仙台で頑張っておられる,田浦先生の記事です!毎日新聞 2001年(平成13年)1月20日(土) みやぎワイド   「聞く 語る」欄

水道水のフッ素化へ前進−−東北大学歯学部予防歯科講師・田浦勝彦さん(53)

東北大歯学部予防歯科教室の田浦勝彦講師(53)は十数年来、「フッ素を使って虫歯予防を」という全国規模の運動に取り組む歯科医の一人。仙台市青葉区の私立新坂通幼稚園でのフッ素洗口(15日付宮城面)も、田浦さんの勧めがきっかけになった。フッ素は本当に虫歯予防の切り札なのか、世界と日本のフッ素利用の状況はどうなっているのか語ってもらった。【聞き手・小原博人】

――日本歯科医師会は虫歯予防には歯磨きでのプラークコントロール(歯こう除去)が大事と強調しますが。

 歯磨きだけで虫歯は予防できません。虫歯が発生しやすいのは、きゅう歯の溝や歯と歯の間の接点ですが、歯ブラシの毛先の方が太く、肝心の部分に届かない。米国国立衛生研究所は70年代に行った長期観察で「丁寧に歯磨きした子供グループと何もしないグループの間の虫歯の発生率に差はなかった」と発表しています。

――フッ素はどのように虫歯を予防するのですか。

 歯は、虫歯菌の出す酸で歯のミネラル分が溶け出した状態(脱灰)と、唾液中のミネラル分が脱灰部位に沈着して元通りにする状態(再石灰化)の繰り返しです。フッ素は口中にイオンとして微量に存在することで、脱灰を抑え再石灰化を促進する作用があります。脱灰が一方的に進み虫歯の穴になるのを防ぐのです。

――フッ素の安全性はどうなっているんでしょう。

 フッ素は天然元素で、海産物やお茶などの飲食物に微量に含まれています。WHO(世界保健機関)は、1日の推奨摂取量を成人で1・5〜4ミリグラムとしています。過度に摂取すれば歯の表面が白濁する歯のフッ素症や骨フッ素症になることはありますが、至適濃度では安全上の問題はありません。

――世界のフッ素利用は?

 45年に米国の地方都市で水道水のフッ素化(水道水へのフッ素添加)が最初に始まりました。以来、偏見や情報不足による反対を乗り越え現在、米国では1億5000万人と、全人口の6割がフッ素化水道水の恩恵を受けています。「個人の虫歯予防の努力には限界がある」ことを知った政府はじめ各地の歯科医師会、歯科大、研究者、市民リーダーの活躍があったればこその普及です。米国以外に56カ国が大なり小なり水道水フッ素化を実現しています。食塩やミルクをフッ素化している国もあります。

――日本はどうですか。

 日本はどれもしていません。私の属する「日本むし歯予防フッ素推進会議」の調査では、幼保施設や一部の学校(38都道府県の2300施設、25万人)でフッ素洗口をしているだけ。かつて厚生省の歯科保健課長が「7万人の歯科医の生活を考えると、フッ素による予防は推進しかねる」と発言したように、フッ素を敵視していました。
 しかし、いつまでたっても国民の虫歯が減らない事態に危機感を抱いたのか、最近、厚生労働省や日本歯科医師会は、もっとフッ素を使おうと、水道水フッ素化にゴーサインを出しました。群馬、沖縄県の自治体で、志のある歯科医らが首長や議会の理解を取り付け、ここ一両年中にフッ素化を実現する可能性が高まっています。それはやがて全国に波及し国民の虫歯をぐんと減らすでしょう。

東北大学歯学部予防歯科講師・田浦勝彦さん(53)は1947年長崎市生まれ。74年、福岡県立九州歯科大卒後、東北大歯学部予防歯科助手。82年から講師。予防歯科学専攻。91年から水道水フッ素化を進める歯科医や歯大研究者の団体である日本むし歯予防フッ素推進会議の理事。みんなの健康をみんなで守る公衆衛生の手法が大事と、県内でもフッ素利用の普及に努力。