                   目 標 値   
@ フッ化物塗布を受けたことのある幼児の割合の増加  40〜70%以上
A フッ素入り歯磨剤の使用者の割合の増加  90〜95%以上
B 歯間清掃補助用具の使用者の割合の増加  30〜70%以上
C 歯科健診を定期的に受診する人の増加  30〜60%以

 健康づくりを支援する環境整備の観点からの目標値としては,歯科保健に関する情報提供やフツ化物塗布,あるいは歯周疾患検診を実施している市町村数の増加,かかりつけ歯科医がある人の割合の増加等が示されている.

 21世紀においては,二次予防により早期に発見し,疾病をコントロールする高リスクアプローチも必要ではあるが,一次予防として健康増進の集団アプローチを中心に取り組むことが重要であり,さらに県・市町村の立場からすると,疾病の発生を予防する0次予防(環境整備)への取り組みが非常に重要ではないだろうか.特に離蝕予防に関しては,国内外の多くの調査研究により予防が十分可能であることが明らかになってきており,「健康日本21」の地方計画の推進方法として「ヘルスプロモーション」を実践するのであれば,Water Fluoridationが項目にあがってもよいのではないか.Water Fluoridationは,公共政策づくり,地域活動の活性化(実施決定には住民の意思が反映される住民参加型の予防法である),環境の適正化および医療サービスの方向転換という「ヘルスプロモーション」の考え方にまさに合致しているものと思われる.幸いにも,厚生省(現厚生労働省)や日本歯科医師会から,Water Fluoridationに関する見解が昨年末に示されており,中長期的な歯科保健戦略として,今後,地方自治体で議論されるべきテーマであると考えられる.