2001年9月30日(日)愛知学院大学A会場 13:30〜16:00                                        TOP

第50回日本口腔衛生学会シンポジウム(2)テーマ「21世紀における口腔保健とフッ化物応用」 

司会 高江州義矩(東京歯科大学名誉教授) Jin-Bom Kim(Professor、Pusan National University,Korea)

シンポジスト Sheila C. Jones(Dr.,University of Liverpool,UK)

        Thomas G. Reeves(Dr., Centers for Disease Contorol and Prevenntion,USA)

        Hyock-Soo Moon(Professor,Seoul National University,Korea)

        小林清吾(日本大学松戸歯学部衛生学教室,日本)

 シンポジウム概略(2)「21世紀における口腔保健とフッ化物応用」

 高江州義矩東歯名誉教授と、金鎮範釜山国立大学歯学部口腔衛生学教室教授の司会で,4名のシンポジストの講演の後,熱の入ったディスカッションがあった。

 まず、英国リバプール大学歯学部臨床歯科科学講座のシイラ・C・ジョンズ助教授は、「英国における水道水フッ化物添加」と題して講演、英国及び欧州の水道水フッ化物添加の状況や英国におけるその政策の経緯と変わりつつある最近の考え方について述べた。最近出されたヨーク大学のレビューの背景が語られて,現在の労働党政府の水道水フッ化物添加に進展に向けた新たな努力をこの講演で知らされた。

 次の米国CDC(国立疾病予防センター)口腔保健部トーマス・G・リーブス先生は,昨年11月むし歯予防全国大会以来の来日で、「米国における水道水フッ素化の現状とフッ素化に向けての戦略」と題して講演、現在国民の65%の水道水フッ素化供給人口を、2010年までに75%までに引き上げるべく目標を決め努力している。CDCの今後の優先戦略6項目は、@査定,評価及び調査A相談B州及び地域の努力C専門家教育と参加D国民の教育E品質の保証とし,これを達成するための詳細を述べられた。

 次の韓国ソウル国立大学歯学部口腔衛生学ヒョックスー・ムーン教授は、「韓国における水道水へのフッ化物添加」と題して講演、20年経過した韓国のフッ素化事業を振りかえり、現在の状況まで述べられた。フッ素化事業に対して国が半額補助を行うことや、口腔保健法などの制定で,国自らが積極的に推進しようとしている点、また,反対運動もあるが,多くの推進するためのNGO組織も活発に活動をしている点が,日本も見習わないといけない大きな違いと知らされた。

 最後に、日大松戸歯学部衛生学小林清吾教授が、「日本におけるフルオリデーション導入への努力」と題して講演、過去の水道水フッ素濃度適正化の努力に敬意を払い,今なおある反対論・反対者の特性を分析、今後に向けての克服すべき課題を挙げた。また,教授が新しく製作した日本製のフルロリデ―ション装置を紹介、実際に順調に試運転されていることを発表した。この装置は,人口300人から5000人ぐらいの規模の浄水施設に適応可能である。最後に,水道水フッ素濃度適正化はすべての人々に公平に与えられる疾病予防の最善方法で、フッ化物は1つの天然元素で,飲料水のフッ化物濃度を単に適正化するだけのことであるから,理解を得るためみんなで努力しようと訴えた。沖縄具志川村の水道水フッ素濃度適正化事業も検討が実施に向けて煮詰まっていることも報告された。

 ディスカッションは,それぞれ短い時間の講演を補足されたが、ジョンズ先生は,ヨーク大学レビューは間違って反対派が悪用していること、リーブス先生は,アメリカにももっと規模の小さい装置があること、ムーン先生は、水道水フッ素濃度適正化20周年記念式典とキャンペーンを例に推進団体の健康社会の為の歯科医師協会の活躍を挙げられた。まとめの司会の高江州先生は,こんなに盛り上がってきているのに、口腔衛生学会の理事会では「水道水フッ素濃度適正化推進」の見解が継続審議となり残念として、出す予定であった「わが国における水道水フッ化物添加法の学術的支援(案)」を会場に配布され、今後これに向けて頑張ろうと『名古屋宣言』とも言うべきシンポジウム宣言(下記資料)をされた。


(シンポジウム宣言とも言うべく提案、司会高江州座長)『名古屋宣言(著者の仮名)』

  わが国における水道水フッ化物添加法の学術的支援(案)

 わが国におけるう蝕(むし歯)は、近年減少傾向にはありますが、欧米先進諸国に比べて依然として高い有病状況にあります。しかも、わが国の口腔保健指標のーつであります8020目標達成には、疫学的見地から一層のう蝕予防の推進が強く望まれるところであります。

 日本口腔衛生学会は、従来からわが国の歯科保健対策に多くの実績を挙げてきましたが、WHO(世界保健機関)の推奨するフッ化物応用については、現在、水道水フッ化物添加法以外のフッ化物局所応用(フッ化物歯面塗布法、フッ化物洗口法、市販フッ化物配台歯磨剤)が漸次的に普及している状況にあります。しかしながら、生涯を通した歯質の強化と健康な歯列の保持のためには、水道水フッ化物添加法が生命科学の基盤に即した予防方法であり、公衆衛生的施策としても永年の幾多の疫学的検証に基づいて世界の多くの国々で実施されてきております。

 水道水フッ化物添加法の生命科学的根拠とその実証性の実績を要約しますと、以下の通りであります。

 1.フッ素は、健康に有益な生体必須微量元素である。

 2.水道水フッ化物添加法は、歯の形成期から歯質を強め、生涯を通して口腔の生体環境の健全性を維持する有効性が実証されている。

 3.水道水フッ化物添加法は、多数の医学専門機関が認めている最も安全な予防方策である。

 4.水道水フッ化物添加法は、効果の公平性、経済性かつ簡便性など公衆衛生的特性に優れた予防方策である。

 5.水道水フッ化物添加法は、WHOをはじめ国際的に広く推奨されている地域保健政策である。  

 本学会は、1972年に日本歯科医師会の「弗化物に対する基本的な見解」を支持し、水道水フッ化物添加法の推進を表明しました。さらに1982 年には「う蝕予防プログラムのためのフッ化物応用に対する見解」を示し、 1984年にこの見解を日本口腔衛生学会として歯科衛生主管部局長宛に通知しております。その後、 1999年に答申された日本歯科医学会による「フッ化物応用による総合的な見解」において、水道水フッ化物添加法が優れた公衆衛生施策として表明されております。また 2000年11月、厚生省(現厚生労働省)は水道水フッ化物添加法について市町村からの要請があった場合、技術支援をすることを表明しています。これらの経緯によって、日本歯科医師会は厚生労働省の見解を支持し、水道水フッ化物添加法の効果、安全性を認め、実施にあたっては、地域歯科医師会、関連専門団体や地域住民の合意形成が必要との主旨を表示しております。

 わが国における地域保健法の制定(1994年)以来、地域住民の立場を重視した新たな地域保健政策が地方自治体の主体性進展として期待されています。このような背景にあって、水道水フッ化物添加法は最近の各種報道にもみられますように、社会的関心が高まってきています。

 ここに、21世紀のわが国における口腔保健の向上を図るため、日本口腔衛生学会は水道水フッ化物添加法を推奨し、地方自治体の保健政策としての推進に関連専門学会として学術的に支援することを表明します。

     平成13年9月30日

                            日本口腔衛生学会