埼玉県歯科医師会会報10月号 「埼歯だより」2002.10/No.509 p.35-37

朝霞地区歯科医師会 講演会報告

『フッ素で虫歯予防ーその科学的根拠ー』


 平成14年7月14日(木)に朝霞地区歯科医師会の主催による市民講演会が朝霞市産業文化センターで開催されました。講師には国立保健医療科学院口腔保健部口腔保健情報室長の安藤雄一先生をお招きし、「フッ素で虫歯予防ーその科学的根拠ー」という演題でご講演いただきました。  
 以下、講演内容についてご紹介いたします。
 なお、フッ素とは、元素として存在するフッ素(元素記号はF)のことを示しますが、虫歯予防で作用するのはフッ化物イオンなので正しくはフッ化物の応用となります。ただし日本では、慣用的にフッ素という呼び方が用いられてきたので、ここでは特に区別しないで用いることにします。
 
1.歯科医療の発展と齲蝕の原因
 歯科医療は@単に痛みの緩和、主に抜歯、A修復、B予防の順に発展してきた。先進国では既に予防が主になっており、現在の日本はAの修復とB予防の中間に位置している。
 齲蝕は細菌、歯、糖の三つの要因から発生することはすでに知られているが、本日の話はその中でフッ素による歯質の強化についてである。

2.フッ素の応用法
 全身的な応用として@水道水への添加 A食塩への添加 Bフッ素含有錠剤 Cフッ素入りミルク 等があるが現在の日本ではいずれも行われていない。
 局所的応用として、@フッ素含有歯磨剤 Aフッ素洗口 Bフッ素の歯面塗布 等がある。

3.フッ素とは
 フッ素単体では存在しない。フッ素分子(F)の気体として存在するがこれは毒物であり天然にはない。
 齲蝕の予防で用いられるのは、フッ素化合物で、NaF,SnF,MPF等があり、その中のフッ素イオンが作用している。
 自然界でのフッ素の濃度は、土壌:300ppm以下、空気:0.002〜2ppb(1000ppb=1ppm)、地表水:0.005〜0.2ppm、地下水:0.1〜1.0ppm、海水:1.3ppm存在している。海水中の元素では12番目に多く、人体中では13番目に多く存在する。
 ちなみに、水道水にフッ素を添加する場合は0.7ppm位である。

4.齲蝕予防へのフッ素応用の歴史
 Mckey・・・斑状歯には齲蝕の発生が少ないことを発見
 Charchill・・・斑状歯にはフッ素が原因であることを発表
 Dean・・・フッ素と齲蝕の発生頻度、斑状歯との関係を研究し、1ppm位が適当であると報告されている。

5.水道水フッ素添加(フロリデーション)
 齲蝕予防を目的とし、飲料水(水道水)中に人為的に添加(調整)するものである。アメリカでは6割の都市(45都市)で実施されており、アメリカでの20世紀における公衆衛生10大偉業の一つとされている。
 日本では京都、返還前の沖縄、三重で以前実施されたが、現在は実施されている所はない。

6.フッ素洗口
 学校、保育園にて集団的に行う場合と各家庭において個人的に行う場合がある。現在の日本でも実施されており年々増加傾向にある。小学校の1割以上が実施している県もある。佐賀県では保育園、幼稚園の5割以上で実施しされている。また新潟県の調査ではっきりとその効果が示されている。フッ素洗口を行っている地域の方が齲蝕の発生が少なく、一人当たりの医療費も少ないという報告もある。つまりフッ素洗口を実施することによる経済効果も期待できると言うことになる。また、フッ素洗口は高校生や成人に対してもその効果が認められている。なお、家庭での普及は進んでいない。

7.フッ素歯面塗布
 年々増加しており、歯面塗布による齲蝕抑制の効果も報告されている。また、1〜2回の塗布では、はっきりとした効果はないが、4回以上塗布した場合、塗布しない場合に比べてはっきりとした効果が報告されている。

8.フッ素含有歯磨剤 
 フッ素含有歯磨剤のシェアとDMFTとの関係を調べた報告では、その齲蝕抑制効果が示されている。
 フッ素含有歯磨剤の効果的な使用方法としては次のことがあげられる。
 @使用量はなるべく多くする(歯ブラシの毛の半分以上) Aうがいをなるべく少なくする(そのためにはあまり辛くない歯磨剤がよい)。 B時間帯は夜寝る前がよい。 C歯みがきの回数は、齲蝕になりやすい人はなるべく多く行う。

9.フッ素の安全性 
 フッ素は自然の物質である。健康に有益である。危険性は解明されている。各専門団体が推奨している。などの点からして総合して基本的には安全なものと考えられる。しかしどんな物質も多量の摂取は有害となってしまう。
 フッ素の毒性は慢性毒性と急性毒性に分類される。慢性毒性は斑状歯と骨フッ素症がみとめられている。しかしいずれも水道水フッ素物添加(フロリデーション)による報告はない。また、急性毒性はフッ化物の急激な多量摂取により生じるが、フッ素の歯面塗布の際に多量に誤飲した場合に考えられる。フッ素の歯面塗布を行う際には歯科医師の管理のもとで行うことが望ましい。以前アメリカで水道水にフッ素を添加している州において悪性腫瘍の発生が増加傾向にあるとの報告があったが、この報告は年齢の増加を考慮に入れていなかったので、フッ素摂取との関係は無効と考えられる。
 なお、斑状歯は@歯冠形成期に A多量に B長期間にフッ素を摂取した場合のみ発生するものであるので、これらの一部が欠如していれば、発生は防止できる。

10.有効とされる虫歯予防法(ただし、セルフケアやプロフェッショナルケアと言った個人レベルの範囲で)
 歯を長持ちさせる2大原則は @フッ素による歯面強化 A歯間部清掃による歯周病の予防である。
 齲蝕の予防のためには、ブラッシングによるプラークコントロールだけでは完璧ではない。フッ素による歯質の強化が必要である。
 スコットランドにおいてハイリスク患児に対する齲蝕予防法として @親に対するアドバイス、 Aフッ素含有歯磨剤にて1日2回のブラッシング(この際はうがいは少なく)、 Bシーラントの3点が提唱されている。
 また、アメリカ(CDC:国立疾病予防管理センター)にて推奨されている齲蝕予防方法として @フッ素による洗口、Aフッ素歯面塗布、Bフッ素含有歯磨剤、Cシーラント、Dサホライド、E甘味の適正摂取があり、これらのうち4点がフッ素に関するものである(公衆衛生的にはフロリデーション『水道水フッ素濃度適正化』や食塩へのフッ素添加、フッ素錠剤を応用した予防法を@からEよりも優先順位の上位にあげている)。また、これらの予防方法は日本歯科医師会においても推奨されている。

11.明日からできるフッ素応用方法
 齲蝕予防においてフッ素が用いられる「場」としては、@各自で行う方法(10.で述べた):フッ素含有歯磨剤、フッ素洗口、A公衆で実施される方法:水道水フッ素添加(フロリデーション)、フッ素洗口 B専門的に行われる方法:フッ素歯面塗布 があげられる。
 つまり、明日からでも各自で実施できる齲蝕予防方法としては、フッ素含有歯磨剤によるブラッシングということになる。齲蝕予防で行われるブラッシング方法は歯周病の治療や予防で行われるプラークコントロールと若干異なる。その方法日ついては前述した如くである。また齲蝕の予防は小児だけではなく成人に対しても必要であり、特に根面齲蝕の予防に対してもフッ素の応用は有効である。
 最後に講演内容についての質疑応答が行われ、フッ素に関することにとどまらず齲蝕予防全般にわたっての多くの質問に対して懇切丁寧に答えていただきました。 
 安藤雄一先生は現在朝霞市の在住とのことで、今後とも当地区へのよきアドバイザーとしてお願い申し上げて講演会は終了しました。安藤先生のいっそうのご活躍を期待しております。  

埼玉県朝霞歯科医師会主催の市民講座の講演会のニュースが入りました。県歯科医師会広報誌に掲載されたものを藤野先生より提供していただきました。郡市歯科医師会レベルでは大変素晴らしい企画であり、県歯科医師会の広報誌に掲載がこのように自由にできる埼玉県は、これから県民のために、真の活動をされることと大いに期待いたします。(どこかの県が恥ずかしい。かってはそうだったが・・・)
安藤雄一先生の講演の内容が、まとまっていたので一般市民向けには手ごろな内容と考え、HPに掲載いたしました。ただし、一部内容が適切でないと思い改変いたしました。
紫色斜字の部分です。(山本武夫)

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