DENTAL TODAY 9月15日号 6面

韓国水道水フッ素濃度適正化20周年記念 福岡歯科大学口腔保健学講座  晴佐久 悟

1981年に全羅南道の鎮海市で韓国初の水道水フッ素濃度適正化が開始され、今年で20年の節目を迎えた。これを記念して6月4日から7日に韓国の大都市ソウル、プサン、大邸、光州で記念祝賀行事が行われた。筆者は日本むし歯予防フッ素推進会議(略称;日F会議)からソウルに派遣されたので、ソウルの記念式典およびキャンペーンの雰囲気を伝えたいと思います。なお、韓国の水道水フッ素濃度適正化の現状(2000年現在)について、30数都市で行われ,540万の人たちが,その恩恵に浴しています。

1. 韓国水道水フッ素濃度適正化20周年記念ソウル会場

 6月7日にソウルのプレスセンターにおいて記念式典が行われ、その後に街頭宣伝およびキャンペーン活動が展開されました。21世紀の歯と口の健康づくりを推進するための公衆衛生的方策として水道水フッ素濃度適正化をさらに拡大して行こうという新たな息吹とエネルギッシュな行動力に彼らの専門家としての自覚を肌で感じることができました。

 式典では、Moon Hyock Soo教授(ソウル大学、大韓口腔保健学会長)が水道水フッ素濃度適正化事業が地域の人々の歯の健康増進に極めて有益であり、今後の国民の歯の健康保持のために歯科界で共同作業が必要であると強調されました。また、境 前福岡歯科大学教授が日本の歯科保健の現況について招待講演をされました。次いで、水道水フッ素濃度適正化事業関係者の祝辞の披露ならびに私は日本むし歯予防フッ素推進会議の篠原常夫会長の祝辞である韓国水道水フッ素濃度適正化20周年の祝賀と日韓の民間交流の促進について代読致しました。その後、水道水フッ素濃度適正化事業に努力された歯科保健関係者への功労者賞の授与ならびに衛生士学校の学生にスローガン賞の受賞式が行われました。

 式典に引き続いて、約300人の歯科関係者が「ソウルで水道水フッ素濃度適正化を実施せよ!」というタスキを掲げ、プラカードを持ち、式典会場のプレスセンターからパゴダ公園まで約2km行進しました(写真)。パゴダ公園ではキャンペーン活動が行われました。「水道水フッ素濃度適正化を実施せよ」と街頭演説を行う一方、ソウル市へ水道水フッ素濃度適正化を求める署名活動を展開しました。後日に、その署名をソウル市に提出する予定であると聞きました。

2.健康社会の為の歯科医師会の行動

1981年に、政府主導型で始まった水道水フッ素濃度適正化のモデル事業以降の韓国の水道水フッ素濃度適正化の推進役となったのは、ソウル大学金鐘培教授はじめの予防歯科および歯科公衆衛生分野の各教授陣はもとより、健康社会のための歯科医師会のメンバーです。健康社会のための歯科医師会の会員数は1300人で、ソウル市内にセンター事務所があり、その他にプサンなど各都市に8つの事務所があります。

 そして,その会は次のような活動を行っています。

・ 水道水フッ素濃度適正化の啓発・普及

・ 高齢障害者の支援

・ 新聞の発刊(隔週、15000部発刊)

・ セミナーを開催(週2、3回)

 

3.大都市での水道水フッ素濃度適正化の実施に向けて

 今回20周年記念行事が行われた韓国の首都ソウルはじめプサン、光州、大邸では未だ水道水フッ素濃度適正化は実現されていません。今回、20周年を祝賀するとともにこれら大都市での水道水フッ素濃度適正化をすすめて行こうという意思表示であると受け止ました。                

 韓国でも、マスコミは賛否両論の形でフッ素の問題を捉えております。また、ソウル市の水道関係者は水道水フッ素濃度適正化の実施に激しく抵抗していると聞きました。ソウルでの水道水フッ素濃度適正化が実現すれば、プサン、光州、大邸での水道水フッ素濃度適正化への波及効果は計り知れないでしょう。この点からも、今回の20周年記念行事の意義は大きいと感じました。

4.韓国水道水フッ素濃度適正化20周年記念と日本

 1980年代前半のわが国は「むし歯の洪水期」でした。歯科医師はむし歯の修復治療に明け暮れていました。そのころ、韓国では効果的にむし歯を防ぐ水道水フッ素濃度適正化の道を選択し、それから20年が過ぎました。韓国では2003年をめどに人口の1/3に水道水フッ素濃度適正化を拡大しようとしています。一方、わが国では水道水フッ素濃度適正化方策がやっと話題になってきました。まだ実現していません。両国には大きな格差が出てきました。

 両国ともにフッ素反対派の存在、マスコミの賛否両論という「やっかいな」部分を抱えていますが、この半世紀に培われ育まれた水道水フッ素濃度適正化をすすめる人材の質量差は埋め難いようです。それが、現状の水道水フッ素濃度適正化推進の力量差として跳ね返って来ているように思われました。

 記念式典、街頭行進、キャンペーン活動とコーリアンパワーに圧倒され、学生に対して活力のあるフィールド教育の現場を目のあたりにし、ソウルでの一日体験を終えました。今後も隣国の韓国との民間交流を押し進める中で学び、わが国の口腔保健の推進に寄与したいと強く感じました。 

(山本武夫のコメント)

福岡歯科大の晴佐久先生が、日Fの代表で韓国の水道水フッ素濃度適正化20年に参加され,その報告をされました。逐一詳しい報告も見ました。そこで,下記に,晴佐久先生が書けなかった,韓国の水道水フッ素濃度適正化の歴史(表1)と、プサンでの韓国水道水フッ素濃度適正化20周年記念式典の「水道水フッ素濃度適正化要求文」(表2)を,追加掲載します。

なお、釜山大学歯学部予防歯科学教室金鎮範教授からの20周年記念式典の写真もすでに,ページに掲載済みです。

今回、DENTAL TODAYの限られた紙面ながら,その状況を図り知ることが出来ました。私自身,2度の韓国視察(89年12月91年4月HP参照)の経験から,彼らの情熱や行動力には,頭が下がります。

今回の晴佐久先生の記事に対して,皆さん,メールを送りましょう。また、取材協力のDENTAL TODAY奥村編集長にも感謝します。

晴佐久 悟 先生(福岡歯科大学口腔保健学講座) e-mail: haresaku@college.fdcnet.ac.jp

 韓国における水道水フッ素濃度適正化の歴史(表1)

1977年 厚生大臣申鉉高氏が金光男教授(ソウル大学補綴科)から最善むし歯予防方策は水道水フッ素濃度適正化であるという情報を入手する。厚生大臣申鉉高氏は水道水フッ素濃度適正化を指示。

1978年 医政三課長、金鐘培教授(ソウル大学歯科公衆衛生学教室)に水道水フッ素濃度適正化策について相談。 歯科保健事業協議会設置(6名のメンバー、翌年10名から)。水道水フッ素濃度適正化モデル事業案。

1981年 鎮海市で水道水フッ素濃度適正化が開始(液状)翌年に、清州市で水道水フッ素濃度適正化が開始(粉末状)

1988年 歯科医師有志によって健康社会の為の歯科医師会が設立。

1990年 これ以後毎年水道水フッ素濃度適正化のシンポジウム、ワークショップを開催。キャンペーン活動の展開。

1994〜96年 各地で水道水フッ素濃度適正化の実施(京畿道果州市、浦港市、寧越郡、玉水郡)

厚生大臣が3大歯科保健政策目標(う蝕予防、歯周病予防、喪失歯の減少)を発表。

1997年 韓国水道公社(KOWACO)にる2市、2郡のフッ素濃度適正化。 厚生省に歯科保健課設置。

1999年 12市で水道水フッ素化開始。547万6000人(韓国総人口の約12.8%)がフッ素化の恩恵。

国会議員、黄圭宣氏が水道水フッ素濃度適正化を推奨する歯科保健法案を国会に提出する。

2000年 歯科保健法案が大統領公布される。

2001年 水道水フッ素濃度適正化20周年記念

水道水フッ素化事業要求文(表2)

 健康な身体と精神によって健康な社会に生きる権利は、すべての人々が享受できる基本的な権利であります。個々人の健康は個人の努力だけで守るのは難しく、疾病予防のために公衆衛生事業を行うことによって国家と社会が共同責任を認識して努力する際にこれが保障されるのです。

 公衆衛生事業の中で、水道水フッ素化事業が20世紀に人類が達成した公衆衛生分野の10大業績(米国)に選ばれました。水道水フッ素化事業は効果的、安全、かつ経済的なむし歯予防方法であり、わが国国民に蔓延するむし歯を半減できる主要なむし歯予防事業であります。ここ20年間にわが国の国民のむし歯が5倍に増加した事実と65歳以上高齢者の半数は入れ歯を余儀なくされている事実から見ても、むし歯は国民の大多数に襲いかかるやっかいな疾病であります。このことは、いかに国民に水道水フッ素化事業が必要であるかを雄弁に物語っています。

 すべての人々、特に自力で生活することの困難な障害者、保護施設での生活を余儀なくされている子供たち、共働き世帯の子供たち、身寄りのない高齢者たち、低所得者労働者たちはこの瞬間にもむし歯の苦痛に耐えかねて歯科医院を訪ねなくてはなりません。50年以上の歴史のある水道水フッ素化事業の効果と安全性は世界保健機関(WHO)など世界的権威のある保健医療機関がお墨付を与え、推奨しています。

 2001年は、わが国で水道水フッ素化事業の20周年記念の年にあたります。この20年間で、わが国においても、水道水フッ素化事業の効果と安全性が十分に検証され、今では総人口の15%がフッ素の調整された水道水を飲用しています。ことに、本事業は1981年の鎮海市と1982年の清州市におけるモデル事業に端を発し、1994年以降は全国各地に拡散してきた事実は、各地域で健康権の実現のために水道水フッ素化運動を繰り広げる先進的な歯科医師と市民団体の献身的な努力に依るものであります。

 昨今健康の自己責任が強調されていますが、水道水フッ素化事業は地域住民すべての口腔の健康を守る一番重要で、かつ必須の公衆衛生事業であります。われわれは本日、韓国水道水フッ素化事業の20周年にあたり、釜山市民の健康権に対する熱望を結集して市民すべての口腔の健康を守るために早急に水道水フッ素化事業を実施するように釜山市に要求致します。

2001年6月5日 

韓国水道水フッ素化事業20周年記念釜山大会要求文