沖縄で虫歯予防に水道水フッ素添加へ11月28日 東京読売新聞 朝刊より
虫歯予防を目指し、沖縄県の具志川村(久米島)が水道水へのフッ素添加を始めようとしている。実施に向けては、住民の理解と協力が欠かせない。(科学部 杉森 純)

不安解消へ向け 住民の理解必要 

 フッ素は、天然にも普通に存在する元素で、お茶や魚などに多く含まれる。酸によって歯から溶け出したカルシウムが再び歯に戻るのを促す働きがあり、虫歯予防に効果がある。

 水道水への添加は1945年に米国で始まり、約60か国で行われている。国内でも、かつて京都市の一部や三重県朝日町で実施されたことがあり、米軍の三沢や横田基地などでは今も行われている。

 だが、天然のフッ素を高濃度で含む水を水道に利用した地域で、歯に斑状の模様(斑状歯)が出たりしたため訴訟に発展したケースがあり、現在、国内の自治体で実施しているところはない。

 「健康に不安が残る」と反対する声も根強い。しかし、日本大学松戸歯学部の小林清吾教授は「長年の調査から虫歯予防に用いる濃度なら発がんリスクなどを高める恐れはないと認められている。斑状歯もほとんど問題はない」と強調する。

 世界保健機関(WHO)は、安全性と虫歯予防への効果を認め、1969年から3回にわたり、各国に水道水へのフッ素添加の検討を勧告している。日本歯科医師会も昨年、「有効性、安全性の面から、公衆衛生的に優れた方法」としてフッ素添加を推進する見解を出した。

 具志川村では91年から、地元の歯科医師らが中心となって、幼稚園、小中学校でフッ素入りの水によるうがいを開始。10年間で小学生の永久歯の虫歯本数が平均で6分の1程度に減るなどの成果があり、同村が水道水へのフッ素添加を進める原動力となっている。

 虫歯予防へのフッ素利用としては、フッ素入り歯磨き粉などが既に利用されている。だが、水道水の場合は、住民が一律にフッ素入りの水を飲まなければいけないだけに、一層の慎重さが求められるのは当然だ。

 厚生労働省は、水質基準の0.8ppm(1リットル中0.8ミリグラム)の範囲内なら、水道水へのフッ素の添加を認めているが、住民の合意に加え、地元歯科医師会と都道府県の同意を支援の条件としている。

 具志川村が行った婦人会や商工会への説明会では「医学的に安全と言われても不安はある」「食品の味に影響はないのか」などの声に加え、観光業への影響を心配する意見も出た。

今後は地区ごとに専門家も出席して住民説明会を開く予定で「説得ではなく、啓発を繰り返す中で合意を得たい。来年度中の実施が目標だが、時期はこだわらない」(山里昌輝・福祉課長)と、じっくり進めていく考えだ。

 添加する濃度を決めるうえで厚労省に助言を求めるほか、添加を続けても健康に影響がないかチェックするため、同省の研究班(代表=高江州義矩・東京歯科大学教授)に住民健診の実施を要請している。同省も応じる方針だ。

 同村の試みは、虫歯予防の大きな転換点になるもので、同様に水道水のフッ素添加を検討している自治体などから注目を集めている。それだけに、実施にあたっては住民の十分な理解と協力が大切で、国や県などの支援も欠かせない。