韓国釜山近郊水道水フッ素添加施設を視察研修して 

                                   山本武夫(富山県井波町 歯科医師)

1999年11月の、日本歯科医学会フッ化物検討部会の答申が了承され、それを受けて、むし歯予防にフッ化物の推進が欠かせぬという認識が広まる中、2000年11月以降、厚生省(現:厚生労働省)や日本歯科医師会は、水道水へのフッ化物添加を、水質基準0.8ppm以下の条件で、県や地元歯科医師会の支持を得て、住民の合意が得られれば技術的支援を行うという見解を出しました。

また、自治体の判断にて検討を開始するところが全国でも見られ、マスコミも取り上げるようになってきました。

一方で、すでに厚生省の厚生科学研究費を使っての沖縄県久米島具志川村の水道水フッ素濃度調整プログラム事業(同村のパンフより)は、2001年中に実施に向けて着実に準備がされている様です。

富山県利賀村では2001年度予算に、水道水へのフッ素添加に関して調査費がつき、事業化の検討を開始しました。

丁度そんな折、埼玉県の吉川市の研修グループと、香川県のグループが、東北大学歯学部講師の田浦勝彦先生をリーダーとする韓国の水道水フッ素添加施設の研修する日程がわかり、共同で視察団を結成しました。

構成は、歯科医師4名、大学研究生1名、医師1名、行政関係3名、議員1名、水道業者1名、報道関係1名で、今までにない多業種の視察団となりました。

田浦先生は、もう何度も韓国の施設を訪問されていますが、私自身は1昨年12月以来2度目で、あとの歯科医師2名、行政関係1名と大学研究生は、アメリカの浄水場の見学経験があります。それ以外の方は、全く始めての視察となりました。

この研修については、四国新聞が特集を組みました。HPに掲載してあります。

 

1.鎮海市上水道管理事業所

2001419日、一行は、福岡より飛行機でプサンに向かいました。午後3時過ぎ到着、案内役の釜山大学歯学部予防歯科学教室の金鎮範教授のお出迎えを受けました。金浦空港から1時間ほどマイクロバスに揺られ、入り江になっている地形のため韓国海軍基地のある鎮海市、石洞浄水場の上水道管理事業所(金淇瑩所長)を訪問致しました。

事前に、水道技術者も同行すると連絡をいれていたため、ソウルから浄水場の施行管理を行う紀元水処理(KIWON)から3名の方が来ておられ、説明に加わられました。鎮海上水道管理事業所の陳洪稙担当管理官の概況説明を、KIWON社の姜永赴Z術顧問が通訳されました。

それによると、鎮海市は韓国のトップを切って、1981年に水道水へのフッ素添加を始めました。一時改修のための中断はありましたが、粉末フッ素投入方式(フッ化ナトリウム)で最初から現在まで行っています。鎮海市(人口約30)の約6割にあたる約17万人がこの浄水場から給水を受けています。浄水場の規模は、1日約七万トンの給水量で、992300億ウォンをかけた最新式浄水設備が完成し、Ozonと活性炭濾過の高度浄水処理を行っています。  

フッ化ナトリウムは、日本の大阪の小野田化学という会社から輸入していました。粉末フッ素(125kg)の投入は12袋半使用しますが、適宜職員が袋を開封し、バキューム装置で吸引し、添加装置まで輸送します。添加装置には砂時計形式で一定量が投入され、攪拌溶解され、4%のフッ化ナトリウムの飽和溶液が作られます。その飽和溶液を浄水処理された水に流水量に応じて一定量が注入されます。その注入されて浄水池に入った状態でモニタリングがなされ、浄水中のフッ素濃度が計測されています。鎮海のフッ素濃度は0.8ppm±0.1ppmにコントロールされています(ちなみに韓国の飲料水フッ素イオン濃度許容範囲の上限は1.5ppmです)

1昨年、私が訪れた時より、モニタリングシステムが新しくなっており、一々、イオンクロマトグラフィーの検査をしなくても精度が上がっていました。以前は、たびたびサンプリング、濃度測定が手動でされていました。

鎮海市では、金炳魯市長自らが選挙公約に「我が市の水はおいしく飲めます。水道水にはフッ素が入っているので虫歯を予防します。」と、水道事業を推進することを上げています。

また、20006月の市民のアンケートでは、水道水フッ素化事業を62%が知っていると答え、95%が事業の継続を望んでいます。これは、20年に渡る実績がこのような結果になって現れているのだと思います。

 

2.健康歯牙連帯(Federation for Healthy Teeth)との懇親会

19日夜、鎮海市上水道管理事業所の視察後、釜山市内に戻って、釜山大学歯学部予防歯科学教室 金鎮範教授のお世話で、健康歯牙連帯との懇親会が釜山市内のレストランで開かれました。

健康歯牙連帯は、釜山広域市(人口約400)の水道水フッ素添加と障害者の歯の健康増進を目的で結成した釜山広域市の52の市民社会団体の連帯(ネットワーク)組織です。200067日に結成され、10万人の署名を目指し、市民広報キャンペーンを行っています。

韓国側は、金鎮範教授と、浄水場の説明に加わっていただいた、紀元水処理(KIWON)の鄭宇鎮代表、通訳の姜永赴Z術顧問、技術部金昌鉉代理の3名と、韓国健康歯牙連帯のメンバーの、健康社会の為の歯科医師会 ゙基鐘釜山地区代表、金鐘敏歯科医師、「連帯」事務局 金起稙代表の3名、釜山大学歯学部予防歯科学教室の朴仁順研究生の8名です。

日本側は、田浦勝彦東北大学歯学部付属病院講師、田口初江吉川市議、戸張新吉吉川市水道課長、互亮子歯科医師、楠本一生前吉川保健所長、田口円裕埼玉県健康福祉部健康づくり支援課副参事、田口千恵子日大松戸歯学部衛生学教室研究生、浪越建男長崎大学臨床助教授。黒島一樹四国新聞記者、平田明徳利賀村住民福祉課長、石名田誓治()ミヤシゲテクノ営業課長、山本武夫歯科医師の12名です。

金鎮範教授から、歓待の言葉と、韓国の口腔保健法の話、現在までの韓国国内の水道水フッ素化事業現況について、韓国水道水フッ素化20周年が69日に開かれることなど、また、健康歯牙連帯の活動の内容(ポスター、チラシ、パンフや、街頭キャンペーンのチョッキなどの紹介)について、お話し頂きました。

また、健康歯牙連帯の中心団体の、健康社会の為の歯科医師会釜山地区代表の゙基鐘先生からは、歓待の言葉に合わせ、いくらでも私達はフッ素化の為に日本に協力したいこと、まだ日本を訪問していないので是非、水道水にフッ素添加が始まったら、訪問したいので、頑張ってほしいとの挨拶がありました。

3.水道技術者懇談会

19日夜懇親会後、宿泊先のホテルで、韓国KIWON者の3名の担当者と、富山県より今回同行した()ミヤシゲテクノの石名田氏との技術関係の懇談会が行われました。

そして、今後双方が連絡を取り合って、技術指導や意見交換を行う約束をしました。

 

4.慶州上水道管理事務所

20日、釜山を午前8時過ぎに出発し、二千年の歴史が生きている新羅(しらぎ)の古都、慶州(Kyongju)市の上水道管理事務所を訪問しました。前日とは打って変わっての天候で、慶州が盆地のせいか肌寒く、事務所にはストーブに火が入っていました。

慶州市は人口約20万の都市で、3ヵ所の浄水場があり、その内2ヵ所が水道水フッ素添加を実施しており、約14万人がその恩恵を受けています。199812月より、韓国保健福祉部(厚生省に当たる)の半額補助を受け、実施されました。

慶州上水道管理事務所の李相儉担当官の説明を、KIWON社の姜永赴Z術顧問が通訳され、浄水場の視察をしました。慶州では、液状フッ素投入方式を採用しており、最近は韓国ではこちらが費用の面でも安いので増えているそうです。材料は、液体のフッ化珪素酸(水に無限に溶解)を用いますが、精製工場から40%の濃度のものが運ばれ、浄水場の屋上にある2基のタンクに貯蔵されます。そこから、階下にある添加装置で浄化された水の流水量に併せて、一定量が添加されます。

慶州の浄水場はやや古く、モニタリング装置も簡易式のものでした。この為、管理事務所の部屋の脇には、サンプリングのボトルがたくさん並んでいました。

視察が終わり、休憩していた時に、金教授から予告されていた韓国マスコミの取材がありました。これは、6月9日(6歳臼歯にちなんで) に韓国水道水フッ素添加20周年の記念式典に併せて、プロモーションビデオを製作するということで、日本からのフッ素添加施設の視察をインタビューされました。楠本先生、田口円裕先生そして田口初江市会議員が、日本での歯科保健やフッ素化について説明を求められました。いいビデオになることを期待しました。

5.慶州保健所長との懇親会

慶州市の浄水場で、説明にずっとお付き合いされたKIWON社の方と別れ、昼食までの少しの空いた時間に、古代王の古墳跡「天馬塚」や古寺「仏国寺」を見学しました。

「天馬塚」のある公園は大変広く、地元の幼稚園児が遠足に来ていました。興味を持って園児に「アンニョン、ハセヨ(こんにちは!)」と声をかけて、口の中を覗いて見ました。大変きれいな状態で、乳臼歯にアマルガム充填している子がいましたが、前歯にむし歯を持っている子は見ませんでした。

「仏国寺」では、瓦に願い事を書いてくださいといわれたので、「水道水フッ素化実現」としたためました。

昼食は慶州の老舗のレストランで、ここでは、金鎮範釜山大学歯学部予防歯科学教室教授のご紹介で、金美京慶州市保健所長の歓待を受けました。

金所長は、女性医師で、たいへん口腔保健にもしっかりした考えをおもちでした。慶州市の水道水へのフッ素添加について、導入のきっかけについて尋ねると、保健所関連会議の委員の歯科医が、大変熱心であった事を上げられました。口腔保健専門家としての歯科医の活躍がここにもありました。

 

6.まとめ

2日間の研修を終え、その晩、一行は金鎮範先生を交えて打ち上げをしました。

いろんな質問を丁寧にわかりやすく答えてくださった金先生、浄水場にぴったり貼りついて説明していただいたKIWON社の皆さんに心から感謝申し上げます。

2日目の夕食したレストランの隣のスーパーには、フッ素洗口剤やフッ化物配合歯磨剤があり、お土産に買い求めました。

今回の釜山浄水場視察は、大変意義深いものでした。いろんな業種の関係者が参加したお蔭で、水道水へのフッ素添加を、様々な観点から捉えることが出来ました。国の姿勢、法的整備、大学教育、開業歯科医の意識、市民運動、水道技術などをそれぞれの立場から、韓国側との度重なる懇親会などや、視察団一行内での意見交換などで、幅広く考えることが出来ました。

特に、水道技術者としての石名田さんの質問や意見は大変勉強になりましたし、マスコミ関係者としての黒島さんの分析のし方はなかなか、一般の人への啓蒙やキャンペーンなどの時の参考になりました。黒島さんには、430日早速、四国新聞に「水道水にフッ素・先進地韓国を訪ねて 虫歯追放へ官学一体 「治療より予防」が定着」という記事を掲載して頂きました。

いずれにせよ、日本でフッ素添加がいかに早期に実施できるか、その問題点を洗い出し、実施に向けて各地の取り組みを期待し、各方面へ働きかけを行い、努力して行きたいものです。

韓国から帰って、いろいろ忙しく報告が連休明けになりました。

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