フッ化物によるむし歯予防 Q&A(2005年1月版)

Q1.フッ化物とは、どのようなものですか。

A1. フッ素は自然の中に広く分布している元素の1つです。ハロゲン族の4元素(フッ素、塩素、ヨウ素、臭素)の1つです。フッ素は元素単独では存在せず、フッ化物として、地中にも多く含まれ、蛍石、氷晶石、リン鉱石などとして存在します。海水、河川水、植物、動物などすべてに微量に含まれており、私たちが毎日飲む水や食べる海産物、肉、野菜、果物、お茶などにも含まれている、自然環境物質です。
 また、フッ化物は私たちの日常生活の中でも工業製品の一部として様々な形で役立っています。これらの工業製品の一部としての物質はフッ化物を含んだ有機化合物でありむし歯予防に用いられるフッ化ナトリウムなどのフッ化物とは全く性質が異なります。

Q2.フッ化物によるう蝕予防には、どんなものがありますか。

A2. 現在、日本では以下の局所応用法しか行われていません。しかし、21世紀早々に国内でも、水道水フロリデーション(水道水フッ化物濃度調整法)が実施されるでしょう。

@フッ化物洗口  フッ化ナトリウム(NaF)0.05%週5回法 0.1%週2回法  0.2%週1回法 

                     園児 5〜7cc 小学生 10cc 1分間 (予防効果40〜80%)

Aフッ化物歯面塗布法  歯ブラシ法・綿球法・トレー法・イオン導入法

                   2%NaF(ゲルまたは溶液) 年2〜4回 (予防効果20〜40%)

Bフッ化物配合歯磨き剤 (予防効果20〜30%) ・フッ化物イオンスプレーやフォーム(泡剤)

また、国際的に実施されている全身応用法には、水道水フロリデーション(フッ化物濃度調整法)、フッ化物錠剤、 フッ化物添加食塩、学校水道フロリデーションなどがあり、大変成果を上げています。

Q3.フッ化物には、なぜう蝕予防効果があるのですか。

A3. フッ化物はう蝕予防に貢献する最良の微量元素です。フッ化物は口の中(主に口腔粘膜表面や歯垢の中)に貯蔵されています。私達が飲食する度に口の中のpHが下がり(酸性に傾く)、エナメル質が溶け出します(脱灰)。しかし、それと同時に歯垢中からフッ素が飛び出して、@脱灰の抑制、A唾液の「再石灰化作用」の促進で、う蝕予防をします。この「再石灰化作用」が、最近フッ化物の重要な役割の1つとして注目されています。

Q4.フッ化物利用は、いつ始め、いつまで続ければ良いのでしょうか。

A4.フッ化物のう蝕予防効果は、萌出まもない歯に使用したとき、最も大きく現れるます。乳歯は生後6カ月から3歳半頃まで、永久歯(智歯を除く)は4歳頃から中学3年生頃まで、つまり、生後まもない時期から中学校卒業まで、フッ化物を利用すると効果があるとされてきました。最近では、成人の歯根面う蝕にも20〜30%の予防効果があるという研究報告もあり、フッ化物の利用は一生続けるべきといわれています。

Q5.う蝕予防のためのフッ化物利用について、専門機関はどんな意見をもっていますか。

A5. フッ化物応用を推奨している国際機関および専門団体をあげると、世界保健機関 (WHO)、国際歯科連盟(FDI)、国連食糧農業機構(FAO)、ヨーロッパう蝕研究学会(ORCA)、アメリカ食品医薬品局やイギリス王立医学協会です。 これらは、すべて積極的に奨めており、特に初めの2つは、日本の歯科医療や歯科保健におけるフッ化物利用の立ち遅れを強く指摘しています。

日本の専門機関では、日本歯科医師会、日本歯科医学会や日本口腔衛生学会および厚生労働省などが、 歯の健康のためのフッ化物応用を推奨しています。

Q6.本県では、専門機関はどんな意見をもっていますか。

A6. 富山県歯科医師会、富山県学校歯科医会、富山県医師会、富山県厚生部、富山県教育委員会や関係団体等で構成される富山県歯科保健医療対策会議は、小児のう蝕の予防にフッ化物利用法を、積極的に進めて行くため、平成7年2月「富山県歯の健康プラン」を策定し、平成13年4月より第2次「県民歯の健康プラン」が進められています。

Q7.本県では、いくつの施設で、フッ化物利用を行っていますか。

A7. フッ化物歯面塗布については、歯科医院や市町村保健センター等で行っていますが、希望者が個々に受けています。 また、「富山県歯の健康プラン」に基づく「市町村むし歯予防パーフェクト作戦事業」では、乳歯むし歯予防事業として、市町村の保健センターなどで、1歳半から3歳半まで6ヶ月毎5回、フッ化物歯面塗布を行っています。それから、県立となみ養護学校では、平成3年より障害児のハイリスク対策として、2ヶ月毎年6回のフッ化物歯面塗布を続けています。

フッ化物洗口については、「市町村むし歯予防パーフェクト作戦事業」の永久歯むし歯予防事業として行っている所と、施設単独で行っているところがあり、平成16年3月現在、保育所・幼稚園・小学校・中学校合わせて149施設(約19,897名)で、行われています。

Q8.保育所・幼稚園や学校で、なぜ集団で予防を行うべきなのでしょうか。

A8. 学校保健統計上、最も高い罹患率を示すのがう蝕であり、児童の約90%が、乳歯 または永久歯にう蝕をもっています。また、永久歯のう蝕は4〜15歳の時期に多発します。このため、地域・学校・家庭の協力連携という環境づくり、経済的効果や教育的効果の面で有効で、また、医学的に安全で、簡単な方法で集団的に実施できるなど、公衆衛生的方法として具備すべき要件を満たしているフッ化物洗口が最適です。大変う蝕になりやすいハイリスク児も恩恵を受けることができます。 家庭で個人的にフッ化物洗口を行う方法ありますが、残念ながら長続きしない欠点があるため、あまり普及していません。

Q9.フッ化物歯面塗布やフッ化物洗口を、行政や学校から働きかけられた場合、どのように対応すれば良いでしょうか。また、その際、注意することは何でしょうか 。

A9. まずは、富山県歯科医師会などの専門機関(後述)にご相談ください。 小学校などで実施する場合、校長、養護教諭のほか教職員、PTA、歯科医等の学校保健関係者の事前の共通理解(コンセンサス)が必要です。 また、市町村全体で実施する場合も、保健センターや教育委員会等の理解を十分得ることが最も大切です。

Q10.フッ化物利用について、反対論はありますか。

A10. フッ化物利用法の反対論には、学問的にみると次のような誤りがあります。

@ 不正確な調査や実験を論拠にする。

A 過去に否定された事柄を再三持ち出す(無理に賛否両論があるように見せる)。

B 量的な考えを無視して議論する。

C 安全性の根拠になっているデータの一部を取り出し、危険性があるようにいう。

D 因果関係を無視し、ガン、遺伝毒性、中毒などの一般の恐怖を煽る言葉を出す。

E 薬害、公害などを引き合いに出し、フッ化物も同じであるとイメージを作る。

F 学問的に無意味な「絶対安全」を議論する。

Q11.フッ化物利用をいくつか併用しても構わないでしょうか。

A11.フッ化物洗口は低年齢から長期間継続して実施することで高いう蝕予防効果を得られますが、フッ化物歯面塗布やフッ化物配合歯磨剤の他のフッ化物利用法を併用することによってさらに効果を増大させる可能性があります。併用しても、フッ化物摂取量が過剰になる心配はなく、安全性に問題はありません。

Q12.歯みがきや甘味制限などの努力をしないでフッ化物に頼るのは、正しいう蝕予防と言えないのではないのでしょうか。

A12. 砂糖の多く入った飲食物を子供達から取り上げることは大変難しく、また、現在のように、歯みがき回数が増えてきてもなかなか予防効果が上がりません。このため、個人的には、強い意志と努力により、徹底的に、かつ時間をかければ効果が上がっても、集団においては、歯みがきや甘味制限だけでう蝕予防を確実に行うことは非常に困難です。フッ化物利用を含め、総合的にう蝕予防を考えて行かねばなりません。

Q13.世界でのう蝕予防の成果と、WHOやFDIの推奨する予防方法の優先順位は?

A13. 世界中では、多くの国が国家レベルのフッ化物応用(水道水フロリデーションやフッ化物洗口など)で、12才児のDMF3本以下を達成しており、先進国であるはずの日本の歯科保健の遅れが、WHOやFDIより指摘されています。 FDI(国際歯科連盟)では、う蝕予防効果、安全性、経済性等を加味して、公衆衛生的な予防方法の優先順位を次のように定め、国際的にも現在広く認められています。

1.水道水フロリデーション(水道水フッ化物濃度調整法)

2.フッ化物の局所応用(フッ化物洗口等)

3.予防填塞(シーラント)

4.正しい保存修復

5.間食指導(甘味制限)

6.フッ化物配合歯磨剤による歯みがき

Q14.フッ化物利用の費用は、どのくらいかかりますか。

A14. フッ化物洗口については、初年度器具代を含め、年間1人当たり300円(ミラノー ルは800円)くらいで、次年度からは薬品代と紙コップ代のみで年間1人当たり200 円(ミラノールは700円)くらいです。フッ化物歯面塗布については、材料代(薬品や歯ブラシ又はガーゼ・綿球など)のほか、 人件費がかかり割高となります。

Q15.フッ化物は、劇薬ですか。

A15. フッ化ナトリウムの粉末(100%)自体は薬事法で劇薬扱いとなりますが、フッ素としての含有量が1%以下のものは普通薬となります。洗口に用いる週1回法(0.2%)週5回法(0.05%)の濃度はいずれも普通薬です。県は、「富山県歯の健康プラン」の中では、医薬品「ミラノ―ル」または「オラブリス」を、すすめています。なお、普通薬とは、毒性、劇性が弱く、厚生大臣指定の毒薬または劇薬以外の医薬品で、市販のカゼ薬、胃腸薬、鎮痛薬やハップ剤などがこれにあたります。

Q16.以前、フッ化物はガンの原因になるという説がありましたが?

A16ある学者の「水道水フロリデーションではガンの死亡率が高い」との報告は、その後統計処理上の誤りであることが分かり、この説は否定されました。また、最近アメリカで、フッ化物が実験用動物のガンを引き起こしたと報告されましたが、その後の検討の結果、全く問題がないことがわかりました。

Q17.フッ化物は、骨に蓄積して障害を現したりしませんか。

A17.フッ化物は骨にも取り込まれますが、適量の場合は障害をもたらすこともなく有益な作用しか示しません。過剰になると骨の石灰化がすすみ過ぎ骨硬化症を引き起こ すことがありますが、フッ化物歯面塗布やフッ化物洗口では全く問題がありません。適量の10倍以上の濃度の飲料水を10数年間飲用した場合に現れます。

Q18.妊娠中や授乳中の母親がフッ化物を摂取しても、胎児や乳児に悪影響はありませんか。

A18. 水道水フロリデーションの諸外国でも、胎児に対する悪影響は報告されていません。また死産や新生児の死亡率増加の報告もありません。フッ化物は胎盤通過性が低いので、乳歯の斑状歯が出現しないのは無論のこと、母乳移行性も低いので、乳児の副作用もなく、かわりに、う蝕予防の効果もそれほど期待できません。

Q19.斑状歯は、どうしておこるのでしょうか。

A19. 斑状歯は、エナメル質の形成不全です。ですから、エナメル質の形成期に、過量のフッ素を含む水を、長い間飲み続けると、発現します。しかし、永久歯の萌出前後に行うフッ化物洗口でこの斑状歯が生ずることはありません。その理由は仮に全量洗口液を飲み続けたとしても、斑状歯発生の量にならないこと、及び、洗口開始時(4歳)には、顎骨内で既に歯冠部が完成してしまっているからです。

Q20.フッ化物は身体にどのように摂り入れられ、またどのように利用されるのでしょうか。

A20. 飲食物から摂取したフッ素や洗口後の残留フッ化物は、身体に入ると主として胃や腸から吸収されます。吸収されたフッ化物は血液に入り各組織に運ばれますが、その大部分(9割)が腎臓から膀胱に移行し、24時間以内に尿中に排泄され体外に出ます。一方で、排泄されなかったフッ化物は、骨や歯の硬組織に一時期貯えられ、後に再び代謝され排泄されます。

Q21.公害のフッ化物とう蝕予防のフッ化物は、どこが違うのでしょうか。

A21. 公害のフッ化物は、アルミニウム精練工場などから排出される強酸のフッ化水素(HF)などですが、これに対してう蝕予防のフッ化物は、一般にフッ化ナトリウム (NaF)が用いられます。同じ元素でも結びつくものが違えば、その性質は大きく異なっています。例えば、その差は、強酸の塩化水素(HCl 塩酸)と、身体に必要な塩化ナトリウム(NaCl 食塩)ぐらいあります。

Q22.フッ化物洗口について、口の中に残るフッ化物の量は?

A22. 洗口後、液を吐き出しても10〜15%の量が残ります。方法により量は違いますが、 0.2〜1.4mgで、急性中毒量にははるか及ばず、1日平均(約0.1〜0.2mg)にすると、 お茶1〜2杯分に含まれる量と同じです。

Q23.フッ化物洗口で、誤って1回量を全部飲み込んでも大丈夫ですか。

A23. 心配いりません。フッ化物の急性中毒量は体重1kg当たり2mgです。体重20kgの園児なら40mgなので、週5回法7cc(フッ化物量1.6mg)では25人分以上、週1回法7cc(フッ化物量6.3mg)では6〜7人分以上を一度に飲まない限り、吐き気や嘔吐などの急性中毒の心配はありません。

Q24.病気によっては、フッ化物歯面塗布やフッ化物洗口を行ってはいけないものがありますか。

A24. フッ化物は自然環境物質であり、私たちは日常生活の中で飲食物とともに常にフッ化物を摂取しています。日ごろ、飲食物から摂取するフッ化物量は約1mgで、フッ化物歯面塗布についても口腔内残留量は1〜2mgで急性中毒量に遠く及ばず、全く問題はありません。このように、日常私たちはフッ化物を摂取しているので、通常の生活を送れる限り、問題はなく、また、身体の弱い子や身障者が特に影響を受けやすいという事実もありません。

Q25.フッ化物洗口液を捨てることで、学校周辺の環境汚染の心配はありませんか。

A25. ある物質が環境汚染物質として問題にされるのは、それが何かの理由で自然界に放出されてその量が大きく変化する場合や、今まで自然界になかったものが人工的に放出されたために生態系が何らかの影響を受ける場合です。フッ化物洗口をしている学校の下水のフッ化物濃度は、給食や掃除などで使用する大量の水に希釈され、最高でも0.2ppmと報告されています。海水中でも1.3ppmあり、また、水質汚濁防止法の下水中フッ化物濃度の限度15ppmをはるかに下回っており、全く心配ありません。

Q26.う蝕予防やフッ化物についての問い合わせは、どこにすればよいでしょうか。

A26. 下記の所にしてください。

・富山県歯科医師会(076-432-4466)

・富山県厚生部健康課母子歯科保健係(я纒\076-444-3226)

・富山むし歯予防フッ素推進市民ネットワーク(And You(あゆ)の会) 事務局 0763-82-5323

Q27.参考になる資料や文献を教えてください。

A27. 代表的なものを挙げます。   

一般・専門家向け
@「むし歯とキッパリ別れる本」山下文夫,田浦勝彦,木村年秀共著(1999年,早稲田出版)
A「むし歯の敵が幾万ありとても」山下文夫,田浦勝彦,藤野悦男,木村年秀共著(2000年,健友館)
B「だめな歯医者はすぐ削る」平澤正夫著(2000年,草思社)
C絵本「虫歯をキック なぞなぞ山のフッソマン」市来英雄,田浦勝彦(1999年,砂書房)
D絵図本「フッソで健康づくり」田浦勝彦,磯崎篤則,小林清吾(2000年,砂書房)
E絵本「おしえてフッソマン フッソってなあに?」市来英雄、田浦勝彦(2004年、砂書房)

専門家向け
@「これからのむし歯予防」飯塚喜一,境脩,堀井欣一編(1993年,学建書院)
Aフッ化物応用と健康―う蝕予防効果と安全性―」日本口腔衛生学会 フッ化物応用研究委員会編(1998年,口腔保健協会)
B別冊 歯科衛生士「これ1冊でわかる フッ化物の臨床応用」可児瑞夫監修(1996年,クインテッセンス出版)
C「だれにでもできる 小さな努力で 確かな効果―フッ化物の応用とう蝕予防―」
                              田浦勝彦,木本一成,磯崎篤則,田口千恵子,小林清吾(2001年,砂書房)
D「新しい時代の フッ化物応用と健康―8020達成をめざして―」花田信弘ほか編(2002年,医歯薬出版)
E「楽々パワーポイント 歯科健康教室の達人」福井県歯科医師会(2002年)
F「フッ化物で はじめるむし歯予防」日本口腔衛生学会 フッ化物応用委員会 編(2002年,医歯薬出版)
G「フロリデーション問答集―久米島バージョン―」沖縄県歯科医師会、沖縄県具志川村(2002年)
H「日本におけるフッ化物製剤(第7版)―フッ化物応用の過去・現在・未来―」NPO法人 日本むし歯予防フッ素推進会議 編(2004年,口腔保健協会)

なお、このQ&Aは、上記の文献を参考に作成しました。 

このQ&Aに関してのご質問は、富山むし歯予防フッ素推進市民ネットワーク(And You(あゆ)の会)事務局

山本まで e-mail:info@f-take.com

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