日本口腔衛生学会総会にて、『2002大阪表明』
フロリデーションを含めたフッ化物応用推進の学術的支援の意思表明

 (コメント)
 2002年9月13日、大阪国際会議場で開催された第51回日本口腔衛生学会総会(学会長:神原正樹大阪歯科大学教授、理事長:中垣晴男愛知学院大学教授)で、ようやく専門学会としてのフロリデーションを含めたフッ化物応用推進の意思が表明された。
 思えば、1999年11月、日本歯科医学会(医療環境問題検討委員会フッ化物検討部会)からの答申「フッ化物応用についての総合的な見解」で、「国民の口腔保健向上のためのう蝕予防を目的としたフッ化物応用を推奨する」が出されてから、相当日数が経ってしまった。その間、2000年12月に厚生省(現厚生労働省)や日本歯科医師会が相次いで、フロリデーション(水道水フッ化物添加法:水道水フッ素濃度適正化)を自治体が望み、関連専門団体や地域住民の合意がされれば、技術的支援を行うとの見解を出していた。
 なぜ、このように、国民の口腔保健・公衆衛生の向上を担う専門学会が、推進の見解を出すのに手間取ったのか。
 なぜ、国際的にも優れた方法であると30年以上も前から分かっているフッ化物応用について、以前見解を出しているとはいえ、タイムリーな学会として意思表示が出来なかったのか。
 いち早くフロリデーションをはじめとする、まだ、普及の遅いフッ化物洗口も含めEBMにも優れたフッ化物応用を、まだまだ認識度の低い日本歯科医師会会員や確実な知識を備えていない多くの口腔保健担当者(歯科衛生士、保健士、養護教諭など)そして、健康に一番関心の高い国民に、正しい情報提供する時期を逸している。なぜなら、2000年の厚生省や日本歯科医師会の見解の後に、学術団体の意見が求められた日本口腔衛生学会の会員の多くは、あいまいな答えしか出来ていないはずである。ましてや多くの歯科医は、学会に賛否両論があるとまで思っていた。それが、2000年以降の生涯を通じた口腔の健康にいち早く関心を持った自治体のフロリデーションの推進の足かせになっていなかったとは言い切れない。いくつかの反対運動に、恥ずかしながらフッ化物の初歩的知識を知らない歯科医数人が加わっていたからである。
 思えば、この一年、昨年の第50回日本口腔衛生学会総会シンポジウムで出された『名古屋宣言』に、シンポジウムに参加した誰もが拍手をおくったのに、この学会理事会を構成する何人かの大学教授から、クレームがついて、撤回せよ、文章を直せ、参加者のHPの掲載を削除せよ、とまで、意見を出された。とうとう、学会誌でも修正記事が出され、今回の大阪表明でも、昨年の名古屋宣言と比べて、トーンが落ちている。比較してみていただきたい。
 しかし、今年の学会では、昨年来の学会のフッ化物検討委員会のたゆまぬ努力の所為か、理事会では議論があったものの評議員会では、全く異論なく可決され、総会でもようやく専門学会としてフッ化物局所応用及び水道水フッ化物添加法を推奨し、さらに学術的支援を行うことを表明することが承認された。
 今後は、学会が進んでいろんな関連学会あるいは歯科医師会などの講演会、行政への支援等、やることは山積している。意思を表明した以上、行動を伴わないことには意味がない。
 総会前日の、12日午後の自由集会「フロリデーション実現のための学術支援整備」では、まさにその点が話し合われた。講師の木村年秀先生(香川県三豊総合病院)は、『高齢者・要介護者のう蝕問題とフロリデーション』と題して、小児のう蝕予防対策だけでなく、今後は高齢者・要介護者のう蝕予防対策が早急に必要で、そのためにはフロリデーションが欠かせないと話された。学会に対しては、高齢者・要介護者のう蝕罹患状況に関する研究や口腔乾燥がう蝕発生に及ぼす影響に関する調査研究、さらに高齢者・要介護者の根面う蝕に対するフッ化物の予防効果に関する研究をもっとして、学術支援をしてもらいたいと要望された。もう一人の講師の中村宗達先生(静岡県東部健康福祉センター)は、行政の公衆衛生担当者が理解がない、また地域の歯科衛生士もフッ化物応用の理解度が少ない、自治体が住民に対しても正しい情報提供できるよう学会でも学術支援をして欲しいと話された。会場から、歯科衛生士の教育にフッ化物応用をもっとすべきだ、また、大学教育にもっと時間を割くべきだ、大学教授はやる気があるのか、などの意見が出された。また、学会自身でHPを持ち正しい情報を専門学会として、責任を持って提供すべきであるという意見も小生が出した。
 学会が、今後どのように歩むか、われわれ学会員は常に期待をしつつ、時には厳しく意見を述べ、時には賛辞を送り、国民のためになる学会であって欲しいので、熱く熱く見守りたい。(文責:山本武夫)

この項に関するご意見をメールで下さい。

今後のわが国における望ましいフッ化物応用への学術的支援 

                      平成14年9月13日

                      日本口腔衛生学会

 わが国におけるう蝕(むし歯)発生は近年減少傾向にありますが、欧米先進諸国に比べて依然として高い有病状況にあります。わが国の口腔保健指標の一つである8020を達成するためには、今後ともう蝕予防を推進していく必要があります。

 う蝕予防のためにWHO(世界保健機関)はフッ化物応用を推奨していますが、わが国においてはフッ化物局所応用(フッ化物歯面塗布法、フッ化物洗口法、フッ化物配合歯磨剤など)が漸次、普及している状況であるものの、WHOが推奨するところの水道水フッ化物添加法は、わが国では未だに実現しておりません。水道水フッ化物添加法は、生命科学の基盤に即したフッ化物応用法の基礎をなす方法であり、生涯を通した歯質の強化と健康な歯列の保持、増進を目的に地域保健施策として、世界の多くの国々で永年の疫学的検証に基づいて実施されてきているものです。

 本学会として、日本歯科医師会の「弗化物に対する基本的な見解」を支持し、1972年に水道水フッ化物添加法の推進を表明しました。そして、1982年には「う蝕予防プログラムのためのフッ化物応用に対する見解」を公表しました。一方、日本歯科医学会が1999年に答申した「フッ化物応用による総合的な見解」において、水道水フッ化物添加法が優れた地域保健施策として位置づけられております。また、200011月、厚生省(現厚生労働省)が水道水フッ化物添加法について市町村から要請があった場合、技術支援をすることを表明しました。引き続き、日本歯科医師会は、水道水フッ化物添加法の効果、安全性を認めた、厚生労働省の見解を支持し、地域歯科医師会、関連専門団体や地域住民の合意の基に実施すべきであるとの見解を示しました。

 このような状況の中、日本口腔衛生学会は、ここに、21世紀のわが国における国民の口腔保健の向上を図るため、専門学術団体として、フッ化物局所応用及び、水道水フッ化物添加法を推奨するとともに、それらへ学術的支援を行うことを表明いたします。