歯界展望 9月号 特別企画「フッ化物応用を整理する」より

 高江州義矩・中垣晴男・真木吉信・安藤雄一・川口陽子

 

「企画趣旨にかえて」   高江州義矩(東京歯科大学名誉教授)

医学・歯科医学を通して,歴史的に永い疫学研究の背景を有し,歯科も生命科学で実証されている疾病予防方法―――それはフッ化物応用である。

199911月、日本歯科医学会は『フッ化物応用についての総合的な見解』を公表し、「国民の口腔保健向上のための齲蝕予防を目的としたフッ化物応用を推奨する」との主旨で、フッ化物応用の有効性とその積極的な普及について答申を行った。厚生省はこの答申を受ける形で、平成12年度(2000年度)より3ヵ年計画で、厚生科学研究『歯科疾患の予防技術・治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究』(主任教授:高江州義矩)を発足させ、フッ化物の全身的および局所的応用のより具体的な指針の検討を開始し、この間、200011月には水道水フッ化物添加の技術的支援要請に応じるとの見解を表明した。さらに、200012月には、これらの状況を踏まえて日本歯科医師会が、実施は最終的には地方自治体の問題であり、その過程で地域歯科医師会や住民との合意が前提としながらも、「水道水フッ化物添加が、各種フッ化物応用の中で、有効性、安全性、至便性、経済性などに対する、公衆衛生的に優れた方法であると認識する」との見解が示された。

一方、国外に目を向けると、FDI(国際歯科連盟)は1964年に、水道水フッ化物添加について「齲蝕の発生を安全活経済的に抑制する珠算として、現状におけるもっとも有効な公衆衛生施策」であると位置づけ、1969年にはWHO(世界保健機関)が加盟各国に対して「水道水フッ化物添加を検討し、実行可能な場合はこれを導入すること、不可能な場合にはフッ化物のほかの応用方法を検討すること」との韓国を行っている。さらに、近年ではORCA(欧州齲蝕学会)をちゅうしんとして、フッ化物配合歯磨剤の普及と、その地域の一人平均DMF歯数の減少に強い関連性を指摘する勢力が広がりを見せている。また、Minimal Intervention Dentistry(必要最小限の侵襲に基づく歯科医療)の考え方により、フッ化物徐放性の修復材料などの開発などが推進されている。

このように,永い歴史をもち、かつ生命科学の基盤に立つ永遠のテーマであるフッ化物の応用をめぐる課題が現在わが国で再認識されている。この機会に改めてフッ化物応用に関する最新の知見を多角的に取り上げ、要点を明確にするために,厚生科学研究『歯科疾患の予防技術・治療評価に関するフッ化物応用の総合的研究』の主なメンバーに適切な解説をお願いした。

 

≪目次のみ抜粋≫

『フッ化物の齲蝕予防効果のメカニズム』

中垣晴男(愛知学院大学歯学部口腔衛生学講座教授)

 

『成人・老年者へのフッ化物応用とその意義―歯根面う蝕の予防手段としてのフッ化物応用法とその効果を中心に―』

真木吉信(東京歯科大学衛生学講座助教授)

  1. 水道水フッ化物添加
  2. フッ化物配合歯磨剤
  3. フッ化物洗口剤
  4. フッ化物洗口剤とAPFゲル
  5. IFRS

 

『水道水フッ化物添加』

安藤雄一(国立感染症研究所・口腔科学部)

 

『フッ化物応用の国際比較』

川口陽子(東京医科歯科大学大学院健康推進歯学分野教授)