WHO/World Water Day 2001: Oral health

Summary

概要

 * 良好な口腔保健は安全な給水による。
 * う蝕(むし歯)は世界的な問題である。
 * 水とつながりの深い栄養不良は不良な口腔保健の重要な因子である。
 * フロリデーションはフッ化物濃度の低い地域での歯科衛生の劇的な向上につながる。
  * 天然で高いフッ化物レベルでは歯のフッ素症を引き起こすかもしれないので、地域によっては脱フッ化物プログラムあるいは代替の給水系が必要となる。

ドン・キホーテのミゲル・デ・セルバンテス(1547-1616)。
「歯はダイヤモンドより貴し」

健康な歯は全身の健康にとって不可欠である。 このテーマでは、う蝕(むし歯)の問題を検討して、フッ化物レベル、食事、および清掃を含む歯科保健を維持する際の水の役割について調べる。

Dental caries: a worldwide epidemic う蝕(むし歯): 世界的に蔓延する病気

う蝕(むし歯)(Box 1)は先進工業国と発展途上国を問わず、世界の大半の人々が罹患している。エナメルと象牙質の溶解として特徴づけられ、最終的に歯表面だけでなく歯そのものの喪失に至る。その原因は歯の界面に棲息する細菌によって作り出された有機酸である。 歯垢は細菌と蔗糖からバクテリアによって生産された細胞外多糖類の基質から成る。 歯垢、酸産生菌、食事、フッ化物、および唾液はすべてう蝕の過程にかかわる。 ここ10年間で、各種予防手段によって、工業先進諸国におけるう蝕を劇的に減少した。 これらの予防手段のうちで最も重要な方法は水、食塩と歯磨剤などの様々な形態で摂取される適量のフッ化物の利用である。

Box 1: う蝕(むし歯)

う蝕(むし歯)は多要因性疾患で、以下の項目に関連している。

* ストレプトコッカス・ミュータンスや、ストレプトコッカス・ソブリナスなどのう蝕原因菌
* 特に頻繁に摂取される発酵性炭水化物(例えば、砂糖)に代表される食事
* 歯の形成期における外傷後あるいは栄養不良または慢性疾患に左右される歯の感受性
* 時間: 歯の萌出期に歯表面のう蝕リスクは高まる。


Water fluoridation 水道水フロリデーション

世界中のほとんどの地域では、その飲料水中の天然のフッ化物はう蝕を予防するには低い状態である。 適正量のフッ化物利用により多大の利益があるので、う蝕を減少させる効能が最初に認知された1930年代以降に、水道水フロリデーションプログラム(Box 2)は多数の国々で導入され確立されている。

Box 2: 水道水フロリデーションプログラムとは何か?

水道水フロリデーションプログラムは、う蝕予防のために最適のフッ化物濃度のレベルに調整するように、公共水道に人為的に適量のフッ化物を注入して制御する方法である。 通常、最適のレベルはおよそ1mg/1リットルである。 フッ化物を原水のフッ化物濃度を加味して事前に設定された濃度に調整される。 使用するフッ化物は溶解度、低価格、副作用がないことを考慮して選択される。フッ化物は無味無臭で、沈殿物を生成することはない。 フロリデーションに使用されるフッ化物は以下の通りである。 ヘキサフルオロ・ケイ酸、ヘキサフルオケイ酸・第二ナトリウムまたはフッ化ナトリウム。 フロリデーションは水処理作業過程で行われ、フロリデーションプログラムには良好な保守と特別に設計された施設が要求される: フッ化物は原状では腐食性であるので、安全な業務実際に従って格納されて、また取り扱わなければならない。

フッ化物濃度の低い給水地域での水道水フロリデーションは、最適の歯の形成と生涯にわたるう蝕に対するエナメル質の抵抗性を付与するために役立つ。飲料水中のフッ化物は主に歯垢と唾液で作用する。 フロリデーション水の飲料とフッ化物濃度調整水で作られた製品により口腔内フッ化物濃度レベルを維持する。 高齢者をはじめ地域のすべての年齢層が水道水フロリデーションの利益を得る。 例えば、歯根面う蝕の有病状況が飲料水中のフッ化物に逆相関を示したという調査結果である: 言い換えれば、フッ化物の適正な範囲内では、飲料水中フッ化物のレベルが高ければ高いほど、う蝕は少ない。 残存歯数の増加と高齢につれて発生する歯根面う蝕はフロリデーションされていない場合には高まるだろうと予測されていることから、この調査結果は重要である。

水道水フロリデーションは、これが可能である地域では、う蝕予防のための最も効果的公衆衛生手段である。水道水フロリデーションは技術者、化学者、医師、栄養学者、および歯科医師すべてが各々重要な役割を果たす協働作業である。 フロリデーションプログラムの効率および地域での受容性は、歯科衛生の一般的な状態と小児と若年層のための無料の歯科保健医療への近接性と受診、および食事と口腔衛生が良好な状態にあるかどうかに依る。

歯科専門家間のコンセンサスとしては、口腔衛生を維持する動機づけや歯科治療の受診と支払いの意志に関わりなく、特に水は地域すべての人のため不可欠な食事の部分であるので、水道水フロリデーションがう蝕を減少させる単一の最も重要な介入方法である。先進諸国では、フロリデーションの健康と経済的利益は小さいが、社会的に恵まれない地域で特に重要となるだろう。そのような地域では、水道水フロリデーションが口腔保健における不平等を解消する主要因になるかもしれない。

Dental fluorosis 歯のフッ素症

歯のフッ素症は歯の石灰化期に長期間にわたり過量のフッ化物摂取によって引き起こされた特異的な歯の形成不全である。 歯のフッ素症の特徴はエナメル質の不透明な白濁斑である。 の斑状は黄色からやや暗い色の色素沈着のように着色したり、重症の場合では正常な歯の構造は破壊されるだろう。 フッ素症の程度、血漿と骨のフッ化物レベルは飲料水中のフッ化物濃度と相関関係にある。

軽度あるいは、より重度の歯のフッ素症がある地域で広範に検出される際には、歯の形成時期にフッ化物の摂取を抑える方法を取るべきである。 飲料水中の過量のフッ化物によって、顕著な骨のフッ素症と骨格へのそれ以外の影響などのより重大な健康上の問題を引き起こす可能性がある。 極端な様態では、骨のフッ素症は極めて深刻に衰弱した病気となる。 世界の多くの地域においてフッ化物の極端な過量摂取のために、数百万人が骨のフッ素症に罹患している。

飲料水中のフッ化物は、無味無臭で、無色であり可溶性も高いため、フッ化物の検出には機器と特別に訓練された人材を必要とする。飲料水の処理によるフッ素症の防止には好適な社会経済的条件を必要とするものの、過量なフッ化物を取り除くための方法は確立している。低レベルのフッ化物水系からの給水を第一の選択として検討されるべきである。もし 代替給水が利用できないかまたは高価なら、脱フロリデーションがフッ素症を予防する唯一の方法となる。脱フロリデーションの方法は地域特有の事情と飲料水中のフッ化物濃度に依る。発展途上国では、WHOの発議で個々の家庭、あるいは飲料水と料理用の脱フロリデーションに適した効果的で廉価な方法を強調した。

Dental health and malnutrition 歯科保健と栄養不良

健康で正常な歯の形成にはバランスの取れた、特にカルシウムとビタミンDに富む食事を必要とする。水に由来する栄養不良は歯の形成に直接的に影響する。 劣悪な食事と口腔衛生不良によって、6-12カ月児の上顎前歯にう蝕を誘発するかもしれない。

水癌(ノーマ)

cancrum oris'として知られている水癌は劣悪な食事と口腔衛生不良に関連する稀であるが、重篤な口腔疾患である。水癌という言葉はギリシャ語で「むさぼり食う」という"nomein"から派生している。外見上は良性の口腔疾患で口腔に原発して、急速に口腔と顔面の軟組織と硬組織を破壊する壊疽である。水癌は6歳未満児に 極貧で、栄養最悪で、口腔衛生怠慢である状況で好発する。18?19世紀には、水癌はヨーロッパと北アメリカで良く見られた。社会経済の発展で両大陸から消失した。今日では、水癌は特にアフリカ大陸で社会的に恵まれない地域の健康問題である。 水癌問題に十分な記録はありませんが、各種資料によれば10万以上の症例ではないかと推定されている。 今日、水癌は初期段階で早期発見されると治療できる。 壊疽の進行を止めて、容貌の変形を回避するための簡単で安価の医療を提供することができる。 それは局所的防腐剤、抗生物質、栄養面のリハビリテーション、およびきれいな飲料水を必要とする。

Oral hygiene and safe water supplies

口腔衛生と安全な水

良好な口腔衛生のためには、幼い頃から定期的な歯口清掃に清潔かつ十分な水を必要とする。 また、歯垢は歯肉炎と深いポケットの病因となるので、不良な口腔衛生により口腔保健上の問題をもたらすであろう。 飲料水からの適量のフッ化物の摂取とバランスのとれた、砂糖の少ない食事がたぶんう蝕(むし歯)を減少させる最も重要な要素であると同時に、基本的な口腔衛生のための上水の不足は初期ならびに進行性のむし歯のパターンに対するバランスを崩すかもしれない。 水と食事のフッ化物濃度が低いとわかっている地域では、地域共同体における水のフッ化物濃度調整は安全であり、かつ費用対効果に優れている。自然のフッ化物濃度の低い地域でフッ化物濃度を調整することによる利益は確立されているが、あたかも自然のリスクに関するテーマとして議論されるように、フッ素症は天然のフッ化物濃度がもともと高い地域に限定した問題として残っている。

Further information

Forss H. Efficiency of fluoride programs in the light of reduced caries levels in young populations. Acta Odontol Scand 1999; 57: 348-351

Milgrom P, Riedy CA, Weinstein P, Tanner ACR, Manibausan L, Bruss J. Dental caries and its relationship to bacterial infection, hypoplasia, diet, and oral hygiene in 6- to 36-month old children. Community Dentistry and Oral Epidemiology 2000; 28: 295-306

Noma: WHO. Winds of Hope for Noma children. Press release 31 March 2000 (Geneva, WHO)

Riley J C, Lennon MA, Ellwood R P. The effect of water fluoridation and social inequalities on dental caries in 5-year old children. International Journal of Epidemiology, 1999; 28: 300-305.

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WHO (2002) Environmental Health Criteria 227. Fluoride

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